October 05, 2011

フィラデルフィアとアトランタのNLDS(ナ・リーグ ディヴィジョン・シリーズ)Game 3は、コール・ハメルズが好投したフィラデルフィアが3-2で辛くも勝ってNLCS進出に王手をかけたが、またしてもアンパイアJerry Mealsの判定を巡るトラブルがあった。

フィラデルフィアが2点リードの9回表、1死1塁で、バッターのカルロス・ルイーズが、センターへライナーを放った。
セントルイスのセンター、スキップ・シューメーカーはこの打球を見事にダイビングキャッチしてみせたのだが、ライト線審Jerry Mealsはこのファインプレーを「ワンバウンドでのキャッチ」と、ヒットと判定した。
だが、審判団は協議した後、一度出された判定を「アウト」に覆した
のである。

スコア
Philadelphia Phillies at St. Louis Cardinals - October 4, 2011 | MLB.com Gameday
動画
Baseball Video Highlights & Clips | PHI@STL Gm3: Schumaker's terrific play ruled a catch - Video | MLB.com: Multimedia
記事
Umpires overturn Skip Schumaker non-catch | MLB.com: News


さかのぼる2011年7月26日に起きた「球審Jerry Mealsのホームプレートでのタッチプレイ誤審によるサヨナラ事件」は、明らかにJerry Mealsの誤審だった。(というか、うっかりすると、「八百長」と言われかねない、あからさますぎるミス。疲労は言い訳にはできない。疲れて判定ができないのなら、アンパイアをやめて故郷に帰るべき)
ファンの誰もが怒り、数多くのメディアが「ベースボール始まって以来の劣悪な判定」と非常に厳しい批判を展開、そしてMLB機構もJerry Meals自身も「誤審」を認めるに至った。
メディアの批判記事例:FOX
Baseball's biggest blown call keeps happening - MLB News | FOX Sports on MSN
注)blownという単語
元来は「暴風や爆発で、ぶっ飛ぶこと」だが、俗語として「失敗する、台無しにする」という意味があり、また「麻薬を吸引することで、ぶっ飛ぶ」という意味もある。
だから、この単語が使われるのは、単純ミスという程度の「軽い意味」ではなく、日本の掲示板の野球俗語(笑)でも、「ありえねぇミスだぞ、このボケカスは!」とか、「マジ、とんでもねぇな、こいつぅ」「ラリってんじゃねぇぞ、コノヤロ」とか、「お下品発言」をするときの、「ありえねぇ」「トンデモない」「ラリってる」などにあたる強調言葉として、ちょっとありえないような失敗を非常に強く叱責する、というニュアンスで使われる。
たとえばクローザーならblown save=「セーブ失敗」程度だが、これがミスの許されないアンパイアになると、blown callと使われれば、「マジありえない判定やらかした」、「麻薬でもやってんのか?と言いたくなる、トンデモない誤審だ」という意味になる(笑)
だから、MLBにもアンパイアの誤審は数々あるが、Jerry Mealsの犯した19回裏の誤審のように、あらゆるマスメディアがこぞってblownという単語を使ったミスは、他に類をみない。blownという単語のみをGoogleで検索すると、Jerry Mealsの誤審の記事が検索結果のトップページに出てくるほどだ。
それほど「世紀の大誤審」なのである。

「誤審」を認めたMLB機構
MLB acknowledges Jerry Meals' missed call after Pittsburgh Pirates file complaint over 19-inning loss - ESPN
「誤審」を認めたJerry Meals
Meals: 'I was incorrect' in blown call as Pirates move on - USATODAY.com

だが、もしかすると、NLDSでの「シューメーカーのキャッチング誤審」の是非は人によっては多少意見が分かれるかもしれない。
なぜなら、このプレーはスロービデオで見ると100パーセント間違いなく「アウト」であり、事実として間違いなく「シューメーカーのファインプレー」なのだが、これをノーマルスピードで見ると、捕球した瞬間にシューメーカーのグラブがわずかにバウンドして見える錯覚のせいか、あたかも「ワンバウンドでのキャッチ」に見えてしまう可能性がわずかながらあるからだ。

まぁ、判定の是非については、動画がMLB公式にあることでもあるし、何度でも好きなだけ見て、自分自身の目で確かめるといいと思う。


だが、その場にいなかった人間の目にどう見えるかとか、人間の目には錯覚の問題がある、とかは、この誤審の本筋ではない。シューメーカーは間違いなく捕球しており、Jerry Mealsの判定が間違っていたのは歴然とした事実だ。
一度「ワンバウントしている」とされた判定が覆る結果になった原因は、審判団の協議において、このプレーを他の位置から見ていたJerry Meals以外のアンパイアから、「明らかにあれはアウトだ。捕球している。判定を覆すべきだ」と強い意見があったからに他ならない。
つまり、問題は「他の審判でも容易に下せた判定」を、「最も近くで見ていたはずのJerry Mealsが、間違えたこと」なのだ


判定が正しいほうに覆ったこと自体は非常に喜ばしいことだ。
だが、その決着のしかたは、10月2日に球審Jerry Mealsのコールぶりを批判して罰金を払わされることになったトニー・ラルーサの溜飲が下がるようなものではなかった。
この判定は覆ったとはいえ、「奇妙な形」で決着しているからだ。


捕球できたことに自信があったシューメーカーは、もちろんJerry Mealsの誤審にすぐに気がつき、抗議した。ベンチからもトニー・ラルーサも飛び出してきていた。
「奇妙な形の決着」というのは、6人の審判団が協議した結果、センターライナーを打ったルイーズだけがアウトになり、ファーストランナーで、ライナー性の当たりに飛び出していたポランコはアウトにならず、1塁に戻され、ダブルプレーとして決着しなかったからだ

当然ながら、もしJerry Mealsが「シューメーカーがライナーをキャッチした」と正しく判定できていたら、シューメーカーはボールを即座にファーストに投げ返したわけだから、塁を飛び出していた1塁ランナー、ポランコもアウトになり、ダブルプレーが成立していたはずだ。Jerry Mealsのせいで、セントルイスはとれたはずのアウトをひとつ損したことになる。
誤審の曖昧な決着の直後、次のバッターが三振してチェンジになったから、結果的に「ダブルプレーの消滅」は問題にならなかったが、もし次のバッターがタイムリーでも打っていたとしたら、とんでもないことになるところだった。


2011年7月26日のJerry Meals誤審サヨナラ勝ち事件」と勝手に名づけた(笑)事件は、今年7月26日のピッツバーグ対アトランタ戦、延長19回裏に起きた。

まずは下の写真を見てもらいたい。
誰がどう見たってアウトだ。しかし、こんな簡単な判定を「延長19回裏に、セーフと誤審できるアンパイア」がいる。
Jerry Mealsだ。

2011年7月26日 Jerry Mealsの「19回裏 誤審サヨナラ」

2011年7月26日 Jerry Mealsの「19回裏 誤審サヨナラ」別角度

3-3の同点のまま膠着したこのゲームは、なんと延長19回まで続いたのだが、19回裏のアトランタの攻撃、1死2、3塁の場面で、サードゴロで三塁走者フリオ・ルーゴがホームに突入した。
写真と動画を見てもらうとハッキリわかるように、ホームプレートの2メートルは手前でタッチアウトだった。
なのに、球審Jerry Mealsがなんとこれを「セーフ」とコール。そのままアトランタのサヨナラ勝ちが決まってしまった。

きわどいプレーの判定ならいざ知らず、これだけはっきりアウトだったプレーだけに、もちろん大問題になった。どうやらJerry Mealsのオハイオ州にある自宅には、生死にかかわる物騒な電話が、それもかなりの数かかってきたようだ。
この件は後になって、MLB機構も、Jerry Meals自身も、誤審だったことを認めている。

動画
Baseball Video Highlights & Clips | Meals talks about his contentious 19th-inning call - Video | MLB.com: Multimedia
物騒な電話についての記事
Umpire Jerry Meals' family receives death threats over call - MorningJournalNews.com | News, Sports, Jobs, Lisbon, Ohio - The Morning Journal
記事
Youngstown News, Salem grad and umpire Meals says he missed call in Pittsburgh loss

What they’re saying about the Jerry Meals call | HardballTalk
"home plate umpire Jerry Meals made one of the worst calls you’ll ever see in a baseball game"


トニー・ラルーサの罰金の顛末は、こうだ。
10月2日のNLDSをフィリーズと戦っている最中のラルーサが、MLBでゲーム中によくある監督インタビューで、"two different strike zones" (今日のゲームでは、2つのストライクゾーンがある)と、球審Jerry Mealsのコールがフィラデルフィア側に有利になっている、という趣旨の批判をクチにした。

記事
La Russa fined for remarks about strike zone | cardinals.com: News
動画
NLDS: Cardinals vs. Phillies, Game 2 | STL@PHI Gm2: La Russa disagrees with ump's zone - Video | cardinals.com: Multimedia

球審の判定ぶりと、ルールブック上のストライクゾーンとのズレを知るには、いつものBrooks Baseballを見てみるのが早い。

10月2日の球審Jerry Mealsのコールは、データ上で見るかぎりでは、右バッターのインコースとアウトコース高めのコールにやや問題はあるものの、それらはどれも「むしろフィラデルフィアの投手の不利になる判定」であり、この日の球審Jerry Mealsのコールについて「セントルイス側に大きく不利になるような判定の歪み」は確認できない。
今日のシューメーカーのファインプレーは明らかにJerry Mealsの誤審だが、10月2日の球審としてのコールに関しては、ラルーサの勘違いといえそうだ。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool
ちなみに、このサイトのデータは通常、「6つの図」で構成されているのだが、このゲームに限っては、最も上に、典型的な右バッターのゾーン、典型的な左バッターのゾーンを明示した、2つの図が追加され、「8つの図」で構成されている。これは異例のことだ。
NLDSという大事な場面での「ストライクゾーンによる贔屓についてのラルーサ発言」があっただけに、なにかサイトへの大きな反響があったか、サイトの運営側がこの件に配慮してより正確なデータを付記したのかもしれない。



アンパイアと監督・プレーヤーの確執というと、ミネソタの監督ロン・ガーデンハイアーHunter Wendelstedtジェイソン・バルガスSam Holbrookジョナサン・パペルボンJoe Westをすぐに思い出すのだが(笑)、トニー・ラルーサとJerry Mealsの関係は今後どうなるだろう。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月7日、ディヴィジョン・シリーズ第2戦で退場させられたミネソタの監督ロン・ガーデンハイアーと、球審Hunter Wendelstedtとの間にかねてからあった軋轢。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月5日、ゲームの進行が遅いとクレームをつけた最年長ベテランアンパイアに、ジョナサン・パペルボンが放った"Go Home"の一言。




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