November 03, 2012

インターネット全盛のこの時代、MLB関係のメディアやウェブサイトには、どこもデータがてんこもりだ。そして、MLBのチーム運営においても、実際のゲームにおいても、あらゆるデータが「どこのチームでも」「正確に」生かされ、役に立っている、と、思われがちだ。(それでも日本よりはるかにマシなのは確かだが)

だが実際には、「MLBではデータが十二分に活用されている」というのは、全体としては正しいが、細部では間違っている
例えば、「チーム間のスカウティング格差」は確実に存在する。


データ全盛時代だからこそ、かえって必要になることがある。
例えば、どこの誰が本当に信頼できるデータを提示してくれていて、どこの誰がそれを有効に活用できているかを、正確に知ることも、そのひとつだ。

ファンの利用するデータサイトですら、信頼できないデータを平然と掲げているサイトなど、いくらでもある。
また、たとえMLBであっても、実際のプレーにデータがまるで生かされていないチームが、いくらでもある。それは、そのチームがセイバーメトリクスを採用しているかどうかとは、まったく関係ない。それに、セイバーだけがデータ活用手法ではない。


例えば、ファン向けのデータサイトで、データがてんこもりになっていたとしても、そのデータが必ずしも信用できるとは限らない。「サイトごとのデータの精度」には、いまや大きな「格差」が生まれていると思わなければならない。

例えば先日の記事で検証した「Hot Zone」。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。
ジョシュ・ハミルトンに関する自分の経験値を判断基準に記事を書いて、いくつかのサイトを検証してみたが、あの例でもわかるとおり、FoxやGamedayのHot Zoneはアテにはできない。そして、Baseball AnalyticsのHot Zoneは、「自分の経験値に非常に近い」という意味で、信頼性が高い。
ハミルトンの実際のバッティング結果とデータを照らし合わせてみても、どのコースを攻めたバッテリーがハミルトンを抑え込むことに成功し、どのコースを攻めたバッテリーが打たれているか、ちょっと確かめれば、この「自分の経験値を元にしたHot Zoneの精度の判定」がほぼ間違っていないことは確かめられている。

ハミルトンはこのオフにFAになるわけだが、ブログ主が「もしスカウティングが得意なチームなら、この選手に超高額の長期契約オファーを出すわけがない」「この選手に超高額オファーを出すのは、ポストシーズンに弱い勝負弱いチームだけ」と判断する理由は簡単だ。この選手が「穴のハッキリしている打者」であり、また「打席で抑え込むのは、それほど難しくない打者」であることは、Hot Zoneのようなささいなデータから見ても、ハッキリしているからだ。


また「打者に対するスカウティング格差」を例にとれば、すべてのチームが、同レベル、同じように高いレベルで、打者をスカウティングし、ピッチャーの配球が決定されているわけではない

ひとつには、あらゆる投手に、スカウティングどおり投げられるだけの能力が存在するわけがない、ということもある。(むしろ、大半のピッチャーは、主にコントロールが悪いせいで、行き当たりばったりに、パワーまかせの投球をする。パワーだけのピッチャーなど、MLBには掃いて捨てるほどいる)
ただ、そういう既に誰もがわかっている投手のコントロールの無さという問題より重要なのは、チームごとに存在する「スカウティング格差」の問題だ。


「チームごとのスカウティング格差」は、2012年ポストシーズンでは特にハッキリした。
たくさんのチームを分析しなければならないレギュラーシーズンと違って、ポストシーズンはスカウティング対象が狭いわけだから、より細かく分析できるし、短期決戦はスカウティングの重要度は高い。スカウティングが勝敗を決するといっても過言ではない。
あっけなく敗れ去ったチーム(ヤンキースなど)と、シーズン終盤に躍進したチーム(オークランド、ボルチモアなど)や、最終的にワールドシリーズに勝ったサンフランシスコの間には、びっくりするほどの情報利用の上手下手、つまり「スカウティング格差」があるはずだ。(そのことはこの『オクトーバー・ブック』でさらに書いていく予定)



カーティス・グランダーソンを例に挙げてみよう。

ブログ注:以下、誤解しないでもらいたいのは、ブログ主にとってグランダーソンは今もブログ主のお気に入りの選手である。なにもこの記事で彼をおとしめたいと思っているわけではない。イチローやミゲル・カブレラにも不得意な球種やコースというものは存在する。ただ、バッティングが単調で、スカウティングされやすく、バッティングの「穴」が既に分析されてしまっているグランダーソンに高額契約を提示することには、まったく賛成できない。


グランダーソンは、自分の経験値として言うと、常に「インハイのストレート」を狙ってフルスイングしているバッターだ。アウトコースを狙っている、というイメージは無い。


この「グランダーソンの執拗なインコースのストレート狙い」は、例のBaseball Analyticsを調べてみると、やはり予想どおり2011年8月19日に記事として取り上げられていて、内容はブログ主の「経験値」とまったく一致している。
Curtis Granderson Dominating the Fastball - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

グランダーソンのストレート打撃成績(2009-2011)

グランダーソンの年度別得意コース



ただ、念のため指摘しておきたい点が、ひとつある。
Baseball Analyticsは、同じ年、2011年5月14日付で書いた以下の記事において、グランダーソンは、「インコース狙い」ではなくて、「アウトコース高めの球を引っ張ることでホームランにしている」と、分析していることだ。

2011年5月時点のグランダーソンのホームランゾーン2011年5月時点でBaseball Analyticsの指摘したグランダーソンのホームランゾーンは「アウトコース高め」
Granderson's Home Run Surge - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


こういう「不整合」が起きる原因は、たぶん簡単なことだろう。それは、Baseball Analyticsが、「データのみに依拠して記事を書いているから」だ。それは、この優れたサイトの「良さ」であると同時に、決定的な欠点でもある。

おそらくグランダーソンは、2011シーズン当初の1ヶ月くらいの間に限って「アウトコース高め」を何本かホームランにしたのだろう。
だから、優れた観察眼と見識を持っているBaseball Analyticsといえども、彼らに「データのみに従う」というポリシーがあるだけに、かえって、「アウトコース高めを事実打っている」という、わずか1ヶ月間の短期間の「未確定の事実」にとらわれてしまうことになるわけだ。
1ヶ月程度の短いデータをもとに書かれた記事に、信憑性はない。優秀なBaseball Analyticsですら、あたかもグランダーソンが「アウトコースが得意である」というような「必ずしも正確でない記事」を書いてしまうのだから、いくら優秀なサイトといえど、そのすべてが信用できるわけではない。

短期間のデータをもとに記事を書いたことで判断ミスが起きたといえる証拠に、Baseball Analyticsは、2011シーズンが半分ほど過ぎた2011年8月中頃の記事では、グランダーソンが狙っているのは「アウトコース」ではなく、「インコースのストレート」と、判断を変更している。(もちろん判断の変更は潔し、といえる)


2012年のレギュラーシーズンとポストシーズンにおけるグランダーソンの「狙い」は、データで全てを確かめたわけでもなんでもないが、自分の経験値として言えば、2011シーズンとまったく同じで、「なにがなんでもインコースのストレートをホームランにすること」だった、と考えている。


このグランダーソンの「徹底したストレート狙い」が始まったのは、どうやら2011年のようだ。
グランダーソンのバッティングがデトロイト時代とはまるで違うものになった理由については、ヤンキースのバッティング・コーチ、ケビン・ロングの指導によるものという解説が、2011年を中心にESPNやNY Timesをはじめとする数多くのアメリカのメディアでなされてきた。
New York Yankees' Curtis Granderson using lessons learned from Kevin Long - ESPN New York

Curtis Granderson made a wise choice by approaching hitting coach Kevin Long in 2010 - MLB - Yahoo! Sports

Curtis Granderson's thank you to Kevin Long - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

Baseball-All-Starlytics: Curtis Granderson: What a difference a year makes - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ちなみに、2012ポストシーズンが終わって、当のKevin Longが、シーズン終盤のグランダーソンの絶不調について何と説明したかというと、"Yankees batting coach Kevin Long said Curtis Granderson’s feeble postseason might have been because of a lack of confidence." (Kevin Long, New York Yankees batting coach, says Curtis Granderson bad postseason might have been because of a lack of confidence - NYPOST.com)、つまり「自信喪失」だと言っていうのだから、説明になってないし、無責任な話だと思う。


さて、このグランダーソンの「執拗なストレート狙い」だが、2012年後半にはすっかり大半の対戦チームのバッテリーに知れ渡っていた

それが証拠に、2012年シーズン終盤にヤンキース対戦チームのほとんどのバッテリーは、グランダーソンを外の変化球などで追い込んでおいて(というのも、インコース狙いに徹しているグランダーソンには外のストライクをマトモにヒットできるわけがないからだ)、最期は「インコース低め」に縦に変化する球を投げて、グランダーソンをそれこそ「好きなだけ」空振り三振させることに成功していた。
そんなわけでグランダーソンは、このブログでさんざん批判してきた「低打率のホームランバッター」に成り下がっていった。



だが、逆にいえば、なぜこれだけあからさまな「ストレート狙い」のグランダーソンが、たとえ一時的にせよ大成功してホームランを量産し、ヤンキースでの生き残りに成功したのか?
それは、グランダーソンがこれほどあからさますぎるストレート狙いに徹しているというのに、グランダーソンに、その「ストレート」を投げまくってくれる、ありがたい無能なバッテリーが数多く存在するからだ。単純な話だ。


その「グランダーソンにストレートを投げまくってくれる、ありがたいチーム」のひとつ、それが、ボストンだ。
今季のボストンは本当に「甘ったれた、なまぬるい」チームだった。
このグランダーソンに限らず、そのバッターの得意コース、得意球種をわざわざ投げてくれるくらいのことは、朝飯前だった。不振だったタンパベイのアップトンにヒットを供給しまくったのも、ボストンだ。(以下の記事参照)
Damejima's HARDBALL:2012年9月17日 アウトコースのスライダーで空振り三振するのがわかりきっているBJアップトンに、わざわざ真ん中の球を投げて3安打させるボストンの「甘さ」


グランダーソンは地区優勝とポストシーズン争いの両方がかかった9月以降のあの大事な時期に、9本のホームランを打っていながら、8月の打率.196に続いて打率.214という極端な低打率の状態で、それでもしつこくホームランだけを狙い続けていたわけだが、その9本のホームランのうち、5本ものホームランをボストンから打っている
というか、セイバーメトリクスの総本山だかなんだか知らないが、他のチームが楽々空振り三振させまくっているグランダーソンに、「5本ものホームランを供給したチーム」のスカウティング能力が高いわけがない。(ホームラン供給源は他に、ミネソタ、タンパベイなど) 今シーズンのボストンが、いかに大雑把で気の抜けた野球をしていたか、この事実からハッキリわかる。


典型的な例を挙げておこう。
10月1日のNYY×BOSのクレイ・バックホルツだ。

カットボール、カーブ、スプリッターと、変化球を続けて、カウント1-2と、典型的な形でグランダーソンを追い込んだにもかかわらず、バックホルツはここでグランダーソンに「インコースのストレート」を投げて、2ランホームランを浴びている。

呆れるほど頭を使っていない。
ここは右投手のバックホルツなら、グランダーソンのインコース低めにスライダーかカーブでも投げこんでおけば、キャッチャーがスプリッターを後逸するような心配もなく、いとも簡単に空振り三振がとれている。間違いない。

ちなみに、ボストンでは、アーロン・クック松坂などが、9月のグランダーソンに鬼門のストレートを投げてホームランを打たれている。

2012年10月1日2回裏バックホルツのグランダーソンへのストレート失投Boston Red Sox at New York Yankees - October 1, 2012 | MLB.com Classic


このグランダーソンの「ストレート狙い」だけでなく、自分の狙い球だけを狙って打席に入っている「低打率のホームランバッター」は、他にもたくさんいる。(ハミルトンの「インコース狙い」、ケビン・ユーキリスの「アウトコース狙い」)
Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。

そしてそういう「狙い球を決め打ちしてくる打者」に対してすら、何も考えずに、その打者の得意球種、得意コースを投げてしまう、馬鹿げたバッテリー、馬鹿げたチームというのもまた、馬鹿馬鹿しいほど多く存在している
また、ピンチになると、アウトコース低めさえ投げておけばなんとかなると思いこんでいるラッセル・マーティンのように、スカウティング能力も無ければ、度胸も無いバッテリー、そういう、このブログで分析する価値のまったく無いバッテリーも、数多く存在している。

かたや、その打者の得意球種、得意コースをしっかり頭に入れ、デトロイトはじめ、対戦相手を好きなように牛耳ることに成功したサンフランシスコのようなチームもある。

これが、2012年のポストシーズンのコントラストを決めた「スカウティング格差」だ。


ちなみに、スカウティング上手のサンフランシスコだが、そのサンフランシスコですら、スカウティングミスといえる失投が複数ある。

2012年10月28日3回裏マットケイン ミゲル・カブレラへの失投2012WS Game 4
カブレラの最も得意とするのは、「インロー」。ミゲル・カブレラが2012ワールドシリーズで打った唯一のホームランも、「インロー」で、マット・ケインの失投。この天才バッターにインコース低めを投げるのは、ある種の自殺行為だ。Game 1でバリー・ジトがカブレラに打たれたタイムリーも、「インロー」。


ここから『オクトーバー・ブック』では、ポストシーズンのプリンス・フィルダーの不振の原因、イチローがデトロイトのクローザー、ホセ・バルベルデから打った2ランホームラン、WS Game 4でマルコ・スクータロフィル・コークから打った決勝タイムリー、同じくWS Game 4でセルジオ・ロモミゲル・カブレラから奪った三振の素晴らしい配球などについて、それぞれの現象と現象の繋がりをつけながら書いていく予定。

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