September 06, 2012

「父親とベースボール」という記事の最後のまとめに向かって資料を読みあさる毎日が続いている。

Black Athena Writes Back: Martin Bernal Responds to His Critics例えば、『黒いアテナ』によって歴史学に旋風を巻き起こしたマーティン・バーナルが、『黒いアテナ』に対する各界からの反論に対する再反論をまとめた著作 "Black Athena Writes Back: Martin Bernal Responds to His Critics" (デューク大学出版会)は、日本では今年やっと訳本が出版されたばかりだが、その序文でバーナルは、「文化のオリジナリティをどう判断するか」について、非常に面白い指摘をしている。
この指摘は、短く触れるのがもったいないほど、あまりにも面白い。そのうち時間をみつかればちょっとした解説を書くつもりだが、「さまざまなものが外部から流入してミクスチュアを起こした場所にも、ゆるぎないオリジナリティは存在する。『流入』と『オリジナリティ』は矛盾せず、両立する」というバーナルの「オリジナリティに関する新しい発想」は、あまりにも面白い。

実は、この話が書かれているのは、序文ののほんの数行にすぎない記述部分なのだが、あまりにもクリエイティブな発想が含まれているためか、電気で打たれたように目からウロコが落ちた。
ロンドンオリンピックのあまりにも退屈な閉会式にみられたように、音楽であれファッションであれ、今のクリエイティブがあまりにもつまらないと感じている人には、ぜひこの著作の序文を読むことを薦めたい。それくらい、バーナルの基本姿勢はいい。


バーナルの『黒いアテナ』によって欧米文化の根幹を否定されたかのように感じて、躍起になって反論したがる欧米の研究者はとかく多いわけだが、独特の発想から「日本文化のあり方を敬愛する」と語るマーティン・バーナルは、実はギリシア文化をまったく否定などしていない。
ギリシアと日本とアップルの文化的共通点を、むしろ、バーナルなら記述できると思う。誰かこのテーマで彼にインタビューをすればいいのに、もったいない。日本文化には大陸から伝わったものも少なくないが、その大半をオリジナル化することに成功した日本独特の「オリジナル化するチカラ」の高さが、これほど短い言葉でわかりやすく説明されたのは初めてなのではないだろうか。

「起源こそがオリジナリティである」なんていう決めつけは、「最もオリジナリティのないオリジナリティ観」である。なんでもかんでも「起源」にこだわるような硬直した古い歴史観では、変容しつつある「オリジナリティの新しい意味」はまったく理解できないだろう。
(それは、他国の創造物をパクリ続けている人たちの好きな、みすぼらしい起源論とやらからも、また、以下のくだらない記事にみる某企業の元幹部という人の誤った過去のレビューの発想からも、よくわかる。シャープ元幹部が実名で明かす 日本のテレビが韓国製に負けた「本当の理由」  | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]


と、まぁ、ひたすら野球以外のことにかまけているわけだが、ヤンキース対レイズの初戦で、8回に代打で出たイチローが三振したことくらいはわかっている。

その後、見ていると、この三振について、日本のメディアにも掲示板にも、どこにもきちんとした分析が載っていない。単に思いつきの書き込みや記事が並んでいるだけだ。
どうせ、いつものことだが、誰も彼もきちんとしたデータなど見ずに、テキトーに思いつきだけ書き並べて、「野球を語ったつもり」になっているわけだ。

くだらないにも程がある。

最近、日本と海の向こうの某国との間で、領土やなんやかんやの揉め事が表面化したせいなのかなにか知らないが、感情的なイチローバッシングも相変わらず多い。8番打者が打たないとポストシーズンに行けないような、ひ弱なチームは、最初から強くないのである。簡単な話だ。
また、他方では、カリフォルニアの裁判でサムスンへの訴訟に勝ったアップルへの執拗な攻撃もある。例えば、ニューズウィーク日本版のアップル批判記事などは、よくもまぁ、これだけ根拠の無い記者の主観を並べて批判したつもりになれるものだと感心するような、嘘くさい記事ばかり並んでいる。よほど悔しかったどこかの企業が金を出してパブリシティ記事でも書かせたのだろう。
(それにしても、某携帯電話のショップ内には、どうしてああも、日本語の怪しい人間が常駐しているのだろう? 日本人名のついた名札さえつけていれば日本人だと思ってもらえるとでも思っているのだろうか)


Tony Randazzoに抗議するジラルディ(この後、退場)
タンパベイ初戦でヤンキース監督ジョー・ジラルディは、球審Tony Randazzoの4回のクリス・ディッカーソンに対する見逃し三振判定を巡って、退場処分になっている。

実は、このアンパイアのチームにジラルディが退場させられるのは、今シーズン2度目なのだ。(最初の退場も既に記事にしている)
Damejima's HARDBALL:2012年8月9日、三塁塁審Tim Welkeのレフト線判定の優柔不断さに抗議して退場になったジョー・ジラルディの求める「ファイト」。
今日の4人のアンパイアのうちの3人、Tony RandazzoTodd TichenorBob Davidsonは、ジラルディが三塁アンパイアTim Welkeの判定を不服として抗議を続けて退場になった8月9日のタイガース戦でもアンパイアをつとめていたのだ。因縁の間柄といわざるをえない。



データで見るかぎり、ジラルディを激高させたディッカーソンの4球目判定それ自体は、よくある「きわどい球」のひとつでしかないとは思う。
曖昧なデータでしかないGamedayだけ見てモノを言っている人には「ボール」に見えたかもしれないが、PitchF/Xデータで見ると、たしかに「きわどい高さ」ではあるが、逆に言えば、「よくある普通のきわどい球」でしかない。
また、Tony Randazzoは、もともと低めをあまりとらず、高めのストライクゾーンになる傾向のアンパイアだ。

だが、たとえそうだとしても、ジラルディが退場するほど怒りまくったのも当然なほど、このところのヤンキースに対する球審のコールが酷いのは確かだから、ジラルディの抗議そのものは支持できる。

このところのアンパイアの判定は、このところ常にヤンキースの対戦チームに有利に働きすぎている。なにかこのところ、まるで球審全体が「ア・リーグ東地区を接戦状態にして、9月の野球を面白くしてやろう」とでも思っているかのような印象さえ受ける。
だから、ジラルディの抗議は、こと、ディッカーソンの判定への個別の抗議という意味よりも、このところずっと続いているヤンキース不利の判定の連続に、「もう、いい加減にしてくれ!」と抗議し、アンパイアのパフォーマンスを牽制する意味で、適切な対応だと思うし、当ブログはジラルディを支持する。
(この間のボルチモア戦で、ブルペン投手の酷い継投と、当たっているディッカーソンにアンドリュー・ジョーンズを代打に出したりした采配ミスは最悪だったが、それはそれ。ミスのない監督など、いない)


退場に関するデータをまとめているClose Call Sports: Ejectionsでも、さっそくこの退場をデータを交えた記事にしている。
Close Call Sports: Ejection 148: Tony Randazzo (2)


ジラルディが退場になったディッカーソンの4球目判定よりも、問題なのは、同じゲームの8回に代打で三振したイチローへの2球目の判定だ。
このイチローへの2球目の、アウトコースの4シームの判定の悪質さ、酷さに比べたら、ディッカーソンの4球目の判定くらい、どうっていうことはないレベルなのだ。
というのは、8回表のイチローへの2球目のストライクコールは、ありとあらゆるデータ上においてパーフェクトに「ボール」であり、しかも、このゲーム全体において「8回のイチローの打席でしかやっていない、異質かつ悪質な誤判定」だからである。

それくらい、8回のイチローへの2球目の判定は酷いし、悪質だ。

アウトコースにボール3個半から4個くらい外れているクソボールを「ストライクコール」されたら、どんなバッターでもインコースいっぱいの球(4球目)に手が出るわけがない。三振して当たり前だ。

Tony RandazzoTony Randazzo


まぁ、データを見るといい。

2012年9月4日 イチロー 8回表 三振New York Yankees at Tampa Bay Rays - September 4, 2012 | MLB.com Classic


2012年9月4日イチロー 8回表 三振 球審Tony Randazzo
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool

何度も何度も書いてきているように、MLBでは左打者と右打者のストライクゾーンは同じではない。(もちろん、世の中の野球ファンとやらは、そんなこと気にもかけずに、知ったかぶりを語り続けている)
優れたPitchf/xデータを提供してくれているBrooks Baseballが、球審のコール(=打者の見逃した球)をマッピングする際には、まずいったん全データをマップ上に並べ、次に、それぞれのバッターの体格の違いを考慮した補正を加え、さらに、右バッターと左バッターで分けて表示している。

上の図は、この日の球審Tony Randazzoが、左バッターに対して行ったコール(打者の見逃した球のみ)をいったんマッピングして、その後補正したマップだが、黒い実線で囲まれた四角形は「ルールブック上のストライクゾーン」であり、黒い四角形の左側部分に延長されている「破線部分」は、「MLBの球審が、左バッターに対する判定を行うとき特有の、アウトコースのストライクゾーンの広さ」を示している。
左バッターのアウトコースのゾーンの拡大部分の大きさは、アンパイアによって個人差はあるが、標準的には、だいたい「ボール2個分程度」と考えられる。

このデータを見てもらうとわかるとおり、イチローへの2球目のアウトコースの4シームは、ボール3個半くらいは外れており、しかも、こうしたアウトコースの「異常に広い判定」は、このゲームにおいて、なんと、「たった一度しか行われていない」のである。
ゲーム全体を通じてアウトコースの判定が広かったのならいざ知らず、この球だけをストライクとコールしたのだから、「悪意のある判定」と断定せざるをえない。

2012年9月4日 イチロー 8回表 2球目の誤判定 球審Tony Randazzo
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - PitchFX Tool │ 2012年9月4日 8回表 イチローの打席のデータ

去年4月に、球審Marvin Hudsonによるイチローの見逃し三振判定を記事にしたことがあったが、今回のTony Randazzoは、あれよりも酷い。このゲーム全体を通じてTony Randazzoはそこそこ正確な判定を行ったゲームでの出来事なだけに、Tony Randazzoには、ジラルディとともに「おまえ、いい加減にしろ」と言いたい。
Damejima's HARDBALL:2012年4月22日、球審Marvin Hudsonによる9回裏イチロー見逃し三振判定を異常と断言する「3通りの理由」。


それにしても、地元のチームが優勝争いをしていて、しかも、人気チームのヤンキースとゲームをした夜だというのに、17000人ちょっとしか観客が入らないタンパベイは、根本的な何かがマーケティング的に間違っている。ほんと、ありえない不人気球団だ。


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