June 27, 2013
2013カレッジ・ワールドシリーズは、期待していた通り、西海岸のUCLAが初優勝を果たしてくれた。おめでとう、UCLA。
2013 NCAA Baseball Tournament DI - NCAA.com
今年のUCLAの優勝は、例年とは全く違う。単に、たまたまその年に強かった大学が優勝した、という意味の、よくある優勝ではない。
というのも、ここ数年、投手力を基盤に躍進してきたUCLAが躍進できた背景には、NCAAが2011年以降に、従来とは反発係数の異なる "BBCOR" という新しいバットの基準を導入したという事実があるからだ。
BBCORバットは、やがてアメリカのカレッジ・ベースボールの質を大きく変えつつあり、その影響はMLBにも多少は及ぶことになる。
BBCORバットは、素材が、金属、カーボン、その他、何であっても、「反発係数を木製バットと同じにする」というポリシーで作られている。
当然のことながら、アメリカのカレッジ出身の選手たちの長打スタッツを支えてきた「金属バットの時代」には、ある意味でピリオドがうたれる。カレッジ・ベースボールはより木製バットの世界に近づき、「金属バットのおかげで生産されてきた、ただそれだけの安易なホームランや長打」は、これからは生まれにくくなる。
(注:実際のBBCORバットは、グリップ部分がカーボン、打球部が金属というように、「コンポジット」、つまり複合素材で作られたりしている。ただ、反発係数が同じになるように作られているからといって、金属やカーボンなどのコンポジット・バットが、木製バットとまったく同程度しか飛ばない、という意味ではない。あくまで同じなのは「反発係数」であって、素材の違いで飛距離はやはり変わる)
UCLAの優勝をうけて、各メディアがさまざまな記事タイトルで表現しているように、UCLAの優勝は、投手力を根本に据えて相手チームの打棒を完全に封じ込めることに成功した「戦略的な勝利」だ。
これほどまでのピッチングスタッフの充実による戦略的な優勝は、強靭なフィジカルを武器に長打で勝ち進んでいく従来のカレッジ・ベースボールにはなかった。
UCLA formula a perfect fit for this era
UCLA are kings of small ball, win first College World Series title - CBSSports.com
UCLAの躍進ぶりの原動力は、UCLA投手陣のスタッツを見ればわかる。
UCLAの6人の投手は、2013カレッジ・ワールドシリーズでの5ゲームで、対戦相手にわずか4失点しか許していない。細かい数字でみても、被打率.175、ERA0.80など、驚異的な数字がズラリと並んでいる。
USA Todayによれば、今回のCWSでのUCLA投手陣の防御率は、1974年カレッジ・ベースボールに金属バットが導入されて以降、最も良い数字らしい。UCLAのとった投手中心の戦略が、今の「BBCOR時代」にいかにフィットしたものか、とてもよくわかる。
こうした「投手力が勝利した初めてのカレッジ・ワールドシリーズ」について、UCLAのコーチ、John Savageはインタビューで、今回の優勝が単なる偶然でなく、チーム戦略による意図的な勝利であることを強調している。
UCLA coach
John Savage
"We just don't have the physicalness, as I look at it, as the Southeastern Conference."
「われわれには、見ての通り、(フロリダ、サウスカロライナ、ルイジアナ、ヴァンダービルドなど、近年のCWS常連校が属する)サウスイースタン・カンファレンスのチームのような身体的優位性は、まったく無い」
"I think everybody in the room knows that, but they're ballplayers. … We have good players, and we have talent. But it's just a little different way of creating a team."
「フィジカルの違いは、ここにいる誰もがわかっている。でも、彼らだって(SECのフィジカルに優れた選手たちと)同じ野球選手だ。良い選手、良い才能に恵まれている。われわれと彼らのちょっとした相違点になっているのは、『チームをクリエイトする方法論』だ。」
UCLA formula a perfect fit for this era
こうしたUCLA独自の方法論は、他大学にも少なからぬ影響を与えている、と、USA TodayのSteve Wiebergはいう。
That approach and his team's strengths played to NCAA's new, moderating bat standards, which took effect in 2011.
「彼の戦略上のアプローチに基づくチームは、2011年に発効したNCAAの新しいバット基準にいかんなく強味を発揮した。」
They've scaled things back nationwide. Teams in this College World Series averaged an even six runs a game going into Tuesday, the fewest in the Series' 67-year history. The home run rate, which ballooned to nearly 2½ a game in the three-year, old-bat period from 2008-10, has shriveled to about one every two games the past three years. The first 13 games of this Series produced three.
「彼ら(の戦略的成功)は、全米レベルであらゆるものをスモール・ベースボールに引き戻した。
今年のカレッジ・ワールドシリーズ出場チームは、火曜のゲームまでに6点しか得点していない。これはカレッジ・ワールドシリーズ67年の歴史で、最も少ない。
またホームラン率も、バットが旧基準だった2008年〜2010年にかけては、「1試合あたり2.5くらい」まで膨らんでいたが、過去3年(2011年〜2013年)では、「2試合に1本程度」に縮小した。今年のカレッジ・ワールドシリーズの最初の13試合で、ホームランはわずか3本しか生まれていない」
「1試合あたり2.5」と、「2試合に1本」では、ホームラン率において「5倍」もの開きがある。
最近日本ではプロ野球のボールの反発係数が知らない間に変わったとかどうこうとか騒いでいたが、実際にはアメリカの野球は、ボールなどよりもっともっとディープな部分から「次の時代」へ向けた変化を開始し始めているのである。
言い方を変えるなら、ステロイドで体を大きくしたとか、反発係数の高い金属バットを使ってホームランを量産したとか、うわべだけの名誉を生産するのに躍起になってきた若いアマチュア野球選手が、カレッジベースボールで活躍して、その大学時代の華々しい経歴とスタッツをひっさげてMLBに高い契約金で入ってくるような、もうそんな、フィジカルオンリーな戦略だけが通用する時代ではなくなる、ということだ。
新しいバット基準に変わった2011年以降、CWS決勝のカードは、2011年こそ、サウスカロライナとフロリダという、旧バット基準の時代にCWSの常連校を数多く輩出してきたSoutheastern Conferencee所属の2大学の対戦となったものの、2012年は決勝でアリゾナがSEC所属のサウスカロライナを破り、そして2013年も決勝で西海岸の投手力に優れたUCLAが、SECのミシシッピ州立を破り初優勝。時代の変化は徐々に進んできている。
今回のUCLAの優勝は、こうした「アメリカ野球の深層部での変化」の象徴なのだ。