October 27, 2010



ブログ注:この動画の出典はESPNなわけだが、どうも元の動画は削除されたらしい。http://espn.go.com/video/clip?id=5728888


2010ワールドシリーズキューバ出身のHOF(ホール・オブ・フェイマー)、Tony Perezの息子、Eduardo Perezは、2006年にシアトルでプレーした後、引退して、同年からBaseball Tonightのアナリストをしているが、2010ワールドシリーズを前に、クリフ・リーと、ヤンキースのマーク・テシェイラアレックス・ロドリゲスとのポストシーズンでの対戦場面を引き合いに出しながら、クリフ・リーの投球フォームと、彼のボールの打ちにくさを関連づけて解説している。
Eduardo Perez Statistics and History - Baseball-Reference.com


Eduardo Perezの言いたいことを簡単にまとめると、クリフ・リーの手からボールが離れる瞬間になっても、打者たちは体重移動のきっかけをうまく作れないままスイングに入って、空振りしたり、あるいは見逃したりしている、ということになる。
たしかに打者が構えるタイミングがまったくあっていない。


ブログ主が思うに、クリフ・リーの投球フォームは、「右足を踏み込んでから、ボールをリリースするまでの一連の動作」が無駄がなく、それだけに、とても早い
ちなみに、クリフ・リーだけが早いのではなくて、メジャーの投手は日本の投手と比べて、「構えて、投げるまで」が早い

このクリフ・リーの「動作の無駄の無さ」は、右足をホームプレートに向けて踏み込んでいく時点での、「ボールを持つ位置の高さ」を見ると、ひと目でわかる。


以下に、クリフ・リーの「踏み込み脚が着地する寸前の画像」を、フィラデルフィア、シアトル、テキサス、3チーム分、集めてみた。クリフ・リーのボールを握っている左手が、踏み込み脚の右足が着地するだいぶ前に、すでに「肩の高さ」まで上がり終えていることがおわかりいただけると思う。
それにしても、まぁ、いつの時代を見ても、まるで同じフォームにしか見えない。驚かされる。
体全体を動かすシステム、メカニクスがきっちりと、しかも無駄なく決まっているために、「どう足を着いたか」とか「どれだけ膝を曲げたり、伸ばしたりしたか」というような雑多な要素でコントロールが不安定にならないことが、よくわかる。

フィラデルフィア時代のクリフ・リーの投球フォームフィラデルフィア時代

シアトル時代のクリフ・リーの投球フォームシアトル時代

テキサスでのクリフ・リーの投球フォームテキサス移籍後



日本人投手のフォームとの違いを見るために、試しにボストンの松坂大輔投手と比べてみる。

松坂投手のフォーム(足をショート側に向ける瞬間)松坂投手は、左足を、ホームプレート方向に踏み出す前に、一度、自分の斜め後ろにあたる三遊間方向に向かって伸ばしている(左写真)
クリフ・リーにはこの動作が全くない

さらに松坂は、この伸ばした左足を、ブルース・リーの旋風脚のように、自分の体の前で円を描くように、つま先をホームプレート方向に向け直していき、そこからやっとホームプレート方向に踏み出すみ動作が始まる。なんというか、いうなれば「脚で一度タメている」のである。


ボストン松坂大輔投手のフォーム次に、ホームプレートに向かって踏み出した瞬間の、「ボールを握った右手の位置」を見てみる。

踏み出した左脚が着地寸前だが、右手はまだ腰より低い位置にある。(左写真)
いってみれば利き手を腰の後ろに長時間とどめておく松坂投手は「手で二度目のタメをつくっている」。

2つの画像での説明でわかるとおり、松坂投手の「予備動作の多さ」が、クリフ・リーのピッチングフォームのシンプルさとの大きな違いだ

松坂投手は、踏み込む左足の足裏がもう着地しそうになっている段階でも、まだ背中が丸まっていて、胸を張れてないし、ボールはまだ「腰のあたりにタメている」
だから、この「腰ダメの段階」からですら、すぐにはボールをリリースできない。ただでさえたくさんの予備動作をこなしてきたのに、さらにここからいくつかの予備動作がまだ必要になる
やっとボールがリリースできる段階にたどり着くのは、胸を張り、左足を踏みしめて、両肩を回しつつ、ボールを持った右腕を振り上げ、とか、やらなければならない沢山の動作をこなしてからだ。

こうなると、悪くすると、テニスで言えば「ラケットを引く予備動作の処理が遅いために、相手の球を打ち返しそこねる」ような状態になる。

というのも、こなさなければならない予備動作の多い松坂投手の場合、予備動作をこなしている間に、うっかりすると、まだリリースのタイミングに至ってないのに「踏み込み脚が完全着地しきってしまう」からだ。そうなると、せっかくの体重移動は少なからず無駄になる。
たとえ話でいうと、「上半身と下半身が別々に旅行に出発して、目的地で同時に着く待ち合わせをしたはずが、下半身だけがずいぶんと先に目的地に到着してしまい、スウェイバックしたままの上半身が、いつまで待っても目的地に到着しないので、先に目的地で待っていた下半身が待ちくたびれた状態になる」わけだ。(実際、松坂のキャッチボールでのフォームは、上半身が異様にスウェイバックしている)

また、コントロールにも問題が生じる。
松坂投手はボールをリリースするまでに、こなさなければならない予備動作が多い。たくさんの交通手段を使う旅行のようなものだ。
もし経由する動作がうまくいかなくて、動作に「誤差」や「ブレ」が生じれば、それは必ずコントロールへ影響してくる。
例えば、踏み込んだ脚を着地させてからリリースするまで、いくつかある予備動作のどこか、例えば、腰の低い位置でタメていた腕を振り上げていく軌道が毎回違っているとか、軸足を曲げる量が毎回変わるとか、両肩の回し方、ショート方向に向けていた脚をホームプレートに踏み込んでいくときの足を伸ばす幅、これらのどれでもいいのだが、「ボールをリリースするたびに正確に行われるはずの数多くある予備動作のどこかに「誤差」や「ズレ」が生じると、それがどんなズレであろうと、コントロールに影響が出る
そうなると、なんというか、形容矛盾のようだが、松坂投手のフォームは「体全体を使った、手投げ」になってしまう。



それに対して、クリフ・リーの投球動作はだいぶ違う。

投球モーションに入って、踏み込み脚の右足を胸に引き上げた後、その右足は、そのままホームプレートに向かっていく

クリフ・リーの「胸に大きく引き上げた足を、そのままホームプレートに向かって踏み下ろしていく動作」では、松坂にあるような予備動作のいくつかが省かれている。第一に、ホームプレートに向かって足を踏み込む前に、自分の斜め後ろ方向(左投手のクリフ・リーなら、1,2塁間の方向)に向ける動作。第二に、後ろに向けた足を「一度、完全に伸ばす動作」。第三に、「一度後ろに向かって伸ばした足を、ホームプレート方向に向け直していく動作」。これらの松阪投手の動作の全てが、クリフ・リーにはない。

そして、上の3つのチームでの投球画像で見てわかる通り、踏み込み脚が着地する直前には、もう既に「胸を張って」、「ボールを肩くらいまで上げ」、「リリースのための予備動作」は終了しているから、いつでもボールを安定してリリースできる段階になっている

投球動作の早い段階で腕が上がっているから、クリフ・リーのリリースポイントは、足の着地位置から逆算した「常に同じ高さ」に決まる。(この高さが決まってリリースポイントが安定することを指して、stay tallと言っているのではないかと思うのだが、どうだろう)だから、クリフ・リーのフォームでは、腕の振りさえ安定していれば、常に安定したコントロールが得られる。
クリフ・リーのリリース・ポイント(2007、2008年)
Cliff Lee Pitch F/X 2008 « Mop Up Duty | Baseball News Sabermetric | Baseball History Bio

総じて言えば、クリフ・リーの投球動作はシンプルだ。
「脚を上げて」、「左右に体を開きながら踏み込み」、そして「投げる」。これだけ。いかにもメジャーの投手らしい。
日本の投手のように、「脚を上げてからボールを投げる前に、いくつか加えているタメをつくる動作」の大半が省略されていて、非常に無駄なく組み立てられている。
加えて、踏み込んで全体重が踏み込み脚に乗った瞬間にボールがリリースされるようにできているために、体重移動のパワーが無駄にならない。


書きだすとキリがないが、クリフ・リーと松坂の投球フォームの違いは、単に2人の個人差だけからきているのではなくて、日本とメジャーの野球文化の差異でもある。

MLBファンの大半がわかっていることだと思うが、メジャーの投手のフォームは日本と違って「構えてから投げるまでが、とても早い」。(もちろん、それは「クイックで投げている」という意味ではない)

日本で野球をしているなら、打者は、モーションの大きな、投球に時間のかかる投手が円を描くような大きなテイクバックでタメをつくっている間に、打席内で大きく体重移動しておいてボールが打席まで来るのを待つことができる。だから、ドアスイングのような大袈裟なスイングの打者であっても、投手のボールのリリースを見てからでも、体の前のポイントで差し込まれずにスイングすることができる。

だが、メジャーでは、そんな悠長なことをしていては、とても打てない。

天才イチローですら日本での打撃フォームをメジャー用に改造したくらいだ。イチ、ニの、サンで振ればヒットやホームランになるようには、メジャーのベースボールは出来てない。

ノーラン・ライアンの投球フォーム現役時代のノーラン・ライアン

ノーラン・ライアンは、クリフ・リー同様に、ホームプレート方向に踏み込む動作のかなり早い段階で、ボールを握った手を「高い位置」に上げ、リリースに備えている。こうした予備動作の開始タイミングの早さが、構えてから投げるまでの動作の早さに繋がるのだと思う。







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