April 14, 2012

去年の貧打ぶりを知っていれば、4月12日時点で、ア・リーグで最もヒット数の多いチームがシアトルである、と言われても、誰もピンとはこないだろう。(以下、数値は全て4月12日時点)
だが実際、ヒット数に関してだけ言えば、今シーズン圧倒的な戦力を擁しているデトロイト、テキサスより、シアトルののほうが多いのだから、事実は小説よりも奇なりだ(笑)
かといって、シアトルのチーム打率が高いわけでもないのだから、世界の7不思議といってもいい(笑)
(というか、単に特定の左バッターだけがヒットを打っているだけのことだ。ヒット数の多い順にいえば、イチロー、アックリー、左打席のフィギンズ、シーガー、モンテーロ)

SEA ヒット数 71 チーム打率.252
DET 63 .304
TEX 58 .257
LAA 56 .272
NYY 54 .249
2012 American League PH/HR/Situ Hitting - Baseball-Reference.com


だが、これをwOBAで見てみると、話は全然違ってくる。
ベスト5からシアトルが消え、かわりにボルチモアとタンパベイ、要するに、東地区のチームの名前が上がってくる。この理由はもちろん、シアトルのヒット数に占める長打の割合が低いから。
他方デトロイトは、何度も書いているように、もともとチーム打率の高いチームで、しかも今年から長打力向上のためにプリンス・フィルダーを獲り、他の打者も好調。今年のデトロイトは、ヒット数も長打力も東地区のチームを圧倒しており、ア・リーグ断トツの打撃力を誇るチームといえば、デトロイトだ。

DET .360
NYY .334
BAL .333
TEX .330
TBR .329
American League Team Stats » 2012 » Batters » Dashboard | FanGraphs Baseball


こういうことを書くと、すぐに「やっぱり野球は長打だよな」なんて馬鹿なことを言いたがる人間がいるものだ(笑)。
まぁ、論より証拠、ア・リーグ各チームの得点数を見てもらおう。長打をバカスカ打って得点しまくっている「はず」の東地区のチームの名前が、再び消え失せる。東地区の野球が、いかに「塁打数がムダに多いが、実は得点に結びつかない、大味な野球」になっているかが、よくわかる。

DET 40
TEX 31
SEA 31
LAA 30
NYY 29


あの極限的貧打だったシアトルの得点数が、今の時点だけならア・リーグトップクラスというのにも驚かされるが、もっと驚かされるのは、その得点の多さがチーム勝率にほとんど反映されない点だ(笑) (まぁ、まだホームでゲームしてないという点は差し引いてもいいが)
野球というものは、常識的なチーム運営をやっているだけなら、投手力と打撃力が両立することはない。予算というものは無限ではないのであって、よほど一方的に勝つトレードでもできない限り、オフェンスに注力すればディフェンスが低下する、またはその逆の現象が起きるだけのこと。
シアトルが先発投手を犠牲にしてバッティングの充実を図るような偏った補強ばかりしていれば、あの素晴らしかった投手力が急降下して打撃にチームカラーがシフトするくらいのことは想定内。しかも、その内容は効率的なものではない。


今シーズンのア・リーグで、そのバッターが打席に入ったときにいたランナーの人数の合計(Baserunners, BR)、ランナーが得点した点数(Baserunners who Scored, BRS)、ランナーの人数に対する得点の割合(BRS%)を見てみる。(ランナーといっても、ここでは「得点圏走者」という意味ではないし、BRS=RBIとは限らない。それにしても、「ランナーを多く背負う打順」というのが、チームにもよるが、実は4番より、3番や5番6番だったりするデータなのが面白い)

打席でランナーの多いバッター ベスト20
Nick Swisher     31人 4点 13%
Derek Jeter      24 2 8%
Justin Smoak   22 1 5%
Brennan Boesch   21 5 24%
Ben Zobrist      21 3 14%
イチロー        21 3 14%
Torii Hunter      21 3 14%
Jose Bautista     21 1 5%
Robinson Cano    21 0 0%
Michael Young    20 6 30%
Adrian Gonzalez   20 5 25%
Mark Teixeira     20 1 5%
Jeff Keppinger    20 0 0%
Carlos Pena      19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Nelson Cruz      19 4 21%
Kurt Suzuki       19 3 16%
Matthew Joyce    19 3 16%
Vernon Wells      19 2 11%
Michael Saunders 19 1 5%

打席でランナーがいるシチュエーションの多いバッターのランキングには、ヤンキースはじめ、東地区のバッターの名前がやたらゾロゾロ挙がってくるわけだが、彼らの「ランナーをホームに帰す率」が総じて低い。いくら長打があるとはいえ、彼らの得点効率(ひいては、彼らの高額なサラリー対する得点効率)は、けして良くはないことがわかる。もし彼らがホームランを打てなければ、いくら長打が打てても無駄が多いバッターが多いだけに、チームの得点力は急激に下降線になる。

またシアトルは、たとえ長打は少ないにしても、ヒット数は多いのだから、得点につながる野球ができているか、というと、そんなことはない。いくらランナーを数多く出そうと、例えば4番スモークにランナーを帰すバッティングができないのだから、得点には天井が決まってしまう。
(というか、今年のローテ投手の防御率悪化は目に見えているのだから、投手を犠牲にして獲得した打者たちがチームの得点数を大きく伸ばす日でも来ない限り、得失点差は永遠に改善されず、得失点差に影響される勝率は改善されない
シアトルで、ヒット数が多い割に得点につながらないのには、ちゃんと理由があって、それはよくいわれるような「長打が無いから、得点できない」わけではない。スモークを4番に使わなければならない理由は、今のところ、どこにもない

ランナーの多さが得点につながらないバッター ベスト5
Robinson Cano (NYY) 21人 0点 0%
Jeff Keppinger (TBR 6番打者) 20 0 0%
Justin Smoak (SEA) 22 1 5%
Jose Bautista (TOR) 21 1 5%
Mark Teixeira (NYY) 20 1 5%
Michael Saunders (SEA) 19 1 5%

逆に、ランナーをムダにしないバッターのランキングをみると、東地区のバッターの名前が消え、デトロイトのバッターが浮上する。これが今年のデトロイトの強さ。
3番ミゲル・カブレラは、ランナーを背負って打席に立っている打者ベスト20に入っていないが、それでも44%のランナーをホームに帰してしまうというのだから、驚異的。誰だって、そんなバッターと勝負したくはない。

ミゲル・カブレラの打席にランナーが思ったほど多くない理由は、2番バッター、ブレナン・ボーシュの打点の多さを見れば、なんとなく理由が想像できる。
デトロイトと対戦する投手にしてみれば、3番ミゲル・カブレラと勝負するくらいなら、2番ボーシュとの勝負を選ぶわけだが、実は打率こそ低いものの勝負には強いボーシュにタイムリーを打たれて涙目、なんていうケースが増えつつある。(3番に座ったイチローの前の、2番バッターに打点が増えつつあるのにも、似たような理由がある。かつては1番イチローの前の9番ベタンコートにもそういう打点恩恵があった)
デトロイトのリードオフマンといえば、かつてはカーティス・グランダーソンだったが、グランダーソンのサラリーが高騰する前にヤンキースにトレードして、かわりに獲得した1番・センターオースティン・ジャクソンが絶好調で、グランダーソンの穴を完全に埋めて余りある活躍をみせつつあるのも大きい。
グランダーソンに払うはずだった高いサラリーを考えると、グランダーソンが毎年ホームランを40本打ち続けるとはとても思えない以上、オースティン・ジャクソンとダグ・フィスターの2人は、「給料は安く、戦力は高い選手」を獲得できた、理想的な勝ちトレードだ。こういう選手獲得によってペイロールを節約しながら戦力補強できるからこそ、デトロイトはプリンス・フィルダーに食指を伸ばせた。

ランナーが得点につながるバッター ベスト5
(Miguel Cabrera 16人 7点 44%)
Michael Young 20 6 30%
Carlos Pena 19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Adrian Gonzalez 20 5 25%
Brennan Boesch 21 5 24%


ちなみに、Ptn%(Percentage of PA with the platoon advantage)というデータで見ると、シアトルが72%で、ア・リーグトップ。(2位はOAK71%、3位CLE65%。最下位はTEXの45%。デトロイトは53%。強力打線のチームは打線をそれほどいじっていない)
この数値は、相手ピッチャーが左なら右打者を並べ、右なら左バッターを多くぶつけるという風に、「相手投手の左右に対して、打者の左右が逆になっているパーセンテージ」のこと。
シアトルは、上位打線にフィギンズ、スモークと、2人のスイッチヒッターがいるわけだから、もともと相手投手の左右にあわせやすい打線ではあるが、この2人だけでPtn%が「72%」もの高さになるわけがないわけで、あくまで高いPtn%の元凶は、監督エリック・ウェッジが相手投手に合わせて打線をいじりたおす「深刻な左右病」にある。

だが、以下の数値を見なくとも、シアトルのゲームを常に見ていればわかるように、ヒットにしても、ホームランや長打にしても、シアトル打線のヒットの大半は「投手の左右を気にしない左バッターの活躍」によるものであり、ウェッジが相手投手によって打線をコロコロ入れ替える戦略が、ヒット数の多さにつながっているわけではない。
事実、ブレンダン・ライアン、ミゲル・オリーボ、キャスパー・ウェルズなどと、休養しているグティエレスも含めて、シアトルの右バッターの大半はまるで機能を果たしていない。また、スイッチヒッター、スモークの右打席も機能していないし、ヘスス・モンテーロのスイングは明らかにスラッガーのスイングではない。
エリック・ウェッジの「左右病」がシアトル打線の好調さにつながっているわけではないのだから、本来なら、好調な打者をどんどん上位に移して、不調のスモークをさっさと4番からはずすべきだ。
だが、シアトルというチームは、いつもそうだが、「どうせそのうち、そうせざるを得なくなること」を、すぐには実行せず、しばらく様子を見て症状を重くして失敗する。
弱いチームの「弱さ」とは、一瞬のチャンスをモノにできない「引きの弱さ」であり、また、予想できるピンチを回避できない「逃げ足の遅さ」である
長くは続かないチャンスをモノにしないうちに、左バッターの好調期間が終わってしまえば、また元の貧打に戻るのは目に見えている。

vs RHP as RHB 打率.230 ヒット数14
vs RHP as LHB .260 45
vs LHP as RHB .156 5
vs LHP as LHB .438 7
RHP=右投手、LHP=左投手
RHB=右バッター LHB=左バッター
2012 Seattle Mariners Batting Splits - Baseball-Reference.com


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