March 27, 2010
1983年に始まったCASEY Awardは、ベースボールにまつわる最も優れた著作に贈られる賞で、1986年にはあのセイバーメトリクスの親玉のビル・ジェームズ親父も“The Bill James Historical Abstract”で受賞している。
Joe Posnanskiは、スポーツ・イラストレイテッドのライターとしては、2009年に寄稿者になっているのだから、まったくの新顔だが、ベースボールライターとしてはもう十分すぎる実績を積んでいる。
既に2003年と2005年に、AP通信の選ぶアメリカのベスト・スポーツコラムニストに選ばれ、さらに2007年には“The Soul of Baseball”で、CASEY Awardも受賞していて、なんというか、威風堂々スポーツ・イラストレイテッドに乗り込んだ、という感じの風情のスポイラ入りなのだ。
List of Sports Illustrated writers - Wikipedia, the free encyclopedia
さらにいえば、Joe Posnanskiは、昨年ロブ・ジョンソンが、Defensive Run Savedでメジャー第1位、2009年キャッチャー部門の第9位に選ばれた、あのThe Fielding Bible Awardsの選考者の一人でもある。
つまり、Fielding Bibleが大きく評価するフランクリン・グティエレス、ジャック・ウィルソン、ロブ・ジョンソンといった守備評価の高いプレーヤーが集結した今のシアトル・マリナーズというチームを、非常に興味深い目で見ているはずのセイバーメトリクス親父グループのひとりというわけで、こんなガイジンさん知らないよ、というマリナーズファンも、実はとっくに、しかも何度もお世話になった、彼らの話題に触れたことがある、というわけだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:セイバーメトリクスにおける守備評価、Fielding Bibleに関する関連記事
Fielding Bible2009 投票者と投票内容の詳細
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月31日、2009年Fielding Bible賞にみる「キャッチャーに必要な能力の新スタンダード」。ロブ・ジョンソン、キャッチャー部門9位にランクイン。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年12月20日、セイバーメトリクスで始まった「捕手の守備評価の新基準」。ロブ・ジョンソン、Defensive Run Saved キャッチャー部門でメジャー1位の評価を受ける。
まぁ、そんなことより、面白いのは、Joe Posnanskiが例のカンザスシティ・スター紙の出身だ、ということだ。
カンザスシティ・スター紙については、たった一度だが、このブログで触れたことがある。覚えている方もほとんどいないだろう。この記事だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月27日、Kansas City Starは、ヘルナンデスとグレインキーのシーズンスタッツを補正した上で比較して、「勝負は五分五分」と語った。
Greinke vs Hernandez: My Vote | Upon Further Review
ヘルナンデスとグレインキーのサイ・ヤング賞争いの行方を占った記事について書いたのだが、元ネタになったカンザスシティ・スターの記事を書いたのは、Joe Posnanskiではなく、別のライターなのだが、地元ロイヤルズのグレインキーと、シアトルのヘルナンデスのサイ・ヤング賞争いを、実に丁寧に、そして身内の贔屓が過ぎることもなく、さまざまな角度から分析していて、とても感心させられたのをよく覚えている。
特に、見た目の勝ち星で判断するのではなくて、理由のある、他人も納得させられる補正を加えてから判断しているところが、今流のライターらしい。
古い考えのライターなら、例えば、エラー数が少ないプレーヤーは補正もせずにそれだけでゴールド・グラブとか、そういう単純なモノの見方で賞を選んでしまうわけだが、カンザスシティ・スターは一貫してそういう考えをとっていないらしい。
こうしたフェアで、しかもきちんと分析し。他人からも評価に値する文章をモノにできる視点をもったライターがたくさん育つ環境がカンザスシティ・スターにはあって、その環境がJoe Posnanskiのようなローカルライターから、全国紙のライターへと押し上げる土壌になっているのだろうと思う。素晴らしいことだ。
カンザスシティ・スター出身のライターには他に、Foxsports.comのライターであり、ESPNなどにも寄稿するJason Whitlock、かつてホール・オブ・フェイムの投票者だったJoe McGuff(故人)などがいる。
この近年バリバリに売り出し中の気鋭のライターJoe Posnanskiがスポーツ・イラストレイテッドに書いた、日本人としてちょっと恥ずかしくなるくらい熱狂的な「イチロー評」の日本語訳が以下のサイトに出ている。
イチロー最大級の評価に浴す:MikSの浅横日記:So-net blog
元記事はこれ。さすがにJoe PosnanskiはThe Fielding Bible Awardsの選考委員らしく、ジョージ・シスラーは、たしかにバッティングだけ見ればイチローと比肩しうる数字を残した。だが、イチローの守備、強肩、スタイル、その全てのユニークさを考えたら、「彼のようなプレーヤーを見たことがないし、彼のようなプレーヤーをこれから見られるだろうとも思わない。」と、ハッキリ意見を述べている。
プレーヤーをあらゆる角度から数値に帰して分析するThe Fielding Bible Awardsの選考委員である彼が、これほど熱心に理屈抜きに誉めるのだから、激賞といっていい。
Seattle Mariners' Ichiro Suzuki is one-of-a-kind player - Joe Posnanski - SI.com
電子版スポーツ・イラストレイテッドのMLBコーナーのトップ記事でもある。
MLB news, scores, stats, fantasy - Baseball - SI.com
翻訳が正しいかどうかとか、元の記事のJoe Posnanskiのプレーヤーごとの判断が正しいかどうかとか、そういう細かいことは、この際、どうでもいい。要は、Joe Posnanskiのこの文章に尽きる。
I don't think there has ever been a player in baseball history quite like Ichiro Suzuki.
私はこれまでの野球史において、イチローに似たプレーヤーがいたとは全く思わない。
誰にも似ていない、ということは、ユニークだということの、最も簡単な証明である。Baseball Referenceに、そのプレーヤーの成績と似た成績をもつ過去現役のプレーヤーという項目があり、似ているパーセンテージも表示されているが、イチローについては、似た選手が無理矢理挙げてある程度で、まったく似たプレーヤーがいないことがデータからも実証されている。
同じ時代に生まれてよかった、と思える選手は数えるほどしかいないものだ。スポーツ・イラストレイテッドの表紙を飾った回数でいうと、こんなふうになっている。マイケル・ジョーダンがいかにスーパースターだったのか、よくわかる。
マイケル・ジョーダン 56回
モハメド・アリ 38回
タイガー・ウッズ 30回
カーリム・アブドゥルジャバー 22回
マジック・ジョンソン 22回
ジャック・ニクラウス 22回
マイケル・ジョーダンの本当に凄かった何年かのシーズン、「空中を歩く」プレーぶりを目の前で見ることのできた幸福なバスケットボールのファンと同じように、イチローの現役のプレーを見られるのは、Joe Posnanskiが言うように、たしかに自分の孫に語って聞かせてやりたい出来事である。