March 04, 2013

2人のMLBアンパイア、Chris Guccione と、Gerry Davis がそれぞれ球審をつとめたWBC日本対ブラジルと、日本対中国戦の2試合について、いつもMLBのゲームを見ながらやっているように球審のストライクゾーンについてツイートしていたところ、思わぬ数の反響(リツイートやらフォローやら)を頂いて驚いた。

おそらく、日本のテレビでWBCを観戦している方は、普段は日本のプロ野球だけ見るタイプの方が多いと思われるわけだが、それだけに、これら2人の球審が「非常に強い特徴をもつ、独特のストライクゾーン」を持っていることをこちらのツイートで知って、驚かれたのだろう、と思う。


そこで、そうした方々にも、MLBと日本のプロ野球との違い、MLBのアンパイアの個性とその意味について知ってもらい、MLBに関する間違った認識も訂正しつつ、もっとMLBに親しんでくれるファンを増やす意味で、簡単にだが、ちょっと自分のわかる範囲で説明してみることにした。(もちろん解説が100%正確ともいえないとは思うが、アメリカはともかく、日本では他の野球サイトでMLBのストライクゾーンの現状について、このブログ以上にきちんとまとめた解説をこれまで見たことがない)



MLBのストライクゾーンについての基礎知識

ネットでも、ファン同士のリアルな会話でも、よく「MLBのストライクゾーンは、日本より低い」という話を聞かされたことがあると思う。だが、そんなのは単に過去の「情報不足の時代」に言われていた俗説に過ぎない。
昔はまだMLBで実際にプレーする日本人選手が限られ、実際のゲームを見る機会も今ほど多くはなかっただろうし、またインターネットも無く、パソコンを使ったデータ収集もままならなかった。そんな情報不足の時代に、ほんのちょっと見ただけの印象が、聞きかじりに伝聞され、通説化していたとしか思えない。

日本にはいまだに存在しないのが残念だが、アメリカには、MLBについてのパブリックなデータサイトが非常に発達している。(例:Baseball Reference
中には、実際のゲームの何十万球もの投球データを集計して、アンパイアの実際のストライクゾーンを研究したデータ、なんてものもある。
だから、調べれば「MLBのストライクゾーンは低い」なんて単純な話ではないことは、誰でもわかる。


1)一般論としてのMLBのストライクゾーンは「横長」

ルールブック上のストライクゾーンは見た目に「縦長」な形をしているが、実際の試合でMLBの球審が判定するストライクゾーンは「一般論としては、横長」にできている。つまり、ルールブック上のゾーンに比べて、実際のゾーンは、高低が狭く、左右は広いのである。
もちろん個々のアンパイアには大きな個人差が存在する。アンパイアによって、「縦長」「横長」「真四角」と、さまざまな形のゾーンが存在する。だが、非常にたくさんの判定データをぶちこんで、ならしてみると、結局「横長」のゾーンになる、という集計結果が出ている。
資料:Hardball Times:The eye of the umpire


2)左バッターと右バッターのゾーンは異なる

MLBの左バッターのゾーンは、「アウトコースが異常に広い」のが特徴。アンパイアによっては、ルールブックよりボール2個以上広いことすらある。逆にインコースは、ルールブック通り。全体として言えば、「左打者のゾーンはアウトコース側に大きくズレている」ともいえる。もし左打者としてMLBで成功しようと思うなら、広いアウトコースに対応できなくてはならない。
右バッターのゾーンは、インコース、アウトコース、ともに、ルールブックより少し広い。ただ、右バッターのアウトコースのゾーンは、左バッターのアウトコースほど広くない。逆に、インコースは左打者よりやや広め。全体として言えば、右バッターは、インコースもアウトコースも、両方に対応する必要がある。
資料:Damejima's HARDBALL:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。
ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
上の図で、左図は右バッター、右図は左バッター。アンパイア視点で書かれた図なので、向かって右がライト側、左がレフト側になる。赤色の線が「ルールブック上のストライクゾーン」、緑色の線が「実際のゲームでアンパイアがコールしているゾーン」。球審のコールするゾーンが「横長」であることがわかる。


3)個々のアンパイアのストライクゾーンは「個人差」が非常に激しく、その「個人差」は、他のあらゆるファクターに優先する

MLBのゾーンが「一般的に横長」という特徴をもつことや、左打者・右打者のゾーンの違い、それらのどの項目よりも、「アンパイアごとの個人差」は優先される
球審ごとにゾーンは少しずつ異なるが、いくつかのタイプ分けはできないこともない。(ただ、勘違いしてほしくないのは、ゾーンが狭いから上手いとか、広いから下手とか、そういう意味ではないことだ)
「ほぼルールブックどおり」代表例:Jeff Kelllog
「非常に狭い」例:Gerry Davis
「非常に広い」例:Jeff Nelson
「めったやたら横長」例:Mike Winters
「全体として高い」例:Sam Holbrook
「全体として低い」例:Tim Timmons

資料:Damejima's HARDBALL:2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)

資料:Hardball Times:A zone of their own


4)アンパイアに存在する「技術差」について

ひとこと確認しておかなければならないと思うことがある。
それは、アンパイアごとの「個人差」と「技術差」は、意味がまったく違う、ということだ。
技術の下手なアンパイアはMLBにもいるが、そしてWBCに派遣されているアンパイアは、たとえ「ストライクゾーンの個人差」は存在するにしても、MLBでも指折りの、技術の確かな厳選されたアンパイアが派遣されてきている、ということは強調しておきたい。日本のブラジル戦、中国戦の2試合をさばいたChris Guccione と、Gerry Davisは、2人とも素晴らしいアンパイアであり、MLBでの評価は非常に高い。

例えば、「MLBのアンパイアが実際に使うストライクゾーンは、ルールブック上のゾーンとは、かなり異なっており、また、個人差が非常に大きく影響する」などと書くと、とたんに、「じゃあ、MLBのアンパイアは、みんな下手なんだな」とか、「MLBのアンパイアは、バラバラの判定をしてるのか」とか、勘違いする人が出てくる可能性がある。

だが、それは間違っている。

最後はどうしても日米の文化論に帰結してしまうことになるが、アメリカでは州ごとに法律が異なっているように、「個人差を認める」というルールが文化の根幹に通底している。「アンパイア全員が、まったく同じ基準で判定しなければスポーツではない」と考えなければならない理由は、どこにもない。
では、個人差が認められているから、MLBのアンパイアの判定がバラバラなのかというと、そういうわけではなく、「通底した了解」も同時に存在する。けしてバラバラではない。ちょっと日本人には理解できにくいことなのかもしれないが、「大きな個人差があり、それが優先されながらも、全体としてひとつの方向性が存在する」という発想を認めなければ何事も先に進まない。

野球というゲームのアンパイアの判定で、最も困ることのひとつは、「ゾーンが高すぎる」とか「ゾーンが横長すぎる」というような「個人差の存在」ではなくて、むしろ「ゲーム中に判定基準がコロコロ変わること」や、「重要なゲーム、重要な場面で、プレッシャーに押しつぶされて、アンパイアがわかりきった判定をあからさまにミスすること」、つまり、「経験を含めた判定技術の上手い、下手」だ。

野球選手はプロだから、「今日の球審のゾーンは高いな」とか、「今日の球審はアウトコースが広い」とか、わかった上でプレーしている。だから、選手はアンパイアの個人差をそれほど問題にしてはいない。
だが、判定基準をゲーム中に突然変えることは、プレーしている選手にはバレるし、怒りを買う。突然さっきまでボールと言われていたコースをストライク判定されて三振させられたら、選手は一気に頭にくるし、黙ってない。アンパイアに執拗に抗議して退場させられたりすることもある。


最後にアンパイアの「個人差」と「技術の上手い下手」が意味が異なる、という例を挙げてみる。

Close Call Sportsという各種プロスポーツの退場処分だけを扱ったユニークなサイトによれば、日本対ブラジル戦を球審としてさばいたChris Guccioneだが、彼は、2011年に退場コールを3回行っているが、そのどれもが後に「正しい判定だった」(つまり抗議した側が判断を間違っていた)ことがわかっている。さらに2012年には、彼はなんと、一度も退場コールをしていない。
資料:Close Call Sports: Chris Guccione
このことからわかるのは、Chris Guccioneのストライクゾーンが他のアンパイアと比べて「やや高い」というような「判定の個人差」と、彼の判定技術の高さの間には、なんの関係もない、ということだ。


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month