July 01, 2011

野球選手の数字、というのは、ちょっとした数字のマジックみたいなところがある。


たとえば、防御率3.00のエリック・ベダードと、防御率3.35のフェリックス・ヘルナンデス。試合を見ないで、「防御率」しか見ないようなおかしな人にしてみると、この2人が似たような投手に見えてしまうだろう。

だが、防御率というのは、9イニングでの自責点数に換算している数字であることに注意しなければならない。
防御率3.00で6回しか投げられない球数の多い今シーズンのベダードの失点は、だいたい「2点」。対して、防御率3.35で毎試合7回程度を投げるフェリックス・ヘルナンデスの失点は、ほぼ「3点」に近くなる。
2011 MLB Baseball Pitching Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPNa>


打線が貧弱で、1試合あたり3点ちょっとの得点しか期待できないなシアトルの野球においては、先発投手の失点が「6イニング2失点」なのか、それとも「7イニング3失点」なのかで、勝ちゲームなのか負けゲームなのか、終盤のゲーム展開やブルペンの使い方など、ゲームの様相がまったく違ってしまう
「6イニング2失点」なら勝ちゲームのリリーフを注ぎ込んで勝ちを拾いにいくゲームになる可能性があるが、「7イニング3失点」だと、もしかすると同点か負けている可能性がある。
なぜ、試合終盤の野手のエラーが致命傷になってしまうのか。なぜリリーフ投手のわずかな気のゆるみが、これほどダメージが大きいのか。なぜクローザーにかかる負担がこれほど大きく、簡単に負けてしまうのか。
数字を並べてみると、よくわかると思う。

ベダードとヘルナンデスの、どちらが優れたイニングイーターか? といえば、当然、ヘルナンデスがベダードを圧倒するに決まっている。
だが、実際のゲームでは、打線の貧弱すぎるシアトルが得意とする投手戦のクロスゲームに持ち込んでギリギリの勝ちを拾うという目的においては、単にイニングイーターであるというだけでは、試合に勝てないのだ。
本来、ヘルナンデスだけに責任があるのではなく、打線に責任があるのだが、今シーズンのレベルのヘルナンデスに好きなようにピッチングさせているだけでは、チームの勝率は5割を越えることはできない。これも事実だ。


シアトルの勝ち負けを決めているのは、常に「ほんのわずかな差」だ。
「ほんのわずかなこと」が、実はシアトルの先発投手の「評価」や、ブルペンの使い方、代打や代走などゲーム終盤の野手の使い方を「大きく間違えるポイント」になっている。
例えば、ナショナルズとの3連戦などは、監督エリック・ウェッジが「自分たちが、なぜ勝ち、なぜ負けているのかというゲームパターン」を把握しないままゲームを進めているために、スタメン、代打、代走、守備交代など、野手の適切な選択を間違えまくって、スイープされた。

シアトルで大事な「ほんのわずかな差」とは何だろう?
簡単な数字で示しつつ、2011年上半期のシアトル先発投手たちについて通知表をつけてみる。



エリック・ベダード
ERA 3.00
QS率 0.60
Erik Bedard Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
隠れエース。
6月30日時点では、アトランタ戦で怪我をした2人のキャッチャーを補充しなければならず、40人枠を開けるためにDL入りしてしまったが、エリック・ベダードの防御率は、3.00。これはア・リーグ12位で、これはCCサバシアや、CJウィルソンよりいい。素晴らしい数字だ。
15登板で90イニングだから、1試合あたりちょうど6イニング投げている。「6イニング投げて、2失点で降板」というのが、ベダードの標準的な登板だ。

だが、最近の彼はもっと素晴らしい。
5月6月は、10登板して、自責点16。1回の登板あたり、わずか1.60しか失点していない。特に5月の月間ERAは5登板、1.39で、本当に素晴らしい数字を残した。

チームがすべき仕事は、「イニングは食えないが、防御率がいいエリック・ベダード」に、勝ちをつけてやるには、どうしたらいいか、この設問に解決策を見つけてやることだ。相手投手にあわせて野手を組み替えまくっているだけでは無意味だ。
投手ごとこういう課題にひとつひとつ丁寧に解決策を見つけて、チームの「仕入れたモノを、同じ金額で売るような、無意味な自転車操業体質」を直していくことこそが、最近ブログ主が力説している「シアトルの監督、GMの、やるべき工夫であり、仕事」だ。
イニングが食えないが、防御率は素晴らしいベダードに、「4点以上の得点」あるいは、優秀なセットアッパーの援助さえあれば、彼の登板日に勝ちを拾える可能性は常にある。もったいなさすぎる。

シアトルの「1試合あたり3点ちょっと」という貧しい得点力を考えると、ベダードが6イニング2失点で降板した後の「残り3イニング」を、3人、あるいは2人の投手が「1失点以内」で乗り切ればいい。それが実現できたゲームは、シアトルの3得点に対して、対戦相手の得点は2から3で、勝てるか、同点であることになる。
非常にあやうい話だが、シアトルの勝ちパターンは「投手戦のクロスゲーム」なのだから、しかたがない。


フェリックス・ヘルナンデス
ERA 3.35
QS率 0.67
Felix Hernandez Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
今シーズンのヘルナンデスのピッチングは、あきらかにエースのそれではない。今の彼はむしろ「中堅のイニング・イーター」である。去年までの活躍で他チームのスカウティングが進んだことで、手の内を相手バッターにかなり読まれている。
今シーズンは18登板で129イニングを投げている。1登板あたり、7.17イニング。防御率から7イニングあたりの失点を求めると、だいたい2.60という計算になる。
特に、5月6月の12登板は、自責点33。1登板あたり2.75失点で、ほぼ常に「3失点は覚悟しなけばならない」という結果になっている。6月の6登板だけ見ても、自責点は18。やはり「1登板あたり、常に3失点」という結果は、6月になっても変わっていない。

イニングが食えるが、ほぼ3失点するフェリックス・ヘルナンデス」に勝ちをつけてやるには、どうしたらいいか。
シアトルの「1試合あたり3点ちょっと」という貧しい得点力を考えると、ゲーム終盤2イニングを、セットアッパー1人とクローザーが、「必ず無失点」で乗り切らなくてはならない。これは結構きつい。
もちろん、3失点がお約束という今の状態のヘルナンデスを勝たせるには、
打線が毎試合4得点すればいいわけだが、残念なことに、今のシアトルでは、彼に4得点を約束する能力がない。
だから、ヘルナンデスが降板する7回の時点で、もし相手チームにリードを許している状況のゲームでは、試合終盤に1点か2点失うことで、ほぼチームの負けが決定してしまう。
いまヘルナンデスに必要なのは、彼の足りない部分を補ってくれる「冷静な智恵袋」だが、ヘルナンデス自身の自分の能力への過信からチームは「智恵袋の」ロブ・ジョンソンを手放ししてしまっているし、また、ミゲル・オリーボのリード能力はロブ・ジョンソンほどは高くない。オリーボは、「打者を追い込むところまでは構成できるキャッチャー」だが、「うちとるところまで、全てを構成できるキャッチャー」ではない。バッターにファウルで粘られて手詰まりになると、同じような配球に終始する。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (2)「ストレートを投げる恐怖感」と「アウトコースの変化球への逃げ」が修正できないヘルナンデスの弱さ。


ここまで書いたことで、シアトルの貧弱な打線を前提に考えると、チームがそれぞれのゲームに勝つ可能性は、「6イニング2失点のベダードは、7イニング3失点のヘルナンデスより勝てない」とは、必ずしも言い切れないことがわかってもらえるはずだ。
この失点の2とか3とかいう細かい話をベースに、残り3人の先発投手を評価してみよう。


マイケル・ピネダ
ERA 2.65
QS率 0.75
Michael Pineda Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
相手チームに手の内を読まれ始めるまではエース格と言えた。
16登板で、102イニング、33失点。1登板あたりでは、6.38イニング、2.06失点だ。「6回か7回を投げて、ほぼ2失点で終えてくれるピネダ」は、だいたい好調時のエリック・ベダードと同じことがいえる。これは、逆にいうと、「最近好調だったエリック・ベダードは、開幕当初のピネダに匹敵する快投ぶりだ」という意味でもある。
6回か7回を投げて、ほぼ2失点で降板するピネダ」を勝たせてやるには、ベダードと同じで、ピネダが2失点で降板した後の「残り3イニング または 2イニング」を、3人、あるいは2人の投手が「無失点」で乗り切ることで、かなりのパーセンテージで勝てるのは間違いない。
だが、たとえ1失点でもすると「延長戦」になってしまう可能性を考えなくてはならないので、リリーフ投手の責任はかなり重く、ブルペン投手の疲労はどうしても深くなる。
開幕当初とは違い、相手チームはピネダの投球パターンを厳しくチェックしてきているわけだが、それに対してピネダは、チェンジアップを持ち球に加えることで「壁」を乗り越えようとしている。
若いが、ピッチングに対する情熱のある投手である。


ジェイソン・バルガス
ERA 3.88
QS率 0.56
Jason Vargas Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
いわば精密機械のような天才肌の投手。
3ヶ月でみると、16登板で、104.1イニング、45失点と冴えない。だが、ようやく相性の悪いジメネスから解放された最近の10登板は、69.2イニング 24失点。1登板あたりでは、6.92イニング、2.40失点と、輝いている。イニング数でみても、ヘルナンデスにも負けていない。かなりしっかりしてきている。

要は、バルガスという投手は、他の投手と基準が違うのだ。数字だけで追いかけてはいけない天才ぶりがいつも垣間見える。
好調時と、打たれるときの差が激しい。調子がいいと、完封ベースで投げることさえできる。これは、彼が気分屋だからではなく、何度も書いているように、球審、キャッチャーとの相性の問題だ。相性が悪いと、3から5イニングで、5点前後失点し、簡単に降板してしまうこともある
要は、バルガスは、ピッチングが「精密すぎる」のだ。

とにかく「精密機械のバルガス」の場合、単に気持ち良く投げさせることだけに気をつかうだけで、びっくりするくらいいいピッチングをしてくれる。むしろ、これほどわかりやすいピッチャーはいないだろう。
彼の実力を低く勘違いしている人が多いが、最低でも「月間5登板で3勝2敗」という計算の成り立つ、シュアな先発投手だと思う。
チームが彼に「月間6登板、4勝2敗」を、1シーズン2度くらい実現させたいと思うのなら、チームがバルガスに、キロスやジメネスのようなおかしなキャッチャーをあてがうのを絶対に止めるべきだ。、


ダグ・フィスター
ERA 3.18
QS率 0.56
Doug Fister Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
成長して、一皮剥けたダグ・フィスター」。
単なる5番手投手だと思っている人もいまだに少なくないが、それはまったくの間違い。どこを見ているのだ、と、言いたい。バルガスと同様に、本当に勘違いした人が多い。
16登板で、110.1イニング、自責点39。1登板あたりでみると、6.88イニング、244失点。
防御率3.18は、ア・リーグ17位。オークランドのトレバー・ケイヒルと肩をならべ、テキサスの期待の若手ザック・ブリットンや、あの「ちっこい球場」で打線の援護をもらいまくって10勝もあげているジョン・レスター、完全男マーク・バーリー、タンパベイの好投手デビッド・プライスより、ぜんぜんいい数字だ。

打線の貧弱なシアトルの先発投手というものは、平均投球イニングと自責点が、「6回2失点」なのか、「7回3失点」なのかで、まったく違ってくる、ということを長々と書いているわけだが、今シーズンのフィスターは「ほぼ毎試合7イニング投げられる、堂々たる若手投手」である。これは言うまでもなく、絶賛に値する。
フィスターの欠点は、WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)が良くないことでわかるように、ランナーを簡単に出してしまうことであり、この悪いクセはまだまだ直っていないのは確かだが、一方では、彼なりのピッチングスタイルが固まりつつあり、ランナーを出した後に粘り強く投げ、ピンチを切り抜けていける手腕がだんだん身についてきている。

「7回を粘り強く投げられる実力の備わってきた若い投手」に勝ちをつけてやる手段など、グダグダ書く必要などない。チームがもっと細かい野球でもなんでも、やれることをやり、十分な点をとってやるだけのことだ。
そんなことも思い浮かばないような監督やGMなら、さっさとクビにしたほうがマシだ。


1登板あたりの投球イニング数
フェリックス・ヘルナンデス 7.17
(5月6月のバルガス 6.92)
ダグ・フィスター 6.88
バルガス 6.51
ピネダ 6.38
ベダード 6.00

1登板あたりの自責点
ベダード    2.00
ピネダ     2.26
(5月6月のバルガス 2.40)
フィスター   244
ヘルナンデス 2.60
バルガス    2.81

7イニング換算の自責点
ピネダ     2.06
ベダード    2.33
(6月のピネダ 2.38)
(5月6月のバルガス 2.43)
フィスター   248
ヘルナンデス 2.75
バルガス    3.03


最後に挙げたいくつかの数字は、シアトルの先発投手にとって、いかに「率」ではなく、グロスの失点数が少ないままマウンドを降りることが大事か、ということを表現したいために挙げてみた。
けしてヘルナンデスがア・リーグで成績の悪いほうに属する投手だ、などと、わけのわからないことを言うつもりではない。

だが、6回か7回、2失点くらいでマウンドを降りるヘルナンデス以外の4人の投手が、長く投げてはくれるものの、ほぼ毎試合3失点しているヘルナンデスより劣っているとでも勘違いして、「キング」だの、「キングスコート」だのと、もてはやしているような、お粗末でショボい野球意識では、いつまでたっても、「このチームが、貧打なりに勝ち続けていくための方法論」に辿り着けない、ということを言いたいのである。






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