March 21, 2011

プロ野球の開催問題に関して、こんなデータが出回っている。各球場での1試合あたりの消費電力である。
このデータをどう読むかだが、日本の球場の電力消費について、いくつか捻じ曲げた理解が広まっていると思う。

別にブログ主は、明らかに電力を食うドーム球場を擁護したいわけではない。だが、「野球は、ナイター照明が大量に電力を食うから、当分の間、やるべきではない」とかいう、「もっともらしくみえる」だけで、実際には何の根拠もない批判で、野球というスポーツをいわば「吊るし上げる」行為は、まるで感心しない。
こういうかなり曲がった理解をした人につられて、弱気になっている野球人も、世間にはいらっしゃるようだから、ひとこと言いたい。
ナイター照明だけをネタに野球そのものを批判できた気になるような世間やメディアは、総じて言えば、球場というものの仕組みへの理解が低く、災害に感傷的になっているか、ヒロイズムに酔っているだけの場合が多い、と思うのだ。

マツダスタジアム  4000〜5000kw/時
神宮球場      7000〜8000kw/時
千葉マリン     ナイター 16000kw/時
             デーゲーム 11000kw/時
横浜スタジアム   21000kw/時
東京ドーム      50000〜60000kw/時
             (40000kw/時というデータもある)
資料;asahi.com(朝日新聞社):東京ドーム消費電力、一般家庭の6千世帯分「対策検討」 - 東日本大震災
資料;時事ドットコム:節電難しいドーム=プロ野球


最初に指摘しておくと、
「オープンエアの球場の電力消費は、ドーム球場より小さい。悪いのはドーム球場だ」というのは、球場の現状を知らない人の思い込みであり、単なる「決め付け」だ。必ずしも正しくない。
むしろ、表現として正確なのは
ドームであれ、オープンエアであれ、消費電力の非常に大きい球場と、そうでない球場がある
球場の電力消費量は、照明だけで決まるのではない。照明、大型スクリーン、空調など、さまざまな要因から球場ごとに決まる
というのが正しいと思っている。
エネルギー効率のいい電化製品もあれば、そうでない電化製品もある。燃費のいいクルマもあれば、悪い車もある。球場も同じだ。
燃費規制はわかるとしても、「車は燃費が悪いから、車全体が当分走るのを自粛しろ」などという論理が暴論なことくらい、わからないのか。

また最近、マス・メディアは「野球1試合の開催に必要な電力は、家庭6000世帯分にあたる」などと書きたがるが、その割りには頭を使いたがらない。
野球を見に来た人は、家を出るときに、部屋の照明をつけっぱなしにし、テレビをつけっぱなしにし、エアコンをつけっぱなしにしたまま、家を出るわけではないのである。


このごろ、こんな無根拠なことを平気で言う人もいる。
「屋根がない球場であればデーゲーム(昼間の試合)はライトをつけない分だけ節電になるかもしれないが、東京ドームはもともと室内なのでデーゲームもナイターもライトをつけなくてはならない。確かに、消費電力は変わらない……
石原「ナイター野球じゃなく日中にやるべき」/ 球場「日中も消費電力は同じです」 ? ロケットニュース24(β)

一見もっともらしいが、実はあまり球場のことがわかってない人だろう。印象操作でもしたいのだろうか?
「ナイター照明」だけを根拠に野球に反対してみよう、批判しようなどと、浅はかなことをするから、人に失笑される議論になる。言っていることに正しい部分がないこともないが、基本的には最初から結論ありきで、「野球はやるな」と決め付けたいだけで議論を開始したにすぎないとしか思えない。

例えば甲子園球場のようなオープンエアの球場でも、照明以外の消費電力があまりにも大きいことで、電力消費量に問題を抱えた球場もある。また、東京ドームのように、そもそも電力消費の大きいドーム球場の節電の課題は「照明」だけにあるわけではない。
球場の使う電力の問題を「照明」だけに矮小化しては、球場の節電について十分な議論ができるわけがない。


甲子園については、こんなデータがある。誰でも手に入るネット上の資料である。
「年間計画発電量の193Mwhは、1年間のナイター照明の電力をまかなう量ですが、阪神甲子園球場の年間使用電力の約4%とのことで、ナイター以外にも結構電力を使う
甲子園球場の太陽光発電量がナイター照明の電力量を超えた 太陽光発電の徹底検討

甲子園球場はもちろんオープンエアの球場である。そのオープンエア球場で、「ナイター照明が消費する電力が、年間総消費電力のわずか約4%」だと、この資料はいうのだ。この意味がわかるだろうか?

つまり、こういうことだ。
マリンスタジアムのナイターとデーゲームの電力消費量の差が「5000kw/時」であるから推定すると、(もちろん球場ごとに違うだろうが)照明点灯に必要な電力は数千kw/時なのではないか、と思われる。
そして、千葉マリンがナイターをデーゲームにすると電力消費を3分の2に抑えることができるにもかかわらず、甲子園球場では「照明が消費する電力は、年間消費電力のわずか数%にすぎない」というのなら、甲子園での「1試合あたり」の消費電力量は、明らかに「数万kw/時の単位」と推定されることになる。
この数字は神宮や千葉マリンなど、エネルギー消費の少ないオープンエアの球場と比べて、はるかに大きい
オープンエアの甲子園の、いったいどこで、そんな大量の電力を消費する必要があるのか。理解しかねるが、少なくとも、ちょっとばかり太陽電池を設置したからといって甲子園球場をベタ褒めする必要などない、のである。(ドーム球場については、後で書く。そもそもが消費電力が大きくなりがちな構造物なのは確かだが、その原因は「照明」だけにあるわけではない)

甲子園をホームにする阪神の新井選手会会長が野球開催に及び腰だからといって、彼をあたかもヒーローのように扱いたがる人がいるが、オープンエアの甲子園球場で、なぜこんなに照明目的以外の電力を大量消費しているのか? そこを選手会でもきちんと把握し、甲子園のエネルギー効率の酷さを意識しつつ発言してもらわないと、野球開催の是非を議論するようにみせかけつつ、その実、暗にドーム球場での野球開催を批判するようなことでは困る。そういう報道や議論は、それを公平ということはできない。(ドーム球場での開催に問題がない、という意味ではない)

ちなみに、太陽光発電の採用は、甲子園だけだと思っている人もいるようだが、それも違う。なにも甲子園だけの専売特許ではない。
広島の本拠地マツダスタジアムでも、年間10万4,800kWの発電能力を持つ太陽光発電システが導入され、すでに甲子園球場と同時期の2010年春に稼動している。
そのマツダスタジアムでのナイターの消費電力は4000〜5000kw/時と非常に小さいわけで、もし仮に甲子園の1試合あたりの電力消費が「数万kw/時」だとしたら、マツダスタジアムに比べ、照明以外に使う電力消費量があまりにも大きすぎる甲子園球場は、たとえナイターをデーゲームに振り替えても大量に電力を浪費するから、一切の試合を開催すべきでないという計算になる。

ドーム球場だけを槍玉に挙げて野球開催を批判するのはお門違いである、くらいのことは理解しなければ、本当の意味で節電をベースにした野球開催の是非を議論することなど、できるわけがない。



メディアはいま、災害時にありがちな一時の正義感をふりかざしてヒロイズムに酔いたいのか何か知らないが、根の浅い正義感だけであれこれ言うのは、ある種の言葉の暴力でしかない。
こんなときだからこそ、感情や感傷に流されず、きちんと整理した話をすべきだ。

もういちど言うと、
プロ野球がゲームをやるときの電力消費の課題は、「照明」だけが問題なのではない。このことがきちんと把握されていなさ過ぎる。
球場の電力消費に大きな割合を占めるのは、「照明」以外に、「大型スクリーン」、「ドーム球場特有の空調」などいろいろあって、電力をあまり消費しない試合の開催を実現するには、それらの課題を総合的に議論すべきだし、しかも球場ごとに条件が大きく違うことを頭にいれ、スタジアムごとに課題を切り分けて考えないとダメなのだ。
ドーム球場の、それも「ナイター照明」だけを槍玉にあげて批判するだけの報道は、単なる悪意ととられてもしかたがない。


ちなみに野球のスタジアムでは、照明以外のどんな設備に電力を大量消費しているのだろう。
ひとつは、「大型スクリーン」だ。

千葉ロッテ関係者は「大型スクリーンが毎時4000〜5000キロワットを消費する」と言っている。わかりやすい。
ならば、大型スクリーンを使わずに試合すればいい、それだけのことだ。それだけで、たぶんどこの球場でも、数千kw/時を節電できることになり、試合開催にまた一歩近づける。必要なのは工夫だ。まなじり釣り上げた議論じゃない。
ロッテ、西武は開幕ナイターやらない - プロ野球ニュース : nikkansports.com


次に、「ドーム球場の空調」。

前にこのブログで、 MLBの「クッキー・カッター・スタジアム」について記事を書いたことがある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月21日、ボルチモアのカムデンヤーズは、セーフコのお手本になった「新古典主義建築のボールパーク」。80年代のクッキーカッター・スタジアムさながらの問題を抱える「日本のスタジアム」。

「クッキー・カッター・スタジアム」というのは、MLBで、1960年代中盤から80年代にかけて野球の黎明期からある古い球場の老朽化が問題になりMLBで、マーケティング上の理由もあって、ボールパーク(野球場)に「多目的スタジアム Multi-purpose stadium」、特にアメリカンフットボール用のスタジアムとの兼用化を求める時代が来て、全米各地に数多く作られたドーム球場のことだ。
東京ドームがお手本にしたミネソタ州ミネアポリスのメトロドームも、その「クッキー・カッター・スタジアム」のひとつで、総重量が340トンもある屋根を、内部の空気圧で押し上げる方式になっている。(空気圧で押し上げるエアドーム式を採用するメリットは、柱を作る必要がないために、工期が短く、建設費も安上がりにすむため)
2010年12月には、このドーム屋根が雪の重さで崩壊してしまい、屋根に積もっていた大量の雪がドーム内に落下する映像が有名になったが、エアドームは常に内圧が必要な構造だ。

メトロドームをお手本にした東京ドームも、総重量400トンもある屋根を空気圧で押し上げている。だから東京ドームは「野球のゲームがない日でも、空調を動かしてドーム内部の圧力を保ち、屋根を押し上げておく必要がある」のである。
野球開催派であれ、野球延期派であれ、「デーゲームにすれば、照明を使わないから、なんとかなる」などと、トンチンカンな議論をする人がわかっていないのは、こういう点だ。
東京ドーム関連の記事で、「東京ドームのナイターでは、試合がない日の3、4倍の電力を消費する」という記述があるが、これは、逆にいうなら、「ナイターがない日」でも、試合の日の3分の1か、4分の1、つまりナイター時には数万千kw/時の電力を消費する東京ドームの場合、試合のない日でも数千kw/時の電力を消費している、という意味だ。それは、こうしたドーム球場特有の柔構造の屋根に原因があるのである。

現在のMLBでは、さまざまな理由からこうしたエアドーム式で人工芝の「クッキー・カッター・スタジアム」が絶滅しつつあるが、ドーム式球場そのものがなくなったわけではない。
例えばシアトル・マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドは開閉式ドームだが、セーフコの屋根の構造はエアドームではなく、フィールドも人工芝ではなく天然芝だ。鉄骨による硬い構造の屋根を、レールの上を移動させて開閉する。ドームの構造も進化しているのだ。
だが、日本のスタジアムは、野球においては、いまだに人工芝エアドーム全盛であり、サッカーにおいても、陸上競技とサッカーの兼用スタジアムが大半なのであって、日本のスポーツスタジアム環境はかなり遅れたままであることは、すでに何度も指摘してある。


個人が通常の生活で消費する電力量との比較

最後に、これはブログ主の発見でもなんでもないが、ネット上での指摘を読んでうなづくものがあったので、書いておく。
「人は家にいても、電力を消費する。彼らが家庭にいて消費する電力量は、明らかに球場で野球見に来ていて消費される電力量より、大きい。」という指摘だが、ブログ主もそれに賛成したい。

あるネット上の指摘では「大人1人が、1時間に消費する電力量は、1kw強」らしい。
野球のゲームがはじまって終わるまでの約2〜3時間、そして球場への往復の2時間程度を合わせると、野球を球場で見るのには、観客1人当たり4〜5時間ほどの時間を取られている。
入場者数を2万人と仮定すると、もしも彼らが球場に来ずに家にいた場合の電力消費の総量は、1kw/時×20000人×4時間=8万kw/時、あるいは、1kw/時×20000人×5時間=10万kw/時、ということになる。入場者数1万人なら4〜5万kw/時、入場者数3万人なら12〜15万kw/時の電力が家庭で消費される。
一方、球場でナイター1試合に使う電力量は、球場によって違い、4000kw/時から60000kw/時のレンジだから、球場ごとの平均入場者数の違いを考慮すると、それぞれの球場の消費電力は、そこに来る観客が家で消費する電力量に見合うか、下回ったものになっている。
さらには、ナイトゲームがデーゲームになり、大型スクリーンを使わず、売店なども照明に配慮するなどすれば、「大多数の人にとって、野球の試合に見に来ることは、家庭で消費するはずの電力消費を、球場で消費するだけの意味だ」そう言い切れる可能性だって、計算上は出てくる。

「野球1試合の開催に必要な電力は、家庭6000世帯分にあたる」などと書きたがる人が多いが、頭は生きている間に使えとはよくいったものだ。
もういちど書こう。
野球を見に来た人は、家を出るときに照明をつけっぱなしにし、テレビをつけっぱなしにし、エアコンをつけっぱなしにしたまま、家を出るわけではない

人は、野球場以外では電気を使わない、なんてことはありえない。生きているかぎり、どこにいても、なにかしら電気を使う。それが電気で生きる現代人である。だから、節電の問題は、球場にだけ発生するわけではない。これからのライフスタイルの問題だ。
野球の開催だけを問題視する人に、ブログ主は、「そこまで反対したいのなら、夜、節電のためにまったく電気をつけずにジッとしていろ」と言えるとは思わない。そういう間違ったニセモノの道徳は、ある種の暴力だ。だが、その反面で「野球開催には絶対反対だが、自分は家で、エアコンをつけて、パソコンをしながら、冷えたビールを飲んで、テレビを見ていたい。車で近所に買い物にも行きたい」などという人とは、議論にならないし、友人にもなれない。
3万人の人間が集まった場所を一挙に照明するための1人あたりの電力が、1人の人間、あるいは家族が過ごす部屋を、暖房し、明るくし、テレビを見て泣いてみるための電力と、どれほど違うのか。同じなのか。ちょっとは考えてみた上で、発言すべきだし、記事を書くべきだと思う。

球場だけが電力を消費している悪者なわけはない。そういう、球場だけを悪者にしたヒステリックでニセモノの道徳風レトリックは、よく見れば、静かなパニックであり、自分勝手なギミックの押し付けに過ぎない。
非常時、災害時には、感傷だけでモノを言い、それを他人にもニセ道徳として押し付けようとする人が出てくる。くれぐれも流言に惑わされないことだ。


今のわれわれは、electrical creature、電気がないと生きられない生物、だ。
原発事故が提起しているのは、これからの100年をどう生きるかのライフスタイルの問題であって、チマチマした節電道徳などではない。







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