June 16, 2013

ヤンキースのフィル・ヒューズは、不思議なピッチャーである。そしてまた、わかりやすいピッチャーでもある。


というのは、彼が
ア・リーグで「最も初球ストライク率の高いピッチャー」で、同時にまた「カウント0-2に追い込む率が最も高い投手」であるにもかかわらず、どういうわけか
打者ひとりあたり、最も多くの球数を投げるピッチャーのひとり」でもある、からだ。
(2013年6月14日現在。以下データ採集日も同じ)


「初球ストライク率」が70%を超えるピッチャーなんて、ア・リーグでは彼ひとりだけだ。ナ・リーグをみても、たった2人しかいない。(ミルウォーキーのカイル・ローズと、アリゾナのパトリック・コルビン)
また「打者をカウント0-2に追い込む率」(Baseball Referenceでいう「02%」)は、38%。これも35%を超えるピッチャーなんて、ア・リーグにはスコット・カズミアーとアニバル・サンチェスくらいしかいない。バーランダーでさえ34%だ。

問題なのは、これだけストライクを投げているというのに、彼の「打者ひとりあたりに投げる球数」(P/PA=投球数÷打席数)は、4.10と、4を超えてしまっていることだ。P/PAが4.10を超えるローテーションピッチャーなんて、ア・リーグでたった5人しかいない。(クリス・ティルマン、ヘクター・サンチアゴなど)

本当にヒューズは不可思議なピッチャーだ。


要するに
フィル・ヒューズは、「初球に必ずといっていいほどストライクを投げる」し、「バッターを追い込むのが誰より上手い」が、同時に、「どんなバッターにも、必ず4球以上投げてしまう」という、勝負どころで真っ向勝負に行けない、典型的な「ひとり相撲」タイプのピッチャーだ
ということだ。(この傾向は、実はサバシアや黒田にもある)


ヤンキースのゲームをいつも見ている人には説明するまでもないことだが、ヒューズは打者を追い込んむところまではいいが、そこからがダラダラ、だらだら、やたらと長い
バッターを追い込んだら、彼は、必ずといっていいほどアウトコース低めあたりに「釣り球のつもりの変化球」、シンカーやスライダーを投げたがる。
ところが、この釣り球、まるで効果がなくて、バッターは余裕で見逃してくる。だから、せっかくカウント0-2にしたのにボールばかり増えて、うっかりすると、0-2からフルカウントにしてしまうことも、けして少なくない。

要するに、ヒューズはピッチングの組み立てが滅茶苦茶にワンパターンで、しかも追い込んだ打者にさらに強気の勝負を挑んで、たたみこめないタイプなのだ。


「初球ストライク率」の高いピッチャー(2013AL)

「初球ストライク率」の高いピッチャー(2013AL)
2013 American League Pitching Pitches - Baseball-Reference.com generated 2013/06/15


打者ひとりあたりの投球数の少ないピッチャー(2013AL)

打者ひとりあたりの投球数の少ないピッチャー(2013AL)
資料:同上


では、ヒューズには名投手になれる可能性はないのだろうか?

いや、むしろ、彼が「バッターを噛み殺さんばかりの勝負への気迫」やクレバーな配球術さえ持てば、名投手への道も開けると思う。下記の2つの表を見てもらいたい。


これらは、上の2つの図で「リストA両方に出ているピッチャー」と、「リストB下の図だけに出てくるピッチャー」を並べてみたものだ。

リストA:エース級が多い。サイ・ヤンガータイプ
初球ストライクが入り、かつ、球数も少ないピッチャー
バートロ・コロン 2.92 66%
デビッド・プライス
岩隈久志 1.79 66%
CCサバシア
アーヴィン・サンタナ 2.74 66%
ジョー・ブラントン
ジェレミー・ガスリー 3.60 64%
(名前の後の数字は防御率と初球ストライク率。
 数字のいい投手のみ添付)

リストB:軟投の技巧派が多い。
初球ストライク率が低いにもかかわらず
球数が少ないピッチャー

ジェローム・ウィリアムズ 3.15 61%
アンディ・ペティット 3.95 61%
ジェイソン・バルガス 3.74 58%
ニック・ぺティッシュ
ケビン・コレイア 3.97 58%
ジャスティン・マスターソン 3.52 61%
ブランドン・マウアー
ダン・ストレイリー
ジャスティン・グリム
ジャロッド・パーカー
ジョー・ソーンダース
バッド・ノリス 3.47 65%


かつて初球からどんどンストライクをとっていたジェイソン・バルガスを知っている立場からいうと、今年の数字には、ちょっと驚かされる。今シーズンの彼は初球ストライク率がなんと「58%」しかない。昔と組み立てを変え、今は初球に無理にストライクを取りにいくのを止めているのだろう。
彼本来の良さは、コントロールが抜群に良いことだが、かつてはクリフ・リー譲りの攻めの配球を信条としてもいたから、シアトル時代は初球から何の迷いもなく、積極的にストライクを取りにいっていた。
だが、いかんせん彼は大学時代の怪我でスピードはない。相手チームにパターンを覚えられるとストライクを狙い打たれる。だから、今年はたぶんバッターに狙いを絞らせない意味で配球コンセプトを変え、「初球から無理にストライクをとらなくても、球数は少なく抑えられる」そういうピッチングを心がけているのだろう。本当に稀有なピッチャーだ。

かたや、「初球ストライクは入るが、決めきれず、球数の多いピッチャー」のひとり、フィル・ヒューズの防御率は、現在のところ4.89。似たタイプのジェイク・ピービ―もERA4.30であり、概してこういう「初球にストライクを多投するが、どういうわけか球数自体は増えるタイプ」のピッチャーのERAは平均して高い。
バートロ・コロンのような「初球にストライクが入り、しかも、球数も少ないピッチャー」と、「単に初球にストライクが入るだけで、球数は多い」のヒューズとの違いは何だろう。
せめてヒューズに、打者とガチンコ勝負する心臓の強さ(もっと言えば、勝負どころで使えるキレのいい変化球、クレバーで大胆な配球も欲しいところだが)があれば、せっかくのストライクがもっと生きて、不動のエース級ピッチャーになる道も開けるだろうに。もったいない。


今の時代はやたらと出塁率を重んじるセイバーの影響などもあって、バッターが非常に球を見てくる(ないしはベンチがやたらと見逃しを指示してくる)確率が高くなっている時代だから、ピッチャーが初球ストライクを決めること自体は、たぶんかつてほど難しくない。
だが、いくら初球ストライクを決めたとしても、球を見てくるバッターばかりになってきた今の時代、追い込んだ後でアウトコースにしみったれた変化球ばかり連投するようなワンパターン配球を繰り返していても、強いチームの好打者はそうそう簡単に凡退してくれなくなっている。


かつて、ダメ捕手城島がシアトルにいた時代には、「初球にはストライクを投げるべきだ。それがいいピッチャーの条件だ」なんて、紋切型なことをもの知り顔で言いたがる人間をよく見かけたものだ。
だが、「初球にストライクを決めておいて、後はアウトコース低めを連投」なんていうワンパターン配球だけで世の中渡っていけるなら、誰でもサイ・ヤング賞投手になれる。

MLBのピッチャーにはさまざまなスタイルがある。「MLBでは必ず初球にストライクを決めてくる」だの、「初球にストライクを必ず投げるべきだ」だのと知ったかぶりに主張するのは、勘違いもはなはだしい。
初球にストライクを決めることばかりが、いいピッチャーになる条件なわけがない。
もしそれが本当なら、「他の誰より、初球にストライクを決められるフィル・ヒューズ」が、他の誰より先にア・リーグのサイ・ヤング賞投手になれたはずだ。

いくら初球ストライク率が高くても、追い込んだバッターとの勝負にいかなければ、必ずしもいい投手にはなれない。


参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month