September 12, 2010

先日、MLB史における盗塁とホームランの相反関係を記事にしたばかりだ。イチローのデビューがメジャーの歴史に与えたはかりしれない影響に関するまとめとしては、ちょっとした出来だとかいう小さい話ではなくて、メジャー史におけるイチローの立ち位置の説明としては、このコンセプトがちょっと決定版かなとすら、自負している。
タイ・カッブ、リッキー・ヘンダーソンの後継者」としてイチローを考えないと、イチローがいまMLB史で占める位置の重要性は理解できないと思っているからだ。長いメジャーの歴史とイチローの繋がりの物語を一気に読み解く鍵が、「盗塁とホームランの関係」だというわけである。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月9日、盗塁とホームランの「相反する歴史」。そしてイチローのメジャーデビューの歴史的意義。


その記事を書いた翌日だったか、まったく意図してなかったことなのだが、偶然にも「MLBのステロイド汚染時代とイチローのメジャーデビューの意義」についても触れたドキュメンタリー番組が、9月28日・29日の2日間にわたって、PBSで全米向けに放映されることになった、というニュースが流れてきた。

エミー賞を既に7回受賞したケン・バーンズの"The Tenth Inning"である。

ケン・バーンズが考える「MLB史上におけるイチローの存在意義」も、このブログと全く同じコンセプトらしいので、ちょっと彼のことを紹介してみる気になった。
The Tenth Inning公式サイト
Baseball The Tenth Inning: About the Film | PBS

PBSのリリース
LANDMARK KEN BURNS SERIES “BASEBALL” UP TO BAT IN FALL 2010 ON PBS New Episode THE TENTH INNING Chronicles the Sports Past 15 years
注;セサミ・ストリートの制作で知られるPBSは日本のチャンネルでいうと「NHK教育」にあたる。
だがNHKが、国営でありながら、視聴者から徴収した受信料とかいう「利用料」で運営されている、ある意味の「有料放送」(笑)あるのに対して、PBSは連邦政府や州の交付金、寄付金、広告ないしは企業からの寄付などで運営されているのがまったく違う点。



それにしても、なんで日本のメディアっていつも「この程度」なんだろう。
まだ日本での放映が決まってない"The Tenth Inning"が全米で放映されるというニュースを報道するのは、まぁ、今後の日本での放映のためになるからいいとして、ケン・バーンズという映像作家がどんなグレードの人なのか、こんどの作品がなぜこういうThe Tenth Inning"というタイトルになっているか、なんてことについても、きちんと紹介しておかないと、日本では意味がわからないし、「アメリカの背骨」を一貫して描いてきたケン・バーンズ作品にイチローが登場することの凄さがわからないと思う。
もったいない。


ケン・バーンズは1953年生まれ。アメリカでは非常に有名なドキュメンタリー映像作家・映像プロデューサーだ。
1990年のThe Civil War、1994年のBaseballなどで、過去にエミー賞をもう7回も受賞し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にもThe Statue of Liberty(1985、第58回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート)、ブルックリン・ブリッジ(1981、第54回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート)と、2度ノミネートされている。The Civil Warなどは、もう20年も前の作品なのに、何度も何度も再放送されているようだ。

彼がこれまで取り上げてきたテーマにはひとつの共通点があるのだが、作品タイトルを並べてみるので推理してみたらどうだろう。
ブルックリン・ブリッジ(1981)、南北戦争(1990)、野球(1994)、トーマス・ジェファーソン(1997)、ジャズ(2001)、ナショナル・パーク(2009)。

そう。
ケン・バーンズの描くテーマは一貫して「アメリカの背骨」である。
建国当初のアメリカがどういう風に成り立ったか。スポーツ、音楽を初めとするアメリカ独自の文化。アメリカの自然と風土。アメリカ建国の偉人。
つまり、アメリカという国の骨格が、どんな文化、歴史、自然、人間から成り立ってきたか、ということを、彼は映像作家として探求し続けている。
彼の描く「アメリカという国は、こういう骨格で成り立ってきている」というドキュメンタリーがアメリカ市民に広く深く受け入れられているということは、ケン・バーンズが「アメリカの歴史の語り部(かたりべ)のひとりとして、オーソライズされている」という意味なのだ。
だからこそ、ケン・バーンズが描くBaseballにイチローが入ったということは、「イチローというひとりの日本人野球選手が、既にアメリカの歴史、それも、『歴史の背骨』の一部になった」、という意味なのだ。



また、ケン・バーンズがドキュメンタリー作家として有名なのは、彼の作品の質の良さだけではなくて、「過去」というものを取り上げることの多いドキュメンタリー制作上のスタンダード・テクニックのひとつを創造した、という点も大きい。
アメリカのアップル社の製品であるiPhotoiMovieというソフトのメニューにも取り入れられ、またiPodのメニューにもある「ケン・バーンズ・イフェクト(ケン・バーンズ効果)」という映像を編集するときのテクニックがある。
これはもちろんケン・バーンズの映像テクニックから名づけられたイフェクトで、90年にThe Civil War(南北戦争)を作品化したとき、ビデオなど無い時代の話をを映像で表現するために、ケン・バーンズが、南北戦争時のたくさんの写真を収集して、その動かない写真を動画の世界でなんとか効果的に見せようと開発した映像テクニックだ。

いくら言葉で説明してもわからないだろう。
だから、下記のリンクをクリックして、自分の目で確かめてみてほしい。「あれ? これって、ほとんどのドキュメンタリーで使ってるテクニックじゃん?」と誰でも思うはずだ。(リンク先の右側にDemonstration of the Ken Burns Effect in video form.というコメントのついた部分があるから、その上の矢印をクリック)
つまり、それくらい世界中でポピュラーなドキュメンタリー映像の根本テクニックを、ケン・バーンズが開発した、ということだ。
Ken Burns Effect - Wikipedia, the free encyclopedia


この9月公開の"The Tenth Inning"がこういうタイトルなのは、1994年公開の"Baseball"という「9つのパートからなる作品」の続編というか、まとめとしての「10番目の作品」だからだ。
"Baseball"は、"The Tenth Inning"と同じように9月に公開された。「9つのパート」からなる作品で、それぞれのパートが、1st Inning(1回)、2nd Inning(2回)と順にタイトルをつけられて、9日間にわたって公開されている。(日本でも、2002年3月22日から同30日にかけて「アメリカ大リーグ〜歴史をつくった人々」というタイトルでNHK-BSで放映されたが、これは短縮版で、内容がカットされている)
Baseball (TV series) - Wikipedia, the free encyclopedia

ケン・バーンズが"The Tenth Inning"において、どういう意図でイチローを映像に取り込んでいるのかは、実際に番組を見ていないから、まだわからない。
だが、どうもリリースなどを見るかぎり、ペドロ・マルチネスをかなりフィーチャーしているようなので、ペドロを取り上げた部分にでも出てくるのかもしれない。


いずれにしても、知ってもらいたいと思うことは、イチローの存在価値は、とうの昔に、「日本のプロ野球からメジャー挑戦した選手たち、なんていうレベルで話すようなレベルではなくなっており、「世界の野球史でもあるメジャー史にとって、イチロー登場はどんな意義があったか」を論じる、そういうレベルにある、ということだ。

もう一度書いておこう。

ケン・バーンズが描くアメリカにイチローが入った、ということは、「イチローは既にアメリカ史の一部だ」ということなのだ。


ESPNのシニア・ライターRob Neyer
「もしイチローがカリフォルニア生まれなら、ピート・ローズを越えている」という主旨のコラム
If Ichiro had been born in California ... - SweetSpot Blog - ESPN







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