March 27, 2010

スポーツ・イラストレイテッド2001年5月28日号表紙2001年5月28日号

BGM「時代は変わる」
ボブ・ディラン

「黒船」
サディスティック・ミカ・バンド

イチローが初めてスポーツ・イラストレイテッド誌の表紙を飾ったこの号は、同誌がMLB、NBA、NFLのそれぞれに選んだ「2000年以降の印象深い表紙ベスト10」にも選ばれている。メジャーデビューしたばかりのイチローが、この号のためのスポーツ・イラストレイテッド側のカバーストーリー取材を断ったことは、イチローファンの間で有名な話である。
イチローが初めてスポイラの表紙になったことについての当時の記事を見ると、日本人スポーツライターの誰も彼もが、いわゆる「スポーツイラストレイテッドの表紙を飾ると良くないことが起きる」とかいう、いわゆるSports Illustrated Cover Jinx (US版Wikiにはこのジンクスの専門ページもあって、誰と誰が、どんな不幸な目にあったかがリストアップされている(笑)Sports Illustrated Cover Jinx - Wikipedia, the free encyclopedia) を心配する老婆心溢れまくりの記事を書いていたのが、今となってはたいへん微笑ましい、というか、馬鹿馬鹿しい(笑)要は当時は誰もまだイチローの活躍に確信がもてなかった、ということだろう。

その、誰もが不安視したイチローの2001シーズンの結果は、どうだったか。もちろん、新人王からMVPからなにから、とれるタイトルを全て獲りまくった、あのてんこ盛りの輝かしい成果。チームはシーズン116勝。
たぶんイチローは世界で最もジンクスに無縁な男のひとりである。この人の持って生まれた星の輝きの強さときたら、そりゃハンパじゃない。

同じ2001年発行の別の表紙には、シーズン73HRの新記録を作ったバリー・ボンズが登場しているが、このことは非常に重い意味がある。なぜなら、今ならステロイダーのボンズがスポーツ・イラストレイテッドの表紙になるなど、絶対にありえないからだ。
ボンズの体格が劇的に大きくなったことについてマスメディアが度々取り上げはじめたのは、この2001年前後からだが、MLBでのステロイドに関する正式な調査報告であるミッチェル報告が出されるのは、2007年を待たなければならない。
2001年段階では、MLBとアメリカメディアはまだMLBのステロイド問題に半信半疑なのである。また、MLBに対して憧れだけを持ったままの日本のメディアは、なおさら、急に体が大きくなってスタンドにバカスカ放り込むホームランバッターに決定的な疑問を投げかけるだけの根拠も、自信もあるわけではなかった。

見た目華奢に見えるイチローのMLBでの将来に誰も確信を持たない。2001年のMLBとは、まだそんな時代だったのである。
そんな時代にメジャーに登場したイチローは、MLBにとってひとつの「ベースボール革命」であり、アメリカ文化に対する「逆・黒船」だったことが、この2001年5月のスポーツ・イラストレイテッドがいみじくも実証するのである。
2001年スポーツ・イラストレイテッド全表紙


スポーツ・イラストレイテッド2002年7月8日号表紙2002年7月8日号

BGM「天城越え」
石川さゆり

メジャーデビューから1年経ったイチローの、この自信の表情。「どうだ。俺がイチローだ」と言わんばかりである。
だが、実際のところ、2001年春にイチローの活躍に半信半疑だったアメリカのスポーツメディアは、2001シーズンのイチローのあれほどの栄光を見た後ですら、いまだに「時代の底流の変化」に気づいてはいなかった。
このイチロー特集号でのカバーストーリーのタイトルが、The Ichiro PARADOXというおかしなタイトルであることでもわかる。スポイラのライターが何を指して「パラドックス」かと言っているかというと、「パワーも、個性も足りない。なのに、なぜあれだけ活躍できるのか?」ということ。
つまり、2000年代初頭のスポーツ・イラストレイテッドは、ステロイドに頼ったパワー・ベースボールの終焉も確信できず、この先の時代がどう変わっていくのかもわからないまま、スポーツ記事を書きちらしている、ということだ。2002年のスポーツ・イラストレイテッドではいまだに「イチローの天才と、彼のもたらす時代の変化が理解しきれてなかった」のである。

だから2002年当時のスポーツ・イラストレイテッドは、イチローの個性の強さ、アクの強さも、才能も、よく知りもしないまま記事にしている。その後オールスターのア・リーグの試合直前のロッカールームで、イチローが選手たちを前に繰り広げる強烈過ぎるスピーチが恒例になることも知らず、2010年になってJoe Posnanskiが「MLBの歴史上、イチローのような選手は見たことがない」とそのユニークさを讃える記事をスポーツ・イラストレイテッドに書くのも、つまり、イチローをアメリカが理解しはじめるのは、まだまだずっと、ずっと先の話なのだ。
時代の先を行く者。それがイチローである。
2002年スポーツ・イラストレイテッド全表紙


スポーツ・イラストレイテッド2003年5月5日号表紙2003年5月5日号

イチローがスポーツ・イラストレイテッドの表紙を飾った回数は、2001年と2002年の2回だと思っている人も多いかもしれない。だが、実際には4回ある。この号では、左上のタイガー・ウッズの隣に、イチローの顔がみえる。時代に影響を与える101人を選んだこの号で、MLBの現役プレーヤーで選ばれたのは、54位のイチロー以外には、62位A・ロッドのみだ。

イチローの表紙登場3回目は、101 Most Influential Minorities in Sportsなんとも意味深な特集号である。なんというか・・・、なんでまたこういうタイトルにしたのだろう?101匹のダルメシアンじゃあるまいし(笑)
マイノリティという単語を聞くと「スポーツ界で最も影響力のある少数民族101人」とか訳して、国連にでも抗議メールを送る人がでてきそうなタイトルだが(笑)、ここではたぶん「有色人種で、スポーツ界で最も影響のある101人」くらいの意味だろう。まぁ、それにしたって、かなり差別感のあるいやらしいタイトルだが。
アジアからは、イチロー以外に、NBAのヤオ・ミン、ゴルファーのパク・セリなど、当時のアジア系有力アスリートが選ばれている。また、アメリカ人の黒人から、人種的に様々な血をひくタイガー・ウッズ、ニューヨーク州ブルックリン生まれのマイケル・ジョーダン、メキシコ系アメリカ人ボクサーのオスカー・デ・ラ・ホーヤ、NBAのレブロン・ジェームズ、テニスのウィリアムズ姉妹などが選ばれている。
2003年時点のレブロン・ジェームズはまだ新人で、NBAドラフトで全体1位でクリーブランド・キャバリアーズに入団したばかり。ヴィーナス・ウィリアムズは、2002年2月に黒人の女子テニス選手として初の世界ランキング1位になったばかり。
イチローの紹介文にはこんなコメントがある。
This Japanese star became the face of globalization in 2001, when he won the AL MVP. He dispelled the long-held notion that only pitchers, not position players, could make the jump from Japan to the major leagues.

全米のスポーツ界が、なんでもかんでも白人(ないしはアメリカ人)で、ステロイドもオッケーなアメリカ中心時代から、グローバルな新世紀に大きく変化しつつあることに、2年も3年も遅れてようやく気づきはじめたスポーツ・イラストレイテッドだが、なにか気がつくのが遅れたことがよほど悔しいのかなにか知らないが、「マイノリティ」と、新勢力を片隅におしやった上で紹介するところが、かつての、どうにも頑固で保守的なスポーツ・イラストレイテッドの体質を表している(笑)
101 Most Influential Minorities in Sports スポーツイラストレイテッドが選んだ101人全リスト



スポーツ・イラストレイテッド2004年10月4日号表紙2004年10月4日号

記事も長くなったので、ちょっと簡単に触れておくことにする(笑)
バリー・ボンズがステロイダーとして、その記録ともども名誉もなにもかもを失って、スポーツ・イラストレイテッドが心から頼れる(笑)アメリカ人スターもいなくなってしまうのかと思われた矢先に現れたのが、イチローと同じ年デビューのアルバート・プーホールズだ。たぶんスポーツ・イラストレイテッドはこれからの10数年、プーホールズを褒めたたえることで、ホームランとステロイド全盛時代を懐かしむという複雑な脳内遊びを継続するつもりだったに違いない。やれやれである(笑)

だが、時代の変化は、そんな姑息な遊びとは関係なく、どんどん進む。
その後、スポーツ・イラストレイテッドのライターも、だんだんに入れ替わりが進んでいく。セイバー・メトリクス系のJoe Posnanskiが加わったことだって、その一環だろうと思っている。スポーツ・イラストレイテッドが記事を書く基準そのものが、これからもっともっと変化していかざるをえないだろう。


いつまでたっても、エラーさえ少なければそのプレーヤーにゴールドグラブを与えてもいいという単純な時代が続くわけでもない。キャッチャーの守備評価にCERAが導入されたりする、そういう時代である。
打つ、守る、走る。イチローの真価が本当の高さで評価されるのは、まだまだこれからだが、そうなる日も、もう遠くない。

4つのスポーツ・イラストレイテッドを見てきてわかるように、日本の至宝イチロー自身のスタンスは2001年から変わっていない。
変わってきたのは、スポーツ・イラストレイテッドとアメリカのスポーツメディアのほうだ。


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