September 29, 2012

適度に、とか、手加減なんて意味のないことをしないのが、
イチローの真骨頂だ。


9月19日からのダブルヘッダーを含むホーム3連戦でトロントをスイープしたあたりで始まった 「イチロー・ミラクル・セプテンバー」は、当然、オークランド戦以降も形を変えつつ続いている。
ある期間、イチローの走攻守は「度を越した好調」を維持し続けていた。あまりに好調過ぎて「ときどき度を越してしまう」のだが、ますます「空気の読めないイチロー」らしくていい(笑) 

そういう「周囲の空気と無関係に生きるイチロー的な流れ」の中で、9月21日以降のオークランド3連戦では、「野球マンガの中でしか起こりえないような出来事」がびっくりするほど次々と起きた。
第1戦で「イチローの打球が、ピッチャーのジャージーの中に入って内野安打」。「ワンバウンドするほど低いカーブを、軽々とヒット」。第2戦では、「新人君のサードベース踏み忘れで、サヨナラならず」の直後、「延長でとられた4点差を追いついて、しかもサヨナラ勝ち」。

ミネソタ3連戦はそれなりに平凡なゲームだった(笑)が、9月27日からのトロント(ビジター)第2戦で「グランダーソンのピッチャーライナーが、ピッチャーのグラブをはじき飛ばしたが、ピッチャーがそのグラブごとキャッチして、アウトになった」という非常に珍しいシーンを見たとき、「しめた! このゲーム、間違いなく勝った!」と思ったものだ(笑)


「特別なことが起きたゲームは、勝つ」。
その理由を、以下に書く。



最近活躍が多いせいで、大きく増えたイチローに関するアメリカのメディア記事を読んでいると、「火のついたイチロー体験」のまだ浅いメディアやブロガーが、いまだにたくさんいることがわかる。
なぜって、「火のついたイチローの周囲では、野球マンガでしか起こらないようなことが、平気で起きる」。そして、それこそが「本来のイチローの持ち味」だ、ということを、いまだに彼らが理解できていないからだ。


悪いけれど、日本の熱心なイチローファンなら、こんなことは、はるか昔から誰でもわかっている。

その、「とっくにわかっている我々」でさえ、イチローがプロデビューして20年、いまだに、なぜか「火のついたときのイチロー」が関わると「野球マンガでしか起こらないはずの出来事が普通に起こる」ことに驚かされ続けているのだ。
ましてや、「火のついたイチロー」未経験のニューヨーカーや、真のイチローの凄さに気がつこうとしてこなかったアメリカの野球オヤジどもが、「イチローと、イチローの出場するゲームで、野球マンガでしか起こらないような風変わりなことが次々と起こること」に、ビックリさせされないわけはない。(まぁ、イチロー初心者には、無理もないが)


だから逆に言えば、「イチローに火がついているかどうか、確かめる作業」なんてのは、まったく難しくない。キャンプ場で焚火するより簡単。子供でも、できる。
イチローと、イチローの出場する現実のゲームにおいて、「野球マンガでしかありえないようなことが、起きているかどうか」を確かめるだけ、それだけでいいのだ。
それが、「イチローに火がついているかどうか」を確かめる「リトマス試験紙」だ。

よくSF映画で、「時空の歪み」を計測することによって、その場所で「ワープ」が起きていたのかどうか確かめるシーンがあるが、あれと意味はほぼ変わらない。
もしもし「イチローに火がついた」なら、野球という常識まみれの空間は多少歪んでしまい、普段起こらないようなことも平気で起きるのである。だから、イチローに火がついたら、多少のハプニングで驚いていてはいけないのだ。


だからこそ、例えばワンバウンドの球ですらヒットにしてきたイチローを、やれ出塁率だの、選球眼だのと、へリクツばかり言うヤツは馬鹿だと、ブログ主は常に公言している。
ワンバウントの球を打ち、まるでスパイダーマンのように壁によじ登って捕れるはずのない打球を捕球し、ありえない塁まで盗塁しようとするくらい、「火のついたイチロー」には普通の出来事だ。
コアなデータ分析家の多いアメリカですら匙を投げたイチローに、ファン、メディア、データ馬鹿、評論家、野球監督、無能GMの「データや常識などという、あさはかなモノサシ」など、通用しない。


常識がはりめぐらされた「結界」のような膠着状態を打ち破る陰陽師のような役割が、イチローの本来の持ち味なのだ。
だから、膠着状態の続いた状態でイチローが塁に出ることによって、ホームランに頼ってばかりでタイムリーが出ず、得点力が大幅に低下して負け続けていたヤンキースに新たな展開が生まれてくるのは、当然のことだ。

だからこそ、他チームの監督、特にイチローをよく知るバック・ショーウォルターボブ・メルビンマイク・ソーシアなどは、「均衡破りのプロ」イチローの出塁を忌み嫌う。
当然だ。彼らは、「火のついた状態のイチロー」が出塁することによって、あらゆる均衡がほころびて、結界が破れることを、リクツ抜きにわかっていて、イチローのプレーから自由を奪うことに躍起になって取り組んできたのである。

もうおわかりだろう。
ゲームで、「おいおい、こんなことが起こっていいのか?」と思うような出来事を見たら、それはイチローが好調をキープしている証拠だと思っていいのだ。


9月21日 オークランド 第1戦
シャツヒット

Oakland Athletics at New York Yankees - September 21, 2012 | MLB.com Classic

3回裏、まだヤンキースにヒットの無い場面で、イチローの打球が、オークランド先発、ジャロッド・パーカーが、エリのボタンをはずして着ていたジャージー(ユニフォームの上のシャツのことだ)の中に飛び込んでしまう。
パーカーは、ボールを捕り出してファーストに送球しようと、襟元から手を突っ込んで必死にもがいたが、ボールを取り出すことができず、結果的にイチローは内野安打になり、ヤンキースのチーム初ヒットが生まれた。
次のイニング、マウンドに登場したパーカーの襟元のボタンは「きっちりと閉められていた」のを見たYES(=ヤンキースの実況担当チーム)の実況席は笑いころげた(笑)
試合後イチローも「一生に一度ないことでしょう」と言ってニヤニヤしていたようだ。たしかに一生見ることのないはずの出来事が起きたのは事実だが、逆に言えば、そういう「野球マンガでしか起きない、ありえないプレー」を、現実の野球で起こし続けてきた選手に言われてもなぁ・・・、という気もする(笑)
試合は結局ラッセル・マーティンのサヨナラホームランで、ヤンキース勝利。

9月22日 オークランド 第2戦
新人君のサードベース踏み忘れ
延長4点差をひっくり返してサヨナラ勝ち
延長13回表にオークランドに4点をとられ、誰もが「万事休す」と思った13回裏。先頭バッターのイチローがセカンド内野安打で出塁すると、均衡が破れた。あれよあれよと言う間にチャンスが広がって、ノーアウト満塁。
ここでまず、ピッチャー、パット・ネシェックがワイルドピッチ。イチローが生還して、3点差。さらに犠牲フライに続いて、ラウル・イバニェスの起死回生の2ランが飛び出して、同点に追いつく。
14回裏、エリック・チャベスがシングルヒットで出塁。ジーターがバントで送って、1死2塁のサヨナラのチャンスを作る。オークランドは、絶好調の2番イチローを敬遠して、1死1、2塁。ここでAロッドがセンター前を放った。本来ならセカンドランナーが生還してサヨナラになり、Aロッドがヒーローになる「はず」だった。
ところがなんと、セカンドランナーとして代走起用された新人メルキー・メサがサードベースを踏み忘れてしまい、ベースを回ってから気づいて、あわてて塁に戻るというボーンヘッドが起き、サヨナラを逃した。
1死満塁で、次打者カノーはピッチャーゴロ。サードランナーが本塁憤死して、2死満塁に変わり、バッターはヌネス。
ここでヌネスはファーストゴロだったのだが、オークランドの一塁手、ブランドン・モスが打球を足で蹴飛ばしてしまい、エラーに。サードランナーのイチローが生還し、ゲームセット。
まるで測ったように、イチローで始まり、イチローが生還したイニングによって、ゲームが終わった。
Oakland Athletics at New York Yankees - September 22, 2012 | MLB.com NYY Recap

サードベース踏み忘れ


動画:Budweiser: Walk-Off A Hero | OAK@NYY: Yankees walk off on an error in the 14th - Video | MLB.com: Multimedia


9月28日 トロント 第2戦(ビジター)

ボール&グラブ フライ・キャッチ

初回の2死2塁で、カーティス・グランダーソンが、トロントの新人ピッチャー、チャド・ジェンキンズのグラブを弾き上げるほどの強烈な当たりを打った。ジェンキンズはその打球をグラブに収めたかに見えたが、あまりにも強い打球だったために、ジェンキンズのグラブは真上に跳ね上がった。
だが、そのボールの入ったグラブが真上に跳ね上がったことが幸いして、ジェンキンズは落ちてきたボールとグラブを、グラブごとキャッチしたため、グランダーソンはアウトになった。
ジェンキンズは立ち上がりこそヤンキース打線を翻弄するかに見えたが、ランナーが出てからのピッチングがまったくダメなことがわかり、失点を重ねて、いつのまにかヤンキースの楽勝に終わった。


--------------------------------------------------


さて、かの有名なデータサイト、Baseball Referenceで、イチローのページを開けると、こんな表記がある。
Ichiro Suzuki Statistics and History - Baseball-Reference.com

Ichiro the Wizard


太字の名前に続けて、2行目に、Wizard とある。
Baseball Referenceでは、名前の後にカッコ書きがつく場合、その選手のニックネームとか略称という意味になる。Wizardとは「魔法使い」のことだが、データサイトの大御所であるBaseball Referenceが、アメリカにおけるイチローの代表的なニックネームとして、Wizardを挙げているわけだ。

だがこれは、日本ではコアなイチローファンくらいしか知らないニックネームだし、アメリカのスポーツメディアが記事でイチローのニックネームとされるWizardという単語を使う機会も、滅多にない。


データサイトの大御所であるBaseball Referenceは、プレーやゲームのデータについては、MLBの公式データにも肩を並べるくらいの高い権威があるのは確かだが、さすがに「選手のニックネーム」ともなると、Baseball Referenceに書かれているニックネームの全てが、ファンやマスメディアに広くオーソライズされているわけでもない。

例えば、デレク・ジーターのニックネームは、Baseball Referenceによれば "Mr. November" とか、 "Captain Clutch" とか記載されているが、実際に最もよく使われるニックネームといえばは、もちろん、短く「キャプテン」だ。
また、ニューヨークメディアはマーク・テシェイラを、短くTex、カーティス・グランダーソンを短縮してGrandyと呼ぶことも多いが、Baseball Referenceにおける記述では、Texは載せているくせに、Grandyのほうは記載していない。
Baseball Reference記載のニックネーム例

ベーブ・ルース
(The Bambino or The Sultan Of Swat)
ゲーリッグ
(The Iron Horse, Biscuit Pants or Buster)
ディマジオ
(Joltin' Joe or The Yankee Clipper)
アレックス・ロドリゲス (A-Rod)
ジーター (Mr. November or Captain Clutch)
テシェイラ (Tex)


では、 "Wizard" というニックネームがまったく使われいないかというと、そうでもない。

イチローがメジャーデビューした2001年のTIME誌の記事にも、既にWizardという単語が使われているし、また、2009年だかにESPNのChris Bermanが行ったイチローのニックネームに関する調査によれば(圧倒的な支持率とは到底いえないが)、いちおう最も高い比率で "Wizard" が1位に支持されている。

"Wizard!" the Mariners cried.
"Wiz-aaard!"
"Wizzzzz!"
Ichiro the Hero - TIME

ESPN.com - Page2 - Case No. 5, Ichiro Suzuki

The BrooklynTrolleyBlogger: N.Y. Yankees ~ Ichiro; The Wizard Comes Home

Ichiro Is Still A Wizard - Lookout Landing

イチローのニックネーム調査結果(ESPN)


The Wizardと名付けられた
シアトル時代の球団CM(2009年)



--------------------------------------------------

移籍して9月以降のイチローの活躍ぶりを見るかぎり、「火のついたときのイチロー」が、かつて石原裕次郎の歌った『嵐を呼ぶ男』、つまり、野球でいうなら、「常識による膠着や、事態の均衡、結界を破って、野球マンガの中でしか起こりえないと誰もが思っていることを、実際の野球で起こしてしまう、ある種、特別なプレーヤーであること」は確実なようだ。

と、なると、この "Wizard" 「魔法使い」という耳慣れないニックネームも、実は非常に要を得たニックネームなのかもしれない、という気がしてくる。


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month