August 10, 2013

SB Nationに掲載されたJon Roegeleという人の「三振をとる配球」についての記事が、なかなか面白い。
Strikeout pitch sequences, by location - Beyond the Box Score


ただ、最初にことわっておきたいと思うのは、この記事がちょっとした見どころがあるのは確かだが、だからといって「必ず三振をとれる配球を発見した」などというようなシロモノではないことだ。
この程度の数のサンプルで「野球の法則性の発見」と思い込むのは馬鹿げている。頭の片隅にでも置いておいて、何か類似した研究結果なりが出てきたとき思い出せれば、それでいい。


この記事は、「三振」という現象が起きたときに、どういう配球プロセスで起きていたかを、初球から3球目の「コース」を集中的に調べて、図に起こす、という手法で書かれているのだが、調査手法が大雑把過ぎて、狙いとする「三振をとるための配球エッセンス」がうまく記事として表現されていないのが、ちょっともったいない。

サンプル数の少なさより、はるかに決定的ミスだと思うのは、この記事が「左投手と右投手を分けて考えていないこと。左と右を分けて図示することを忘れていること」だ。
こうしたミスが起きる根本理由は、おそらくMLBのストライクゾーンが左バッターと右バッターでかなり異なっていることを、そもそも考慮に入れてないことにある。

これまで数かぎりなく書いてきたように、MLBのストライクゾーンは、左バッターと右バッターとでは全く違っている。基本的に、左バッターのゾーンは、「アウトコースのみが非常に広く、インコースは狭い」。他方、右バッターは、「内外のゾーンが均等の広さ」で判定されることが多い。
だから、「三振」という現象がどういうシチュエーションで起きたのか考えるにあたっては、最低でも、「左投手と右投手で分けて考える」必要があると思うし、さらに、できることなら「左バッターと右バッター」で分けてデータ化したほうが、ずっとエキサイティングな記事になただろうと思う。


例えばだが、左投手の場合、「持ち球」によってストライクの取り方はまるっきり変わる。
クロスファイヤーの得意なサイドスロー気味の左投手なら、左バッターのアウトコースのさらに外に「ボールになるスライダー」を投げて空振りさせたいだろうし、カットボールの得意な左投手なら、左バッターのインコースに「腰が引けるような球」を投げて、見逃しストライクをとりたいだろう。また、カーブやチェンジアップのコントロールに自信のある左投手なら、右バッターのインコース低めに「打者の目がついていけないブレーキングボール」を落として空振りさせる。
さらに言えば、投手の「性格」によって、安全なアウトコースで「安全な三振」をとりたがる性格の投手もいれば、逆にインコースに不意打ちを食らわすのが得意という強気な性格の投手だっている。

ストライクをとる方法は、「投手が左か右か」、投手の「持ち球」や「フォーム」、対戦するのが「右打者か左打者か」など、さまざまな条件によって大きく違ってくるわけだが、そうした各種の条件の中でも、投手が左か右かはやはり基本条件として、分けて考えるべきだと思う。

結局のところ、この記事は「それぞれの三振には、それぞれ固有の理由とプロセスがある」ことを考慮にいれてない。
だから、この記事を読んだだけで、「ダルビッシュがやっているように、初球、2球目と、アウトコース低めに投げるのが、最も効率的な三振の取りだ」などと決めつけられても困る。「そんな決めつけ、何の意味もない」としか言いようがない。(彼がアウトコース低めの変化球を使いたがることは、ある部分で日本の野球文化の悪影響だと思う)


前置きはさておき、この記事が発見したことで、一番面白いと感じたのは、「三振を数多くとっている投手が、特に2球目にボール球を投げている」ことだ。

ちょっと前に、ヤンキースのフィル・ヒューズが、「ア・リーグで最も初球にストライクを投げている投手」であること、また彼が「初球にストライクを多投する投手であり、打者を2ストライクに追い込むことにも成功しているにもかかわらず、追い込んでから打者をうちとれない典型的なピッチャー」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。

また別の記事で、マリアーノ・リベラが「典型的なボール球を振らせるタイプのピッチャー」であり、クリフ・リーが「徹底的にストライクで押すタイプのピッチャー」であること、ヒューズとフェルプスのようなヤンキースの若手ピッチャーの投げる「ボール球」が、「打者が手を出してくれないボール球」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。


「三振をとる」という仕事にとって、クリフ・リー(あるいは最近のマックス・シャーザー)のような特別な才能のあるピッチャーででもない限り、「バッターが手を出してくれるボール球を持つ」ことは、好投手であり続けるための必須条件であるのは確かだ。

だが残念なことに、フィル・ヒューズは、いわば「初球も2球目もストライクを投げたがるピッチャー」ではあっても、困ったことに、追い込んだ後に投げる球がない。だから、しかたなく「アウトコース低めに、誰の目にも明らかにボールとわかるスライダー」ばかり投げて、カウントを自ら悪くしてしまう。(こういう知恵の無いピッチングスタイルがどれだけピッチャーをダメにするかは、『城島問題』でも明らかだ)

ヒューズに奪三振王になれ、などとは思わないが、彼やフェルプスが本当にピッチャーとして開花したいと思うなら、「変化球を磨きなおすことに加えて、根本的に配球方針を変えないとダメなんだぜ」と言ってやりたいと、この記事を読んで思ったりしたのだ。

そういう意味でも、これからのヤンキースには、いい投手の指導者が必要だ。


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