October 30, 2010
これはフロリダのSt. Petersburg Timesの「2001年以降の新しいストライクゾーン」についての記事(Sports: Baseball adapts to a new zone)に添付されているイラスト。元記事では、点線で示されているのが、2000年までの「古いストライクゾーン」、赤い太線で示されているのが、「新しいストライクゾーン」、と説明されている。
「説明されている」と、ちょっと曖昧な、奥歯にモノがはさまった言い方をしたのには理由があって、このイラストだけ見た人は、「最近のMLBのストライクゾーンは、アウトコースが狭くなって、高目を広くした」だけで、「低めのストライクゾーンは、近年、まったく変更が加えられていないと、誤解する」のではないかと感じるからだ。
「低めは変更なし?」
そんな馬鹿な。
「低め」だって「ボール1個分」広くなっている。
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info
元記事は各チームがフロリダでスプリング・トレーニングをしている最中の2001年2月27日に書かれた。
セント・ピーターズバーグはもちろんフロリダのタンパベイ・レイズの本拠地だが、春先には暖かいフロリダでたくさんのチームがキャンプする。
2001年にMLBのストライクゾーンが大きく変更されるにあたっては、キャンプ中の各チームをアンパイアが手分けして訪問し、この「新しいストライクゾーン」について確認して回った。
非常に偶然だが、この記事には、2010年NLCSでさんざんアンパイアの低めのコールに文句をつけて問題を起こしてばかりいるパット・バレルが登場する。どうもフィラデルフィアの新人時代のバレルが、2001年2月にアンパイアJim McKeanからこの「新しいゾーン」について懇切丁寧に指導を受けたのが、偶然記事になっているらしい。
なにやら非常にむかつく。
パット・バレル、おまえはそもそも「ルールブック通りの新しいストライクゾーン」しか知らないはずの選手のクセに、どういう了見で低めに文句つけるんだ?と、言いたくなる。
こういう「低めも広くなった(はずの)新ゾーンしか知らないはずの選手が、低めのストライクにいちいち文句をつける」なんていう、おかしな現象が起こるのも、実は、MLBのアンパイアの中に、「この『2001年以降、新しいストライクゾーン』を徹底していこうとせず、むしろ故意にか何か知らないが『2001年以前の古いストライクゾーン』のままコールしようとしているとしか思えないアンパイア」が現実に存在しているからだと、ブログ主は思っている。(2010NLCSでアンパイアをつとめたJeff Nelsonもそのひとり。どういうわけか、サンフランシスコのゲームにはこういう「ステロイド時代風のコール」をしたがるアンパイアが多い)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。
2001年以降にストライクゾーンが大きく変更になったのは、MLBのステロイド規制に重い腰を上げたコミッショナー、バド・セリグ氏の意向によるもの。
これまでもイチローのメジャーデビューが、いかにステロイド禁止以降のMLBを象徴しているかという点については、何度も繰り返し記事にしてきた(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:MLB史におけるイチローの意義、ケン・バーンズ)。
「ステロイド時代には、アウトコースが意図的に非常に広くされ、高目はとらなかったが、イチロー時代以降、ルールブック通りのストライクゾーンに変更された」という点も、「イチロー時代のクリーンさ」をよく象徴している。
「ステロイド時代のストライクゾーン」と「イチロー時代のストライクゾーン」は、そもそも時代背景からして、まったく違う。
ステロイド時代のMLBは、ステロイド打者に「飛ぶボール」を与えるなどして、ホームランの多発を演出し、集客を高めるかわりに、投手には「投手有利な、広いストライクゾーン」を与えて、帳尻を合わせた、といわれている。
つまり、打者に有利すぎるステロイド時代には、ストライクゾーンを「横長」に拡張して、例えばアウトコースに数インチもはずれているボール球でも「ストライク」と投手有利に判定することで、「投手のストライクのとりやすさと、打者のパワーの帳尻をあわせた」わけだ。
これに対して、イチロー以降の「ステロイド禁止。飛ばないボール。スピード重視」のMLBは、ストライクゾーンを「ルールブック通りの、縦に長いストライクゾーン」に戻そうとしている。
もちろん、ケン・バーンズが「イチローはクリーン」という言葉で表わそうとしている2001年以降のベースボールは、ルールブックどおりのストライクゾーンの、揺るぎないベースボールである。
(まぁ、だからこそ、ランナーが出るとアウトコース低めのサインばかり出しているダメ捕手城島は、ステロイド時代的なストライクゾーンに毒されたキャッチャーであって、2001年以降のMLBには絶対に来るべきではなかった典型的なキャッチャーという言い方ができるわけだ)
だが、残念なことに、
「ストライクゾーンの揺らぎ」は、2001年で全て解消したわけでもなんでもない。むしろ2010年になっても、アンパイアのコールには、いまだに「古いゾーン」と「新しいゾーン」が混在している。
頑固に「古いゾーン」を使い続けているアンパイアもいれば、素直にMLBの指導方針の変更に沿って「新しいゾーン」にのりかえたアンパイアもいる、という混乱した状況では、「判定の個人差」はかえって広がってしまう。
だとすれば、かえってアンパイアの判定は、かつてないほど「個人差」に強く左右されてしまっている現状もあるだろうと、ブログ主は考える。
これは、最初に挙げた2001年の記事に添付されている、別の写真。アンパイアのJerry Layneが、当時のデトロイトの監督フィル・ガーナーをわざわざ打席に立たせて、「膝元のストライク」について講習をしている。
つまり、1996年の変更で「ボール1個分、低くなったはず」の、「低めのストライク」は、この記事が書かれた2001年のスプリング・トレーニングの時点でも、わざわざこうしてスプリング・トレーニングで忙しい監督を捕まえて講習をしてみせないといけないほど、十分に周知徹底されてはいなかった、ということ。もちろん、実際のゲームでもきちんと運用されていたとは言えない。
続きは次回。
「説明されている」と、ちょっと曖昧な、奥歯にモノがはさまった言い方をしたのには理由があって、このイラストだけ見た人は、「最近のMLBのストライクゾーンは、アウトコースが狭くなって、高目を広くした」だけで、「低めのストライクゾーンは、近年、まったく変更が加えられていないと、誤解する」のではないかと感じるからだ。
「低めは変更なし?」
そんな馬鹿な。
「低め」だって「ボール1個分」広くなっている。
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info
元記事は各チームがフロリダでスプリング・トレーニングをしている最中の2001年2月27日に書かれた。
セント・ピーターズバーグはもちろんフロリダのタンパベイ・レイズの本拠地だが、春先には暖かいフロリダでたくさんのチームがキャンプする。
2001年にMLBのストライクゾーンが大きく変更されるにあたっては、キャンプ中の各チームをアンパイアが手分けして訪問し、この「新しいストライクゾーン」について確認して回った。
非常に偶然だが、この記事には、2010年NLCSでさんざんアンパイアの低めのコールに文句をつけて問題を起こしてばかりいるパット・バレルが登場する。どうもフィラデルフィアの新人時代のバレルが、2001年2月にアンパイアJim McKeanからこの「新しいゾーン」について懇切丁寧に指導を受けたのが、偶然記事になっているらしい。
なにやら非常にむかつく。
パット・バレル、おまえはそもそも「ルールブック通りの新しいストライクゾーン」しか知らないはずの選手のクセに、どういう了見で低めに文句つけるんだ?と、言いたくなる。
こういう「低めも広くなった(はずの)新ゾーンしか知らないはずの選手が、低めのストライクにいちいち文句をつける」なんていう、おかしな現象が起こるのも、実は、MLBのアンパイアの中に、「この『2001年以降、新しいストライクゾーン』を徹底していこうとせず、むしろ故意にか何か知らないが『2001年以前の古いストライクゾーン』のままコールしようとしているとしか思えないアンパイア」が現実に存在しているからだと、ブログ主は思っている。(2010NLCSでアンパイアをつとめたJeff Nelsonもそのひとり。どういうわけか、サンフランシスコのゲームにはこういう「ステロイド時代風のコール」をしたがるアンパイアが多い)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。
2001年以降にストライクゾーンが大きく変更になったのは、MLBのステロイド規制に重い腰を上げたコミッショナー、バド・セリグ氏の意向によるもの。
これまでもイチローのメジャーデビューが、いかにステロイド禁止以降のMLBを象徴しているかという点については、何度も繰り返し記事にしてきた(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:MLB史におけるイチローの意義、ケン・バーンズ)。
「ステロイド時代には、アウトコースが意図的に非常に広くされ、高目はとらなかったが、イチロー時代以降、ルールブック通りのストライクゾーンに変更された」という点も、「イチロー時代のクリーンさ」をよく象徴している。
「ステロイド時代のストライクゾーン」と「イチロー時代のストライクゾーン」は、そもそも時代背景からして、まったく違う。
ステロイド時代のMLBは、ステロイド打者に「飛ぶボール」を与えるなどして、ホームランの多発を演出し、集客を高めるかわりに、投手には「投手有利な、広いストライクゾーン」を与えて、帳尻を合わせた、といわれている。
つまり、打者に有利すぎるステロイド時代には、ストライクゾーンを「横長」に拡張して、例えばアウトコースに数インチもはずれているボール球でも「ストライク」と投手有利に判定することで、「投手のストライクのとりやすさと、打者のパワーの帳尻をあわせた」わけだ。
これに対して、イチロー以降の「ステロイド禁止。飛ばないボール。スピード重視」のMLBは、ストライクゾーンを「ルールブック通りの、縦に長いストライクゾーン」に戻そうとしている。
もちろん、ケン・バーンズが「イチローはクリーン」という言葉で表わそうとしている2001年以降のベースボールは、ルールブックどおりのストライクゾーンの、揺るぎないベースボールである。
(まぁ、だからこそ、ランナーが出るとアウトコース低めのサインばかり出しているダメ捕手城島は、ステロイド時代的なストライクゾーンに毒されたキャッチャーであって、2001年以降のMLBには絶対に来るべきではなかった典型的なキャッチャーという言い方ができるわけだ)
だが、残念なことに、
「ストライクゾーンの揺らぎ」は、2001年で全て解消したわけでもなんでもない。むしろ2010年になっても、アンパイアのコールには、いまだに「古いゾーン」と「新しいゾーン」が混在している。
頑固に「古いゾーン」を使い続けているアンパイアもいれば、素直にMLBの指導方針の変更に沿って「新しいゾーン」にのりかえたアンパイアもいる、という混乱した状況では、「判定の個人差」はかえって広がってしまう。
だとすれば、かえってアンパイアの判定は、かつてないほど「個人差」に強く左右されてしまっている現状もあるだろうと、ブログ主は考える。
これは、最初に挙げた2001年の記事に添付されている、別の写真。アンパイアのJerry Layneが、当時のデトロイトの監督フィル・ガーナーをわざわざ打席に立たせて、「膝元のストライク」について講習をしている。
つまり、1996年の変更で「ボール1個分、低くなったはず」の、「低めのストライク」は、この記事が書かれた2001年のスプリング・トレーニングの時点でも、わざわざこうしてスプリング・トレーニングで忙しい監督を捕まえて講習をしてみせないといけないほど、十分に周知徹底されてはいなかった、ということ。もちろん、実際のゲームでもきちんと運用されていたとは言えない。
続きは次回。