October 08, 2012

自分にとって大事な「ひらめき」だから、忘れないうちに急いでイメージを残しておきたい。

具体的には、以下のツイートをしたときに「見えていたビジョン」を、この10月のジョシュ・ハミルトンミゲル・カブレラのバッティング内容の差異によって裏付けつつ、より鮮明な形にして残しておきたいのだ。まぁ、「イメージの冷凍保存」みたいなものだ。
(けしてハミルトンが凡庸なバッターだとは言わないが、天才だとは思わない。ともあれ、三冠王カブレラよりは確実に平凡だから(笑)、悪いけれど比較対象にさせてもらうことにする)

平凡と非凡を分けるのは、「ホームランの数の差」ではない。
打った3割の中身ではなく、打たなかった7割に差異がある。







「苦手な球にでも手を出してしまうバッター」としての
ジョシュ・ハミルトン

サンプル/2012年10月5日 ワイルドカード BAL×TEX


ジョシュ・ハミルトンが、「アウトコース低め」、もっと正確にいうと、「アウトコース低めで横方向に大きくスライドする球」、もっともっと具体的にいうと、「特に左投手のアウトコース低めのカーブ」を、まるで打てない」ことを「発見」したのが、一体いつのことだったか、まったく覚えていない。
まぁ、馬鹿のひとつ覚えで毎日のように野球ばかり観ていると、誰に教えられるわけでもなく自然とわかってくることが山のように沢山あるわけで、これもそうした「自然にわかること」のひとつ、とは思う。

「発見」などと、あえて自賛するのはなぜかというと、不思議なことに、一般的なレベルの野球データサイトがネット上で公開している「ジョシュ・ハミルトンのホットゾーン」(=打者ごとのコース別の得意不得意を図示したグラフ) には、「ハミルトンがアウトコース低めを苦手にしている」 というデータが出てこないからである。

2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第1打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第1打席

アウトコース低め
カーブ
セカンドゴロ
ダブルプレー


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第2打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第2打席

アウトコース低め
2シーム
3球三振


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第3打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第3打席

真ん中
カーブ
ピッチャーゴロ

これはたぶん「アウトコース低めを狙ったカーブ」がコントロールミスで真ん中に入ったのだと思う



3つの異なるサイトにみる
ジョシュ・ハミルトンのHot Zone


注意(必読)
以下に挙げた3つのサイトのデータは、最初の2つと、3番目とでは、視点が異なる
最初の2つは、「アンパイアから投手を見る方向」でデータが書かれている。したがって、「右がファースト側、左がサード側」になる。
それに対して3番目のデータは、投手からホームプレート側を見る視点でデータが描画されている。そのため、1番目、2番目とはデータが左右異なっており、「右がサード側、左がファースト側」になる。


FOX Sports

FOXのサイトにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Josh Hamilton Hot Zone | Texas Rangers | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

このサイトによると、ハミルトンの苦手コースは「アウトコース高め」と「インコース低め」ということになる。先走って言うと、この判定結果は、ブログ主がハミルトンのゲームを見てきた経験値とは異なる。

加えて、このデータには致命的といえる欠点がある。
それは、「ボールゾーンの打率が表示されていない」ことだ。だから例えば、ハミルトンが特定のコースのボール球を、どれだけ空振り三振したり、凡退を繰り返しているか、FOXのデータからは何も判断できないのである。

バッターというものは、ストライクゾーンの球ばかり振って凡退しているわけではないのだから、ボールゾーンの打撃傾向もわからないと、そのバッターの本当の得意不得意は、わかりっこない。

参考記事:Sports Analytics and Application Development - Latest MLB Analytics News for TruMedia - ESPN: Josh Hamilton's Hot Zone


Gmaeday

Gamedayにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Baltimore Orioles at Texas Rangers - October 5, 2012 | MLB.com Gameday

MLB公式サイトが運営する優れたネット上のファンサービスのひとつ、Gamedayには、日本のMLB愛好者の大半がお世話になっているわけだが、全てのバッターのホットゾーンを表示する機能が備わっている。
それによると、ハミルトンの「ストライクゾーン内」の苦手コースは、「アウトコース高め」と「インコースのハーフハイト」となっている。
ブログ主は、経験上、ハミルトンが最もホームランを打てる得意コースは「インコースの、ハーフハイトから高めにかけてのゾーンに限られる」と確信しているので、Gamedayが示すハミルトンのホットゾーンを必ずしも信用しない。
ただ、Gamedayのホットゾーンを評価したい点がある。それは、「ボールゾーンの打撃傾向が示されている」ことだ。この機能はFOXのホットゾーンには無い。
Gamedayのボールゾーンにおけるホットゾーンには、「ハミルトンが、アウトコース系のボール球で繰り返し凡退していること」が、弱い形ではあるが、示されている。
これはブログ主の経験値と合致するので、少しは信用できる。


Baseball Analystic

Baseball Analysticによるハミルトンのホットゾーンハミルトンの得意コースが「インコース」であることは明らか

データ出典Home Run Recap: Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

5人の寄稿者で運営しているらしい、このサイトは、イチローに関する記事を検索していて偶然に記事をみつけて読み、内容のレベルの高さに感心させられたことが何度かある。
ここのホットゾーンデータは、文字通り一級品、いや、最高級品だと思う。
(ブログ注:このサイトのホットゾーンデータが、果たしてサイトオリジナルなのか、それとも、野球シンクタンクかどこかの元データを引用しているのか、今のところわからない。同じデザインのホットゾーンがESPNでも大量に引用されているのだが、出典が記載されていない。ESPNのデータである可能性もある)

なにより、ここのホットゾーンを信頼するのは、「ハミルトンは、アウトコース低めを打てない」という、ブログ主の経験値と完全に一致するからだ。

また、このサイトは、その程度の「気づき」をはるかに越えた鋭い判断力に裏打ちされた分析記事にも溢れている。
さきほど、この記事を書くために、このブログ内を検索していて気づいたのだが、このサイトは2011年3月20日付で、「ジョシュ・ハミルトンの三振のさせ方」なる記事まで既に掲載し、「ハミルトンを三振させるなら、アウトコースのスライダーかカーブ」とハッキリ明言している。
この判断スピードの速さには、ハミルトンがアウトコースにウィークポイントがあることに今年になってやっと気づいたブログ主程度では、到底追いつけない。
How to strike out Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
さらにこのサイトがちょっと信じられないほど素晴らしいのは、2011年8月13日付で、ハミルトンが「MLBでオフ・スピードの球を打つのが上手い3本指のバッターに入る」ことも記事にしていることだ。
つまり、この分析専門ブログのライターは、「ハミルトンが、スライダーのようなオフ・スピードの球を打つことについて、MLBで3本指に入る優れたバッターである」ことをデータ上できちんと把握した上で、それでも、「アウトコース一杯のスライダー(あるいはカーブ)なら、ハミルトンから確実に三振がとれる」と断言しているわけだ。
この判断力は凄い。観察眼の鋭さに加えて、よほどの決断力がなければ、到底こんなことをパブリックな場所に書くことはできない。脱帽するほかない。
Best Offspeed Hitters - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


何事につけても自己中心的(笑)なブログ主は、自分の判断に合致するBaseball Analysticの分析とホットゾーンを信頼することにする。


FoxやGamedayなど、大衆的な野球データサイトが公開しているハミルトンの「ホットゾーン」では、「ハミルトンがアウトコース低めの変化球を苦手にしている」というデータが出てこないのには、どんな原因が考えられるだろう? 可能性をいくつか挙げてみた。

1)データのアップデートが頻繁に行われていないために、データが古い
2)ストライクゾーンのデータのみを収集し、「ボール球を振って凡退した」というデータが積極的に収集されていない。そのため、結果的に、「ストライクゾーンにおける打率」が、高めに表示されてしまう
3)ストライクゾーンを分割するマトリクスが大きすぎる。そのため、データの精度が低い
4)データ収集期間が長すぎる(または短すぎる)ため、データにリアリティが無い
5)左投手、右投手との対戦を区別してデータ収集されていないために、左右の投手別の打撃傾向がハッキリ把握できない。例えば「右投手の投げるアウトコースのカーブは得意でも、左投手の投げるアウトコースのカーブはまるで打てない」場合、単純なホットゾーンデータからはそうした事実を読み取ることができない

データが不正確になるいくつかの可能性を考えてはみたものの、アップデートの頻度、マトリクスの大きさ、データ収集期間の長さ、どれをとっても、FOXやGamedayのホットゾーンが正確さに欠けていることの言い訳にできるとは思わない。
いくら予算不足などの現実的な理由から、十分な頻度でアップデートできないとか、マトリクスを十分に細分化できないとか、データ収集に制約が生じているとしても、それを理由に「ホットゾーンデータが間違っても、しかたがない」とは、ブログ主は全く思わない。(たぶん、もっと他の根本的かつ幼稚な原因があるに違いない)

間違ったデータの提供は、いろいろな意味でファンの楽しみを損なう行為だということを、データサイトは十分に認識しつつサービスを提供すべきだと思う。

ちなみに、「左投手と右投手でホットゾーンを区別して評価すること」については、打者の傾向分析として重要な意味があると思うし、そういう現実的で有用なデータが無料で情報としてファンに提供されるなら、ファンサービスとして理想的な形だとは思う。
だが、労力として、一般的なデータサイトにはおそらく負担がかかりすぎるだろう。また、左投手と右投手のデータを混ぜたことが、不正確なホットゾーンが提供されてしまっていることへの言い訳にできるわけではない。

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話がいつのまにか「どこのサイトのホットゾーンが最も信用できるか」に流れてしまっているが、ご容赦願いたい(笑)

なぜこんな確認作業に手間をかけるか、といえば、どこのサイトのホットゾーンデータが「本当に信用できるのか」を、あらかじめ限定しておかないと、話が前に進まないからだ。

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「苦手な球に手を出さず、四球を選べるバッター」
三冠王 ミゲル・カブレラ


サンプル/2012年10月6日 ALDS
オークランド対デトロイト Game 1
打者:ミゲル・カブレラ 第2打席
投手:ジャロッド・パーカー

パーカーは、三冠王カブレラの数少ない苦手コースのひとつである「インハイ」を、果敢かつ徹底的に攻めたが、カブレラはまったく応じず、1球もスイングしなかった。
そこで、インハイ攻めで根負けしたパーカーは、カウント3-1の5球目、「インハイ」以上にカブレラの苦手コースである「アウトロー」に、ボールになるスライダーを投げてスイングさせようとしたのだが、ここでまたもやカブレラに見切られてしまい、結局、四球で歩かせることになってしまう。
Oakland Athletics at Detroit Tigers - October 6, 2012 | MLB.com Gameday

2012年10月6日 ALDS Game1 OAKvsDET カブレラ第2打席 

「インハイ」と「アウトロー」が、カブレラの苦手コースであることの真偽は、いまのところ最も信頼できるホットゾーンデータを提供していると思われるBaseball Analysticの、以下のデータで確認してもらいたい。(上に挙げたGamedayデータとでは、左右が逆になっていることに注意)
Pitching to Cabrera - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ミゲル・カブレラ ホットゾーン


オークランド先発パーカーが、カブレラの苦手なインハイをきわどい球で攻めることは、まったく間違っていないし、逃げでもない。
それどころか、Baseball AnalysticPitching to Cabreraという記事で書いているように、ミゲル・カブレラへのインハイ攻めは、非常に積極的な「三冠王カブレラへの挑戦」なのだ。(オークランドのミゲル・カブレラに対するスカウティングの正確さは、2012レギュラーシーズン終盤にテキサスを冷静に分析することで、ハミルトンをはじめ、強打のテキサス打線を完全に封じ込めた彼らの分析力の高さを示してもいる)


だが、これだけ弱点を突かれても、
それでもカブレラは四球を選べてしまう。

それは、なぜか?

テキサスのジョシュ・ハミルトンが「苦手なはずのアウトローのカーブにさえ手を出して、空振り三振や併殺打に倒れてしまう」のと対称的に、ミゲル・カブレラが「苦手なインハイ」も、「苦手なアウトロー」も、まったく無駄なスイングをしない、からである。

このことが、最初に挙げた2つのツイートの意味だ。
あらためて、自分のためだけの金言として、もう一度まとめなおして書いておこう。


たとえ三冠王ミゲル・カブレラであろうと「苦手な球種や、苦手なコース」が存在するように、天才にも「苦手な球種や、苦手なコース」は存在する。

いいかえると

「苦手な球種やコースが存在すること」 は、
「平凡なバッターの証し」ではない。


平凡なバッターが「平凡」なのは
「苦手な球種やコースなのに、手を出してしまう」
からだ。

「苦手な球であるにもかかわらず、手を出して凡退してしまうのが、平凡なバッター」だとしたら、三冠王カブレラが本当の意味で優れたバッターなのは、彼が、「苦手な球を、振らずに済ますことのできるクレバーなバッター」だからである。



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