May 11, 2012

2勝1敗と勝ち越したデトロイト3連戦におけるイチローの活躍は、それはそれは素晴らしいものだったのだが、イチローのプレーの意味、深さをきちんと語りきるだけの能力が、日本とシアトル、どちらのメディアにもないようだ(笑)
ならば、しかたない。基本的なことばかり書かなければならないのでメンドクサイが、このブログで多少触れておくことにする。
デトロイトの弱点であるブルペン投手を打った選手を持ち上げて騒いでいるようなことでは、野球の面白さなんて、伝わりっこない


バーランダーフィスターポーセロシャーザーベノワバルベルデデトロイトの主力ピッチャーは、ほぼ全員が右投手だ。
そのせいか、基本的にチーム全体が「左バッターに対する苦手意識」を持っている。(もちろん、優れたバッター、優れたピッチャーは、「左右病」なんてもの自体に縁がない)
ここに、まず第一のポイントがある。

デトロイトのスターター全体のERAは、3.75とそれほどかんばしくもないが、これはシャーザーなど、4番手5番手のローテ投手のERAが良くないからそうなるだけのことで、バーランダー、フィスター、スマイリーの先発3本柱のERAは十分過ぎるほど優れた数字であり、また、彼らはバッターが左か右かをそれほど気にしない。

4月の初登板で脇腹を痛めていたフィスターの復帰によって、デトロイトはシアトル3連戦に「数字のいい主力スターター3人」をズラリと並べることができた。しかも、そのうちのひとり、ドリュー・スマイリー(一部メディアでは『シミリー』と表記している)は、デトロイトでは貴重な左の先発。
だから、地区優勝を狙うデトロイトとしては、なおさらシアトル3連戦は「負け越すわけにいかないカード」だった。

そして先発投手は3人ともゲームを作った。
フィスター    7回4安打無四球 失点なし
バーランダー  6回7安打2四球 3失点
スマイリー    6回2安打2四球 1失点

だが、実際には、表ローテで臨んだデトロイトは1勝2敗と負け越してしまったのであり、その原因を作ったのが、イチローだという話を、以下に書く。



現状のデトロイト投手陣の最大の問題は、
セットアッパーの浴びる長打と、9回の酷さだ。

イニング別チームERAで見ると、6回〜8回のERAが、3.30から3.60(5月10日現在)であまり冴えないが、被打率はそれぞれ、.246、.183、.236で、それなりに抑えてはいるので、セットアッパーが長打を浴びる悪癖さえ直れば、ゲーム中盤のERAはすぐに改善できる。

本当に問題なのは、9回のピッチャーの酷さだ。9回の被打率.356、ERA7.20というのは、優勝候補の下馬評の高かったデトロイトが勝率5割に低迷する原因と、ハッキリ指摘していい。



ブルペンに弱味のあるデトロイトとのゲームにおいて、ゲーム終盤に、冴えないブルペン投手が出てきて失点してくれることは、わかりきったことなのだ。
だから、デトロイト戦でゲーム終盤に出てきた冴えないブルペン投手を打ち、「おいしいところをもっていっただけのヒーロー」になる「運のいいバッター」が出てくることは、「よくある話」であって、メディアがその
「運のいい選手」を(特にシアトルの地元メディアが)ほめそやしたがることに、ほとんど意味はない。


Jason Beckは、MLB公式サイトのデトロイト担当記者だ。
彼がこのシアトル3連戦について書いた「デトロイト側の視点から見た、シアトル3連戦におけるイチローのいやらしさ」についての記述が、非常に面白い。
その視点は、デトロイトのアキレス腱とわかりきっている「ブルペン投手」を打ち、弱点であるクローザーを打って勝ちを拾ったことに、ぬか喜びしているシアトルの単細胞なメディアの視点とは、全く違っている。


まず最初に、
デトロイトが9回裏にサヨナラ負けした5月7日の第1戦
イチローがドーテルから選んだ四球について。

2012年5月7日 9回裏 ドーテルから四球を選ぶイチロー

この日の9回裏のシアトルの打順が、2番から、右のライアン、左のイチロー、右のモンテーロであることを、あらかじめ頭に入れて以下を読んでもらいたい。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 7, 2012 | MLB.com Gameday

Jason Beckは、リリーフの右腕オクタビオ・ドーテルが、イチローに打順が回る9回裏に登板したことについて、自身のブログに次のようなことを書いている。
Nobody on the Tigers pitching staff owns right-handed hitters like Dotel has over at least the last couple years. And the one lefty Dotel was due to face, Ichiro Suzuki, was 1-for-10 with five strikeouts lifetime against him. By comparison, Ichiro is 5-for-11 off Phil Coke, including 4-for-6 since the start of last season.
(右腕の)ドーテルが少なくともここ数シーズンにわたって右バッターを抑えてきたほど、右バッターを抑えてこれたタイガースのピッチャーはいない。ドーテルが対戦した唯一の左バッター、イチローは、キャリア通算でドーテルに対して、10打数1安打で、5三振を喫している。ちなみに、比較としていうと、フィル・コークは、(本来は左バッターに強いはずの左腕であるにもかかわらず) 昨シーズン序盤の6打数4安打を含めて、11打数で5安打されている。
If you were going to go to the bullpen for the ninth, even with Phil Coke available, Dotel was the most logical option.
もし9回に起用するブルペン投手を選ぶとしたら、まだフィル・コークが使えるケースであったとしても、ドーテルが最も合理的な選択だった。
出典:Taking apart Monday’s walkoff loss « Beck's Blog


Jason Beckの言い分は、しごくもっともだ。

右のドーテルは、もともと右バッターに強いピッチャーで、かつ、左のイチローも抑えてきた。それに対して、左投手の少ないデトロイトで、本来は左に強いはずの貴重な左投手フィル・コークは、イチローに好きなように打たれまくってきた歴史がある。
だから、9回裏同点の場面での右腕ドーテルの登板について、「右、イチロー、右」と続くイニングに登板させる投手として、これ以上の選択はない、と断言するJason Beckの発想に疑問を挟む余地はない。
(彼の発想が、まるで「左右病」から抜け切れておらず、本来、左投手をまるで気にしないイチローの凄さを理解してないものであることは、しかたがない)

キャリアの長い右投手ドーテルの「対イチローのキャリア通算成績」は以下の通り。
資料:Ichiro Suzuki vs. Octavio Dotel, 2002 to 2012, Regular Season and Postseason
たしかに、12打席10打数1安打。イチローがシーズン安打記録を作った2004年でさえ、5打席5三振を喫している。四球も、これまでの12打席で、たったひとつしかない。
まぁ、たった12打席やそこらのサンプル数を根拠に、ピッチャーの左右などほとんど気にしない天才打者イチローをドーテルが抑え込めると考えてしまうのは、あまりにもイチローという打者の凄さを知らなさ過ぎるわけだが、その点はここでは置いておこう。


とにもかくにも、デトロイト側は、「ドーテルでイチローを抑えらえる」と踏んだ。舐めてかかったわけだ。
だが、実際には、イチローは苦手ドーテルから貴重な四球を選ぶことで、サヨナラ劇場のドアを開けたのである。
ドーテルにしてみれば、抑える自信があったはずのイチローに四球を選ばれてしまったことの精神的ショックが、その後の2つのワイルドピッチにつながった、といえば、ちょっと言い過ぎだろうか(笑)

他チームなら、イチローへのワンポイントとして、左投手をリリーフさせるという選択もあるだろう。
だが、右腕だらけのデトロイトには、ただでさえ左投手が少ない。その上、イチローはデトロイトの左のセットアッパー、フィル・コークをまったく苦にせず、打ちまくってきた歴史がある。
イチローは、デトロイトの「鬼門」なのだ。


次に、5月8日第2戦
先発バーランダーから打った先制タイムリーについて。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com Classic

2012年5月8日 イチロー バーランダーからタイムリー

バーランダーとイチローの過去の対戦成績は、以下の通り。
通算では、打率.333、SLG.451と、バーランダーをずっと打ちこなしてきたイチローだが、不振だった昨年2011年だけは、7打数1安打と、抑え込まれた。ここがポイントだ。
Ichiro Suzuki vs. Justin Verlander, 2006 to 2012, Regular Season and Postseason

イチローを抑える配球パターン、というと、シーズンごとに多少違うが、典型的なパターンのひとつといえば、「外のボールで追い込んでおいてから、インコース低めに『膝元から落ちてワンバウンドになる変化球』を投げて、空振りさせる」という「インローの縦の変化球で、空振り三振パターン」がある。

3回裏にイチローがバーランダーから打った先制タイムリーは、まさにそういう典型的な「インロー、空振り三振パターン」で使われる変化球だ。おそらくバーランダーとしては、ほぼ狙いどおりの球が行っているだけに、「よし! 三振もらった!」 と思ったに違いない。

しかし、結果は先制タイムリー

舐めてもらっちゃ困る。
相手の狙いを打ち砕くタイムリーは、相手の自信を打ち砕く一打でもある。舐めてかかる相手を必ず痛い目にあわせるのが、イチローだ。



次に、5月9日の第3戦
スマイリーから打ったヒットについて。

2012年5月9日 イチロー デトロイト先発スマイリーからヒット

「相手の狙いを打ち砕く」という意味合いは、第1戦のドーテル、第2戦のバーランダーだけでなく、第3戦でイチローが先発スマイリーから打ったチーム最初のヒットにも同じことがいえる。
左腕スマイリーが左のイチローのアウトコースに投げた、クロスファイヤー風に逃げていく絶妙なコースのスライダーを、うまく流し打たれてヒットにされたのだから、打たれたデトロイト側にしてみれば、「してやられた気持ち」になったはずだ。

この2球目が、イチロー対策としてよくある「外のボールで追い込んでおいて、インローにボール球を投げる」というパターン配球の一貫だったかどうかまではわからないが、少なくとも、この外のスライダーで 「よし。イチローをパターンどおり追い込めた」と、バッテリーが考えた瞬間に打たれたヒットであることは、おそらく間違いない。

その証拠に、第1戦におけるデトロイトのイチロー対策失敗にブログで触れていたデトロイト側のビートライター、Jason Beckは、この第3戦でも、イチローについてこんなことを書いている。イチローが6回に打ってアウトになったレフトライナーにまで触れているのだから、よほどショックと悔しさがあったのだろう。

Smyly didn't allow a base hit outside of the fourth inning, when Ichiro Suzuki went to the opposite field on a single and Kyle Seager doubled off the right-field fence for a two-out RBI.
スマイリーは4回まで外野に飛ぶヒットを全く許していなかった。 だが、4回にイチローに流し打ちでヒットされ、カイル・シーガーに2アウトからライトフェンス直撃タイムリーを打たれた。
Just four other balls got out of the infield, with Ichiro's sixth-inning liner to left the only one with much authority. The Mariners swung aggressively, but Smyly and Laird used that against them to change speeds and get swings and misses.
他の外野への飛球はそれまでわずかに4つだったが、しっかりとらえられた打球といえば、イチローの6回のレフトライナーと、このタイムリーだけだった。(以下省略)
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com DET Recap


最初にも書いたように、デトロイトの主力投手は大半が右投手だ。だから、当然のことながら、左の先発スマイリーが今後貴重な存在になることは、言うまでもない。
その貴重な先発左腕の球が、左バッターのイチローにヒットやライナーを打たれた、という事実は、デトロイト側にしてみれば非常に気の重い事実だ。これまで、左のセットアップマン、フィル・コークが、イチローにいいように打たれまくって「カモにされ続けてきた」のと同じように、左腕スマイリーもイチローに打たれまくる未来を予感させるからだ。
右腕の多いデトロイトに新たに登場した新鋭の先発左腕までイチローに「これからずっとカモられる」のでは、デトロイトとしては、たまったものじゃないのである。


デトロイト3連戦におけるゲーム終盤、決定的な弱点であるブルペン投手が登板してくる場面でデトロイトは、イチローを四球で歩かせてマトモにバッティングさせない戦略をとったわけだから、イチローは試合を決定する場面で好調なバッティングを披露するチャンスには恵まれなかった。(もちろん、歩かせたイチローが生還したことでゲームが最終的に決した、という意味で言えば、「ブルペンが弱点だからイチローを歩かせる作戦」はかえって墓穴を掘った


復帰してきたフィスターからいきなり打った初回のツーベース。
苦手ドーテルから選んだ四球。バーランダーから打った先制タイムリー。デトロイト期待の新鋭スマイリーから打ったチーム初ヒット。
こう並べてみたとき、わかるのは、
デトロイトとの3連戦でイチローは、デトロイトのウイークポイントであることがわかりきっているブルペン投手ではなく、むしろ、デトロイトの誇る先発投手3人を全て打ち、また、デトロイトが右バッター対策で獲得した苦手のドーテルから四球を選び、しかも、「イチローを抑えこんできたはずの典型的な配球パターン」を破壊して、この3連戦全ゲームにおいて「ゲームを動かす突破口を築いた」 ことである。


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