September 14, 2010
クリフ・リーの配球に「一定のクセ」があることを指摘するこのシリーズ(3)では、次のような話をした。
「クリフ・リーの持ち球は少数精鋭主義で、それぞれ非常に優れている。しかし、球種の少なさから、配球パターンのバリエーションには限度があり、それを打者に見抜かれる可能性も高い。
これまではカーブを決め球にして、球種の少なさを『緩急』で補うことで、打者をかわしてきたが、カットボール主体に切り替えたこと、さらに移籍によって気のあわないキャッチャーと組まされたことで、配球の効果が大きく損なわれ、打者に痛打される場面が数多く出てきた。
だからこそ彼にとっては『少ない球種でも打者を翻弄できる配球がわかる、頭のいい、自分と気のあうキャッチャー』が必要不可欠だ。」
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月12日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「クリフ・リー パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「例外パターン」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャーにこだわる理由の考察
ちょっと他に、この記事を補強する良い例がひとつ見つかったので、挙げてみることにする。
P (監督): チャーリー・ブラウン
C シュローダー
1B シャーミー
2B ライナス
3B ピッグ・ペン
SS スヌーピー
LF パティ
CF フリーダ
RF ルーシー
この野球チームはジョー・ディマジオが活躍した1950年代に生まれた。ショートストップのスヌーピーは守備の名手である(彼は1957年4月12日には外野をやったという記録もある)
え?なになに。
「それ、漫画でしょ?」って?
馬鹿なこと言ってもらっちゃ、困る。
かのMLBのデータサイトとして超・超有名なBaseball Referenceにも、ちゃんと、このチームと、そのロスターのプレーの特色について記述・解説した専用ページがある。馬鹿にしちゃ、いかん。キャッチャーのシュローダー君などは、ちゃんとマスクとプロテクターをつけたボブルヘッド人形だってあるくらいだ。
あなた自身がBaseball Referenceに掲載してもらえるほどの有名野球チームの一員になって、さらに、ボブルヘッド人形をつくってもらえるほどの選手になってから、そういう生意気なことを言ってもらいたい。
Peanuts - BR Bullpen
さて、このチームの中心プレーヤーチャーリー・ブラウンだが、彼はかつては外野とキャッチャーも経験しているが、50年代後半からはピッチャーと監督を兼任するプレイング・マネージャーである。
持ち球は、遅いストレートと、曲がらないストレートと、落ちないストレートと、コントロールの悪いストレート。
なかなか球種が多い。
主戦投手の持ち球にそういう「特殊事情」があるため、ピアニストでもあるキャッチャーのシュローダー君は、「チャーリー・ブラウンに出すサインに、あるちょっとした工夫」をしている。
それが上の画像だ。
シュローダー捕手
「いいかい、チャーリー。
指1本は、速球だぜ?(速くないけど)
指2本は、カーブだ。(曲がらないけど)
で、指3本は、ドロップ(落ちないけど)
4本がピッチアウトだ。
わかったかい?」
チャーリー・ブラウン投手
「もしサインを忘れちゃったら、どうしたらいい?}
シュローダー捕手
「心配いらない(キッパリ)。
サイン出すのはね、チャーリー。
敵に、キミがストレート以外に、
なにか別の球種を投げられるんじゃ?
と思い込ませるために出すだけなんだから、さ。」
チャーリー・ブラウン投手
「キミ、んっとに頭いいね!」
どうだろう。
球種の少ない投手にサインを出さなければならないキャッチャーが、どのくらいのクレバーさをもっていなければならないか、これで、よーくわかったことだろう。
キャッチャーとして苦労の絶えないシュローダー捕手は、ベートーベンを贔屓にするピアニストでもあるが、彼の気をひこうとするライトのルーシー選手に2度ばかり大事なピアノを壊されたことがある。
そのたび彼は新しいピアノを注文したのだが、新しいピアノが届くときに、どういう理由からか、セントルイス・カージナルスのJoe Garagiola選手のサイン入りブロマイドを手に入れている。
Joe Garagiolaは、1926年にセントルイスで生まれて、1946年に地元のカージナルスに入団した(実在の)プレーヤー。1951年にナ・リーグの守備率1位に輝いたが、パスボールも多かった。通算CERAは4.91、平均失点数5.62。通算打率.257。1954年引退。
Joe Garagiola Statistics and History - Baseball-Reference.com
シュローダー捕手が、いったいどういうわけでこの大スターとも思えないキャッチャーのサインをもらう気になったかはわからないが、少なくとも、キャッチャーというポジションが気に入っている、ということだけは確かなようだ。
---------------------------------------------
と、まぁ。
つまらないギャグにつきあってもらったのにも、理由がある。
チャールズ・M・シュルツさん原作の漫画「ピーナッツ」が日本で日本語吹き替え版アニメとして初めて放映されたのは1972年だが、初代チャーリー・ブラウン役の声優が、つい先日亡くなられた谷啓さん、その人なのである。
歴史を調べてみると、この作品は間違いなく、日本における地上波テレビ黎明期の傑作といえるテレビ番組のひとつであり、また、アメリカ文化を日本に紹介したコンテンツという意味でも、バットマンやサンダーバードに並ぶ歴史的作品だから、谷啓さんの死を追悼する意味で「ピーナッツ」を再放送すればいいのにと思うのだが、どうもそういう声が聞こえてこない。
それどころか、テレビの歴史を作った谷啓さんが亡くなったというのに、彼の業績の全体像がきちんとメディアで紹介されているとは、とてもとても思えない。日本のメディアって、本当に馬鹿だと思う。
谷啓さんの多大な業績をひとことで言うのは難しい。それでもあえて言わせてもらうなら「日本人(特に東京人)の流儀による、外来のアメリカ文化のエッセンスの紹介と、その日本流リメイク」だと思う。
そもそも谷啓さんの芸名そのものが、アメリカの有名コメディアン/俳優/シンガーのダニー・ケイ、Danny Kayeの名前をもじったものであり、また髪型や芸風は1940年代の大人気2人組コメディ・コンビ「アボット&コステロ」のルー・コステロに似せているのだから、念が入っている。
アボット&コステロの
野球ギャグ
谷啓さんが所属していたクレイジーキャッツは、コミックバンドだと思っている人が多い。谷啓さん以外のメンバーは「ミュージシャン志望」であって、ひとり谷啓さんだけが「コメディアン志望」だったという。
この「コメディアン志望」というのは、なにも、いまのような「有名お笑い芸人になりたい。金持ちになりたい」という単純な意味では、たぶん、ない。
谷啓さんの「コメディアン志望」はおそらく「日本に入ってきたばかりのアメリカ文化と一体化したい願望」とでもいうか、「『異文化への憧れ』的な意味」であり、それをわからないとたぶんまったく理解できないと思う。
ちなみに、谷啓さんが「アメリカ流のコメディアン志望」だったから音楽テクニックがなかったかというと、それは逆で、ジャズ評論誌「スイングジャーナル」で彼のトロンボーンが高く評価されていたように、ミュージシャンとしてのテクニックも、クレイジーキャッツの中では谷啓さんが一歩ぬきんでていた。
アメリカのコメディの独特のセンスやリズム感。アメリカのオリジナルな音楽であるジャズ。アメリカのアニメ「ピーナッツ」。谷啓さんの周囲にあったのは、40年代から50年代にかけてのアメリカ文化そのものである。
クレイジー・キャッツがかつてレギュラー出演していた番組に「シャボン玉ホリデー」という当時の超有名番組があるが、そのレギュラーのひとりが「ザ・ピーナッツ」という60年代にスターだった2人組の女性ボーカルグループだった。
セブンス・イニング・ストレッチに歌われる "Take Me Out to the Ball Game"(わたしを野球に連れてって)でも、
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
と歌われているように、ピーナッツとアメリカ野球は縁が深い。ピーナッツはMLBのスタジアムでもよく売られているし、シュルツさんの漫画「ピーナッツ」でも、野球が最も重要なスポーツシークエンスとして扱われている。
フリトレー社のピーナッツ
フリトレー社は、"Take Me Out to the Ball Game"でも歌われている「クラッカージャック」という糖蜜がけポップコーンの登録商標を現在保有しているアメリカの会社。
なにかにつけて、谷啓さんは「アメリカ」と「ピーナッツ」に縁のある人だった。
ピーナッツ(=アメリカ文化)と谷啓さんの深いかかわり。
これがこの記事のオチだ。
アメリカ野球も含め、谷啓さん世代が紹介してくれたアメリカ文化に、僕らは浸りきって毎日をおくっている。異文化をうまい具合に日本風にアレンジして世間に広めてくれた谷啓さんの業績は、けして小さくなんかない。
ご冥福をお祈り申し上げます。合掌。
谷啓版チャーリー・ブラウン
オリジナル版
Peanutsは単なるアニメではなく、たくさんの音楽が使われたアニメ・ミュージカルでもある。BGMに使われている数多くの素晴らしいナンバーを聴くのも、ひとつのPeanutsの楽しみ。これは"You're a Good Man, Charlie Brown!"から、"T-E-A-M"。ミュージカル仕立てのナンバー。
"Take Me Out to the Ball Game"
「クリフ・リーの持ち球は少数精鋭主義で、それぞれ非常に優れている。しかし、球種の少なさから、配球パターンのバリエーションには限度があり、それを打者に見抜かれる可能性も高い。
これまではカーブを決め球にして、球種の少なさを『緩急』で補うことで、打者をかわしてきたが、カットボール主体に切り替えたこと、さらに移籍によって気のあわないキャッチャーと組まされたことで、配球の効果が大きく損なわれ、打者に痛打される場面が数多く出てきた。
だからこそ彼にとっては『少ない球種でも打者を翻弄できる配球がわかる、頭のいい、自分と気のあうキャッチャー』が必要不可欠だ。」
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月12日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「クリフ・リー パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「例外パターン」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャーにこだわる理由の考察
ちょっと他に、この記事を補強する良い例がひとつ見つかったので、挙げてみることにする。
P (監督): チャーリー・ブラウン
C シュローダー
1B シャーミー
2B ライナス
3B ピッグ・ペン
SS スヌーピー
LF パティ
CF フリーダ
RF ルーシー
この野球チームはジョー・ディマジオが活躍した1950年代に生まれた。ショートストップのスヌーピーは守備の名手である(彼は1957年4月12日には外野をやったという記録もある)
え?なになに。
「それ、漫画でしょ?」って?
馬鹿なこと言ってもらっちゃ、困る。
かのMLBのデータサイトとして超・超有名なBaseball Referenceにも、ちゃんと、このチームと、そのロスターのプレーの特色について記述・解説した専用ページがある。馬鹿にしちゃ、いかん。キャッチャーのシュローダー君などは、ちゃんとマスクとプロテクターをつけたボブルヘッド人形だってあるくらいだ。
あなた自身がBaseball Referenceに掲載してもらえるほどの有名野球チームの一員になって、さらに、ボブルヘッド人形をつくってもらえるほどの選手になってから、そういう生意気なことを言ってもらいたい。
Peanuts - BR Bullpen
さて、このチームの中心プレーヤーチャーリー・ブラウンだが、彼はかつては外野とキャッチャーも経験しているが、50年代後半からはピッチャーと監督を兼任するプレイング・マネージャーである。
持ち球は、遅いストレートと、曲がらないストレートと、落ちないストレートと、コントロールの悪いストレート。
なかなか球種が多い。
主戦投手の持ち球にそういう「特殊事情」があるため、ピアニストでもあるキャッチャーのシュローダー君は、「チャーリー・ブラウンに出すサインに、あるちょっとした工夫」をしている。
それが上の画像だ。
シュローダー捕手
「いいかい、チャーリー。
指1本は、速球だぜ?(速くないけど)
指2本は、カーブだ。(曲がらないけど)
で、指3本は、ドロップ(落ちないけど)
4本がピッチアウトだ。
わかったかい?」
チャーリー・ブラウン投手
「もしサインを忘れちゃったら、どうしたらいい?}
シュローダー捕手
「心配いらない(キッパリ)。
サイン出すのはね、チャーリー。
敵に、キミがストレート以外に、
なにか別の球種を投げられるんじゃ?
と思い込ませるために出すだけなんだから、さ。」
チャーリー・ブラウン投手
「キミ、んっとに頭いいね!」
どうだろう。
球種の少ない投手にサインを出さなければならないキャッチャーが、どのくらいのクレバーさをもっていなければならないか、これで、よーくわかったことだろう。
キャッチャーとして苦労の絶えないシュローダー捕手は、ベートーベンを贔屓にするピアニストでもあるが、彼の気をひこうとするライトのルーシー選手に2度ばかり大事なピアノを壊されたことがある。
そのたび彼は新しいピアノを注文したのだが、新しいピアノが届くときに、どういう理由からか、セントルイス・カージナルスのJoe Garagiola選手のサイン入りブロマイドを手に入れている。
Joe Garagiolaは、1926年にセントルイスで生まれて、1946年に地元のカージナルスに入団した(実在の)プレーヤー。1951年にナ・リーグの守備率1位に輝いたが、パスボールも多かった。通算CERAは4.91、平均失点数5.62。通算打率.257。1954年引退。
Joe Garagiola Statistics and History - Baseball-Reference.com
シュローダー捕手が、いったいどういうわけでこの大スターとも思えないキャッチャーのサインをもらう気になったかはわからないが、少なくとも、キャッチャーというポジションが気に入っている、ということだけは確かなようだ。
---------------------------------------------
と、まぁ。
つまらないギャグにつきあってもらったのにも、理由がある。
チャールズ・M・シュルツさん原作の漫画「ピーナッツ」が日本で日本語吹き替え版アニメとして初めて放映されたのは1972年だが、初代チャーリー・ブラウン役の声優が、つい先日亡くなられた谷啓さん、その人なのである。
歴史を調べてみると、この作品は間違いなく、日本における地上波テレビ黎明期の傑作といえるテレビ番組のひとつであり、また、アメリカ文化を日本に紹介したコンテンツという意味でも、バットマンやサンダーバードに並ぶ歴史的作品だから、谷啓さんの死を追悼する意味で「ピーナッツ」を再放送すればいいのにと思うのだが、どうもそういう声が聞こえてこない。
それどころか、テレビの歴史を作った谷啓さんが亡くなったというのに、彼の業績の全体像がきちんとメディアで紹介されているとは、とてもとても思えない。日本のメディアって、本当に馬鹿だと思う。
谷啓さんの多大な業績をひとことで言うのは難しい。それでもあえて言わせてもらうなら「日本人(特に東京人)の流儀による、外来のアメリカ文化のエッセンスの紹介と、その日本流リメイク」だと思う。
そもそも谷啓さんの芸名そのものが、アメリカの有名コメディアン/俳優/シンガーのダニー・ケイ、Danny Kayeの名前をもじったものであり、また髪型や芸風は1940年代の大人気2人組コメディ・コンビ「アボット&コステロ」のルー・コステロに似せているのだから、念が入っている。
アボット&コステロの
野球ギャグ
谷啓さんが所属していたクレイジーキャッツは、コミックバンドだと思っている人が多い。谷啓さん以外のメンバーは「ミュージシャン志望」であって、ひとり谷啓さんだけが「コメディアン志望」だったという。
この「コメディアン志望」というのは、なにも、いまのような「有名お笑い芸人になりたい。金持ちになりたい」という単純な意味では、たぶん、ない。
谷啓さんの「コメディアン志望」はおそらく「日本に入ってきたばかりのアメリカ文化と一体化したい願望」とでもいうか、「『異文化への憧れ』的な意味」であり、それをわからないとたぶんまったく理解できないと思う。
ちなみに、谷啓さんが「アメリカ流のコメディアン志望」だったから音楽テクニックがなかったかというと、それは逆で、ジャズ評論誌「スイングジャーナル」で彼のトロンボーンが高く評価されていたように、ミュージシャンとしてのテクニックも、クレイジーキャッツの中では谷啓さんが一歩ぬきんでていた。
アメリカのコメディの独特のセンスやリズム感。アメリカのオリジナルな音楽であるジャズ。アメリカのアニメ「ピーナッツ」。谷啓さんの周囲にあったのは、40年代から50年代にかけてのアメリカ文化そのものである。
クレイジー・キャッツがかつてレギュラー出演していた番組に「シャボン玉ホリデー」という当時の超有名番組があるが、そのレギュラーのひとりが「ザ・ピーナッツ」という60年代にスターだった2人組の女性ボーカルグループだった。
セブンス・イニング・ストレッチに歌われる "Take Me Out to the Ball Game"(わたしを野球に連れてって)でも、
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
と歌われているように、ピーナッツとアメリカ野球は縁が深い。ピーナッツはMLBのスタジアムでもよく売られているし、シュルツさんの漫画「ピーナッツ」でも、野球が最も重要なスポーツシークエンスとして扱われている。
フリトレー社のピーナッツ
フリトレー社は、"Take Me Out to the Ball Game"でも歌われている「クラッカージャック」という糖蜜がけポップコーンの登録商標を現在保有しているアメリカの会社。
なにかにつけて、谷啓さんは「アメリカ」と「ピーナッツ」に縁のある人だった。
ピーナッツ(=アメリカ文化)と谷啓さんの深いかかわり。
これがこの記事のオチだ。
アメリカ野球も含め、谷啓さん世代が紹介してくれたアメリカ文化に、僕らは浸りきって毎日をおくっている。異文化をうまい具合に日本風にアレンジして世間に広めてくれた谷啓さんの業績は、けして小さくなんかない。
ご冥福をお祈り申し上げます。合掌。
谷啓版チャーリー・ブラウン
オリジナル版
Peanutsは単なるアニメではなく、たくさんの音楽が使われたアニメ・ミュージカルでもある。BGMに使われている数多くの素晴らしいナンバーを聴くのも、ひとつのPeanutsの楽しみ。これは"You're a Good Man, Charlie Brown!"から、"T-E-A-M"。ミュージカル仕立てのナンバー。
"Take Me Out to the Ball Game"