May 22, 2013
New York Yankees at Baltimore Orioles - May 20, 2013 | MLB.com Box
シーズンハイとなる11本ものヒットを打たれながらも、なんとか4失点に抑えたCCサバシア。
6回をわずか3安打に抑えたが、そのうち2本がソロホームランで、先取点を許したフレディ・ガルシア。
サバシアは6回1/3で102球もの球数を投げ、
ガルシアはわずか6回66球しか投げていない。
2人のヴェテランの好対照な投球内容だが、
どちらをより優れていると考えるかは、好みによる。
少なくとも味方の守備時間の長さにおいては、
ガルシアのほうが短いとは言える。
しかし、それぞれの投球数には、それぞれの意味がある。
ヤンキース監督ジョー・ジラルディは、いつもサバシアを我慢して我慢して使う。
他方、オリオールズ監督バック・ショーウォルターは、今のガルシアで「使えるところのみ」を切り取って、持ち味を最大限発揮させようとしている。
去年、「ヤンキースの先発ピッチャーは、6回または7回を4失点で終わる」と書いたことがあるわけだが、「最近の」サバシアは、いつ大量失点してもおかしくない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年9月15日、ヤンキースが「3対6で負け」、「3対2で勝つ」理由。
というのも、サバシアのストレートの球威が失われてしまい、どうしても「変化球」に頼らざるをえなくなっているからだ。さらに悪いことに、かつて得意だった「右バッターのインコースにストンと決まって、見逃し三振をとるカーブ」も、どういうものか、投げきることができない。
だから今のサバシアの配球は、どうしても「外のスライダーか、シンカーばかり」になってしまう。このことは相手打線もわかってゲームに臨んでいるから、どうしても狙い打ちにあう。
かつてのボルチモアは、早打ち打線とジェレミー・ガスリー(今は移籍先で大復活)に代表される弱体な投手陣が特徴の大味なチームで、ア・リーグ東地区ではヤンキースやボストン、タンパベイといった上位チームにとっては「単なる、おいしいお客さん」でしかなかった。
だが、GMとして2000年代ボストンの黄金期を準備した本当の立役者ダン・デュケットがGMに、そしてチーム立て直しに定評のあるバック・ショーウォルターが監督になったことで、すっかり体質が変わり、いまやア・リーグ東地区のポストシーズン常連チームとなりかけている。
このゲームでも、ボルチモア打線は、明らかにサバシアのボールになる変化球をしっかり見極めつつ、アウトコースにストライクをとりにくる変化球に狙いを絞って、ヒット量産に成功している。さしものサバシアも、今はボルチモアの上位打線だけでなく、下位打線にも四苦八苦させられる。
ボルチモアはもう昔のような「お客さん」ではない。
他方、フレディ・ガルシア。
2004年6月までシアトルの主力投手だった彼だが、ヴェテランになってからは「つかまりそうで、つかまらない変化球投手」という持ち味の技巧派になり、たしか去年の中心球種は「スライダー」だったと記憶しているが、このゲームでの中心球種は「シンカー」で、そこに「スプリット」「カーブ」「スライダー」を適度に混ぜて、2本のソロホームランを除けば、ヤンキース打線に芯でとらえたバッティングをさせなかった。
ガルシアは、去年まで2シーズン、ヤンキースに在籍していたわだが、2012年オフにヤンキースは再契約を提示しなかった。というのも、2012シーズン終盤にヤンキースが地区優勝争いで、2位ボルチモアに激しく追い上げられて最悪に苦んだ時期、ガルシアはどうしても勝ちたいゲームで、ちょうど今サバシアがやっているのと同じように、「カウントを悪くして、苦しまぎれに外一杯のコースに置きにいった変化球を、狙い打たれてばかりいる」という悪循環を繰り返して、ボルチモアに追い上げを食らったシーズン最終盤にはとうとうローテーションから外されているからだ。
つまり、2012年終盤のガルシアは、「つかまりそうで、つかまらない」どころか、「つかまりそうで、予想通り、つかまってしまう投手」だったわけで、ヤンキースに残れなかったのは当然だった。
もちろん、ガルシアがアウトコース低めのスライダーばかり投げて打たれていたのには、当時のヤンキースのキャッチャー、ラッセル・マーティンがアウトコースのスライダーばかり使いたがって単調なサインを出していた、というのも大きく影響している。(だからこそ、ガルシア同様にマーティンにも再契約を打診しなかったのだと思う)
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
しかし、今日のゲームのガルシアの変化球は、けして「アウトコースのスライダー」一辺倒ではない。シンカーこそ甘い球も多かったが、それでもスプリットやチェンジアップを含め、さまざまな変化球を、それもさまざまなコースに投げわけることで、ヤンキース打線に的を絞らせなかった。特に、ヤンキース2巡目以降に多投した「チェンジアップ」は効果的で、ほとんど誰もつかまえることができなかった。
2013年のガルシアは、一度サンディエゴとマイナー契約したが、スプリング・トレーニングが終わる3月末にリリースされてしまい、その後投手不足に悩むボルチモアにマイナー契約で拾われ、5月以降に4度先発している。そして、理由は知らないが、どの登板も70球程度しか投げていない。
だが、その「ボルチモアで、投球数を限定して使われているガルシア」は、WHIPが1.075と、近年では一番いい数字になっている。確かなことはわからないが、ガルシアの肩の衰えを承知した上で、フレディ・ガルシアのいいところだけを使おうという、バック・ショーウォルター流(あるいはリック・アデア流)のクレバーな選手起用のように思う。
それにしてもこのゲーム、
両チームの監督の選手起用の応酬が面白かった。
6回まで2-2ながら、サバシアの調子の悪さを見越したショーウォルターは、調子の良かったガルシアを6回で早めにマウンドから降ろし、7回からはリリーフをどんどん投入して、ゲーム終盤の勝ち逃げを図った。そして、かたやジラルディは、ランナーを出し続けて苦しむサバシアを7回まで引っ張ろうとした。
ショーウォルターの「継投」は、ガルシアが抑えていたライル・オーバーベイに勝ち越しホームラン(スコア3-2)を打たれ、ジラルディのサバシア「続投」は、サバシアが例によって例のごとしの単調なアウトコースの変化球を狙い打たれて連打され、逆転を許して失敗してしまう(スコア3-4)。
結果だけいうと、ショーウォルターの「継投」策も、ジラルディの「続投」策も、両方とも失敗ではあるが、形勢としては、ややボルチモアの狙う「勝ち逃げ」にやや分があった。
ジラルディは、それでも「我慢」を選んだ。
これが功を奏した。
というのも、1点差を追いかける8回表に、コロラドから来たばかりのショート、ブリニャックに代打バーノン・ウェルズを出したため、その裏、8回裏に、ウェルズがそのままレフト守備につかせるのと同時に、代打を出したショートの守備にジェイソン・ニックスを入れなければならなくなったわけだが、ここでジラルディは、このところ打撃いまひとつだったイチローの打順にニックスを入れて、外野を左からウェルズ、ガードナー、グランダーソンにするのではなくて、センターのガードナーをニックスと交代させ、外野をウェルズ、グランダーソン、イチローの3人にしたからだ。(だから、グランダーソンは慣れないライトではなく、長年慣れているセンターを守れた。ヤンキースの外野でダブついているのは、正確に言えば「外野手」ではなく、「センター」なのだ)
結果的に、このイチローをラインナップに残したジラルディの忍耐を貫く戦術が、延長10回表、先頭バッターのイチローのノーアウトからの二塁打と、その後の勝ち越しに繋がった。(もちろん、逆転を許した直後、今年チャンスに異常に強いクリス・デービスを敬遠して勝負を避け、今シーズンは打者としてそれほど怖くないマット・ウィータースとの勝負を選んだ采配も、なかなかだった)
ジラルディの忍耐。
ショーウォルターの先読み。
両監督の戦術の応酬は、とても見ごたえがあった。ひさしぶりに野球というものの面白さを見せてくれた両軍監督に拍手を贈りたい。
シーズンハイとなる11本ものヒットを打たれながらも、なんとか4失点に抑えたCCサバシア。
6回をわずか3安打に抑えたが、そのうち2本がソロホームランで、先取点を許したフレディ・ガルシア。
サバシアは6回1/3で102球もの球数を投げ、
ガルシアはわずか6回66球しか投げていない。
2人のヴェテランの好対照な投球内容だが、
どちらをより優れていると考えるかは、好みによる。
少なくとも味方の守備時間の長さにおいては、
ガルシアのほうが短いとは言える。
しかし、それぞれの投球数には、それぞれの意味がある。
ヤンキース監督ジョー・ジラルディは、いつもサバシアを我慢して我慢して使う。
他方、オリオールズ監督バック・ショーウォルターは、今のガルシアで「使えるところのみ」を切り取って、持ち味を最大限発揮させようとしている。
去年、「ヤンキースの先発ピッチャーは、6回または7回を4失点で終わる」と書いたことがあるわけだが、「最近の」サバシアは、いつ大量失点してもおかしくない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年9月15日、ヤンキースが「3対6で負け」、「3対2で勝つ」理由。
というのも、サバシアのストレートの球威が失われてしまい、どうしても「変化球」に頼らざるをえなくなっているからだ。さらに悪いことに、かつて得意だった「右バッターのインコースにストンと決まって、見逃し三振をとるカーブ」も、どういうものか、投げきることができない。
だから今のサバシアの配球は、どうしても「外のスライダーか、シンカーばかり」になってしまう。このことは相手打線もわかってゲームに臨んでいるから、どうしても狙い打ちにあう。
結局、外のスライダーを打たれちまった。カウントが悪くなったら、投げる球がなくなるのが、今のサバシアだからなぁ。インコースで勝負してほしかった
— damejimaさん (@damejima) 2013年5月21日
かつてのボルチモアは、早打ち打線とジェレミー・ガスリー(今は移籍先で大復活)に代表される弱体な投手陣が特徴の大味なチームで、ア・リーグ東地区ではヤンキースやボストン、タンパベイといった上位チームにとっては「単なる、おいしいお客さん」でしかなかった。
だが、GMとして2000年代ボストンの黄金期を準備した本当の立役者ダン・デュケットがGMに、そしてチーム立て直しに定評のあるバック・ショーウォルターが監督になったことで、すっかり体質が変わり、いまやア・リーグ東地区のポストシーズン常連チームとなりかけている。
このゲームでも、ボルチモア打線は、明らかにサバシアのボールになる変化球をしっかり見極めつつ、アウトコースにストライクをとりにくる変化球に狙いを絞って、ヒット量産に成功している。さしものサバシアも、今はボルチモアの上位打線だけでなく、下位打線にも四苦八苦させられる。
ボルチモアはもう昔のような「お客さん」ではない。
他方、フレディ・ガルシア。
2004年6月までシアトルの主力投手だった彼だが、ヴェテランになってからは「つかまりそうで、つかまらない変化球投手」という持ち味の技巧派になり、たしか去年の中心球種は「スライダー」だったと記憶しているが、このゲームでの中心球種は「シンカー」で、そこに「スプリット」「カーブ」「スライダー」を適度に混ぜて、2本のソロホームランを除けば、ヤンキース打線に芯でとらえたバッティングをさせなかった。
フレディ・ガルシアはストレートを投げてくるタイプのピッチャーではないから、ストレート狙い一辺倒のグランダーソンを5番に使う必然性は最初からないと思う。ガルシアは今のグランダーソンの苦手ピッチャーのはず。むしろアダムスを5番でもいいくらい。
— damejimaさん (@damejima) 2013年5月21日
ガルシアは、去年まで2シーズン、ヤンキースに在籍していたわだが、2012年オフにヤンキースは再契約を提示しなかった。というのも、2012シーズン終盤にヤンキースが地区優勝争いで、2位ボルチモアに激しく追い上げられて最悪に苦んだ時期、ガルシアはどうしても勝ちたいゲームで、ちょうど今サバシアがやっているのと同じように、「カウントを悪くして、苦しまぎれに外一杯のコースに置きにいった変化球を、狙い打たれてばかりいる」という悪循環を繰り返して、ボルチモアに追い上げを食らったシーズン最終盤にはとうとうローテーションから外されているからだ。
つまり、2012年終盤のガルシアは、「つかまりそうで、つかまらない」どころか、「つかまりそうで、予想通り、つかまってしまう投手」だったわけで、ヤンキースに残れなかったのは当然だった。
もちろん、ガルシアがアウトコース低めのスライダーばかり投げて打たれていたのには、当時のヤンキースのキャッチャー、ラッセル・マーティンがアウトコースのスライダーばかり使いたがって単調なサインを出していた、というのも大きく影響している。(だからこそ、ガルシア同様にマーティンにも再契約を打診しなかったのだと思う)
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
しかし、今日のゲームのガルシアの変化球は、けして「アウトコースのスライダー」一辺倒ではない。シンカーこそ甘い球も多かったが、それでもスプリットやチェンジアップを含め、さまざまな変化球を、それもさまざまなコースに投げわけることで、ヤンキース打線に的を絞らせなかった。特に、ヤンキース2巡目以降に多投した「チェンジアップ」は効果的で、ほとんど誰もつかまえることができなかった。
2013年のガルシアは、一度サンディエゴとマイナー契約したが、スプリング・トレーニングが終わる3月末にリリースされてしまい、その後投手不足に悩むボルチモアにマイナー契約で拾われ、5月以降に4度先発している。そして、理由は知らないが、どの登板も70球程度しか投げていない。
だが、その「ボルチモアで、投球数を限定して使われているガルシア」は、WHIPが1.075と、近年では一番いい数字になっている。確かなことはわからないが、ガルシアの肩の衰えを承知した上で、フレディ・ガルシアのいいところだけを使おうという、バック・ショーウォルター流(あるいはリック・アデア流)のクレバーな選手起用のように思う。
それにしてもこのゲーム、
両チームの監督の選手起用の応酬が面白かった。
6回まで2-2ながら、サバシアの調子の悪さを見越したショーウォルターは、調子の良かったガルシアを6回で早めにマウンドから降ろし、7回からはリリーフをどんどん投入して、ゲーム終盤の勝ち逃げを図った。そして、かたやジラルディは、ランナーを出し続けて苦しむサバシアを7回まで引っ張ろうとした。
ショーウォルターの「継投」は、ガルシアが抑えていたライル・オーバーベイに勝ち越しホームラン(スコア3-2)を打たれ、ジラルディのサバシア「続投」は、サバシアが例によって例のごとしの単調なアウトコースの変化球を狙い打たれて連打され、逆転を許して失敗してしまう(スコア3-4)。
結果だけいうと、ショーウォルターの「継投」策も、ジラルディの「続投」策も、両方とも失敗ではあるが、形勢としては、ややボルチモアの狙う「勝ち逃げ」にやや分があった。
ジラルディは、それでも「我慢」を選んだ。
これが功を奏した。
というのも、1点差を追いかける8回表に、コロラドから来たばかりのショート、ブリニャックに代打バーノン・ウェルズを出したため、その裏、8回裏に、ウェルズがそのままレフト守備につかせるのと同時に、代打を出したショートの守備にジェイソン・ニックスを入れなければならなくなったわけだが、ここでジラルディは、このところ打撃いまひとつだったイチローの打順にニックスを入れて、外野を左からウェルズ、ガードナー、グランダーソンにするのではなくて、センターのガードナーをニックスと交代させ、外野をウェルズ、グランダーソン、イチローの3人にしたからだ。(だから、グランダーソンは慣れないライトではなく、長年慣れているセンターを守れた。ヤンキースの外野でダブついているのは、正確に言えば「外野手」ではなく、「センター」なのだ)
結果的に、このイチローをラインナップに残したジラルディの忍耐を貫く戦術が、延長10回表、先頭バッターのイチローのノーアウトからの二塁打と、その後の勝ち越しに繋がった。(もちろん、逆転を許した直後、今年チャンスに異常に強いクリス・デービスを敬遠して勝負を避け、今シーズンは打者としてそれほど怖くないマット・ウィータースとの勝負を選んだ采配も、なかなかだった)
ジラルディの忍耐。
ショーウォルターの先読み。
両監督の戦術の応酬は、とても見ごたえがあった。ひさしぶりに野球というものの面白さを見せてくれた両軍監督に拍手を贈りたい。