November 11, 2012

2012シーズンのポストシーズンの「戦い方のチームごとの巧拙」をまとめると、以下のような言葉になる。

「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームが負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後まで勝ち残った。



ワールドシリーズに出場した2チームにしても、その戦いぶりの巧拙には大差があった。それを如実に示す、2つの打席を以下に示す。それは「2012シーズン終盤のMLBのチームごとの戦い方の巧拙」を如実に現す鏡でもあった。
San Francisco Giants at Detroit Tigers - October 28, 2012 | MLB.com Classic

ひとつは、イチローの2ランホームランに端を発した4失点でホセ・バルベルデを破壊されて使えなくなったデトロイトの代役クローザー、フィル・コークが、サンフランシスコにシーズン途中ボストンから移籍してきたマルコ・スクータロに、決勝タイムリーを打たれたWS Game 4の10回表の打席。
もうひとつは、同じゲームの10回裏、サンフランシスコの髭のクローザー、セルジオ・ロモが、三冠王ミゲル・カブレラを快心の見逃し三振に切って取って、サンフランシスコのワールドシリーズ制覇が決まった打席である。


「読まれた」フィル・コークのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ タイムリー2012年10月28日
WS Game 4 10回表
スクータロ タイムリー


フィル・コークの持ち球は、93マイル前後の4シーム、80マイル前後のスライダー、83マイル前後のチェンジアップとあるが、そのなかで彼が自信をもって投げられるボール、といえば、「4シームのみ」であることは、ア・リーグでコークと対戦の多いバッターなら誰でも知っていると思う。
Phil Coke » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


場面は、3-3で迎えた延長10回、2死2塁。

このタイムリーを許してはならない場面で、代役クローザー、フィル・コークは、平行カウント1-1から、ベースの真上に落ちる絶妙な低めのチェンジアップを投げた。これは本当に素晴らしいチェンジアップで、もしバッターがグランダーソンだったら間違いなく空振りしていたし、もしスクータロが「なんでもかんでもスイングするバッター」だったら、空振りしていただろう。

だが、打者マルコ・スクータロは、けしてチェンジアップを苦手とするバッターではないにもかかわらず、このきわどいチェンジアップを振らずに、見逃した
詳細は下に書くが、彼が見逃すことができた理由のひとつは、2012ポストシーズンにおけるスクータロが「やたらボールを見ようとするバッター」であり、さらには、アウトコースをセンターあるいはライトに流し打つことで、ALDSでの絶不調から抜け出しかかっていたからだ。

そして球審Brian O'Noraは、このきわどい低めのボールを「ボール」と判定した。低めの判定が怪しいという過去データのある球審(例:Brian O'Nora's Strike Zone Last Night - Royals Review)ではあるが、この判定に関しては正しかった。
この「ストライクゾーンから入って、結果的にボールになるチェンジアップ」が、バッターに見逃され、球審にも正確にボール判定されたことが、Game 4の分かれ目になった。


この「スクータロの見逃し」と「球審のボール判定」、野球の試合ではよくある偶然のように見えるが、どちらも偶然ではない


ワールドシリーズを前にBaseball Analysticsは、2012ポストシーズンでのマルコ・スクータロのバッティングについて、打率.150、20打数3安打と不調に終わったシンシナティとのNLDSでインコースを38球も見逃し、ストレートの大半を見逃していたこと、セントルイスとのNLDSでも同じように39球ものインコースを見逃したが、アウトコースの球をセンターおよびライト方向に7本のヒットを打つという手法で復調しつつあったことをふまえて、ワールドシリーズにおいてデトロイトがとるべき「スクータロ対策」について、次のように明確に述べていた。
If this pattern continues, and the Tigers are going to quiet Marco Scutaro, look for them to be working him on the inner half of the plate and up in the zone.
「もし(NLCSにおいてみられたスクータロのアウトコースを流し打つ)バッティングパターンが続き、そしてタイガースがスクータロを沈黙させたいなら、インコース、高めのゾーンにしか、活路はない」
Analyzing NLCS MVP Marco Scutaro - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
Sergio Romo » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」を示すHot Zoneデータ。(Baseball AnalysticsのHot Zoneは投手から見た図。一方、Brooks BaseballのPitchFX Toolは、球審から見た図で、左右が逆になっていることに注意)


球審Brian O'Noraの判定は以下の通り。3球目のチェンジアップの判定(=下記の図で「3」という数字のついた部分)は、非常にきわどい球だが、「ボール」とした球審ブライアン・オノーラの判定は、正しい。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - PitchFX Tool

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ 3球目の判定

このワールドシリーズを捌いたアンパイアには、過去にいろいろひと悶着あったアンパイア、経験が足りないのではと思われるアンパイアが多くいたと思うが、結果的にこのワールドシリーズの判定ぶりについては、クチうるさいサイトの多いアメリカの批評サイトのいくつかが「非常に素晴らしい判定ぶりだった」と高評価したように、判定に問題はなかった。(もちろん低評価を下したサイトがなかったわけではない)

Close Call Sports: Discussions: 2012 World Series

World Series: After Video Review, Umpire Crew Perfect in San Francisco Games | Bleacher Report

3球目のきわどいチェンジアップを見逃され、後がなくなったフィル・コークは、4球目の「振ってくれればもうけもの」といえる、アウトコースに外れる4シームもスクータロに見逃されて、カウントを3-1にしてしまい、5球目は、4球目とほぼ同じコースに、同じ4シームを投げた。
2死2塁で、1塁が空いていただけに、おそらくここは「フォアボールでもしかたがない」という気持ちで投げたボール球だったのかもしれない。
だが、よくこのブログでいっている「同じコースに、同じ球種を続けて投げ続けると、徐々に内側に寄っていく」という原則どおり、5球目の4シームは4球目より内側に寄ってしまい、アウトコースだけを待っていたスクータロに狙い通り流し打ちされてしまい、これが決勝タイムリーとなってしまう。




スクータロがこの「5球目のボール球のストレート」を打って右中間方向に打球を飛ばしたことが、ただの偶然か、そうでないかは、ここまで書いてきたことでわかるはずだ。
ワールドシリーズ前にBaseball Analysticsが指摘したように、アウトコースを狙っているスクータロに「あえてアウトコースを投げる」なら、「ヒットにできそうにないほど、遠いところに投げておくしかなかった」のである。

逆に、スクータロ側から言えば、代役クローザーのフィル・コークの「持ち球の少なさ」からして、3-1と打者有利なカウントにもちこんでから待つのは「ピッチャーの得意球種のストレート」あるいは「自分の得意コースのアウトコース」に絞っていたはずだ。

フィル・コークは、4球目か5球目で、Baseball Analysticsがスクータロについてスカウティングしたとおり、インコースにストレートを投げこんでいれば、それが多少甘いコースであっても、「インコースとストレートを見逃す癖のあるスクータロ」は、スイングしてこなかったのではないか、と思う。また、4球目に、3球目に続けてチェンジアップを投げていたとしても、たぶんスクータロはスイングしてこなかったように思う。
いずれにしても、フィル・コークはスクータロを追い込むチャンスを「自分から逃した」のである。

結局のところ、スクータロに決勝タイムリーを打たれたフィル・コークの配球の何がいけなかったのかといえば、フィル・コークの配球が、「自分本位」であり、「相手が何を待っているかで、次の球を決めている」のではないからだ。
彼は基本的に、他の大多数のピッチャーと同じように、「自分の投げたい球を投げているだけ」だ。

これが、後で書くミゲル・カブレラを見逃し三振に切ってとれたセルジオ・ロモとの大きな違いだ。
サンフランシスコのピッチャーは、「相手バッターが何を待って打席に入っているか」を基本的に頭に入れて投げていて、そのことがサンフランシスコをワールドチャンピオンにした



「裏をかいた」セルジオ・ロモのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回裏 ミゲル・カブレラ 三振2012年10月28日
WS Game 4 10回裏
ミゲル・カブレラ 三振


見ればわかることなので、簡単に書く。

セルジオ・ロモは、スライダーを中心に配球してくるタイプのクローザーであることは、誰でもわかっている。
3球のうち2球が、77マイルちょっとの遅いスライダーで、あとは、87マイルのシンカーと、同じ87マイルの4シーム。チェンジアップも投げられないこともないが、スライダー以外の球種といえば、基本的にはストレートで、シンカーを少し混ぜる程度だ。(とはいえ、シンカーと4シームの球速が同じであることは、ロモのピッチングの要点のひとつなのだが)
Sergio Romo » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


10回表。

先頭はインコースしか待っていないのがわかりきっているワンパターンな右打者、オースティン・ジャクソン
ロモは、ジャクソンの苦手なアウトコースへ、得意のスライダー4連投。軽々と空振り三振。
ALCSでヤンキースがあれほど手こずったジャクソンは、実はこんなに簡単に三振がとれる「スカウティングしやすいバッター」なのである。サンフランシスコにとって、ジャクソンはまったくの「安全パイ」だったわけだが、むしろこの程度のバッターに手こずってしまうヤンキースの「スカウティングの無さ」が悪い。

2人目は、左のドン・ケリー。アウトコース低めに4シームとスライダーを集めるだけの「簡単なお仕事」で、空振り三振。


問題は、3人目のミゲル・カブレラだ。
右のスライダーピッチャー、ロモが右バッターを攻める定番の配球で、アウトコース低めのスライダーばかり5連投して、カウント2-2。
5球目のスライダーをファウルできるあたりが、カブレラだ。やはりアウトコースが穴だらけのオースティン・ジャクソンと違って、コースにほとんど穴がなく、右にもホームランが打てるミゲル・カブレラは、スライダー連投だけで空振り三振してくれるほど、甘くない。

ここで、ロモが投げたのが、
ハーフハイトの4シーム



球速はたったの89マイル。
データ的にはややアウトコース寄りだが、見た目の印象としては「真ん中」に投げているに見える。度胸が据わっているとしかいいようがない。



カブレラ、なんと見逃し三振。
彼はスライダーが来ると思っていたのだ。
ゲームセット。


いうまでもなくカブレラは
セルジオ・ロモの得意球種である「スライダー」に備えていた。


もう一度書いておこう。

2012年のシーズンは、「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームがなすすべもなく負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後までしぶとく勝ち残った。


ハワイ移民150周年
No Ichiro, No watch.

Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です




Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
Google

livedoorブログ内検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month