June 20, 2011

これはもう、野球というより、現代アート。ヴィンチェンゾ・ナタリ監督のカナダ映画「CUBEを見ているかのような、コンテンポラリーアート感覚のピッチングだ。

CUBEのポスター


何度も書いてきているように、チェンジアップだけを武器にして打者と対戦していた頃とまったく違い、今のジェイソン・バルガスは、ファストボールカットボールチェンジアップ、この3つの球種の絶妙な「トライアングル・ローテーション」からピッチングを構成することで、打者を翻弄することができるようになった。

フィラデルフィアのいまの打線の核は、いざというときにあまり打たないライアン・ハワードでも、今シーズン不調のチェイス・アトリーでもなくて、あきらかに2番シェイン・ビクトリーノなのだが、このビクトリーノをバルガスが丁寧に料理したのが完封につながった。大事なことなのでメモをとっておこう。

第1打席 ストレート中心
チェンジアップ(ボール)
ストレート(見逃しストライク)
カットボール(ファウル)
ストレート(ボール)
カットボール 三振

第2打席 チェンジアップ中心
チェンジアップ(ボール)
チェンジアップ サードファウルフライ

第3打席 たった1球投げたカーブ
カットボール(見逃しストライク)
カーブ ショートポップフライ

第4打席 カットボール中心
カットボール(見逃しストライク)
チェンジアップ(ファウル)
カットボール(ボール)
ストレート センターフライ

4つの打席をこんどは球種別に見てみる。
投げた球種は4つだ。

チェンジアップ(4球)
   ボール、ボール、サードファウルフライ、ファウル
カットボール(4球)
   ファウル、三振、見逃しストライク、ボール
ストレート(3球)
   見逃しストライク、ボール、センターフライ
カーブ(1球)
   ショートポップフライ

実に美しい。
使った4つの球種、その全てで、
 ひとつずつアウトにうちとっている
」。


バルガスがいかにビクトリーノに的を絞らせなかったか、
細かい説明など不要だろう。


ビクトリーノに対して「使った4つの球種すべてで凡退させた」だけでなく、各打席の初球に使った球種の「微妙な」バラつき感、各打席のピッチングの中心球種のバラつき感。
どこを見ても、バルガスのピッチングは常に、極端すぎない程度の 『ゆるい意外性の感覚』 に満ちていて、まるで墨に水をかけて曖昧に暈す(ぼかす)かのように、 『法則性の出現』 を非常に上手く消している

球種を6つとか7つとか、数多く使えば使うほど的を絞らせないですむか、というと、そうでもない。それぞれの球種のレベルが低くては意味がないし、たくさんの球種を持っている投手に限って、フォークとか、本当の勝負球種はひとつだけしかなかったりするのも、人間という動物の不思議なところだ。
また、投球ごとに必ずコースも球種も変える、というような「極端すぎるバラつき」も、実は意外性は無い。かえって法則性がにじみ出てしまう。

適度に同じで、適度に違う。いつ変わるのか、わからない。
そういう「曖昧さ」こそが、「中心」というものを消滅させる。


そう。これは
中心の無い三角形が自由にローテーションする
中心の無い世界」。
トライアングル・ローテーション」(©damejima)だ。

Rotation of a triangle








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