November 07, 2010

このブログ記事で掲載するグラフ類はすべて、下記リンクのHardball Timesの記事内でリンク先として公開されているエクセルデータを元にしている。
Hardball Timesの記事は、それ自体、MLBのアンパイアの現状を知る上で非常に優れたものだが、記事を書く上で基礎データにしているMLBの70数人のアンパイアのストライクゾーンの数値が、エクセルデータとして一部公開され、誰でも読める状態にある。これは素晴らしい英断である。
下記のサイトにおける長年の途方もない努力に、心から敬意を表するものである。
Hardball Times: A zone of their own


Hardball Timesはもちろん、MLBの諸事情について、あるレベル以上に精通・習熟したアメリカの野球ファンが読むことを前提に作られている高度なサイトであるために、上記の記事も、70数人のアンパイアの全体傾向を分析したり、一般論を展開したりする目的では書かれていない。
この記事が目指すのは一般的な総論ではなくて、数歩進んで、個人差の大きいMLBのアンパイアの中でも特に極端な人々、つまり、「極端にゾーンの狭いアンパイア」と「極端に広いアンパイア」を具体的に抽出することに主眼がある。
そのため、記事内で示されるデータは、あらかじめ70数人のデータの中から、10数人程度に絞り込まれてしまっている。

だが、日本人の目からすると、
70数人の元データも、なんらかの形で参考にしたいところだ。

というのも、日本国内のサイトには、こうしたMLBのアンパイアの全体像を知るためのデータ供給源は全く無い。だからアンパイアに関する議論をしようにも、Hardball Timesのように、主張の基になる元データをきちんと作成し、明示した上で考察することはまず不可能だ。
そのため、日本国内でのこれまでのMLBのアンパイアに関する議論といえば、十分な資料もないままに「俺の知っているメジャーは、ああだ、こうだ」と、個人個人の思い込みと先入観にまみれ、憶測や人から聞きかじっただけの伝聞だけをもとに、むやみにお互いの主観をぶつけあうだけの形で続けられてきた哀しい経緯がある。


例えば、日本では「MLBのアンパイアのストライクゾーンは、外角が広く、低めも広い」などという話が、書籍やネット上でまことしやかに公言されているのをよく見る。

だが、70数人のアンパイアの現実のデータなどをちらっと見るだけで、そういったこれまでの定説が先入観まみれなのが、ひと目でわかる。

例えば「右打者と左打者とでは、内外のゾーンの広さがまるで違う」という点について、きちんと意識した上で、メジャーのストライクゾーンを論じているサイトをほとんど見たことがない。
(その点、故・パンチョ伊東氏などはア・リーグとナ・リーグのアンパイアのゾーンの違いについて指摘がみられるなど、MLBのアンパイアの判定がけして一枚岩ではないことを、はやくから指摘しておられた。 パンチョ伊東のメジャーリーグ通信

「MLBの外角のストライクゾーンは広い」という先入観だが、まず言えるのは、「左打者・右打者に関係なく、アウトコースのゾーンは、必ず広いものである」と断言できるほどの根拠は、データ上、見えてこない。
「左打者のアウトコースのストライクゾーンが広いアンパイアが多い」のは確かであるにしても、むしろ、約半数のアンパイアのレフト側のゾーンは、ルールブックどおりに近いか、むしろ狭いわけで、アンパイア間の個人差がかなり大きく、また、左打者と右打者とでは、おそらく判定に差が出る。

さらに、「低めのゾーンが広い」という点に至っては、必ずしも断言できないどころか、一度記事にしたように、むしろ「メジャーの低めのゾーンは、ルールブックよりも、やや狭い」というデータがみられる
参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。

アンパイア全員の共通点といえそうな点は、いまのところ左打者のインコースのストライクゾーンの狭さくらいくらいしかない。


つまり、これまでのストライクゾーンにまつわる議論は、MLBの実際のアンパイアの個人差を示すデータを(一般に公開されている、ありがたいデータも存在するのに)誰も前提にしないまま、思い込みだけで論議し、思い込みで「MLBのストライクゾーンは外に広く、低めも広い」という先入観が形成されてきた、それだけのことなのである。

だからこそ、一般的な日本人MLBファンが先入観だけでMLBのストライクゾーンを議論してきた今までの経緯からすれば、Hardball Timesの上記の記事の背景に、せっかくの70数人のMLBのアンパイアのデータが埋もれていくことは、非常にもったいない。
もっと正確にMLBのアンパイアの実像を知るデータがあれば、今後もっと正確に議論や知識を深めあっていくことができると思う。

だから、より正確なMLBの議論を定着させていく意味で、あえて上記の記事の背景にある70数人のアンパイアのデータを「目に見える形」にしてみた。なにかの参考になれば幸いである。


以下のグラフの見方

1)ライト側、レフト側という表記
アンパイア(キャッチャー)の目線から見た左右を示す。だからライト側といえば、この場合、左打者では「インコース」の意味になる。
2)Overall という数値
最初の縦長の表では、「ライト側」「レフト側」「高め」「低め」の4項目で、「ルールブック上のストライクゾーンと、そのアンパイアのゾーンとのズレの大きさ」が示されている。Overallという数値は、その4つの数値を平均化したもので、「そのアンパイアのストライクゾーンの全体としての広さ」を、イメージ的に漠然と示したもの。
3)2番目以降の4つのグラフのX軸
2番目以降の4つのグラフでは、X軸は、Overallの数値の順に、左から右にむかって70数人のデータが並んでいる。
だから、最も左に位置するのが、Overallの数値が最もマイナスのアンパイア、つまり「全体数値の平均値が最も小さく、ストライクゾーンが狭い傾向のアンパイア」であり、逆に、最も右側に位置するのが「ストライクゾーン全体が広い傾向にあるアンパイア」ということになる。

気をつけてほしいのは、
例えばOverall値が「大きい」からといって、必ずしもそれが「ストライクゾーン全体が、あらゆる方向に、馬鹿みたいに広い」という意味にはならないことだ。
Overall値の大きいアンパイアといっても、「ゾーン全体が、あらゆる方向に広い人」だけが存在するのではなく、ほかにも「ゾーンがやたらと横長な人」、逆に「やたらと縦長な人」、「高めだけ広い人」、「低めだけ広い人」、あらゆるタイプが存在するのである。Overall値よりもむしろ、非常に大きな個人差に注意が必要だ。(ゾーンが狭い場合の話も同様)


アンパイア全体のデータ


right側のストライクゾーン・データ

right側の近似曲線は横棒に近い。このことから、right側のストライクゾーンは「Overall値にほとんど左右されない」という強い特徴があることがわかる。また、大半のアンパイアのright側の数値は「ゼロ」に近い。
だから、総じて言えば、MLBの大半のアンパイアのright側は(極端すぎる一部アンパイアを除いて)ほぼ「ルールブック通り」で、いかに個人差が大きいMLBのアンパイアといえども、right側の判定方針についてだけは「ルールブック通りにすべき」という意見でほぼ一致していることがわかる。

right側のストライクゾーン・データ


left側のストライクゾーン・データ

right側とまったく逆で、left側の数値は、Overall値にほぼ比例する点に最大の特徴がある。つまり、大半のアンパイアのストライクゾーンのOverall値は、4つの数値のうち、このleft側数値との関連性が一番強く見える。
別の言い方をすれば、そのアンパイアのストライクゾーンの広さは、left側のゾーンの広さで推定することができる、というような言い方もできるかもしれない


left側のストライクゾーン・データ


top側(高め)のストライクゾーン・データ

top側の近似曲線は大きく波を打っている。つまり、高めのストライクゾーンは、必ずしもOverall値(あるいはleft側の数値)に一義的に比例しない。つまり、ストライクゾーンが馬鹿みたいに広いとか、left側の非常に広いアンパイアだからといって、必ずしもtop側、あるいはbottom側のゾーンも広いとは限らない、ということになる。
また、right側やleft側に比べて、「高低」、つまり、top側とbottom側のズレは、レンジがずっと大きく、非常に激しい個人差がある。

top側のストライクゾーン・データ


bottom側(低め)のストライクゾーン・データ

bottom側も、top側同様に、近似曲線が大きく波を打っている。つまり、低めのストライクゾーンは、必ずしもOverall値(あるいはleft側の数値)に左右されず、そのアンパイアのゾーンの広さや、left側のゾーンの広さに比例しない。また波を打っている位置のズレからわかるように、bottom側が広ければtop側も広い、とか、bottom側が狭ければtop側も狭い、とか、必ずしも決定できるわけではなく、ここでも個人差は非常に強く影響している。

bottom側のストライクゾーン・データ



ここで挙げたデータと、以下の記事で挙げた下記のグラフを照らし合わせると、MLBのアンパイアの全体の傾向と、個人差の意味が多少見えてくるはず。
総じて言えば、内外のストライクゾーンにはある種の法則性が垣間見えるが、高低のストライクゾーンは非常に大きな個人差が存在し、そのアンパイア個人の個性に依存して非常に大きく伸縮する曖昧な尺度のように思う。

ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。






Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month