June 06, 2013
いうまでもなく、このブログは、やがてイチローのMLB通算ヒット数が、毎月のように過去の有名プレーヤーの記録を追い抜きはじめる日々が始まること、そして、ピート・ローズやタイ・カッブに「毎月、毎週、迫っていく、ヒッチコックサスペンスのようなリアリティ」が多くの野球ファンにインパクトを与え続ける日々が始まることを、ずっと楽しみに待っていた。
テッド・ウィリアムズの次の「毎日をワクワクして暮らすためのターゲット」はMLB通算2721安打のルー・ゲーリッグにしようかなと思っている。
誰しも、「イチローの日本での安打数1278本」+「ルー・ゲーリッグと同じMLBでの安打数2721本」=「3999本」であることをわかった上でイチローの4000本達成を心待ちにしているものとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしい(笑)あらためて書いておこう。
クリーブランド第3戦に代打として登場したイチローは、ボルチモアチョップでヒットを稼ぎ、MLB通算安打数を2655本とし、ついにテッド・ウィリアムズを抜き、通算安打数記録のMLB歴代単独72位につけた。
Ichiro passes Williams on all-time hits list http://mlb.mlb.com/video/play.jsp?content_id=27762091
この日のヒットについて、ヤンキース公式サイトのBarry Bloomが、なかなか味のある文章を書いてくれた。
Barry Bloom: Yankees outfielder Ichiro Suzuki embraces magnitude of 4,000 hits | yankees.com: News
イチロー本人でさえ「日米通算」という記録のあり方にそれほど重い意味を置いていないことは、これまでの報道から明らかだが、Barry Bloomがあえて「4000本」をタイトルにもってきたこの記事に、彼の書き手としての優秀さが表れていると思うのは、彼が「さまざまな議論があることなど、承知し、ふまえた上で書いている」からだ。
この記事が引用しているブライアン・キャッシュマンGMのこんなコメントがある。
最初から高額サラリーで入団するフリー・エージェント系の選手の多い「あらゆる物価が高いヤンキース」のGMらしいコメントだが、Bloomは、イチローが「ヤンキースで木端微塵になった選手」かどうかについて、Ichiro is not one of them. とハッキリ断言した上で、イチローのこれまでのキャリアの特徴を以下のように端的にまとめている。
Bloomは、イチローのキャリアの特性を明らかにする上で、ビッグマーケット、つまり強豪球団育ちである松井のキャリアとの差を指摘した上で、こんなふうに断言している。
彼の文章がいいのは、例えば2013シーズンのイチローがヤンキースでけして恵まれた環境でプレーできる環境に置かれているわけではないことをきちんと理解しながら、ヤンキースのマーケットの大きさに惑わされることも、現実から目をそらすこともなく、自分自身の意見として「イチローの業績と評価」ついて意見を述べていることだ。
ヤンキースでイチローは、さまざまな打順を打たされ、本職のライトや、ゴールドグラブを獲った経験もあって適性もあるセンターだけでなく、レフトまで守らされている。そのことも、Bloomはきちんと触れている。そして、言外に、そうした不安定な環境が必ずしもイチローの記録達成に関してプラスになるとはいえないことも、彼はきちんと理解している。
面白いのは、Bloomが、イチローの置かれた今シーズンの理想的とはいえないプレー環境や、日米通算記録の野球史的価値を認めるとか認めないとかいう数字オタクの議論を、すべてきちんとふまえた上で、それでも、イチローがテッド・ウィリアムズの通算安打数を抜いたことを意味する「2655本」について記事を書くことを選ぶのではなく、むしろ、あえて「4000本の栄光」について書き記すことを選んだことだ。
今回の「2655本」についてのツイッターやメディアでの反応を眺めてもわかることだが、実は、イチローがMLB通算安打数でテッド・ウィリアムズに並び、そして抜いた「この地点」は、これまでの「単なる通過点」とはやや感触が違う。これまでは、どんな野球殿堂入り選手の安打数を抜いても、ほとんど記事になったり、関連記事がリツイートされたりという、「情報の渦(うず)」は起きなかった。
やはりテッド・ウィリアムズというプレーヤーは、単なる「MLBの歴史」なのではなくて、『歴史の中の歴史』なのだ。
その『歴史の中の歴史』、その「高さ」を越えていかないと、『歴史の中の歴史』になれないし、そもそも、毎日忙しい生活を送るたくさんの人々に、いまのいま起ころうとしていることの意味を理解してもらうことができない。
つまり、「テッド・ウィリアムズのような高い頂きを越えていく日々が始まることで、やっと、イチローという富士に似た孤高の山のもつ『空を突き抜けるとみまがうほどの、見上げるような高さ』を理解できる人が一気に増える」ということだ。
この「高さ」は、毎日毎月少しずつ積み重なっていくだけに、到達した高さが実感しづらい、そういう種類の「高さ」だ。無理にたとえるなら、それは「ずっと続けてきた定期預金が、ある程度まとまった金額になったとき、ようやく自分の貯金の『多さ』に気がついて、喜びをかみしめているサラリーマン」ような状態なわけで、イチローの「高み」になかなか気がつかない人がいるのも、こればかりはいたしかたない。
ともかく、今回の「テッド・ウェリアムズ越え」で、
ひとつ、とてもよくわかったことがある。
4000本安打達成というのは、日米の野球メディア、日米の数字好きの野球オタク、さらにイチロー自身が、これまで想定してきたレベルより、ずっと大きなインパクトを野球ファンにもたらすだろう、ということだ。
正直にいえば、このブログにしても、MLB3000本安打はともかく、日米通算4000本安打については、「日米通算」だからな、などと思った部分もなくはなかったのだが、今回の「テッド・ウィリアムズ越え」を経験したことで、今までと違う「感触」を持った。
それは、他の選手ならともかく、イチローの場合に大事なのは、「日米の野球記録を通算することが、果たして記録として正当性があるかどうか」なんていう「数字上の議論」ではない、ということだ。
意味があるのは、
「イチローという選手のキャリア全体が、
4000本という地点の『高さ』にふさわしいかどうか」
ただそれだけだ。
もちろん答えは、Barry Bloomも、
そしてこのブログ主宰damejimaも、意見は同じ。
Absolutely, YESだ。
「イチロー4000本安打達成」は、その達成時、「さまざまな議論があることなど、承知しているつもりでいるあなた」がタカをくくっているより、ずっと大きな反応を引き出すことだろう。
今後はこのブログでも、ひとめはばかることなく『4000本の栄光』について触れることにする。
まだ「2655本」の段階でさえ、こうなのだから、イチローの「4000本」は既に「4000本」という、とてつもない数字にふさわしいインパクトの大きさを持っている。
テッド・ウィリアムズの次の「毎日をワクワクして暮らすためのターゲット」はMLB通算2721安打のルー・ゲーリッグにしようかなと思っている。
誰しも、「イチローの日本での安打数1278本」+「ルー・ゲーリッグと同じMLBでの安打数2721本」=「3999本」であることをわかった上でイチローの4000本達成を心待ちにしているものとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしい(笑)あらためて書いておこう。
イチローが「日米通算4000本安打を達成するとき」、というのは、同時に、「ルー・ゲーリッグを越えるMLB通算2722目のヒットを打ったとき」でもある。
次の目標はルー・ゲーリッグにすることにした。
— damejimaさん (@damejima) 2013年6月5日
クリーブランド第3戦に代打として登場したイチローは、ボルチモアチョップでヒットを稼ぎ、MLB通算安打数を2655本とし、ついにテッド・ウィリアムズを抜き、通算安打数記録のMLB歴代単独72位につけた。
Ichiro passes Williams on all-time hits list http://mlb.mlb.com/video/play.jsp?content_id=27762091
この日のヒットについて、ヤンキース公式サイトのBarry Bloomが、なかなか味のある文章を書いてくれた。
Barry Bloom: Yankees outfielder Ichiro Suzuki embraces magnitude of 4,000 hits | yankees.com: News
イチロー本人でさえ「日米通算」という記録のあり方にそれほど重い意味を置いていないことは、これまでの報道から明らかだが、Barry Bloomがあえて「4000本」をタイトルにもってきたこの記事に、彼の書き手としての優秀さが表れていると思うのは、彼が「さまざまな議論があることなど、承知し、ふまえた上で書いている」からだ。
この記事が引用しているブライアン・キャッシュマンGMのこんなコメントがある。
"I can give you a list of guys who came here as superstars in other environments, and they were reduced to smithereens in New York,"
もっと破格の待遇でヤンキースに来たスーパースターで、ニューヨークで木端微塵になるほど価値が暴落した選手なんて、掃いて捨てるほどいる。
最初から高額サラリーで入団するフリー・エージェント系の選手の多い「あらゆる物価が高いヤンキース」のGMらしいコメントだが、Bloomは、イチローが「ヤンキースで木端微塵になった選手」かどうかについて、Ichiro is not one of them. とハッキリ断言した上で、イチローのこれまでのキャリアの特徴を以下のように端的にまとめている。
He's thriving for the Yankees and enjoys the history and tradition, even though he was always a small-market player in Asia and the U.S.
イチローは、アジアでもアメリカでも常にスモールマーケットのプレーヤーだった。にもかかわらず(ビッグマーケットである)ヤンキースに来てもサバイバルできていて、なおかつヤンキースの歴史と伝統を楽しんでもいる。
Bloomは、イチローのキャリアの特性を明らかにする上で、ビッグマーケット、つまり強豪球団育ちである松井のキャリアとの差を指摘した上で、こんなふうに断言している。
Yet, it's Ichiro, not Matsui, who eventually should have a plaque in Cooperstown, N.Y. From the beginning, Ichiro was drawn to the Hall of Fame as a rookie.
ニューヨークの野球殿堂にプレートが掲げられるのは、イチローであって、松井ではない。イチローにはルーキー時代から既に、野球殿堂に至る道が敷かれている。
彼の文章がいいのは、例えば2013シーズンのイチローがヤンキースでけして恵まれた環境でプレーできる環境に置かれているわけではないことをきちんと理解しながら、ヤンキースのマーケットの大きさに惑わされることも、現実から目をそらすこともなく、自分自身の意見として「イチローの業績と評価」ついて意見を述べていることだ。
ヤンキースでイチローは、さまざまな打順を打たされ、本職のライトや、ゴールドグラブを獲った経験もあって適性もあるセンターだけでなく、レフトまで守らされている。そのことも、Bloomはきちんと触れている。そして、言外に、そうした不安定な環境が必ずしもイチローの記録達成に関してプラスになるとはいえないことも、彼はきちんと理解している。
面白いのは、Bloomが、イチローの置かれた今シーズンの理想的とはいえないプレー環境や、日米通算記録の野球史的価値を認めるとか認めないとかいう数字オタクの議論を、すべてきちんとふまえた上で、それでも、イチローがテッド・ウィリアムズの通算安打数を抜いたことを意味する「2655本」について記事を書くことを選ぶのではなく、むしろ、あえて「4000本の栄光」について書き記すことを選んだことだ。
And now, with 4,000 hits beckoning, Ichiro is on the verge of joining the pantheon of the baseball gods.
いまや4000本安打達成が近づき、イチローは今まさに野球の神々の神殿の中に歩を進める、そういう地点に立っている。
今回の「2655本」についてのツイッターやメディアでの反応を眺めてもわかることだが、実は、イチローがMLB通算安打数でテッド・ウィリアムズに並び、そして抜いた「この地点」は、これまでの「単なる通過点」とはやや感触が違う。これまでは、どんな野球殿堂入り選手の安打数を抜いても、ほとんど記事になったり、関連記事がリツイートされたりという、「情報の渦(うず)」は起きなかった。
やはりテッド・ウィリアムズというプレーヤーは、単なる「MLBの歴史」なのではなくて、『歴史の中の歴史』なのだ。
その『歴史の中の歴史』、その「高さ」を越えていかないと、『歴史の中の歴史』になれないし、そもそも、毎日忙しい生活を送るたくさんの人々に、いまのいま起ころうとしていることの意味を理解してもらうことができない。
つまり、「テッド・ウィリアムズのような高い頂きを越えていく日々が始まることで、やっと、イチローという富士に似た孤高の山のもつ『空を突き抜けるとみまがうほどの、見上げるような高さ』を理解できる人が一気に増える」ということだ。
この「高さ」は、毎日毎月少しずつ積み重なっていくだけに、到達した高さが実感しづらい、そういう種類の「高さ」だ。無理にたとえるなら、それは「ずっと続けてきた定期預金が、ある程度まとまった金額になったとき、ようやく自分の貯金の『多さ』に気がついて、喜びをかみしめているサラリーマン」ような状態なわけで、イチローの「高み」になかなか気がつかない人がいるのも、こればかりはいたしかたない。
ともかく、今回の「テッド・ウェリアムズ越え」で、
ひとつ、とてもよくわかったことがある。
4000本安打達成というのは、日米の野球メディア、日米の数字好きの野球オタク、さらにイチロー自身が、これまで想定してきたレベルより、ずっと大きなインパクトを野球ファンにもたらすだろう、ということだ。
正直にいえば、このブログにしても、MLB3000本安打はともかく、日米通算4000本安打については、「日米通算」だからな、などと思った部分もなくはなかったのだが、今回の「テッド・ウィリアムズ越え」を経験したことで、今までと違う「感触」を持った。
それは、他の選手ならともかく、イチローの場合に大事なのは、「日米の野球記録を通算することが、果たして記録として正当性があるかどうか」なんていう「数字上の議論」ではない、ということだ。
意味があるのは、
「イチローという選手のキャリア全体が、
4000本という地点の『高さ』にふさわしいかどうか」
ただそれだけだ。
もちろん答えは、Barry Bloomも、
そしてこのブログ主宰damejimaも、意見は同じ。
Absolutely, YESだ。
「イチロー4000本安打達成」は、その達成時、「さまざまな議論があることなど、承知しているつもりでいるあなた」がタカをくくっているより、ずっと大きな反応を引き出すことだろう。
今後はこのブログでも、ひとめはばかることなく『4000本の栄光』について触れることにする。
まだ「2655本」の段階でさえ、こうなのだから、イチローの「4000本」は既に「4000本」という、とてつもない数字にふさわしいインパクトの大きさを持っている。