November 11, 2011

最近野球の話題でよく「パークファクター補正」なんて言葉を耳にすることがあると思うが、この「パークファクター」という指標は「2つの要素」がごちゃごちゃに混ざった数字であって、ある意味「単なるデタラメな数字」に過ぎない。

例えばホームランについてのパークファクター(以下、適宜PFと略す)の計算において「分母」になっているのは「特定スタジアムでの、1ゲームあたりのホームラン数」だが、この数字には、以下の2つの要素が、何の基準もないまま混ざってしまっている。
1)自軍バッターが「打った」ホームラン
2)自軍ピッチャーが相手チームに「打たれた」ホームラン

中学生でもわかることだが、これでは「自軍が「打った」ホームラン、相手チームに「打たれた」ホームラン、その2つの数値のうち、どちらが増加しても、結果的にそのシーズンのパークファクター数値は大きくなってしまう」という、妙な現象が生じてしまう。

これではあまりにも雑すぎる。

よく、「パークファクターはスタジアムごとの物理的な構造の差異、特にスタジアムごとに違う外野の広さや外野フェンス高さの違いによって生じる、『ホームランやヒットの出にくさ』を表現した、人間の主観の入り込む余地の無い、非常に理論的な数値」だと思いこんでいる人がいる(笑)
だが、実際にはパークファクターはスタジアムの物理的特性だけで変化するわけではなく、スタジアムの物理構造にまったく関係ない「チームの戦力の変化という『人的要因』」によって大きく左右される数字でもあり、また、戦力、つまり投打のどちらに依存して変化したのかがきちんと定義も明示もされていない数字だ。
そういう意味では、現状のパークファクターなんてものは、理論的どころか、非常に恣意的な数字にすぎない。

たとえば、改修などをまったく行わず、スタジアムの構造がまったく変化しなくとも、シーズンによっては、打線が異常に大活躍して「ホームランを打ちまくる」こともあれば、投手陣があまりにも酷すぎて「ホームランを打たれまくる」ことも、それぞれ逆もありうる。
その、どのケースでも、パークファクターは上昇(あるいは下降)するわけだが、パークファクターから「数値の変化をもたらしたのが、いったい打線なのか、投手なのか」を見分けることができない。
また、同一シーズンに、投手陣が壊滅していてホームランを打たれまくったAチームと、打撃陣が異様に絶好調でホームランを打ちまくったBチームがあったとすると、AとBの本拠地のパークファクターは、どちらも上昇をみせる。この場合、2つのスタジアムAとBとでパークファクターの上昇が見られるわけだが、その数字の変化の意味がまったく違うのにもかかわらず、それをパークファクターから読み取ることができない。
さらにいけないのは、例えばたとえ「パークファクターの上昇が投手陣の壊滅でもたらされた場合」であっても、それを打者の打撃スタッツの補正に用いたりすることだ。そういう行為にはほとんど何の意味もない。逆もまたしかり。


実際、下記に挙げたテキサス・レンジャーズの例でわかるように、「パークファクターの数値の増減には、シーズンによって、自軍の打ったホームランが大きく寄与するシーズンもあれば、相手に打たれたホームランの多さが寄与するシーズンもある」。
そのため、「パークファクターだけでは、自軍の投・打、相手チームの投・打、この4つのうち、どれが主に寄与してその数値が成立したのか、さっぱりわからない」。
なのに、数字オタクどもときたら、「打者が寄与したのか、投手が良かったのか、自軍の戦力アップのおかげなのか、はたまた相手チームにやられたせいなのか、まるで確かめようがない恣意的な数字を使っている」くせに、「あらゆるシーズンの数字を十把ひとからげに『パークファクター』と呼んですませて」、なおかつ、「パークファクターとやらを、スタッツ補正にも使いまくって、あらゆるスタッツを誰よりも正確に把握できていると自称して、鼻高々になったりしている」のである(笑)


これだけでは何を言っているのかわからないと思うので
ちょっと、実例を見てみよう。

以下に、テキサス・レンジャーズのホームグラウンド、レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンのホームランに関する2001年から2011年のパークファクターと、テキサス自軍の打者のホームラン率(=1ゲームあたりのホームラン数)をグラフにしてみた。
ここでいうホームラン率はホームだけの数字ではなく、ビジターも含めた数字であることに注意してもらいたい。また、以下で特に注釈を設けない限り、パークファクターといえば、「ホームランについてのPF」のみを指す。またアーリントンの外野フェンス等の改修工事の有無については検討から除外する。さらに、年度別のPFを相互比較するのは無意味という議論は、この際あえて無視してもらいたい(笑)
Texas Rangers Team History & Encyclopedia - Baseball-Reference.com
赤い折れ線=アーリントンにおけるホームランのパークファクター
緑の折れ線=テキサス打線の「打った」1ゲームあたりホームラン数
テキサスのPFとHR率 2001年から2011年まで

このグラフの上がり下がりの方向の一致・不一致と、変動幅の大きさを見るだけで、テキサス・レンジャーズのパークファクターが、次の2つの時期に大別できることは、中学生でもわかると思う。(さらに詳細に見れば、「2004年以降」というカテゴリーが、さらに「2004年2005年」と「2006年以降」の2つに細分化することができることもわかるだろう)
1)2001年〜2003年まで
2)2004年以降

2003年までのグラフは、パークファクター()と自軍のホームラン率()の上下動が、まったく逆向きになっている。
明らかにこの時期のパークファクターを左右しているのは、「自軍バッターの打ったホームラン」ではなく、おそらく「自軍ピッチャーの打たれたホームラン数」だろう、という推測が成り立つ。
実際、2001年から03年までのテキサスのチーム防御率は、5.71、5.15、5.67と、それはもう酷い数値であり、シーズンで打たれたホームラン数は、その3年間それぞれ、222本、194本、208本で、2001年の被本塁打222本、被ホームラン率1.39などは、1961年のテキサス・レンジャーズ創設以来、最悪の数値を記録している。

ところが、2004年以降になると様相がガラッと一変してくる

まず2004年に、パークファクターと自軍のホームラン率の「数値の上げ下げの向き」が、同じ方向に揃った。これは、打線の改善によって「自軍の打ったホームランがパークファクターを左右する時代が到来した」と推測される。(具体的に言うと、2003年終了後にFA移籍したラファエル・パルメイロ、ヤンキースにトレードしたアレックス・ロドリゲス、2人のホームランバッターの移籍でできた穴を、2004年のアルフォンソ・ソリアーノや、生え抜きのマイケル・ヤングマーク・テシェイラが埋めたために、チームのホームラン数を思ったほど減らすことなく、新生テキサス打線が生まれ、育てられていった)

ただし、2004年から2005年までは、パークファクターと自軍バッターのホームラン率の変動の「向き」は同じとはいえ、2つの数字の「変動幅」にはまだまだ大きな差がある。
このことは、これら2シーズンが、「たしかに自軍のバッターもホームランをたくさん『打った』が、同じように、相手チームにもホームランをしこたま『打たれた』シーズン」だったことが、なんとなく想像できる。(実際、2003年の先発5人をみると、ディッキーベノワパク・チャンホの3人が揃ってERA 5点台と、まだまだ酷い投手陣だった。セットアッパーレベルの投手を3人も先発させているのだから、この当時のテキサスの投手陣は火の車なのだ)

これが2006年以降になると、2004年2005年と同様に、パークファクター()と自軍の「打った」ホームラン率()のグラフの上げ下げの向きが同じ方向に揃っている状態が維持されただけでなく、2つの折れ線グラフの振幅がお互いに近くなってきていて、2つの数字の乖離は非常に小さくなってくる。
これは、明らかに、2000年代中期の打線改良に引き続いて、こんどはテキサスが先発投手陣のリフォームに手をつけ、「ホームランを打てる打線、なおかつ、ホームランを打たれない投手陣」という理想的なバランスが多少もたらされつつあったことを意味する。(具体的には、2006年にケビン・ミルウッドビンセント・パディーヤを補強したことで、先発投手陣の立て直しに光明が見出された時期にあたる)

そして2年連続でワールドシリーズに進出した2010年、2011年のテキサスのチーム防御率は、3.933.79と、2年続けて4点台を切っている。そこにはもう最悪の投手陣だった2001年の陰はない。
この「2年連続防御率3点台」は、1989年〜1990年以来、20年ぶりに達成された出来事で、2009年からテキサスの投手コーチをしているマイク・マダックス(名投手グレッグ・マダックスの兄)がテリー・フランコーナの後任としてボストンの監督候補に名前が上がるほど高い評価を得ているのは、こうした点なのかと思わせる数字だ。(だが、以上の記述からもわかるとおり、テキサスの投手陣の改革が始まったのは、2009年のマイク・マダックスの投手コーチ就任以前の、2006年あたりから既に始まっているのであって、マイク・マダックスだけの功績とは言い難い)


もう少し説明を加えるために、
上の「パークファクターと、自軍の打ったホームラン率」のグラフに、さらに被ホームラン率、つまり「ホームランを打たれた率」を加えてみる。
赤い折れ線=パークファクター
緑の折れ線=テキサス打線「打った」1ゲームあたりのホームラン数
青色の折れ線=テキサス投手陣の「打たれた」ホームラン率(HR/9)
テキサスのPFとHR率・被HR率 2001年から2011年まで

2001年から2003年の赤と緑のグラフの「上下動の方向」と「変動幅」が一致しているのがわかるだろう。この3年間のパークファクターは「打ったホームラン」だけでなく、「打たれたホームランの多さ」にも大きく左右されている。
これが、2005年になると、赤と緑の線、つまり、パークファクターと、「打った」ホームラン率が揃って急上昇しているにもかかわらず、青の線、打たれた」ホームラン率だけが急激に低下しているのが、実に印象的だ。
青い線の動きをトレースしてみればわかるように、2001年に球団創設以来最悪の酷い状態にあったテキサスの投手陣の被ホームラン率は、2000年代中期以降に改善し、その状態を現在までなんとか維持し続けている。
たとえ本来はホームランの生まれやすいホームパークであっても被ホームラン数を極力抑え込むことに成功したテキサスは、長い時間をかけて投打のバランスを修正したことで、ワールドシリーズに行けるチームに変貌したのである。


ちょっとまぁ、いつものように話が長くなってしまった(笑)が、「打った数字」も「打たれた数字」もいっしょくたのパークファクターなんてシロモノが、どれだけ「データとしてだらしない」か、わかってもらえたら、それで十分だ。
これからは、その頼りない数値で補正、補正と、鬼の首をとったように喜んでいる馬鹿を見つけたら、思い切りせせら笑っておけばいい(笑)

2011年のセーフコのホームランのパークファクターは1.037という数字らしいが、それが「チーム打率が2割ちょっとしかないシアトル打線の打ったホームランによるものなのか」、それとも「ヘルナンデスをキングとか称して持ち上げまくった一方で、フィスターを安売りしたシアトル投手陣の打たれたホームランによるものなのか」、そしてこの10年のセーフコのパークファクターの軌跡の意味くらいは、それぞれが自分の頭を使って考えたらいい。
2011 MLB Park Factors - Home Runs - Major League Baseball - ESPN
さらに言えば、投手有利と言われてきたホームパークを持ち、超守備的チーム編成を目指すと自称しながら、このパークファクターとは、いったいシアトルのGMは何をやっているのか、こんなGMに複数年契約をくれてやって、馬鹿なのか、と言われて当然だ、くらいのことも、ついでに頭に入れておくといいだろう。




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