January 17, 2010

9回裏、1点ビハインド。
2人が三振し、2死。
代打スウィーニーが2塁打を放つ。代走はソーンダース。
打席に入るイチローの動作はいつもと変わらない。

初球。

雷鳴に似た歓声。
インコースにややボール気味に投げこまれたカットボールが、総立ちのライトスタンドに吸い込まれて消えていく。見送りながら、マリアーノ・リベラは何度も怒鳴る。"No!、No!"

憮然とした顔でマウンドを去っていくマリアーノにかわって主役がプレートを踏むと、シアトルの長い長い祝賀会が始まった。

サヨナラホームランを打ったイチローを出迎えるマイク・スウィニー

Ichiro's walk-off shot stuns Mariano, Yanks | Mariners.com: News

NY Yankees vs. Seattle - September 18, 2009 | MLB.com: Gameday

2009年9月18日イチロー、サヨナラ2ランfromマリアーノ・リベライチローのサヨナラ2ラン
初球カットボール。

イチローサヨナラ2ランの後ハグするヘルナンデスとロブ


カットボール連投で2三振させていたリベラが
スウィニーへの初球にかぎってストレートだった不思議


9回裏にハナハン、カープと連続三振をとったリベラの投げた球種は、全球カットボール。彼らの打撃ではまったくリベラの得意球カットボールに歯が立たなかった。
次打者はジョシュ・ウィルソンだったが、ここで監督ワカマツはスウィニーを代打に送った。このゲームはシアトルの順位を上げるものではなかったが、ヘルナンデスにとってはサイ・ヤング賞のかかった重要なゲームのひとつだったから当然だ。
ここで不思議なのは、マリアーノ・リベラが、スウィニーへの初球に、カットボールではなく、ストレートを選んだこと。次の打者がイチローでもあるし、ここでゲームを終わりたいのは当然であるにしても、ちょっと不思議なことである。


「2球目強打者」、マイク・スウィニー。

スウィニーは、基本は早打ち打者だが、カウントによって打ち方をはっきり決める、ちょっと不思議なバッティングをする。
スウィニーにとっての初球は長打狙いのカウントで、必ずといっていいほど強振してくる。打率は低い。打数が多く、2009までの3シーズンで最多。ホームランも、17本のうち5本を打っていて、最多。
2球目、ここがスウィニーの「得意カウント」である。1-0であれ、0-1であれ、非常に高い打率とOPSを記録している。2球目の打率は妙に高い。

2009 スウィニー カウント別打率
Count 0-0 .200 OPS.595 打数40(最多)
Count 0-1 .435
Count 1-0 .556
Count 1-1 .300
Mike Sweeney Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN

2007〜2009 スウィニー カウント別打率
Count 0-0 .260 OPS.716 打数127(最多) 
Count 0-1 .364
Count 1-0 .377
Count 1-1 .313
スウィニーの3シーズンの打撃スタッツ
Mike Sweeney Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN


あれだけカットボールを連投していた投手のリベラが、スウィニーへの初球にストレートを選んだのはなぜだろう。スウィニーが早打ち打者だとわかっていたから、わざと球種を変え、2球目にカットボールを投げる予定だったのだろうか。
また、カットボール連投で2三振くらうのをベンチで見ていたスウィニーのほうも、自分の打席に限って、初球にカットボールでなくストレートが来ることは予測していたのだろうか。なぜ初球のストレートを見送って、得意の2球目にスイングするほうを選ばなかったのか。

わからないことだらけだが、これだから本当に野球は面白い。
リベラがスウィニーに、このイニングで初めてストレートを投げて打たれたことは、イチローの初球にカットボールを投げる(というか、ストレートを投げられなくなった)伏線になっている。

2009年9月18日代打スウィニー2塁打マイク・スウィニーの2塁打
初球ストレート。
初球に長打を狙ってフルスイングするのは、いつものスウィニーの打撃パターンそのもの。



苦手カウントの存在しないイチロー

最近「damejima版カウント論」なるものをちょっと考えていて、もうすぐまとまるので長々と連載する予定なのだが、イチローという打者の天才ぶりには、あらためて驚かされた。
スウィニーにとっての「2球目」のように、イチローにも得意カウントがあるといえばある(0-0、1-0など)のだが、そんな些細なことより驚かされるのは「不得意カウント」というものがほぼ存在しないことだ。
イチローは0-2と追い込まれても、フルカウントでも、3割打てる。こんな打者、そうそういない。だからこそ、毎年のように高打率が残せるのだろうが、ほとほと関心する。

ただ「ほぼ」、と書いたのにはもちろん意味があって、穴のまったく存在しない天才野球少年イチローにあっても、たったひとつ「苦手カウント」というものは存在している。いや、むしろ、ひとつでも存在していることが不思議なくらいだ。そのことについては後日書く。(次の記事以降を参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(10) 「MLB的カウント論」研究 <1> なぜアメリカの配球教科書の配球パターンは「4球」で書かれているのか?


初球の打率4割のイチローに
初球勝負をかけ「られて」負けたリベラ


イチローのホームランは、投手のリベラではなく、打者側のイチローが「勝負をかけて、勝った」とみるほうが現実に即していそうだ。この3年間のイチローの得意カウントの打率はこうなっている。
0-0 .402
0-1 .401
1-1 .394
どうだろう、この異様な打率の高さ(笑)
だが、これだけを見て、イチローを「早打ち打者」と決め付けるのは、実際のゲームを見ていない証拠だ。実際のゲームをみれば、いかにイチローが頻繁に「初球ストライクをやすやすと見逃している」ケースが多いか、わかる。「どうしてあれを振らないんだ」と、ファンがやきもきするほど、その数は多い(苦笑)

だが、これも勘違いしてはいけない。
こんど書く予定のカウント論を先取りして言うなら、「メジャーの好打者はほとんどの場合、初球、2球目の打率は、誰でもびっくりするほど高い」ことが多いものなのだ。彼らの追い込まれてからの打率傾向は打者によって大きく違うものだが、初球、2球目についてはほぼ共通して打率が異様に高い。
イチローの初球の打率が高いからといって、その程度のデータでイチローを「早打ち」と決め付けるのは、まったくもって間違いだ。イチローのケースでは、「あらゆるカウントで打てる」というのが、むしろ正解。
Ichiro Suzuki Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN


この劇的なサヨナラで16勝目をあげたヘルナンデスは、わずか104球(65ストライク、39ボール)で9回を投げ抜いて、1点負けたままベンチで9回裏を迎えた。劇的な勝ちをもたらしたイチローのあまりにも劇的なサヨナラホームランで好投が霞んでしまったが、104球で強打のNYYに9回投げきったのだからたいしたものだ。
負けも覚悟したであろうヘルナンデスにとっては、ここで負けてはサイ・ヤング賞レースが終わってしまっていた可能性もあった。だからこそ逆転を信じて9回まで投げさせたわけで、試合後のヘルナンデスが興奮してイチローに抱きついて喜んだのも非常によくわかる。

この日のピッチングは、なんといってもグラウンドアウト(GO)を16もとったことが画期的に素晴らしい。これほどの数は、いくらヘルナンデスがグラウンドボールピッチャーといえど、今シーズン最高の数のグラウンドアウトだ。

ヘルナンデスがフライボールピッチャーばかり揃ったシアトルでは非常に珍しいグラウンドボールピッチャーであることは、一度指摘したことがある。
1試合で三振を15以上も獲ることももちろんすごい偉業だが、グラウンドアウトを16もそうそうとれるものでもない。キング・オブ・グラウンドボールピッチャーは、MLB全体でならロイ・ハラデイだが、シアトルではフェリックスだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年9月24日、先発ゲーム4連勝のロブ・ジョンソン二塁打2四球、ヘルナンデス11三振で17勝目。サイ・ヤング賞レースに生き残る。9月8日の城島のサヨナラ負けがなければ、9月のア・リーグ月間最優秀投手はとっくにヘルナンデスに決まっていた。

ヘルナンデスのGB/AB、GO/AO
(カッコ内はESPN、それ以外はBASEBALL REFERENCE
2005 2.08(2.14)  2.93
2006 1.40(1.41)  2.09
2007 1.55(1.60)  2.56
2008 1.06(1.10)  1.62
2009 1.13(1.17)  1.55
キャリア   1.31 (1.35)  1.95
MLB AVG. 0.78       1.06

Felix Hernandez Pitching Statistics and History - Baseball-Reference.com

Felix Hernandez Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN







Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month