September 27, 2011

3000本安打達成者の打数と安打数

X軸(横軸)=通算ヒット数(1目盛=200本)
Y軸(縦軸)=通算打数(1目盛=1000打数)
黒い直線は線形近似曲線
赤い直線は、上が4打数1安打のライン、下が3打数1安打のライン。
資料:Career Leaders & Records for Hits - Baseball-Reference.com

これは、過去から現在にいたるまで、2011年9月時点で3000本安打を達成している全打者の安打数と通算打数を図にプロットしたもの。

見れば、ひと目でわかるように、3000本安打を達成するということは、イコール、「たいていの場合、3.5打数でヒットを1本打つ以上のパーセンテージで、ヒットを打つことが必要になる」ということを意味する。

数多くのヒットを打った記録なのだから当たり前といえば当たり前の話ではあるが、実は、これはこれでなかなか面白い。
なぜ4打数1安打では3000本安打は達成できないのか、考えてみよう。


仮に、4打数1安打を延々と継続していく、とする。
現実無視の計算では、12000打数で3000本安打を達成できる。それに必要な時間は、1シーズンの打数を仮に「フル出場162試合×4打数=648打数」とすると、12000÷648≒18.5で、約18シーズン半での達成になる計算だ。
つまり、のらりくらり、19シーズンほど野球選手をやっていれば、4打数1安打のバッターでも20年かからずに3000本安打を達成できてしまう、という「机上の」計算になる。

だが、もちろんそれは空論だ(笑)

当然、四球やデッドボール、犠牲バント、犠牲フライなどによって、打数は打席数より少なくなることを考慮に入れるべきだ。
例えば、キャリア20年で569本のホームランを打った「耳栓」スラッガー、ラファエル・パルメイロは、10472打数でヒット3020本と、ギリギリで3000本安打を達成した打者のひとりだが、通算打席数は12046。四球1353、死球87、犠牲フライ119などによって、全打席数のうち、約13%が打数にならなかった。
Rafael Palmeiro Statistics and History - Baseball-Reference.com
(なお、パルメイロはミッチェル報告書でステロイド使用を告発されたプレーヤーのひとり。3000本安打を達成者ではあるが、パルメイロと野球賭博で永久追放になったピート・ローズは野球殿堂入りすることはないだろう。 資料:The List of Players Named in the Mitchell Report - ABC News 資料:Palmeiro docked 10 days for steroids - MLB - ESPN

また、パルメイロと同じように3010本と、ギリギリで3000本安打を達成したアベレージ・ヒッター、ウェイド・ボッグスは、キャリア18シーズンの通算打席数10740に対し、通算打数は9180で、打席数の約14.5%が打数にならなかった。
Wade Boggs Statistics and History - Baseball-Reference.com


そんなわけで、いま仮に「打席数の10%が打数にならない」と仮定すると、12000打数を打つためには、13333以上の打席数が必要になる。
これは、「シーズン162ゲーム、1ゲームあたり4打数をフル出場する」と仮定しても、13333÷162÷4≒20.6で、4打数1安打で3000本安打を達成するには、約21シーズンもかかる計算になる。
これが10%の仮定をもう少し上げて「13%」にすると、必要な打席数は約13800に増加してしまい、記録達成に必要な年数は21.3と、10%の時より1年増えて、約22シーズンかかる計算になる。


もちろん本来は、打数減少の大きな原因であるこの「四死球、犠打などによる打数の減少」だけでなく、「打数を減少させてしまう3000本安打の阻害要素」は、他にも、現実の野球選手のキャリアにたくさんある。
例えば、怪我などによる休養期間は誰にでもありうる。骨折や靭帯損傷、筋肉の断裂などの大きな怪我なら長期の休養だろうし、デッドボールや捻挫などによる短期の休養もありうる。さらに誰しも経験するスランプもある。(4打数1安打程度の打者のスランプはおそろしく長いことだろう) また、キャリア晩年のベテランになってくれば、シーズンフル出場ともいかず、チーム側が選手のリフレッシュのために休養させるゲームをつくる。
だが、しばらくは机上の空論を楽しみたいので、それらすべては「無いこと」にしてしまおう(笑) 

だが、「怪我」も、「スランプ」も、「休養ゲーム」さえも無いことにしてしまうという、現実を徹底無視した仮定をしたとしても、それでもなお、3000本安打達成には20年どころか、21年とか、22年とか、かかる計算になるのである。
これらの「打数の減少をまねく、あらゆる条件」を、きちんと計算に組み込むなら、実際には4打数1安打による3000本安打達成には、最低でも23シーズン以上、実際にはもっとかかることだろう
いやはや、気が遠くなる(笑)

23年以上とか、簡単に書いてしまったが、これはメジャーの選手のキャリアとしては、おそろしく長い。
というのも、高卒投手がいきなり1軍で登板したりする日本の野球のように、18歳で1軍デビューできるのならともかく、メジャーでのデビュー年齢はたいていの場合、20代半ばになるのが普通だからだ。
たとえ、もし仮に、日本の大卒プレーヤーのように、22歳でメジャーデビューさせてもらえて、しかも、いきなりスタメンに定着し、それから20数年フルシーズン使ってもらえたと、殿堂入り選手レベルの無理矢理な仮定をしたとしても、それでも、4打数1安打で3000本安打を達成できるのは45歳以降、ということになる。
実際には22歳でデビューなんかできないし、デビューできたとしてもいきなりスタメンとか、なかなかありえないわけだから、達成年齢はもっともっと遅くなる。

現実を無視せず、多少なりとも現実的な計算をしていくと、25歳メジャーデビューの選手が4打数1安打をひたすら続けて3000本安打を達成できるのは、23年たった48歳以降、ということになってしまう(笑) 
これではどうみても、3000本安打を達成する前に引退しなくてはならなくなる。


つまり、言いたいのは、3000本安打という大記録の達成にとって、「年齢」という条件は、あまりにデカすぎて無視できないどころか、決定的条件ですらあるということだ。

別の言い方をすると、3000本安打という偉業を達成できるか否かは、実は、その選手のキャリア序盤に既に決まっている、と言い換えてもいい。
つまり、非常に長い期間に渡ってハイ・アベレージな安打生産を維持しなければならない過酷な記録だけに、もしもその選手が、MLBデビュー後のキャリア序盤にシーズン100安打くらいの低い成績が数シーズン続いたとすれば、もうその時点で既に3000本安打達成に必要なキャリアの長さ自体が足りなくなってしまっている、という意味で、その選手の3000本安打達成は難しくなってしまうのだ。
3000本安打という記録は、一見すると、ただただ長年にわたって安打数を積み重ねた記録のように思われがちだが、実はそうではない。むしろ「キャリア序盤にどれだけいきなりメジャートップクラスの成績を残せたか」という、瞬発力勝負である


やはり3000本安打は、4打数1安打のバッターが、ただただ長年野球をやっても達成できる記録ではないのだ。「ひたすら積み上げれば、いつか達成できる記録」ではなく、むしろ、3000本安打という記録は、「デビュー直後すぐに分かれ目がやってきて、デビュー直後の若いうちに幸福すぎるキャリアを実現することができた『約束された、ほんのひとにぎりの選手』のみがトライ可能な、未曾有の大記録」なのだ。


無限ではない選手寿命の範囲内で、3000本安打を「20年程度」で達成するためには、「四球などによる打数の減少」、「怪我」、「スランプ」、「休養」など、あらゆる障害物を含めて考えると、3.5打数でヒットを1本打つ以上のハイ・アベレージがどうしても必要だ。
そして、本当の問題は、ほんの数シーズン、3.5打数でヒット1本打ち続ければ達成できる記録ではなく、そういうハイ・アベレージ期間を最低でも20年近く継続しなければならない、ということだ。
それは、打率でいうと、最低でも.285以上を長期間継続しなければならないし、実際には達成者の大半の通算打率は、3割を超えている。
(次の記事で書くが、3000本安打達成者には3つくらいの達成パターンがあり、通算打率でいうと、(1).285あたりの達成者、(2).300あたりの達成者、(3).320以上の達成者ということになる。1番目のタイプの典型はカール・ヤストレムスキー、2番目のタイプの典型はピート・ローズ、3番目のタイプの典型はスタン・ミュージアル



だが、本当の話(笑)は、実はここからだ。


なぜなら、ここまで書いてきたことは、あくまで、「20年前後の長い長いキャリアで、3.5打数1安打以上をキープし、やっとの思いで3000本安打を達成する」という、「ごく野球常識的な3000本安打達成」の話でしかないからだ。

ハッキリいって、3000本安打自体は、並レベルのプレーヤーには絶対に達成不可能な大記録だし、たとえ名選手と呼ばれるプレーヤーであっても、なかなか達成できない超絶的な大記録ではあり、達成者は超のつく名選手、殿堂入り選手ばかりなのだが、言い方を変えれば、けしてわずか数人だけが達成できた記録ではなく、「20年にもわたる長い歳月をかけ、達成するような、地道な3000本安打達成のプロセス」という意味でなら、今まで両手両足では足りない数、つまり、それなりの数の選手たちが達成できてきた記録だ。

これまでの3000本安打達成者の大半は、20歳前後と、非常に若くしてMLBデビューしており、キャリア晩年まで「特別なプレーヤーだけに許された長い時間」をかけて3000本安打を達成している。
20年にもおよぶ長い時間をかけることを許されていた、という意味では、彼らは野球100数十年の常識を越えてはいないのである。
MLB歴代ヒット数ランキング上位打者
メジャーデビュー時の年齢

ピート・ローズ 22歳
タイ・カッブ 18歳
ハンク・アーロン 20歳
スタン・ミュージアル 20歳
トリス・スピーカー 19歳
キャップ・アンソン 19歳
ホーナス・ワグナー 23歳
カール・ヤストレムスキー 21歳
ポール・モリター 21歳
エディ・コリンズ 19歳


だが、である。
もしあなたが、野球の歴史も、常識も超え、28歳で、遅咲きのメジャーデビューを果たした後、12年か13年くらいの、「とてつもなく短いキャリア」の中で大記録3000本安打を達成しようと思ったら、選手としてのライフプランをどういう形に「設計」しておかなければらないか、考えたことがあるだろうか?

20歳の若さでメジャーデビューし、通算打率.331、キャリア22年で3630本ものヒットを打ってヒット数歴代4位になった中距離ヒッター、スタン・ミュージアルでさえ、3000本安打を達成したのは、彼が今のイチローと同じ37歳になった1958年5月であり、達成には17シーズンもの長いキャリアを要した。達成時前後の彼の通算打率は、なんとおよそ.345前後もあったのだが、そんなハイ・アベレージの選手でも3000本安打達成に17年もかかったのである。 (逆に言えば、20歳の若さでデビューして高打率を維持できた彼だからこそ、37歳で達成できた、ともいえる)
大打者スタン・ミュージアルでさえ17年もかかった記録を、イチローはそれをずっと短いシーズン数で達成しようとしている。この意味を、よく考えてもらいたい。


本来なら、イチローの3000本安打達成への道すじという話になるはずの3000本安打という話題に、わざわざ「4打数1安打ではなぜ達成できないのか?」という遠回りな入り方をしたのは、3000本安打という記録が、実は「デビュー当初から選ばれた選手のみがトライできる、偉大な記録であること」、そして日本の野球を経由した後でMLB3000本安打にトライするイチローの3000本安打への挑戦は「イチローだけしかなしえないとハッキリ言い切れるような、これまで3000本安打を達成してきたごく一般的な名選手レベルを、さらに超えた、超・超人的な道のり」であることを、あらかじめ理解してもらいたいからだ。

こういうことを何も考えもせずモノを語る人の、なんと多いことよ(笑)

では、次回。

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