May 04, 2011

長年問題になっていながら改善されていないシアトルのチーム体質の大問題といえば、打線でいうなら、「OBP(On-base percentage)=出塁率の低さ」、これに尽きていた。 (もちろん問題は出塁率以外にも、長打力の無さなど、言い出したらきりがないくらいある。いまだに欠陥だらけの打線なのは間違いない。低すぎる長打と得点力を、四球と犠打でかろうじて補っているのが現状だ)

ダメ捕手城島も含め、ビル・バベシ時代に積極的に獲得しまくっていた右のフリースインガーたちは、ベタンコートロペスベルトレ、誰も彼も、四球を選ばず、好機で三振ばかりするような、シチュエーション・バッティングが死ぬほど苦手な打者ばかりだった。あんなパークファクターにそむいているような打者ばかり獲得していてはチームが強くなるはずもない。
だが、ここ数年のシアトルの異常な出塁率の低さをバベシだけのせいだと思っている人もいるかもしれないが、バベシの時代の選手を次々にクビにしていっているズレンシックがGMになって、守備しかできない選手ばかり獲った2010年の打撃スタッツは、バベシ時代よりずっと酷い
2010年の出塁率などは、なんと.298と、3割を切ってしまい、イチローの打率を下回ってしまったほどで、ついにはチーム歴代最低出塁率を記録した。
しかも、である。
同時にチーム歴代シーズン最多三振数(1184三振)、チーム歴代1ゲームあたりの三振数(7.31三振)と、2つもチームワースト記録を更新しているのである。
なにもバベシだけがアホウだったわけではない。 

シアトルのシーズン歴代最低出塁率
2010年 .298
1983年 .301
1980年 .308
参考)チーム最高出塁率
    1996年 .366
    2000年 .361
    2001年 .360
1996年、エドガー・マルチネスはOBP.464を記録。(彼のキャリアハイは前年95年の.479) 2000年は、Aロッド、エドガーの2人がOBP.420越えを果たし、チームは歴代最高四球数775を記録。2001年はイチロー入団、優勝。

シアトルのシーズン最多三振数
2010年 1184 グティエレス137、フィギンズ114。
1986年 1148
1997年 1110
参考)チーム最小三振数
    1981年 553
    1994年 652
    1978年 702

ちなみにエドガー・マルチネスの通算出塁率は.4178。ゆうゆう4割を越えている。
この通算出塁率4割以上(3000打席以上)というレコードは、長いMLBの歴史でもたった61人しか達成していない大記録で、しかも、歴代1位のテッド・ウィリアムス(4817)を含め大半のプレーヤーは第二次大戦前後以前の古い選手たちであり、近年のプレーヤーだけを抜き出すと、ほんのわずかしかいない。
近年の打者の中で四球数が異様に多いことで知られている典型的な待球型打者のボビー・アブレイユでさえ、通算出塁率はかろうじて.400に届いているにすぎない。
このことからして、エドガーの.4178という通算出塁率がいかに素晴らしい記録で、いかに彼が偉大なプレーヤーだったかが、あらためてよくわかる。

近年のプレーヤーのOBPランキング
(現役選手含む。カッコ内はステロイダー。
 ステロイダーに名誉は必要ない)
(1位 バリー・ボンズ .4443)
2位 アルバート・プーホールズ(現役)
3位 トッド・ヘルトン(現役)
4位 フランク・トーマス .4191
5位 エドガー・マルチネス .4178
6位 ウェイド・ボッグス .4150
(7位 マニー・ラミレス .4106)
8位 ランス・バークマン(現役)
9位 ジョー・マウアー(現役)
(10位 ジェイソン・ジオンビー(現役))


さて、
今年2011年のシアトルのバッティングはここまでどうか?

結論からいうと、残念ながら、劇的に改善されたとは、到底いえない。
SLG(長打率)は、あの最悪だった2010年すら超えて、チーム歴代最低の.334で、ア・リーグ13位だし、OPSはチーム歴代ワースト2位の.647、ア・リーグ13位と、なんとも酷いものだ。


しかしながら、あいかわらず酷い打線の2011年には、どういうわけか、ここまでア・リーグ1位をキープしている打撃スタッツがある。

それが四球である。


四球数は、ここまで116で、なんとア・リーグトップ。(2位はボストンの110、3位トロント109。最少は、ボルチモアの66)四球116個のうち、22個は、DHジャック・カストが稼ぎ出している。
また四球率 10.6%は、例年四球の多いボストンと並んでトップ。(最低はまたしてもボルチモアの7.0%)
さらにSO/BBは1.72で、これは、リーグ最高の三振率の低さを誇る非常に優れた打線をもつテキサスの1.70や、四球の多いスラッガーを常に打線に揃えているヤンキースの1.72に次いで、リーグ3位なのである。
最初に「低すぎる長打と得点力を、四球と犠打でかろうじて補っている」というのは、こういうことだ。


こうした四球数増加、待球型打線への変身の背景にあるのは、
どんな要因なのだろう。


まずひとついえるのは、シアトルの打者が、四球になるかならないかはともかく、非常にたくさんの球を投手に投げさせていることだ。
チーム別に、対戦相手の投手に何球投げさせたか、という数字を、Baseball Referenceのデータで見てみよう。
資料:2011 American League Pitches Batting - Baseball-Reference.com

ア・リーグ チーム別 総ピッチ数
1位 シアトル 4424
2位 カンザスシティ 4256
3位 デトロイト 4224
(最少 ボルチモア 3577)

ア・リーグ チーム別 Pit/PA(打席あたりピッチ数)
1位 シアトル 4.03
2位 ボストン 3.96
3位 デトロイト 3.90
(最少 ボルチモア 3577)

今年のシアトルはどうかしているんじゃないか?と思えるほど、投手に球数を投げさせていることがわかる。
打席あたりのピッチ数が4を越えたのは、この数年では2010年ボストンの4.02くらいしかなく、近年にはほとんど前例がない。ボストンは毎年このPit/PAがア・リーグ1,2を争っている典型的な待球型打線のチームなのだが、シアトルは突然そういうチームに肩を並べたことになる。



上のデータは、素晴らしいデータの充実ぶりで知られているBaseball Referenceだが、この「チーム別データ」というやつ、なかなか見ていて飽きないだけでなく、配球論の観点からも、非常に有益で重要なデータを含んでいる

たとえば、投球数全体におけるストライク率は、強いチームであろうと、弱いチームであろうと、60%から64%の一定の範囲におさまっている。
これは、MLBで配球の理想配分といわれる「ストライク2に対して、ボール1」という割合が、MLBのほとんどのチームにおいてきっちりと守られていることを示している。
どんなに素晴らしいピッチングスタッフが揃った強豪チームであれ、逆に、先発投手の貧弱さに泣いている投手力の貧弱なチームであれ、配球の上でのストライク・ボールの配分には、ほとんど大差ない、のである。

別の言い方をすると、
四球が多いとか少ないという話には、どうも、投手側のボールコントロールのファクターの影響は少ないのではないか?」という推論が成り立つかもしれない、ということだ。


これは非常に面白い。
ちょっと強引にまとめると、こういうことになる。

1) 投手の投げる球がボールになる割合、というものは、そのチームの投手力にあまり左右されることなく、どんなチームであっても一定の狭い割合の中におさまる。ストライク2に対してボール1という配球理論が、MLBではかなりきちんと守られている。
2) したがって、いくら投手力の弱いチームとの対戦だからといっても、それが理由で、ボールになる球が非常にたくさん増えて、その結果、四球数が異常に増えるとか、四球によるランナーがたくさん出せるとかいうことには、ならないことになる。

と、なると。
問題は、いったいどういうファクターが四球数を増やすのか?ということになってくる。投手側に理由がなければ、打者側に何か理由があるのだろうか。


同じBaseball Referenceから、ちょっとこういうデータを見てもらおう。
3-0、2-0、3-1という、いかにも「四球になりそうな、打者有利なカウント」の、チーム別の出現データである。

カウント 3-0の出現割合(全打席あたり)
最高 6%(NYY、CWS)
最低 3%(BAL)
リーグ平均 5%(=2010年と同じ)
シアトル 5%(=2010年と同じ)

カウント 2-0
最高 17%(NYY、CLE)
最低 11%(BAL)
リーグ平均 15%(=2010年と同じ)
シアトル 16%(2010年の14%から、やや増加)

カウント 3-1
最高 11%(CLE、SEA、LAA、TEX)
最低 7%(BAL)
リーグ平均 9%(=2010年と同じ)
シアトル 11%(2010年の9%から、やや増加)

これらのデータからいえることをまとめてみる。

1) 2011年のシアトルは、四球になりそうなカウントシチュエーションが、他のチームに比べて異常に突出して多くなっているわけではない
2) したがって、2011年のシアトルの四球数の増加や、打席あたりのピッチ数の大幅な増加は、対戦相手の投手があまりにも調子が悪いとか、あまりにもコントロールの悪い投手との対戦が多かったことなどが原因して、シアトルにだけ「四球になりそうなカウント」が増えた結果、シアトルの四球数が増加したとは言えない。
3) とはいえ、3-0のカウントシチュエーションは増えていないが、2-0、3-1は、多少だが、増えている


この表には他にもたくさんのデータがのっている。
ストライクを見逃した率、ストライクを振った率、ストライクをファールした率、初球を振った率、見逃し三振率。
これらのデータの中に、今シーズンのシアトルの四球数が急増した理由があるだろうか? つまり、「初球から振るのを止めた」とか、「見逃しの三振が減った」とか、「ファールするのがうまくなった」とか、シアトルの打者のバッティングの傾向がよほど変わったと明瞭にわかるデータが、ここにあるだろうか?

2010年と2011年の数値を比較してみる。

ストライクを見逃した率 → 変化なし
2010年 28%(リーグ平均28%)
2011年 28%(リーグ平均28%)

ストライクを振った率 → 変化なし
2010年 15%(リーグ平均14%)
2011年 15%(リーグ平均14%)

ストライクをファールした率 → 変化なし
2010年 28%(リーグ平均27%)
2011年 28%(リーグ平均27%)

初球を振った率 → 変化なし
2010年 26%(リーグ平均26%)
2011年 26%(リーグ平均26%)

見逃し三振率 → 増加
2010年 25%(リーグ平均26%)
2011年 29%(リーグ平均26%)


困ったことに、2010年と2011年のデータの間にほとんど変化が見られない。初球をスイングせずに我慢しているわけでもなく、ストライクを見逃す率が急激に改善したわけでもなく、三振をファールで逃れる率が突然上がったわけでもないらしいのだ。

困った(笑)


あらためて、四球になりやすいカウントのデータに戻って、2010年と2011年をしつこく比較してみる。

3-0でスイングした数
2010年 7(リーグ12位)
2011年 9(リーグ1位

2-0でスイングした数
2010年 348(リーグ7位)
2011年 65(リーグ5位)

3-1でスイングした数
2010年 296(リーグ7位)
2011年 78(リーグ1位


ようやく、2010年と2011年の違いのようなものが出てきた(笑)

ドン・ワカマツが監督をしていた2010年には、3-0、2-0、3-1といったシチュエーションでは、シアトルの打者はほとんどバットをスイングしなかった。
それに対し、今年2011年のシアトルの打者は、こうした「四球が生まれやすいカウント」で、リーグ1位といっていいくらい、バットを振ってくる。これが、エリック・ウェッジ監督就任以降のシアトルの打者だ。


四球を選ぶ率を高める方法、あるいは、四球をよく選ぶ打者、というと、野球をあまり見ない人であれ、よく見る人であれ、「要は、バットを他の打者より振らないから四球を多く選ぶ打者のことだろ?」とか、思われがちだ。
だが、実際には、
四球というのは、ただ漫然とバットを持ってバッターボックスの中に立っているだけで、自動的にもらえる、タダ同然の安上がりなプレゼントなどではないのだ。


結論を先に言うと、
投手が、対戦している打者のことを、『いざとなったらカウント3-1だろうと、2-0だろうと、必ずバットを振ってくる打者だ』と思うからこそ、かえって四球は増える。
逆に、『この打者はバットを振ってこない、待球してくる』とバレてしまう打者は、実は投手にとってまったく怖くない」
のである。


たとえば、待球打者の典型ボビー・アブレイユの2011年のカウント別データを見てみよう。(2011年5月2日現在)
2011 American League Pitches Batting - Baseball-Reference.com

初球を振る率 5% リーグ最小

カウント3-0の出現率 16% リーグ最多
カウント2-0の出現率 27% リーグ最多
カウント3-1の出現率 25% リーグ最多

カウント3-0でスイングした回数 0回
カウント2-0でスイングした回数 9回
カウント3-1でスイングした回数 14回(リーグ1位)

ア・リーグで最も多くの打者有利カウントを出現させる典型的待球打者ボビー・アブレイユが、「ア・リーグで最も初球を振らない打者」であり、また、「カウント3-0で、最もスイングしない打者」なのは、まぁ、誰でも想像するとおりのデータだ。

だが逆に、そのアブレイユが同時に「ア・リーグで、カウント3-1で最もスイングしてくる打者だ」という事実は、ほとんど知られていない。
今年の彼のカウント3-1以降、つまり、スタッツでいうAfter 3-1の打撃成績は、84打席で、45打数12安打39四球、打率.607(2011年5月2日現在)というのだから、なんともすさまじい。このカウントで荒稼ぎしているといっていい。
Bobby Abreu 2011 Batting Splits - Baseball-Reference.com

初球からスイングしてくる打者の多いMLBだが、選球眼が良く、四球が選べるボビー・アブレイユにとっての「稼ぎ場所」は、他人とまったく違う。
「打者有利な、遅いカウント」にこそ、彼の「稼ぎ場所」がある

だからクレバーな彼は、「もし初球が、自分がスイングしようと思わない球種やコースであるなら、無理に振って凡退するような馬鹿なことはしない」のはもちろんだが、また同時に、「カウントが、3-1、2-0のように、打者有利なカウントになっていて、投手がカウントを稼ぐために甘い球を投げてきているのに、それをスイングしないで呆然と見逃すような、馬鹿な真似はしない」のである。


ボビー・アブレイユのこうしたカウント別バッティングのスタイルは、極端なようだが、非常によく計算され、彼独自のスタイルに仕上がっている。
だが、こうした打撃コンセプトは、彼だけが実行しているわけではなく、ミネソタの待球型打者ジョー・マウアーや、シアトルのDHジャック・カストにも、ほぼそっくりそのままあてはまる。
カストが、今年のシアトルの四球数の多さを牽引している四球王であることは言うまでもない (打率がもっと上がってくるといいのだけれども 笑)。
Seattle Mariners 2011 Batting / Hitting Statistics - ESPN


アブレイユやカストは、四球を目的にバットを振るのを控えるような、無意味なことはしない。むしろ「打者有利なカウント」になれば、必ずといっていいほど、バットを強振してくる。(そしてボール球は振らない)
この「アイツ、打者有利なカウントになったら、まず間違いなくストライクをスイングしてくるぞ・・・」という恐怖感を投手に持たせることこそが、いまのシアトルや、ボビー・アブレイユの四球数、出塁率の高さの原動力のひとつになっているのだと思う。


四球が生まれる原因は、投手側の技術的理由ではないだろう。
投手がボール球ばかり投げるから、四球が増え、打者の出塁率が上がるわけではけしてない。
どんな投手であっても、そこはそれ、MLBのメジャーに上がってこれるような選手たちだ。イザとなれば打者をうちとるボールくらい、誰でも持っている。でなければ、メジャーに上がってはこれなかったはずだ。投手の技術は、本来は安定しているものだ。
投手側の理由ではなく、打者側が、ベースボールという「打者と投手との心理ゲーム」における駆け引きに勝ってこそ、投手のもともと安定している技術に「乱れ」や「迷い」を生じさせたり、投手・キャッチャー・ベンチに「打者有利なカウントでの、このバッターとの勝負だけは避けておこう」と「弱気」にさせることができてはじめて、打者は投手との勝負を優勢に持ち込むことができ、出塁率が上がる。

逆説的なようだが、単純な話で、バットを持って打席に立っているだけで四球は生まれきたりしない。
もちろん、バベシ時代のシアトルのように、ただただ、何も考えずに早いカウントからやみくもにバットを振るとか、逆に、守備型の選手ばかりを揃えて、スイングするのを無理に控えさせて消極的になるだけでは、どちらも結局、出塁にはつながらない。


極端な言い方をすれば、
スイングするから四球になる
弱気になったら、負ける。
技術もないのに強気なのは、馬鹿だ。
技術があるのに弱気なプレーヤーは、もったいない。
技術かあるなら自信を持つべきだ。


野球はやっぱり、本当に面白い。








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