January 04, 2013

ストーブリーグにまるで関心のないブログ主としては、早くシーズンが始まらないものかと毎日思っているわけだが、今は何もすることがなくて退屈きわまりない。暇つぶしに、結論のわかりきっている話で申し訳ないが、ジョシュ・ハミルトンの移籍について書いてみる。


去年のハミルトンのバッティングについて、Baseball Analyticsは2012年12月13日の記事で、こんな意味のことを書いている。

ハミルトンが「アウトコース低めコーナーいっぱいを突く球」に非常に弱いことに投手たちが気づいてからというもの、2011年の彼はこの球にほとほと手を焼いたが、2012年になってハミルトンはスイングをアジャストし、ほぼストライクゾーン全体を打てるようになった。

ハミルトンのHot Zone by Baseball Analytic

At first, Hamilton struggled, seeing his ability to hit for extra bases diminish, but in 2012, he adjusted his swing and shifted his power stroke to cover the entire strike zone.
New Halo Josh Hamilton is a Prodigious Slugger - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
注:上の図は「投手側からプレート方向を見た図」


いやー(笑) 悪いけど、まったく同意しかねる(笑)

もし本当にストライクゾーン全体が打てるようになったのなら、シーズン終盤の、あの醜態はありえない。いつも通り、アウトコース低めのスライダーで三振しまくってただろうに、見てないのかね(笑)

どうしてまたBaseball Analyticsというサイトは、やたらとHot Zoneだけでモノを言いたがるサイトなんだろう。Hot Zoneなんてものは別にオールマイティのツールでもなんでもない。

年間データにしても、それが有用な判断材料を提供してくれることもあるが、ハミルトンの2012年のバッティングの価値を評価するにあたっては、1シーズン通してみたHot Zoneデータなんてものは、まるでアテにならない。

たとえば、2007年の城島のあの中身の無いバッティングデータでもわかる。
シーズンの数字でみると、例えば打率.287とか、あたかも人並みに打っていたかのごとく、「見せかけの数字」が並んでいるわけだが、実際どうだったかといえば、勝負どころだった7月の最悪の月間打率.191、そしてシーズンRISP.248でわかるように、勝負どころでは全く働いてない。ゲームを見ていない人にはわからないだろうが、要所要所では、、ただただチームの足を引っ張っただけの帳尻バッティングスタッツに過ぎない。(だからこそ翌年以降の打撃成績の急降下を予測できたわけだが、当時はそれをいくら言っても、誰も信じなかった)


ハミルトンの2012年のバッティングの中身の無さも似ている。ハミルトンの2012年7月以降のバッティングの酷さ、そしてチーム勝率への多大な悪影響は、「シーズン通算のHot Zone」なんてもので見えてくるわけがない。
たとえハミルトンが2012年のシルバースラッガー賞を受賞しようと、そんなものは関係ない。2012シーズン終盤のハミルトンの「アウトコースの安全牌ぶり」は、同じ2012年9月のカーティス・グランダーソンのインコースと同じくらい酷いものだった。


シルバースラッガー賞ハミルトンのバッティングの中身の無さをデータから見るために、まず、「ハミルトン個人の月別の打撃数字」と「チーム勝率」との関係を、ちょっと見てもらおう。

ハミルトンの2012シーズンのバッティングは、シーズン通算でみると、打点128はたしかにリーグ2位の立派な数字だし、ホームランも40本以上打って、シルバースラッガー賞も受賞している。
だが、それらのほとんど全ては、好調だった4月、5月、8月の3か月間、特に春先の2か月で稼いだ数字だけに頼った成績であり、あとの3か月、特に「チームが最悪の状態にあった7月」と、「確実視されていた地区優勝を逃して醜態を晒した9月以降」の低迷ぶりときたら、チーム勝率への悪影響はあまりにも凄まじかった、としかいいようがない。
4月 打率.398 打点25 チーム勝率 .739
5月   .344 32 .500
6月   .223 16 .679
7月   .177 11 .391

8月   .310 28 .655
9月/10月 .245 16 .536
ボルチモアとのALWC(=American League Wild Card Game いわゆるワンゲーム・プレーオフ)
4打数ノーヒット2三振
Josh Hamilton 2012 Batting Splits - Baseball-Reference.com


たぶん「2012年のテキサスは無敵の強さだった」とか、いまだに勘違いしたままのファンがたくさんいるとは思うが、2012シーズンにテキサスの勝率が良かったのは、「テキサスがあまりに強くて、弱い相手にも、強豪相手にも、まんべんなく勝ったから」では、全くない。
むしろ、「春先に、弱いチームを確実に叩くことができていただけ」に過ぎない、というのが正しい。
もっと具体的に言うと、今シーズンのテキサスの勝率の高さは単に、2012シーズン開幕当初から既にチームが崩壊していたミネソタ(対テキサス 2勝8敗)やボストン(対テキサス 2勝6敗)、あとはヒューストンなどが、テキサスに「楽勝」を提供し続けてくれていたおかげに過ぎない。

2012年のテキサスが「同地区との対戦にはからきし弱いが、他地区の崩壊チームからは、数多くの勝ち星をむしりとる傾向」は、ジョシュ・ハミルトンの打撃成績にも、そっくりそのまま、あてはまる。
(もっというとダルビッシュの投手成績の一部、たとえばERAにも、ある程度だがハミルトンと同じ傾向が見られる)

そりゃまぁ、シアトル含め、ぶち壊れたチームとの対戦ばかりが続いた4月や5月は、テキサスも大勝できたし、ハミルトンも打てた。なんせ、弱いチームのピッチャーは、何も考えずハミルトンの大好きなインコースでもどこでも、かまわず投げてくれる。そういう頭を使ってゲームをしてない弱小チームとのゲームばかり続いたら、誰だって打てるし、勝てもする。

2012年ハミルトンの対戦チーム別打率 トップ3
BOS .406 打点14
BAL .357 打点12
MIN .350 打点13

2012年ハミルトンのボールパーク別打率 トップ3
BOS-Fenway Park .545
BAL-Camden Yards .471
MIN-Target Field .462


だが、そんな安易な対戦ばかり、続くわけがない。

2ストライクをとられてからのハミルトンの打率の低さ」を、以下のデータで確かめてみるといい。この数年で、いかに相手ピッチャーが、ハミルトンの弱点を把握するようになってきているか、そして、リーグMVPに輝いた2010年以降、いかにハミルトンが急速に勝負弱くなってきているかが、ひと目でわかるはずだ。

ジョシュ・ハミルトン カウント別打率の推移
2010年
0-2 .128
1-2 .247
2-2 .362
3-2 .302

2011年
0-2 .083
1-2 .188
2-2 .214
3-2 .263

2012年
0-2 .129
1-2 .169
2-2 .196
3-2 .130



簡単にいうと、このブログで何度も指摘してきたように、今のハミルトンは「2ストライクをとって追い込んでおけば、あとは、彼のあからさまな弱点である『アウトコース低め』めがけてスライダーでも投げておけば、簡単に三振してくれるフリースインガー」のひとりに過ぎない、ということだ。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、2012オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。

アウトコース低めに逃げる変化球をハミルトンが苦手にしていることは、2011年以降、多くの強豪チーム、多くの先発投手がとっくに把握している衆知の事実だが、その一方で、チームが弱体化していて、コントロールのいい先発ピッチャーを揃えることができず、ましてスカウティングもままならないようなアタマの悪いチームは、このことに気がつかないまま、漫然とゲームをしている。


だが、テキサスと同地区のエンジェルス、アスレチックスとなると、対戦ゲームが多いだけに、安易なゲームはしてくれない。必ずスカウティングして、ハミルトンの弱点を洗い出し、徹底的に弱点を突き、抑えにかかってくる。
だから、同地区チームとの対戦内容をみると、ハミルトンの打撃成績は一変する。
以下に数字を挙げたが、同地区チームとの対戦における打率はどれも.280前後だから、そこそこ打てているように思っている人もいるかもしれないが、この数字を「球場別」に見ると、まるで話は違ってくる。「ハミルトンが対戦数の多い同地区チームとの対戦で打てているのは、あくまでアーリントンで行われるホームゲームだけであり、同地区のビジターではまったく打てない」。
これは、「スカウティングされた後のジョシュ・ハミルトンのバッティングが、いかに怖くないか」を如実に示すものだ。

同地区チームとの対戦における打率(2012年)
OAK .247
SEA .281
LAA .288

ボールパーク別打率 ワースト5(2012年)
OAK-O. Coliseum .189 ホームラン1本 打点4
SEA-Safeco Field .182 ホームランなし 打点3
LAA-Angel Stadium .143 ホームランなし 打点なし
TBR-Tropicana Field .100 ホームラン1本 打点3
TOR-Rogers Center .083 ホームランなし 打点なし
参考:
TEX-Rangers Bpk .289 ホームラン22本 69打点



何度も書いているように、「パークファクター」なんて指標は、そもそもアテにならない。例えば、ある球場ではホームランが出やすい、といっても、それが「自軍がホームランをたくさん打ったから」なのか、それとも「自軍の投手陣があまりにも酷くて、相手チームにホームランをしこたま打たれたから」なのか、そんなことすら区別できない。

ただ、そんなダメ指標でも、「おおまかな数字でいい」という条件なら、「球場ごとのホームランのでやすさ」くらいはわかる。
例えば、ロサンゼルス・エンジェルスの本拠地、エンジェル・スタジアムは、2012年のパーク・ファクターでみると、MLB全30球団で25番目にホームランがでにくいボールパークだ。
2012 MLB Park Factors - Home Runs - Major League Baseball - ESPN

LAAに移籍が決まったハミルトンは、2012年にエンジェル・スタジアムで7ゲームやっているが、ホームランを1本も打てていない。と、いうか、彼のキャリア通算161本のホームランの約半分、83本は「宇宙で一番狭い」アーリントンで打ったものだ。
そして、ハミルトンのバッティング成績において、グラウンドボール、いわゆる「ゴロ」は、ヒットになる確率がびっくりするくらい低い。ハミルトンはフライを打たないとヒットを打てない、極端なフライボールヒッターなのだ。


MLBで最もホームランの出やすいボールパークのひとつ、アーリントンだからこそホームランを量産できていたハミルトンが、彼が最も苦手とするボールパークのひとつであり、ホームランの非常に出にくいエンジェル・スタジアムに移籍して、いったい何をしようというのだろう。ほんと、意味がよくわからない。


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