July 12, 2011

本の宣伝をするつもりはないのだが、ソースのありかを示す必要上、しかたがない。
以下の話のオリジナル・ソースは、スポーツ・イラストレイテッドのシニア・ライター、Jon Wertheimが今年2011年1月に出版した Scorecasting: The Hidden Influences Behind How Sports Are Played and Games Are Won である。残念ながらこの本、まだ中身を見ていない。


この本で元データとして使われているのが、このブログでも「アンパイアのコールがどのくらい正確か」を知るためにたびたび使わせてもらっているBrooksBaseball.netのデータだ。
このブログで利用させてもらっているのはStrikezone Mapsというツールのデータだが、この優れたサイトには他に、Pitch FXという凄いツールもある。あらゆるゲームのあらゆる投球について、とんでもなく詳細な設定ができて、びっくりするほど詳細な情報が得られるツールだが、あまりにも精密すぎてブログ主には扱いきれないのが残念だ(笑)
Pitch FXでは、たとえば「7月9日LAA戦で、マイケル・ピネダが、ファーストストライクを、どの球種で、どのコースに、どんな速度で決めたか」を特定することができる。

下記の記事は、WIRED MAGAZINEが、Pitch FXを基礎資料として書かれたJon Wertheimの本をネタに記事を書いたもの。(ただ、ブログ主は、Jon Wertheimが主に利用したのは、Pitch FXではなくて、むしろStrikezone Mapsだろうと考える)
Pitching Data Helps Quantify Umpire Mistakes | Playbook


記事によると、アンパイアのコール全体における「正しいコール」の割合は、85.6%という結果が出ているらしい。
これは、「20球のうち17球を正しいコールをする」というレートになる。MLBのピッチャーがひとりの打者に投げるボールはだいたい平均4球くらいなわけだから、20球投げて5人の打者と対戦すると、そのうち「不正確なコール」が3球程度発生することになる。

さらに、ストライクゾーンのコーナー周辺に決まったボールをアンパイアが正しく判断できる確率は、わずか49.9%しかない、という。
(ただし、これらの数値は、MLBやHardball Timesのような老舗サイトが調べた数値ではなく、あくまで彼ら独自の測定結果、計算結果であることに注意すべき。これらの数字を根拠に何かを発言する場合、必ず根拠としてソースを示さないことには、その発言の信頼性は怪しくなる)


カウント0-3と、カウント0-2の、ストライクゾーンの違い


上の図は、カウント3-0と、カウント0-2におけるストライク・ゾーンの広さの違いを表したもので、これがこの記事では最も面白い部分だ。
濃い青色の部分より内側がカウント3-0におけるゾーン、青い斜線部分がカウント0-2におけるゾーンだ。
なかなか面白い。要は、こういうことだ。

1)カウント3-0では、
  アンパイアはストライクゾーンを広げて、
  ストレートのフォアボールを避けようとする。
フォアボールになりかかっているカウント3-0では、アンパイアのストライクゾーンは非常に広くなる。特に「両サイドのゾーン」が広い。
ことカウント3-0では、たとえルールブック上のゾーンをはずれていても、アンパイアは「ストライク」とコールする可能性が高くなるという調査結果だ。

2)カウント0-2では、
  アンパイアはストライクゾーンを狭めて、
  3球三振を避けようとする。
投手が打者を追い込んだカウント0-2では逆に、アンパイアの想定するゾーンは、非常に狭くなる。
特に狭いのは「低めの全て」と、全ての「コーナー」。投手圧倒的有利の0-2カウントでは、「ピッチャーがどんなにきわどい球を低めやコーナーに投げたとしても、アンパイアはストライク・コールしてくれない」可能性がある、という調査結果になっている。


なお、WIREDの記事では、きちんと指摘されてないことがあるので指摘しておく。

上の記事では、「MLBのアンパイアは、コーナー周辺のボールを正しく判定できる確率は、約50%しかない」という指摘と、「カウントによってゾーンがかなり可変になっている」という別の指摘をしているわけだが、この2つの指摘は相互に無関係なのではなく、むしろ、前者は後者の影響を受けることを考慮すべきだ。

「打者を追い込んだ0-2カウントでは、きわどい球はボール判定されやすい」ということは、もしピッチャーが打者を追い込んだカウントで、コーナーいっぱいに素晴らしいストライクを投げたとしても、「ストライクとコールされず、むしろボールとコールされてしまうことがありうる」ということだ。

だから、「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%だ」という事象は、その全てが「アンパイアの能力が不足しているために起きる誤審」とは言えない。
むしろ、「0-2カウントでは、きわどい球は、たとえそれがストライクでも、ストライクと判定しない」という例のように、アンパイアは「コーナーに決まる素晴らしいストライクでも、故意にボールと判定している」ケースがあるのである。
しつこいようだが、だからこそ「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%である」というデータをたまたま見たからといって、それを根拠に「MLBのアンパイアは判定技術が低い。だから、コーナーに決まる球を、約50%しか正しく判定できないのだ」と断言していいことにはならないのである。
この部分が、WIREDの記事ではきちんと指摘されていない。

よく、「MLBのアンパイアは下手だ」とかネット上で公言している人を見かけるが、何を根拠にそういう発言をしているのか知らないが、単に「下手」なのと、「わかっていて、わざと判定を操作している」のは、意味がまったく違う。「MLBのアンパイアが、コーナーのボールを正しく判定する確率は、約50%」というのは、「MLBのアンパイアが下手だ」という意味で言っているのではない。


Jon Wertheimの著作で細かいパーセンテージがどこまで正しいかは別にどうでもいいが、このデータから明らかになることは、
アンパイアたちが「現実にやっている仕事」は、
「単なる判定」ではなく、むしろ「ゲームをつくること」であり、判定は「もともと意図的なゲームの操作行為」として行われている
ということだ。


彼らアンパイアは、カウント0-2になれば、意図的にゾーンを狭めて三球三振になるのを避け、逆に、カウント3-0になれば、意図的にゾーンを広げ、四球の発生を避ける。それらの「意図的な判定操作」の結果、彼らが目指す方向性というのはたぶん「打者と投手の対戦が継続されるほうが、ゲームとして面白かろう?」 というようなことではないか、と思う。
このことは、一見、ベースボールというゲームの本質は何か? という問いを含んではいるように見える。「四球でも三振でもなく、打者と投手の対決がベースボールの醍醐味なのだから、それを楽しみなさい」というわけだ。

だが、そんな「アンパイアの実態」についての、ブログ主の基本的な意見は、こうだ。

何を、どう楽しもうと、ファンの自由。余計なお世話だ。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな。
他人の楽しみ方に、勝手に方向性をつけるな。


人間というのは、野生動物としてのナチュラルなルールを失った弱い動物であり、社会的権威を持ったとき、心の奥底まで権威にすっかり犯されて、秩序維持のためとか称して権威をふりかざすようになるものだ。
意図的にゾーンを狭めたり、広げたりして、三振や四球を「意図的に」避けてやり、打者と投手の対戦を継続させる、という判定ぶりは、一見すると、スポーツの鉄則にかない、スポーツの面白さを維持するのに一役買っているように聞こえがちだ。

だが、現実に起きていることは、そんな単純な話ではない。
恣意的な判定」は、なにも「アンパイアが、三振や四球を故意に減らして、ゲームをよりエキサイティングにする」という方向性だけで行われているわけではない。
むしろ、彼らは故意に三振や四球を作り出してもいる。気にいらない打者は強引に三振させ、気にいらない投手には無理矢理四球を出させる」ようにみえる行為は、実際に多発している。

アンパイアはけして、ゲームを面白くしてくれる演出家である必要など、ない。

アンパイアの「余計なゲーム・メイキング」は、むしろ、投手のコーナーに決まる精妙なコントロールの価値を損なっているし、コーナーぎりぎりのボールを見極めるバッターの精密な選球眼の価値も貶めている。
ゲームをエキサイティングにするのは、アンパイアの下手な演出ではない。また、プレーヤーの高度な技術を無駄にする歪んだ演出など、まったく必要ない。

カウント0-2に追い込まれた打者がアンパイアに嫌われていて、その結果「次の球がストライクでも、カウント0-2だから、アンパイアはボール判定してくれるさ」と安易に考えていたら、コーナーいっぱいのストレートをストライクコールされ、三球三振。
あるいは、カウント3-0にしてしまった投手が、アンパイアに嫌われた結果、「カウント3-0だし、次の球は、はずれていても、たぶんストライクコールしてくれる」とぬるい考えでいて、ストレートを置きにいったらボール判定で、ストレートのフォアボール。
そんなくだらないシーンを、ブログ主は見たくない。

もう一度書いておこう。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな





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