May 04, 2013

MLBでWizard(魔法使い)とのニックネームをもつイチローが、オークランド戦で得意の「魔法」を使った。
動画(MLB公式):Baseball Video Highlights & Clips | OAK@NYY: Donaldson's single gets reviewed, stands - Video | MLB.com: Multimedia

Oakland Athletics at New York Yankees - May 3, 2013 | MLB.com Gameday

6回表、オークランド先頭の4番セスペデスが四球で歩いた後、5番ジョシュ・ドナルドソンのシャープな当たりは、今日MLBで初めて5番に入ったイチローの頭上を軽々と越えていく強烈なライナーで、あっというまにフェンスを直撃した。
なにせ、この打球、外野手に捕れるような打球でないどころか、プレーが終わってから、オークランド監督ボブ・メルビンが「ホームランかどうか確認してくれ」と、ビデオリプレーでの確認を審判団に要求したほど大きな当たりだった。

2013年5月3日6回表ドナルドソンの打球位置

しかし、この強烈なフェンス直撃のライナーを待ち受けていたのは、「シングルヒット」、しかも、打者自身はセカンドでアウトという過酷な運命だった(笑)


というのも、イチローが「あたかも自分が
『打球の落下地点に入っていて、いまにも捕球しようとするところだ』、という『フリ』をするというトリックプレー
」をやってのけたからだ。

この「魔法」のせいで、1塁走者セスペデスと打者走者ドナルドソン、2人のスタートが遅れ、打球がフェンスを直撃するのを目視してからのダッシュになったために、1塁走者のセスペデスはサードを蹴ることができず、打者走者ドナルドソンに至っては、ライト・イチローからの好返球でセカンドかなり手前で楽々アウト。まさにふんだりけったり。

2013年5月3日6回表打者走者をセカンドで刺すイチロー

本来なら、1塁走者が一挙に生還して無死2塁、あるいは、無死2、3塁だった場面が、1死3塁になったのだから、スタンドが拍手喝采だったのはいうまでもない。

まぁイチローが時折この「魔法」を使ってきた事実を知らないままMLBを見ている人には、なんのことやらチンプンカンプンかもしれない。なんせ、MLBライターたちのTwitterですら、素晴らしいトリックが成立したというのに沈黙を続け、まして、このプレーを即座に解説してみせたライターは誰ひとりいなかったのだから(笑)



しかし、本当のことを言うと、この「最初の魔法」もさることながら、技術的な見せ場、『野球の面白さを教えてくれる2つ目の魔法』は、同じイニングの直後にあった。


イチローの「最初の魔法」の後、サバシアが追加点となるタイムリーを許してしまい、2死2塁(セカンドランナー:デレク・ノリス)と場面が変わって、7番ネイト・フリーマンがライト前ヒットを打った。(ちなみに、この人の奥さんはLPGAツアーのプロ・ゴルファー、Amanda Blumenherst(アマンダ・ブルーメンハースト)。2人はノースカロライナにあるデューク大学同窓生)
二塁走者ノリスは、サードを猛然と回りかけたが、そこでストップ。いわゆる「イチローの抑止力」というやつだ。
オークランドのスタッフはア・リーグ西地区時代に嫌というほどイチローの「肩」を味わっているだけに、この接戦のゲームであえてサードランナーをホームに突っ込ませる勇気はなかった。


この場面、ライトのイチローはホームを守るクリス・スチュアートに2バウンドくらいで届く低い弾道のストライク返球をしているのだが、このホーム返球がなぜ、ホームへのダイレクト返球でなく、「バウンドするような低い送球」である必要があったか。


ホームでランナーを刺すこと「だけ」が目的なら、外野手は何も考えずにホームにできるだけ強い返球をして(理想的にはダイレクト返球だと思うかもしれないが、強肩外野手でないと、かえって山なりの送球でホーム到達が遅くなる)、サードを蹴ったセカンドランナーの足と勝負するだけでいい。

しかし、野球は単純じゃない。

もし二塁走者がサードを蹴り、そのランナーをホームでのタッチプレーでアウトにできなかった場合、あるいは、二塁走者が自重してサードを蹴らなかったが、外野手がホームにダイレクトに送球したボールが横にそれたりした場合、どうなるか。

その場合、打者走者フリーマンは送球間にセカンドに進塁してしまい、得点圏にランナーが残ってしまう
そうなれば、ただでさえスタミナの切れるゲーム終盤にヒットを連打されはじめたヤンキース先発CCサバシアに、さらに負担がかかる。もし追加点でも許せば、オークランド先発グリフィンの調子が最高だっただけに、ヤンキースの逆転の可能性はなくなる。


では、
打者走者フリーマンのセカンド進塁を阻止するために
外野手はどうしたらいいか。


ライトのイチローから捕手スチュアートへの返球の間には、ヤンキースの一塁手ライル・オーバーベイがいる。カットマンの彼は、もし「イチローからの返球が、二塁ランナーのホームインに明らかに間に合わない」と判断すれば、途中で送球をカットして、セカンド送球に備える。また、「イチローの返球で、二塁ランナーをホームでアウトにできる」と判断すれば、カットせず、返球をスルーすることを選択する(実際のゲームでオーバーベイは「スルー」を選択したが、打者走者はイチローのホーム送球が強かったため、セカンド進塁を自重した)

もし、この場合、イチローがオーバーベイの頭上をはるかに越え、捕手スチュアートに直接届くような「軌道の高い返球」をしていれば、どういうことが起きるか。
ヤンキースの一塁手オーバーベイは、「カット」を選択する余地がなくなるから、打者走者フリーマンは「本塁がアウトになるかどうか」に関係なく、躊躇なくセカンドに進塁できる可能性が高くなる。
その場合、もしイチローの返球がそれたり、ホームでのクロスプレーでホームに突入してきた二塁走者をアウトにできなければ、チームは1失点した上に、降板が近いサバシアが再び2塁に走者を背負って投げなければならないから、さらなる失点の可能性すら出てくる。


だからイチローは、「ホームでのクロスプレーになるような強い返球」であり、なおかつ、「ファーストのオーバーベイがカット可能な低い返球」を瞬時に選択して、二塁走者にサードを蹴らせず釘づけにすると同時に、打者走者をもファーストに釘づけにしてみせたのである。


Sabathia was helped in the sixth twice by the arm of Ichiro Suzuki, who picked up an outfield assist on a Josh Donaldson single off the top of the right-field wall and also made a strong throw home that pinned Norris at third on a Nate Freiman single.
Oakland Athletics at New York Yankees - May 3, 2013 | MLB.com OAK Recap

この2つの「魔法」で、イチローは最低でも2点の失点(ひょっとすると3点かもしれない)を防いでみせた。もしWPAだの、選手の働きを数値で判定したがるやつらが、こういう野球独特のプレーの意味すらわからない野球音痴のアホウでも、そんなことは知ったこっちゃない。


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month