May 31, 2011

ここに四角い箱がある。と、する。

箱

箱の中に、空気の十分たくさん入った、2つの風船を詰めると、風船は押し合って一定の形に収まる。(画像では便宜上めんどくさいので2つの風船を同じような形に描いているが、同じ形になるとは限らない)

箱に詰められた2つの風船

次に、2つの風船の入った箱の中に、もうひとつ、の風船を加え、詰める風船の数を3つに増やしてみる。
3つの風船同士は押し合って一定の形に収まるが、最初に詰めた、2つの風船の形は、さっきとは異なる形になる。
この「同じ風船でも、他の風船との兼ね合いで、形が変わる」ところが面白い。

箱に詰められた3つの風船

このたとえ話は、もともとフランス系の言語学者丸山圭三郎さんという人が言語という軟体動物の「意味」の不思議な変容ぶりについて話したことをもとにしているのだが、野球というゲームにも、なかなか面白い示唆を含んでいると思う。


四角い箱が、野球チームのスタメン枠
風船が、選手。風船の「色」が、その選手単体の個性。風船の「形」や「大きさ」が、役割や期待度だ、とする。

四角い箱に「どういう色の風船を詰めるか」によって、そのチームの「全体的なカラー」は決まってくる。
たとえばホームランバッターを赤い風船だとして、箱に赤い風船だけを9個詰めこむようなことをすると、その箱は赤い風船だけが入った真っ赤な箱になる。また、俊足のアベレージバッターが青い風船だとして、箱に青い風船だけを9個詰め込むと、その箱は真っ青な箱になる。


だが、たいていは、ひとつの色だけではなくて、さまざまなカラーの風船を、適度なバラつきをもつように混ぜ合わせて、箱の中身、そのチームのスタメンを決める。つまり、野球チームには(そして、バンドや企業でも)さまざまな役割をもった人間のバリエーションが不可欠だということだ。

このことは、実例を考えればわかりやすい。ホームランの打てるバッターの並んだヤンキースを考えればわかる。
とても大量のホームランなど打ちそうもなかったカーティス・グランダーソンが突然ホームランバッターに変身したのは、彼にもともとボールを飛ばす才能があった、ということもあるだろうが、意味論的にいうと、「自分の周りに真っ赤な風船(=ホームランバッター)ばかりがいる状態に置かれた青い風船は、やがて時間がたつと影響されて、色が赤くなる」という部分も見逃せないとも思う。
それはオカルトではなく、意味論の世界だ。



もう一度、風船の話に戻る。


本当に重要なのは、ここだ。箱に詰め込まれる風船の立場からみると、箱に新しく風船が詰め込まれるたび、風船の「形」が変わってくること。
それぞれの風船の色(=個性)は同じでも、風船の「形」(役割やパフォーマンス)は変わる。

たとえば、シアトル・マリナーズ。
箱(=チーム)に、非常に強い個性をもつ典型的リードオフマンのイチローという巨大な青い風船(=選手)がいるところに、後から、同じ青い色の風船ショーン・フィギンズが詰め込まれた。
この場合、イチローという風船、フィギンズという風船に、どういう事態が起こると予測されるだろう?


ちょっとわかりにくくなった。
ちょっと、たとえ話で考えてみる。

ある野球チームが、シーズン30本のホームランを打てるスラッガーを9人揃えたとすると、そのチームは、シーズンに「30×9=270本」の大量のホームランを打てる、あるいは、バッター同士がお互いの相乗効果で、270本どころか、300本以上のホームランを打てるようになるものだろうか?

野球というスポーツのこれまでの歴史は、上のクエスチョンの答えが明らかに「 NO 」であることを教えてくれている。むしろ、そのチームのホームラン数は、「270本以下」になってしまい、コストパフォーマンスが悪い結果になることがほとんどだろう。

つまり、いいたいことはこうだ。
「同じ色の風船がひとつの箱に詰め込まれた場合、それぞれの能力が多少そがれて、完全には能力が発揮されなくなることがほとんどだ」ということ。言い方を変えると、同じ色の風船を詰め込みすぎると、その色の風船はほぼ必ず「脆弱」になる。


なぜそうなるのか。
正直、理由はよくはわからない。生物の集団にはとかく謎は多いものだ。
風船同士の干渉によるのか。同じ色の風船同士は、押し合いへし合いすることで、目に見えないストレスがかかって、お互いのパフォーマンスが下がるものなのか。
この謎はなかなか興味深い。

だが、バンド。企業。動物の種の進化。インターネット。組織と名のつくものほとんど全てに、この原則はあてはまるように思う。
たとえばローリング・ストーンズに、キース・リチャーズと同じ弾き方をするギタリストは2人いらない。ほとんどの場合、企業に社長は2人必要ない。むしろ社長が2人もいたら、やりにくくてしょうがない。
南米チリの鉱山に閉じ込められた数十人の人々だって、もしも指導者が何人もいたら、全員が死んでいたかもしれない。

中心というものを必要としないクラウド・コンピューティングや、ストライカーを必要としないノートップのサッカーなど、新しい思考方法に基づくオーガニゼーションもあるにはあるが、そういうものが人間というやっかいな動物が常に縛られている意味論や組織論を、まったく超越し、解決しているかというと、そんなことはまるでない。
人間という生物の組織は、やはりシンプルな意味論を超えていけないようにできているのである。


野球の守備は9人で同時に行う。だから「守備はチームプレイ」だが、攻撃であるバッティングは、打席に2人の選手が一緒に入ることはない以上、「打撃は守備よりはずっとパーソナルなもの。個人的な行為」と、思われがちな部分があるが、実際には意味論的にも、そんなことは全くない。
長くなるので端折るが、打順の違う打者同士は、たとえお互いの打順が、1番と6番とか、大きく離れている場合でも、相互にまったく無関係なわけではなくて、むしろ、密接に関係しながら存在している。意味論的には、そうだ。一匹のサルが芋を洗って食べるようになると、遠く離れた場所のサルが芋を洗って食べるようになったりもする。

野球チームという箱に詰まった9つの風船は、お互いに非常に強く意味論的に影響しあいながら、ひとつの組織体を構成している。
「誰かが膨らめば、誰かが縮む。」
そんなことがありうる。


わざと結論を先延ばしにしてみたが(笑)
言いたいことはこうだ。

イチローとフィギンズを2人並べたからといって、2人あわせて400本ものヒットが打てるようになるわけではない。スポーツの技術論、組織論ではなく、人間のかかえる意味論から、そう思う。
この2人の選手は、色は同じでも、才能やチームへの影響力の強さに大きな差がある。片方の風船は常に劣勢に立たされ、押され、しぼんでいく。それが、「人間のつくる組織というもののもつ独特の意味論の世界」なのだ。


だから、ズレンシックは、フィギンズの今後のことも考えて、彼をシアトルから放出し、彼が「ひとり」でのびのびできるチームでプレーできるようにしてやるべきだ。







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