November 10, 2012


Baseball Video Highlights & Clips | ALCS Gm1: Ichiro's two-run shot puts Yanks on board - Video | MLB.com: Multimedia

2012ALCS Game 1 9回裏 イチロー 2ランHR



2012ALCS(=American League Championship)で結局いいところなくデトロイトにスイープされ、敗退したヤンキースだが、結局のところ、ALCSの命運を分けたターニングポイントは、Game 1でヤンキースが4点リードされた9回裏にイチローラウル・イバニェスの2本の素晴らしい2ランホームランで劇的に追いついたにもかかわらず、負けたことにあった、と思う。


野球というゲームにおいて、小さな差異は、ときとして大きな差異を生み、結果を左右する

まぁ、このGame 1の10回以降の延長イニングは、いってみれば、バタフライ効果でいうところの『シリーズそのものの結果を大きく左右する初期値』だった、というわけだ。
まさに値千金の2本の2ランで、「非カオス的状態に固定されかかった」ゲームをせっかく『カオス状態』に持ち込んだのだから、このゲームだけはなにがなんでも死ぬ気で勝ち切って、その後の流れをモノにするべきだった。


日本の偉大な詩人宮沢賢治は、『春と修羅』の序文でこう言っている。

わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です


いったい『万物がせわしく明滅する』のは、何故か。

それは、我々と、我々を取り巻く事象が、「最初から結論ありきの予定調和」だけで出来ているのではない、からだ。
数学でいうところの「カオス的な事象」と「非カオス的な事象」は、あらゆる事象において交互に姿を現し、互いの位置を換え続ける。それは我々の眼には、偶然と必然がせわしなく明滅を繰り返しているように見える。

世界というものが持っているカオスと非カオス、2つの性質のうち、「カオス的性質」は、論理的には、非線形科学の登場によってようやくロジカルに語られるようになったわけだが、そもそも現実というものが「点灯しっぱなしの白熱電球のように、いちどスイッチが入ったら、あとは故障して切れて捨てられるのを待つだけの哀れな存在」ではないことに、ヒトは太古から気づいており、詩人は世界のカオス的な性質を「直観」から記述し続けてきた。


野球というゲームは「生きている」。
それだけに、野球という系は「非カオス的事象とカオス的事象が、交互にせわしなく明滅する複雑な系」とみるべき事象なのであって、非カオス的な予定調和事象の、それも初歩の現象程度しか取り扱うことができない三流の古くさいうえに幼稚な初歩の統計数字ごときで語り尽くせるわけがない。

実際、野球において『バタフライ・イフェクト』といえる事例はことかかない。小さな差異が、必ずしも常に小異を捨てて、ありきたりの平均的な結論に結びつくわけではなく、野球における小異は、ときとして大きな差異へ拡大して、やがてゲーム、シリーズ、シーズンを決定することがある。

いいかえると、そうしたカオス的展開をけして無視できないのが、野球という「必然と偶然のゲーム」の面白さのひとつ、なのだ。

Lorenz AttractorThe Lorenz Attractor



ALCS Game 1 9回裏のイチローの打席を
もういちどよく見てみよう。


ピッチャーは、デトロイトの「劇場型」クローザー、ホセ・バルベルデ。90マイル台の速球とスプリッターが持ち球だ。

ホセ・バルベルデのストレートが99マイルを記録できた時代は、どうも2008年から2009年あたりのアストロズ在籍時らしい。だがデトロイトでのバルベルデのスピードボールには、かつてほどの輝きはない。

バルベルデの99マイル記録

1)2008年4月29日チェースフィールド
アストロズ対ダイヤモンドバックス戦 9回裏
2ベースを挟んで3三振
April 29, 2008 Houston Astros at Arizona Diamondbacks Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com

2)2009年4月25日 ミニッツメイドパーク
アストロズ対ブリュワーズ戦 9回表
ミルウォーキー時代のフィルダーに2ランホームランを打たれる
April 25, 2009 Milwaukee Brewers at Houston Astros Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com


イチローの打席に話を戻そう。

初球。

イチローは「ど真ん中の92マイルのストレート」を見逃した。
92マイルという球速は、いくら最近のバルベルデの4シームにかつてほどのスピードがないとはいえ、いくらなんでも遅い

バルベルデは速球で押しておいてスプリットを混ぜるタイプのクローザーだが、初球に92マイルなんていう「ハンパな速度」の球を、それも「ど真ん中」に投げるということは、バルベルデが、『イチローは初球は絶対に振ってこない』と確信していたことを意味している。
「単に早めにストライクが欲しいから初球を置きにいった」、「イチローはあまり初球を振ってこないというスカウティングに倣った」、「疲労から球威がなかった」、「2球目にスプリットを投げて空振りさせるつもりだった」、初球に92マイルの4シームを投げた理由がどれなのかは正確にはわからないが、少なくともイチローが「初球のど真ん中を見逃した」ことで、バルベルデがイチローを「舐めた」ことだけは間違いない。

そして第2回WBC決勝韓国戦を例に出すまでもなく、これまでどれだけのバッテリーがイチローを舐めてかかって泣いたことか。



イチロー側の視点からも見てみる。

ブログ主は、この「初球見逃し」を、「イチローが最初からホームランを打つつもりで打席に入り、あらかじめ初球のストレートのタイミングを体感で測定した結果、『打てる』と確信して、2球目を待った」、と見る。
かねてからイチローは、「ホームランは狙って打つ」と公言している。バルベルデというピッチャーが速球で押してくるタイプであることはわかっている。ゲームは4点リードされている9回裏。速度とタイミングは把握した。あとは、ホームランを打てるインコースにボールが来るのを待つだけだった。

初球で、バルベルデのストレートの速度、タイミングを測定していたからこそ、2球目のインコースのストレートを、イチローは、「待ちかまえて」、「狙い打ち」した。快心の一打だったはずだ。
いつぞやマリナーズ時代に、NYYのクローザー、マリアーノ・リベラの初球、インコースのカットボールをサヨナラ2ランしたことがあったが、あれと同じコースの球だ。
マリアーノ・リベラから打ったサヨナラ2ラン(2009/09/18)


ホセ・バルベルデの速球をとらえた打球は
ライトスタンドに鮮やかに消えていった。


この後のラウル・イバニェスの2ランホームランもイチローと同じで2球目だったが、この2球、両方ともスプリットだった。
そう。イチローにストレートを打たれたバルベルデはスプリットに逃げたわけなのである。イバニェスはそれを見逃さなかった。

2012ALCS Game 1 9回裏 イバニェス 2ランHRラウル・イバニェスの
素晴らしい2ラン


この例でもわかるとおり、ほんとうにイバニェスはクレバーなバッターなのだ。素晴らしい。

イバニェスは『イチローに速球をやられたバルベルデがスプリットに逃げるのを見逃さず、スプリットを狙い打ちした』というわけだ。
いいかえると、イチローのホームランがバルベルデの速球を封じ、イバニェスの2ランの呼び水となった、ということになる。
バッテリー(あるいはキャッチャー)というものは、失点するまでは、たとえランナーが出ようと打者のインコースを攻め続けるくせに、失点したとたんにアウトコース一辺倒に切り替えてさらに墓穴を掘ったりするものだ。


ALCS Game 1でクローザーのホセ・バルベルデをイチローに破壊されたデトロイトは、代役クローザーに、ストレート中心にピッチングを組み立てるフィル・コークをたてた。
そのフィル・コークは、WS Game 4の延長10回、マルコ・スクータロにストレートを狙われて決勝タイムリーを打たれ、デトロイトはサンフランシスコにスイープされ、悲願のワールドシリーズ制覇に失敗することになる。

つまり、ワールドシリーズの舞台装置を用意したのは、イチローによる『バルベルデ潰しの速度測定後ホームラン』だったわけである。


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