October 31, 2009

Woodsという、カナダのアウトドア用品メーカーがある。(宣伝ではない)
木をそのままデザインした、素朴だが品のいいデザインのロゴマークが昔から好きで、独特の発色のいいウェアや、カモフラージュ柄のバックなどを愛用してきた。Woodsは、カナダのオンタリオ州オタワで1885年創業で、アムンゼンの南極探検に資金や道具の提供するなど、極地を旅する冒険家のサポートもして、100数十年の歴史と信用を築いてきた。

このメーカーのジャケットに、自分は見たことがないが、襟にコヨーテの皮があしらわれたものがあるらしい。

コヨーテは、日本では動物園にしかいない生き物で、なじみがない。北アメリカに生息するイヌ科の動物で、イヌに似ているオオカミの近親。「歌う犬」を意味するアステカの言葉からその名がついた。「歌う」とは「遠吠えする」という意味。遠吠えは、釣りでいう朝夕の「マズメどき」に行われ、一頭が吠えはじめるとやがて他のコヨーテも加わるという。


カナダの国立公園で19歳のカナダ・オンタリオ州出身のシンガーソングライター、テイラー・ミッチェルが、ひとりで散策中、2頭のコヨーテに襲われて亡くなった。悲鳴を聞きつけた通りすがりの人の通報で、彼女はすぐ病院に運び込まれたが、10月28日朝3時30分に亡くなった。森林警備隊は2匹のコヨーテのうち1匹を撃ち殺したが、もう1匹は見つかっていない。
コヨーテは、冬場には弱ったシカを襲うが、人間を襲うことは非常に珍しいらしい。ただ、警察は襲撃したコヨーテが「非常に攻撃的だった」と話す。
19歳の彼女はちょうど10月23日から11月7日にかけてツアー中だったようで、彼女のサイトに掲げられたツアー・スケジュールが非常に哀しみを誘う。ツアー中で忙しい彼女がなぜ散策に出かけたのか記事には書かれていないが、おそらくツアーで疲れた自分を自然の中でリフレッシュしたかったのだろう。
彼女のサイトにはいま世界中からアクセスがあり、北米だけでなく世界中から追悼の言葉が書き込まれ続けている。
Coyotes kill female hiker in Nova Scotia - Canada - Canoe.ca

テイラー・ミッチェルのサイト
Taylor Mitchell :: So sad...

母エミリー・ミッチェルからの言葉
Taylor Mitchell :: From Taylor's Mom

Tragic, fatal coyote attack the exception, not the rule | Editorial | Comment | London Free Press


娘を失ったテイラーさんの母エミリーは、哀しみを堪えつつ、娘を襲ったコヨーテの駆除に反対してこう語っている。

“When the decision had been made to kill the pack of coyotes, I clearly heard Taylor’s voice say, ‘Please don’t, this is their space,”’ Mitchell said.“She wouldn’t have wanted their demise, especially as a result of her own.” She described her daughter as “a seasoned naturalist” who was experienced at wilderness camping.(中略)“She loved the woods and had a deep affinity for their beauty and serenity,” Mitchell said.
「コヨーテの群れを殺す決定がなされたと聞いて私は、『そんなことしないで。ここは彼らの場所よ』と娘が言うのがはっきりと聞こえました。」とミッチェルの母は言う。「もし彼女が生きていたら、自らの死の結果としてコヨーテが駆除されることなど望まないでしょう。」
彼女は娘を、荒野でのキャンプで経験を積んだ「熟練したナチュラリスト」と表現した。「彼女は森を愛していて、森の美しさ、平穏さに、深い親近感を持っていました。」
Coyote victim's mom thanks fans - Canada - Canoe.ca

母エミリーさんはWe take a calculated risk when spending time in nature's fold.(自然の深い懐で過ごすときはリスクをきちんと計算するものだ)とも言っている。彼女の言う「娘の荒野でのキャンプ経験」とは、おそらくコヨーテや熊も出る可能性のある場所でのキャンプ経験、という意味だろうし、日本で考えるよりもずっと高いリスクとキャンパーのスキルが想定されている。
日本ではキャンプというと、ほとんどの人は昆虫しかいない人里のキャンプ場でのバーベキュー程度をイメージする。日本でも、テントの真横に鹿が何頭もやってくるようなキャンプサイトもあることは、彼らは知らないし、夜通し火を焚いていなければ危険な荒野で野営する人々の存在もほとんど知られていない。日本ではコヨーテのいる荒野でのキャンプなど想像できない。
リスクがあるから近寄らないのでは、奥深い自然は体験できない。波は危険だが、乗ることができないのではサーファーになれない。北米で想定する自然は、日本で想定する穏やかな自然とは違い、よりワイルドなものになる。

日本とアメリカの野球の違いは、日本の守られてはいるが自然さのかけらも無いキャンプと、コヨーテの森でキャンプしてワイルドライフの一端を体験する北米キャンプの違いのような部分もある。
コネ契約で不自然にロスターの座を守られたMLBキャリアなど、星も見えない都会のマンションの屋上でやっている安っぽいバーベキューのようなもので、北米のウィルダネスどころか、日本レベルのキャンプ体験にすらなっていない。まして、メジャーのワイルドなベースボール環境で本物の体験をしたといえるわけがない。
リスクをおかす覚悟とそれを計算できる勇気やスキルがなければ、熟練したキャンパーですら命を落とすこともあるコヨーテの森にそもそも来るべきではない。



カナダといえば、シアトルの投手エリック・ベダードをすぐに思い出す。このコヨーテの事件を聞いたときもすぐに思い出した。エリックも、コヨーテの森で亡くなったテイラー・ミッチェルも、五大湖のほとりのオンタリオ州出身である。
釣りを趣味にしていることもよく知られているエリックだが、カナダ出身なだけに、オンタリオで創設されたアウトドアメーカーのWoodsを知らないわけがなく、アウトドアに出かけるときのために、おそらくウェアのひとつやふたつ、Woods製品を持って出かけているに違いない。

エリックは、釣りという共通の趣味があることもあって、同じ投手のウオッシュバーンと仲がよかったわけだが、エリックの出身地オンタリオはカナダ側で五大湖に接し、またウオッシュバーンの出身地ウィスコンシン州はアメリカ側で五大湖に接しているいくつかの州のひとつであり、2人は生まれた場所も近い。2人が仲がいいのについては、共通の趣味だけでなく、きっと生まれ育った環境が似ているせいもあるのだろう。

2人はよく連れ立って釣りに行っていたが、釣りに詳しい人はわかると思うが、北米の釣りのスタイルは、日本での伝統的なエサ釣りとはまったくスタイルが違う。
ウオッシュバーンは狩りも趣味にしているようだが、大掛かりな釣りの場合、釣りというより、むしろハンティングに近い。ターポンなどの大型魚をターゲットにするなら、ガイドを雇い、エンジンつきのボートをチャーターして、あちらのポイント、こちらのポイントと大移動しながら、大魚を狩りしていくことになる。
エリックとウオッシュバーンの2人も、オフに五大湖のどこかでボートを出して釣りを楽しみ、夜は冷えたビールでもしこたま飲んでジョークでも言い合ったに違いない。

そもそもオンタリオと、ウィスコンシンには風土的な共通点がいくつかある。五大湖に接し、コヨーテが住む自然があり、北米のネイティブ・アメリカンであるインディアンたちの「保留地」がある。
コヨーテは、インディアンにとってはただの動物ではなく、象徴的な動物のひとつであり、知性、賢さ、ずる賢さ、ペテンなど、さまざまな象徴的な意味がある。Coyote Tracks(コヨーテの足跡)はインディアン的なデザインモチーフのひとつでもある。


これら北米の土地が、はたしてテイラー・ミッチェルのいう「コヨーテの場所」なのか、インディアンと呼ばれ、いまはカジノで稼いでいる人々の土地なのかは、ブログごときが短文で軽々しく言及していい話題ではない。善悪だけで測ることのできることなど、たかがしれている。
人間はコヨーテの皮を剥いでジャケットの襟にしているが、このリアル・ファーを衣料にすることに対しても、日本でもいろいろと議論したがる人たちがいる。だが、少なくとも、人間は太古の昔から獣の皮を衣料にしてきたのは間違いない。
コヨーテは、普段は人間を襲うことはないようだ。ヒトを見れば逃げ、その性格は英語でも「shy シャイ」と表現されている。ブログ主はロードランナーを追いかけまわすコヨーテのルーニー・チューンを見て育ったが、そういえばあのコヨーテもそこそこシャイな性格だった。
だがシャイな彼らでも、森で人間に前触れなくばったり出くわせば、びっくりして襲うこともある。熊などと同じである。オンタリオでも、ウィスコンシンでも、コヨーテと人間との共存問題をめぐる議論を扱ったウェブサイトがある。

ワールドシリーズの映像をみていればわかるように、10月ともなれば北米の夜はとても冷える。ワールドシリーズが終われば、冬はもうすぐそこまで忍び寄って来ているわけで、コヨーテはワールドシリーズになど、かまってはいられない。北海道よりも厳しい冬の支度をせねばならないのである。
だからこそ冬の到来を前にした野生動物は気が立っている。


コヨーテのいる自然を愛し歌を歌う人が、歌う犬、コヨーテに襲われた。
あるハワイの海を愛するサーファーの少女は、サメに腕を食いちぎられ片腕になったが、サーフィンを引退したりはしなかった。19歳で人生を閉じたテイラー・ミッチェルも、もし今回のケガで命を落とさなかったなら、ケガが癒えた後、ふたたびコヨーテのいる森に散策に行ったことだろう。

少なくともいえるのは、
テイラー・ミッチェルも、彼女の母も、そしてベダードやウオッシュバーンも、
「自分たちの暮らしのすぐそばに森があり、そこにはコヨーテが住んでいる」と意識しながら、生まれ、育ち、歌を歌い、釣りをし、暮らしてきた、ということだ。

コヨーテの森は、アメリカ文化の精神的な源泉のひとつである。インディアン・カルチャーだけでなく、アメリカのカントリーミュージック、釣りや狩猟といったレジャー、フットボールなどの激しいアメリカンスポーツなど、さまざまな文化のバックグラウンドやシンボルになっている。


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