February 23, 2012

MLBについての英語サイトを眺めることの多い人は、たまにbeat writer (ビート・ライター)という言葉に出くわすことがあると思う。


beatという言葉には、「叩く」とか、マイケル・ジャクソンの名曲Beat It!で有名になった「逃げる」とかいう意味以外に、「受け持ち区域」とか「担当エリア」、あるいは転じて「専門ジャンル」という意味がある。

例えば、シアトルを舞台にした『Police Beat』(2005年)
というタイトルの映画がある(ブログ主はその映画自体は見てない)。
この映画の主人公は担当エリアを自転車で巡回する警官なのだが、ここでいうbeatとは、警官にとっての「担当エリア」を指している。(なんでも、警官が自転車に乗って担当エリアを巡回するカジュアルな行動スタイルを近年全米に広めたのはシアトルの警官が発祥らしい)

またジャーナリストの最高の栄誉のひとつであるピューリッツァー賞には、2006年までPulitzer Prize for Beat Reportingという部門があった。
記者にも、例えば医事記者、政治記者のように、特定の専門ジャンルを掘り下げるタイプの記者が存在するわけだが、ここでいうbeatは記者の「専門分野」という意味で、特定分野=beatについて取材して記事を書く記者のことを、beat reporterと言ったりする。
The Pulitzer Prizes | Beat Reporting



だからMLBでいうbeat writerは、日本のスポーツ新聞やテレビのスポーツニュースでいう「番記者」に近い意味になる。この場合、beatは、「ローカルメディアのスポーツ記者の担当チーム」ということになる。

ただ、beat writerが、日本でいう「番記者」と完全にイコールかというと、ちょっと違う。

というのも、
日本のプロ野球の「番記者」というと、日本全国をカバーするキー局や全国紙から派遣された番記者もいれば、球団それぞれの地元のメディアの番記者もいて、ローカルと全国メディアの間の役割分担がハッキリしていない。

(ちなみに世界の新聞購読者数ランキングでは、ベスト5を日本の新聞が独占(読売、朝日、毎日、日経、中日)している。日本人は世界でダントツの新聞好きなのだ。世界5位の中日新聞ですら、全米ベスト2社、Wall Street JournalやUSA Todayの倍以上の購読者層をもつ。例えば中堅ローカル紙のSeattle TimesやSan Francisco Chronicleは、そのUSA Todayの7分の1以下の規模なのだから、日米で新聞の発行規模にいかに大差があるかがわかるし、また、メディアとしての権威は新聞社の規模には比例しないこともわかる 笑)

それに対して、
MLBでいうbeat writerは、基本的に「ローカルメディアの記者」とイコールになる。

全米における新聞別購読者数ランキング List of newspapers in the United States by circulation - Wikipedia, the free encyclopedia
例:SFジャイアンツ  サンフランシスコ・クロニクル
  ロイヤルズ     カンザスシティ・スター
  レッドソックス    ボストン・グローブ
  フィリーズ      フィラデルフィア・インクワイラー
              (エンクワイラーとも表記される)

だからbeat writerは、「特定チームの取材を担当する、ローカルメディアの記者」ということになる。
他方、ESPNやFOX、CBSのような全米をカバーするメディアは、それぞれのチームの細かい情報集めはローカルメディアにまかせて、自分たちはMLB全体を担当する。日本の大手スポーツ新聞のように、野球チーム全部をカバーできるだけの人数の番記者を雇って番記者として張りつけるようなことはしない。


例を挙げると、シアトルのローカルメディアであるSeattle Timesの記者であるGeoff Bakerは、シアトルの、それもMLBシアトル・マリナーズだけを追いかける典型的なbeat writerだが、MLB全体を扱う立場にある全米メディアのライター、FOXのKen Rosenthalは、beat writerではない。
Ken Rosenthalのツイッターの使い方を見ていればわかるように、全米メディア所属のライターは、チーム個別の細かい情報提供はローカルのbeat writerたちが発信するツイートのリツイートなどでまかなって、(それを集約したり、情報を補ったり、意見をつけ加える作業はしつつも)、基本的に自分たちはMLB全体に関係する情報を取材し発信する。(もちろん必要と感じれば、ローゼンタールが直接ズレンシックに電話取材してツイートしたりするように、個別チームを直接取材する場合もある)


ちなみに、以前ツイートしたことだが、ローカルメディアの野球ライターが、本来の職分であるローカルの野球の仕事を忘れて、例えばスーパーボウルのような、全米レベルの、それも畑違いのスポーツのトピックに興奮して、自分の個人的な興奮を一日中ツイートしまくるなんていう行為は、ジャーナリストとして非常にスジ違いな行動だと思う。
beat writerには、beat writerが本来守るべき狭いテリトリーがあってしかるべきだ。
beat writerのツイッターのアカウントというのは、スポーツにとって既にひとつのメディアになっていて、「ローカルに強味を持つbeat writerからしか得にくいスポーツの情報」を集める戦力のひとつになっている。
だから、全米で誰も彼もが似たり寄ったりなことをつぶやく大イベントの個人的感想を発信する必要など全くないことを、beat writerは自覚すべきだ。個人的な感想をどうしても言いたいのなら、個人用のアカウントでも作って、そっちでやってもらいたい。
また、全米メディアのライターであるRob Neyerのマネーボールに関するしつこいツイートが揶揄されるのも、似たような理由だ。彼が興行成績がさえないくせにゴールデングローブを獲りたがっている映画マネーボールの関係者にプロモーションを依頼されてツイートを繰り返しているのかどうかは別にして、才能ある彼のツイートに常に求められているのは、あくまで全米メディアとしてのMLBの情報であって、中身の薄っぺらな映画の個人的感想などで貴重な情報空間であるツイートを埋め尽くすべきじゃない。
damejimadamejima
こういう日でも、誰かに返事するとき以外、基本的に野球のツイートしかしないケン・ローゼンタールを尊敬したい。これが全米を相手にするライターとローカルライターの違いでもある。読みたいのは興奮して当たり前のスーパーボウルだの、飲んだワインがうまいだの、そんなくだらない話ではない


「beat writerと、全米メディアのライターとの間の、立場の違いや役割分担」は、もうおわかりのように、「独立した体系をもつアメリカの州それぞれと、合衆国連邦政府との間の独特の関係」に通底している。
だから、アメリカでの「州と連邦政府との関係」が、日本の「県と国との関係」と同じではないように、アメリカのbeat writerと日本の番記者の微妙な立ち位置の違いには、2つの国の文化や歴史の違いが背景にあるわけだ。
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