July 07, 2011

MLBにはたくさんの不文律(unspoken rule, unwritten rule, "Baseball Code")が存在するが、ヤンキース対ボストン戦のいつもながらの試合展開の遅さにクレームをつけたアンパイア、ジョー・ウエストに対して、"Go Home"と口汚く罵倒したボストンのジョナサン・パペルボンではないけれど、「不文律」を破る例もまた、数多く存在する。
2011年7月5日、ゲームの進行が遅いとクレームをつけた最年長ベテランアンパイア、ジョー・ウエストに、ジョナサン・パペルボンが放った"Go Home"の一言。 | Damejima's HARDBALL

不文律は本当に存在するのか、しないのか。

この結論の出にくい疑問をあれこれ考え続ける人もいてもいいのだが、たぶんそれだけで一生が終わってしまう。それはさすがにもったいない。
それよりも、「自分の中で、これは不文律であり、絶対にゆずれない」と思うタブーを犯す人間が出てきたときに全力で怒りまくること、それと同時に、もし自分がタブーを破ったことがわかっても「絶対に簡単に謝ったりしないこと」、この両方のルールを同時に存在させることが、ある意味でアメリカはじめ欧米における「不文律」だ、ということが理解でき、自分でも実行できることのほうが大事だ(笑)
なんともややこしい話だ。


「相手投手のマウンドを横切った」アレックス・ロドリゲス
2010年4月22日
OAK vs NYY 6回表 スコア3対2
New York Yankees at Oakland Athletics - April 22, 2010 | MLB.com Gameday
1死ランナー無しの場面で、ヤンキースの4番Aロッドが、オークランド先発ダラス・ブレイデンからシングルヒット。次打者5番ロビンソン・カノーは、2球目のシンカーをレフト線へ長打性のファウルを打った。このとき、ランナーのAロッドは既にサードを回っていた。
ファウルだから、Aロッドはもちろんファーストベースに戻るわけだが、このときAロッドがサードからピッチャーズ・マウンドを横切ってファーストに帰ったことから、問題が起きた。
ブレイデンは、その次の3球目ストレートでカノーをファーストゴロに仕留め、ブレイデン自身でファーストにベースカバーに入ってダブルプレーを成立させ、イニングをリードしたまま終えることに成功したのだが、彼は既に「Aロッドに自分のマウンドを横切られたこと」で相当に激高していて、セカンドでアウトになり三塁側ダグアウト方向に戻りかけているAロッドとニアミス状態になったとき、声を荒げて“Get off my mound!” 「俺のマウンドだっ! 失せやがれっ!」と、怒鳴り散らした。
ブレイデンは1塁側ダグアウトに戻ったときも、ベンチに自分のグラブを叩きつけ、目の前にあるモノ全てを蹴りまくって、怒りを爆発させ続けた。(なお、この事件の起きた日付を日本のWikiは4月29日としているが、正しくは4月22日)



MLB公式サイト記事:A's Braden exchanges words with A-Rod | MLB.com: News

MLB公式サイト記事:Unwritten rules reflect baseball's protocol | MLB.com: News


この「Aロッド マウンド侵入事件」について、日本のWikiのような国内にある資料だけを読むことしかしないでいると、あたかも「不文律を厳格に遵守するMLBでは、この件については関係者全員が『Aロッドが絶対的な悪者』と考えている」かのように思ってしまうかもしれない。

だが、それは間違いだ。
この件についての判断は、さまざまな立場の意見が入り乱れて存在していて、必ずしも「AロッドはMLBの絶対的タブーを犯した! 罰するべき!」なんていう空気にはならなかった。

例えばNBC Sportsの以下の記事では、90年代に2度のワールドシリーズ優勝を経験し 239勝を挙げた左腕David Wellsの「まったくもってブレイデンが正しい」との意見を紹介する一方で、南カリフォルニア大学で1998年にカレッジ・ワールドシリーズに優勝し、ヒューストンでプレーした三塁手Morgan Ensbergの「ホームベースをカバーした投手がマウンドに戻るとき、『打席の中を絶対に踏むな』とは言われないだろ? ランナーはマウンドに絶対に入るなって話のほうがおかしいよ」という意見も紹介している。
(ちなみに、Morgan Ensbergは引退間際にほんのちょっとだけヤンキースでプレーして引退したというキャリアの選手だから、その「身贔屓な部分」を差し引いて考えないと判断を間違える)
A code to play by: Baseball's unwritten rules - Baseball- NBC Sports
この記事では、他に、ロブ・ジョンソントロイ・トゥロウィツキーライアン・ブラウンマット・ホリデーなどの意見を掲載しているが、彼らは現役選手だけに、けして歯切れのいい意見は聞こえてこない。トロイ・トゥロウィツキーなどは「まぁ、よくわからんけど、冷静にプレーすりゃいいんじゃないの?」などと、当たりさわりの無いことを言って、きわどい質問をかわしている。

だが、実際のゲームで「自分の思っているアンリトゥン・ルールを誰かに破られたとき」に、トゥロウィツキーが激高して殴りかかってこない保障はどこにもないのが、MLBである(笑)


もうひとつ例を挙げておこう。


「5点リードした8回に2連続盗塁した」カルロス・ゴメス
2011年4月9日
CHC vs MIL 8回裏 スコア0対5
Chicago Cubs at Milwaukee Brewers - April 9, 2011 | MLB.com Classic
5点リードで8回裏を迎えたミルウォーキーは、1死走者なしでマーク・コッツェイが四球を選び、代走として、1985年生まれの俊足の外野手カルロス・ゴメスを送った。
Carlos Gomez Statistics and History - Baseball-Reference.com
次打者ウィル・ニーブスの打席で、問題は起きた。
1塁ランナー、カルロス・ゴメスが二盗、三盗を決めたのである。これは明らかに「大量リードの終盤には、盗塁してはいけない」という不文律に反している。

おまけに、この2盗塁は、ただの盗塁ではない。
ゴメスは、1死1塁のニーブスの打席中に盗塁してセカンドに行っただけでなく、打者ニーブスが四球で歩いた瞬間に、2アウト・フルカウントの自動スタート状態でもないのにスタートを切って三盗まで実行し、1死1、3塁にしているのだ。これはさすがに、えげつない。
その後四球と三振で二死満塁になり、2番ナイジェル・モーガンが押し出し四球を選んだことで、三塁走者カルロス・ゴメスは生還を果たし、6-0。このスコアのままゲームは終わった。
動画(MLB公式):Baseball's wnwritten rules apparently open to interpretation | brewers.com: News


と、まぁ、ここまで書くと、よくある若い選手の不文律破りのエピソードのひとつに聞こえるかもしれないが、実はそうでもない。もう少し書く。

この「カルロス・ゴメスの5点差での2連続盗塁」について、彼を代走に出したミルウォーキーの監督Ron Roenickeは、こういう趣旨の発言をした。
20年前じゃあるまいし、5点差なんて、いまどきセフティ・リードとは言えない。満塁ホームランを打たれれば、すぐに追いつかれちまう。だから5点差で盗塁したって、問題ない
Ron Roenickeは、「不文律だって時代とともに変わるのさ」というロジックで、「8回5点リードでの2連続盗塁」を肯定したのである。
"Today's game is not 20 years ago. You can get five runs in one inning. ... People used to say you're not supposed to run in the seventh, eighth or ninth when you're up by more than a grand slam. That is completely out of this game today. It's not even close.
Brewers Late Baserunning Renews Questions About How Much is Too Much | The Baseball Codes



「11点差の場面で故意に2盗塁して乱闘を引き起こした」ナショナルズ時代のナイジェル・モーガン
2011年4月9日に、「不文律を破って2盗塁したカルロス・ゴメス」を生還させる四球を選んだミルウォーキーの外野手ナイジェル・モーガンについても書こう。
彼は今はミルウォーキーだが、前年2010年にはワシントン・ナショナルズの選手で、彼自身2010年9月1日、14-3の大差でリードされている4回表に、故意に2盗塁を決めて、その結果、6人が退場する乱闘騒ぎのトリガーを引いた。
要は血の気の多いモーガンは「不文律」を故意に破ることで「喧嘩のネタ」にしたわけで、これは不文律の悪用だ。
Washington Nationals at Florida Marlins - September 1, 2010 | MLB.com Wrap

2010年8月30日から、ナショナルズは、フロリダ・マーリンズ戦を迎えたのだが、外野手ナイジェル・モーガンが、マーリンズのキャッチャー、ブレット・ヘイズにタックルし、左肩を脱臼させた。



そして翌日。9月1日。
ナショナルズは、3回には既に3-14の大量リードを奪われていたが、4回表、マーリンズ先発クリス・ヴォルスタッドが、ナイジェル・モーガンにデッドボールを与えた。これは前日のゲームでキャッチャーの肩を脱臼させられたマーリンズ側のモーガンに対する「報復死球」とみられた。
ぶつけられたモーガンは、二盗、三盗を立て続けに決めた。もちろん「大量点差のゲームでは盗塁はしない」という「不文律」を故意に破ったわけで、モーガンの「報復死球への、報復盗塁」というわけだ。

ここまでされたらマーリンズも黙ってはいない。
6回に再び、モーガンが打席に立つと、マーリンズ先発ヴォルスタッドは再びモーガンの背中を通過する危険球を投げた。つまり、「報復死球への、報復盗塁への、報復」というわけだ。血相を変えたモーガンは一気にマウンドに駆け上がっていき、投手ヴォルスタッドをぶん殴り、あっという間に大乱闘に発展し、4人の退場者が出た。
この乱闘中、モーガンを地面に押さえつけたのは、マーリンズの一塁手ゲイビー・サンチェスだが、なんと7回にナショナルズのリリーフ投手ダグ・スレイトンは、このサンチェスにまで「報復死球」を与えたことで、ナショナルズ監督リグルマンなど、さらに2人の退場者が出た。
こうして報復が報復を呼ぶ遺恨試合の結果、6人が退場処分になった。



「不文律」は、なまじ「明文化されていないルール」だけに、たとえばメジャーとマイナーではルールが違うらしいし、また、選手の年齢によっても何を不文律と感じるかは異なる。「これは不文律だから守って当たり前、と、自分で思いこんでいるルール」は、実は、選手やシチュエーションによって異なっているのである。


少なくとも書きたかったのは、
「MLBでは不文律を絶対に破らない」という不文律、アンリトゥン・ルールだけは「無い」ということだ。

あらゆる選手、あらゆる監督が、いつでも「不文律を破る」可能性をもっている。

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