July 02, 2013

Steinway & Sons

1853年にマンハッタンで産声を上げたスタインウェイ社を傘下にもつSteinway Musical Instrumentsが投資ファンドに身売りすることになったと聞いて、すぐ聴きたくなったのは、エリス・マルサリスのソロだ。
だが困ったことに、一度聴きたいと思いだすと、なにがなんでも聴きたくもなるにもかかわらず、どうしたものか、あったはずのディスクがどうしても見つからない。しかたないから、頭の中に残っている彼の音を思い出しながら書く。

Ellis MarsalisEllis Marsalis
1934年
ニューオーリンズ生まれ

聴きたかったアルバムはたぶんSolo Piano Reflectionsというアルバムだと思うが、なぜまたスタインウェイの身売りのニュースを聞いて彼の音を思い浮かべたかというと、たぶん理由はエリス・マルサリス独特の「音質」にある。

太く乾いた、
それでいて優しい、
明晰な「低音」。


他の人はどうかわからないが、ブログ主にとってスタインウェイのピアノの音質イメージは、エリス・マルサリスのような「太く乾いた、それでいて優しい、クリアな低音」なのだ。

演奏中のエリス・マルサリススタインウェイを演奏中のエリス・マルサリス。


他のピアニストで、「エリス・マルサリスと同じ系統の音だ」と感じるのが誰のどの音か、ちょっと思い出してみると、グレン・グールドのシェーンベルク、セロニアス・モンクのソロアルバム "Solo 1954" (=いわゆる『ソロ・オン・ヴォーグ』)、あるいは、ニーナ・シモンのNina Simone in Piano! など。
(ピアニスト以外のジャンルでは、ジョニー・キャッシュの歌声や、レイナード・スキナードの "Sweet Home Alabama" のイントロのギターの低音弦のリフにも、同じような「太く乾いた感じ」がある)


スピーカーでも、ロジャースのように薄くできた外箱(エンクロージャー)自体が音楽に共振して鳴ることで良い音が出るように設計されているタイプもあれば、エンクロージャーを堅牢に作って、箱鳴りをむしろ期待しない設計のものもある。
現代のピアノの祖先にあたるチェンバロのような楽器の構造は前者と同じで、楽器自体が鳴り響くために耳ざわりなほどの華やかな音が出るが、スタインウェイはどちらかといえば後者の発想でできているため、コンサートホールのような広大な空間でもくっきりと聞き取れる明晰な音が出せるらしい。
だから、同じバッハの曲でも、バッハ自身が中世の宮廷でチェンバロで弾いたのと、グレン・グールドがカーネギーホールでスタインウェイを、それもテンポも変えて弾くのとでは、別の曲に聞こえてしまうほど違う音が鳴るわけだ。


スタインウェイの製造は、ニューヨークとドイツのハンブルクで行われているが、それぞれに構造も違っているらしい。グールドが好んで弾いたのはニューヨーク・スタインウェイだ。(晩年にはヤマハも弾いた)
グールドはトロント生まれのカナダ人、モンクはノースカロライナ州生まれだが、2人ともスタインウェイのあるニューヨークと縁が深いピアニストだ。

グールドが、レコーディングに関する終身契約をしたのは、1955年1月11日のニューヨーク公演をディレクターが聴いたからだし、若いグールドの才能を認めたバーンスタインが彼を急遽フィーチャーして演奏させたのは、カーネギーホールのニューヨーク・フィルだった。
セロニアス・モンクも、生まれこそニーナ・シモンと同じノースカロライナだが、6歳くらいで家族とともにニューヨークに移住しており、亡くなった後でニューヨークのFerncliff Cemeteryという墓地に埋葬されているくらいだから、ニューヨーク育ちといっていい。キャリア初期に仕事にありついたジャズクラブも、ニューヨークのMinton'sだったりする。

ちなみに、Ferncliff Cemeteryには、Over the Rainbowのハロルド・アーレンやSmoke Gets in Your Eyesを書いたジェローム・カーン(2人ともニューヨーク生まれ)、バルトークなどの音楽家のほか、ジェームズ・ボールドウィンコーネル・ウールリッチなどの作家、ネルソン・ロックフェラー、ジョセフィン・ベイカーの入店を拒否した1951年の『ストーク・クラブ事件』で有名なナイトクラブオーナー、シャーマン・ビリングスリー、数えきれない俳優女優、たくさんの有名人が眠っている。

ちなみに、この2人のピアニストが亡くなったのは、グールドが1982年10月4日で脳卒中(50歳)、モンクが1982年2月17日で脳梗塞(64歳)だ。つまり2人の不世出のピアニストが奇しくも、同じ年に同じ脳の病で亡くなっている。


思い付くまま書いてみたが、自分が「『アメリカらしさ』を感じる音」のある部分が、実は「スタインウェイ独特の明晰さで作られた音」であることがわかって、ちょっと面白い。


追記:



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