September 14, 2013
以下、9月13日ボストン戦の7回裏に浴びた決勝の満塁ホームランが、なぜ「ヤンキース自身がみずから招きよせた人災」であるかを説明するわけだが、その前に、このゲームが、なぜ4-4の同点で7回裏を迎えたのかについて、ひとこと書いておきたい。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic
そもそも今日のゲームが最初から0-4と劣勢にあったのは、初回に黒田が4点をとられたからだ。
言うまでもないが、「ポストシーズンを争うような、カネのかかったチームの、高額サラリーの主力投手」として、4失点は多すぎるし、そもそも大量失点イニングが早すぎる。この失点数と失点イニングは、「もし2回以降のイニングでちょっとでも失点を重ねれば、即座に交代させられても、投手側から何も文句は言えないほどのレベルの失態」を意味する。
だが、黒田が交代させられずに済んだのは、単に、野手ばかり補強している偏ったロスター構成のヤンキースでは、本来補強ポイントだったはずのブルペンの台所が常に苦しいために、たとえ「初回に4失点した先発投手」でさえ、1回裏ではやばやと交代させるわけにはいかない、それだけだ。
4失点を1点ずつ取り返していくのは、とても骨が折れる。タイムリーなんてものは、チャンスが数回あって、やっと1回出るのが普通だし、そもそもヤンキースはタイムリーが出やすいチーム構成にはなっていない。たとえソロ・ホームランが数発出て2点くらいはなんとかなるとしても、4点差を一気にひっくり返すようなビッグイニングを作るのは、先発投手がマウンドから降り、ゲームが切羽詰ったタイミングにしか起こらないことがほとんどだ。
よくメディア解説者でもファンでも、黒田について「粘りのピッチング」などと呼んで褒めちぎりたがる人がいるが、ブログ主は全くそう思わない。
理由は簡単。この投手が常に「先取点を許してしまう先発ピッチャー」だからだ。
資料:2013黒田 全登板 ©damejima
黒田が先取点をとられたゲームを青色のセルで示した。(4月8日クリーブランド戦含む。この試合では、1回表ヤンキースが3点先制したが、1回裏に3失点している) なお、赤色のセルは、ヤンキースが先制しながら、黒田が打たれて逆転負けした試合。
data generated by Hiroki Kuroda 2013 Pitching Gamelogs - Baseball-Reference.com
「投球数が無駄に多すぎる」こと、「テンポが悪く、野手の守備時間が長くなりすぎる」こと、「配球のワンパターンさ」など、この投手を好きになれない理由は他にも多々あるが、最も評価を下げているのは、他のなにより「先取点を簡単に与えすぎること」だ。
例えばブログ主は、2013年7月には、このピッチャーを一度もけなさなかった。それは、よくいわれるこのピッチャーの「防御率の良さ」が理由ではなく、「先取点をやらない登板が何試合も続いた」からで、単にそれだけに過ぎない。(もちろん、基本的に投手として高評価することにしたわけではない)
ダルビッシュファンには申し訳ないが、強豪相手だと、たとえ先発投手が「わずか1失点」であっても負けるなんてことは、よくある。むしろ、それが「ポストシーズン進出を狙うチームの主力ローテーション投手」に課せられた「宿命」というものだし、そういう強豪相手のクロスゲームで先取点をやらないことが、優勝チームの投手としての「ノルマ」でもある。
そういう立場にある投手が達成すべき「仕事」とは、数字の上でクオリティ・スタートとなる試合を積み重ねるなどという「うわっつらな仕事」ではなく、文字通り、勝つこと、そのものだ。
テキサスにとってのオークランド戦、デトロイトにとってのクリーブランド戦、ヤンキースでいえば同地区の上位チームとのゲームすべて。そういう、勝ちにくいゲームでも勝ててこそ、はじめて「仕事した」「エース」という言葉が似合う。(もっとも、「クオリティスタートできたから、仕事している」などという、低レベルな目標しか持たない投手だとしたら、話は別だが)
だから、今日のボストン戦のような大事なゲームでこそ、「先取点を簡単に与えてはいけない」のだ。ランサポートの数字なんて、どうでもいい。
先取点を与えて負けてばかりいては、防御率がいくらよくても、その投手の勝ち数は伸びないし、チームの勝率は上がらない。球数が多すぎれば、イニングイーターにすらなれない。当然のことだ。防御率がいいのに負けてばかりいる投手には、ちゃんと説明のつく「理由」がある。
単年だろうが、なんだろうが、これだけの額のサラリーをもらっている先発投手は「先取点をやらないピッチングができて当たり前」だと思っている。(同じように、20億近くもらっているステロイダーのAロッドがほんのたまにホームラン打ったからって、別に褒める気になどならない。「仕事」して当然のプレーヤーだ)
誰かのピッチングを「我慢のきくピッチング」と呼びたいなら、「先取点を与えるのが普通な投手」ではダメだ。先取点と追加点を、ダラダラ、ダラダラと相手チームに与え続けるような先発投手が、「我慢のきくピッチャー」であるはずがない。
さて、7回裏。
先頭シェーン・ビクトリーノがヒットで出塁すると
ジラルディは問答無用に黒田を降板させた。
ジラルディはマウンドに行く前に既に投手交代を手で示し、またマウンドの黒田と視線を合わせることも、言葉をかけることもしなかった。
なぜかといえば、理由は簡単、7回表にとうとう同点に追いついたというのに、その直後の先頭バッターをノーアウトで塁に出してしまうような、だらしないピッチングをしたからだ。
ブログ主はジラルディの選手起用のスタイルが大嫌いだが、この場面でジラルディが怒るのは当然だ。この交代については黒田が悪い。
だが、血が頭に上ったジラルディは、次の投手を誰にするか、という点で、ゲームを左右する大きなミスを犯した。
次の投手は、新人シーザー・カブラル。
デビット・オルティーズに死球をぶつけ、
わずか2球で降板。
2013年6月に上げてきたヴィダル・ヌーニョというヤンキースのマイナー上がりのピッチャーがいたが、あの投手がそうだったように、このシーザー・カブラルというピッチャーも、フォームがおかしい。いずれ、股関節か肘か、体のどこかに重い故障を発症して長期休養する羽目になるだろう。こんなフォームのままマウンドに上げるなんて、ヤンキースのにはロクなピッチングコーチがいないとみえる。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年6月13日、ヴィダル・ヌーニョの股関節の故障と、ピッチングフォームの関係。(クレイトン・カーショーとの比較)
この新人ピッチャーのコントロールが根本的に悪いことについては、こんなフォームに作り上げたマイナーのピッチングコーチのせいだろうが、そんなことより問題なのは、こんな経験のない新人投手を、これほどヘビーな場面でマウンドに上げてしまうジラルディであって、言うまでもなく、監督ジラルディに責任の全てがある。ジラルディは、この大事なゲームの、それも、同点になった直後のノーアウト1塁という場面を、なぜまた、こんな経験不足の新人にまかせようという気になったのか。
死球でノーアウト1,2塁になって、ジラルディは、投手をプレストン・クレイボーンに交代させた。
だが、前の投手がたった2球でマウンドを降りてしまい、心も肩も準備ができていないクレイボーンは、代打ジョニー・ゴームズを四球で歩かせてしまい、さらに満塁のピンチを招くことになる。
クリス・スチュアートというキャッチャーの配球発想は、どういうわけか、ダメ捕手城島や去年までヤンキースにいたラッセル・マーティンのような、「頭をまるで使わないタイプのキャッチャー」と酷似している。スチュアートはピンチになると、とたんに「アウトコース低めの変化球」ばかり投げさせたがるのである。
資料:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
このクリス・スチュアートがいまだにヤンキースの正捕手でいられるのは、彼が打てるからでも、リードがいいからでも、肩が強いからでも、相手チームの打者の特徴を研究しつくしているからでもない。そもそも「キャッチャー」というポジションが2013年開幕前の補強ポイントのひとつだったにもかかわらず、ヤンキースが補強しようとしなかった、だからスチュアートも使うしかない、ただそれだけだ。
誰も言わないが、今のヤンキースは、ア・リーグ有数の選手層の薄いチームだ。だから、クリス・スチュアートがマスクをかぶり続けて、クソつまらない配球をやり続けることについての責任は、スチュアート本人以外には、GMブライアン・キャッシュマンに責任がある。
ジョニー・ゴームズだけでなく、ボストンというチーム自体が、MLBで最も待球してくるチームであり、可能な限り「ボール球を振らない」ということが徹底教育されている。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年5月24日、「ボールを振らず、かつ、ストライクだけ振れるチーム」など、どこにも「存在しない」。ボールを振るチームはストライクも振り、ボールを振らないチームは、ストライクも振らない。ただそれだけの話。
だからこそ、ヤンキースの先発投手たちとクリス・スチュアートがよくやるような「ボールになるアウトコースの変化球を空振りさせる」などという紋切型のワンパターンな配球戦略は、ボストンのような待球型チームとの対戦においては、そもそも通用しないのが当然なわけだが、ヤンキースバッテリーが「ボストン相手にはストライクゾーンで勝負しなければ最初から勝負にならないこと」に気づいたためしがない。
2012年にあれだけラッセル・マーティンのアウトロー配球を批判したわけだが、その後もヤンキースはまるで変わっていない。
実際、この代打ゴームズにしても、投手クレイボーンが、捕手スチュアートのサインにまんま従って、何も考えず投げこんでくる「最初からボールになるとわかっている、流れ落ちる軌道をえがく変化球の釣り球」に、まったく釣られず、振ってこなかった。
加えて言うと、先発の黒田登板時からだが、ボストンは、ヤンキースのピッチャーが投げる球種のうち、「ストレート系」にずっとヤマを張り続けてきていて、それが、このゲームにおけるボストン打線の基本傾向だった。
もっというと、ボストンのバッターには、ホワイトソックスやブルージェイズ、エンゼルス、アストロズなどの「フリースインガーがズラリと揃った非分析型のチーム」(ここにヤンキースも含まれる)のように、「アウトコース低めのボールになる変化球」で簡単に空振り三振してくれるような簡単な打者は、ほとんどいない。(だからこそ、ボストンが勝負強い打線になっているわけだ)
だからこそ、もし「四球の許されない」満塁というシチュエーションになれば、突然登板させられてコントロールの定まらないクレイボーンと、アウトローの変化球で逃げる配球しか能がないスチュアートのヤンキースバッテリーがやろうとしている「ボールになる変化球を、なんとか振ってもらえないだろうか?」などという「曖昧で、かつ、弱気な作戦」が簡単に破綻するのは目にみえていた。
ヤンキースバッテリーが、このあとどこかで変化球でカウントを悪くしてしまって、ストライクをとるために「ストレート」を投げてくることは、この代打ゴームズを四球で歩かせた時点で、ほとんど確定していたといっていいのである。
ダニエル・ナバ、無死満塁の場面
アウトコースのチェンジアップで三振。
前の打者、ジョニー・ゴームズをアウトコースに外れる変化球の連投で歩かせてしまったクセに、次のダニエル・ナバの打席で「アウトコースの大きく外れたチェンジアップ」がたまたま効いて、三振がとれてしまった。
このことで、明らかにヤンキースのキャッチャー、クリス・スチュアートは、非常に大きな「勘違い」をした。
「ゴームズは歩かせてしまったが、それでも、アウトコースの変化球でかわしておけば、なんとかなるのではないか」と、「甘すぎる判断」をしたのである。次打者サルタラマキアに対する初球で、ナバの4球目、5球目に投げたのと、まったく同じコース、まったく同じ球種を、3連投してまで使ったのが、その動かぬ証拠だ。
そして、監督ジョー・ジラルディもまた、同じ「勘違い」をした。「クレイボーンの変化球でなんとかしのげるのではないか」と、甘い考えを抱いたのである。だからこそ、ジラルディはコントロールのあやしいクレイボーンを替えなかった。
次打者、ジャロッド・サルタラマキア。
次打者サルタラマキアへの初球は、前の打者ダニエル・ナバが三振した球と、まったく同じコース、まったく同じ球種の「チェンジアップ」だ。この球で、クレイボーンは、3球続けて「外のチェンジアップ」を投げている。
だが、サルタラマキアはピクリとも動かなかった。
この「初球のチェンジアップ」でサルタラマキアが微動だにしなかったことで、「サルタラマキアの狙いが、『ストレート』、それもインコースのストレートであること」は確定していた。(もちろん、フォアボールの許されないこの場面では、打者が誰であろうと、ストレート系を待つ場面であることは言うまでもない)
だが、みずから満塁のピンチをまねいてしまい、「ボールになる変化球をアウトコース低めに投げ続ける」という「能無し配球」すらできなくなったクレイボーンとスチュアートのバッテリーは、サルタラマキアの対応ぶりをまったく観察せず、単なるストライク欲しさで、まさにその「投げてはいけないストレート」を、よせばいいのに「投げてはいけないインコース低め」に投げてしまう。
結果、満塁ホームラン。
付け加えておくと、サルタラマキアは典型的な「ローボールヒッター」なのである。
サルタラマキアの右投手に対するHot Zone
via Jarrod Saltalamacchia Hot Zones - ESPN
どうだろう。
2013年にヤンキースが野球というものを舐めてかかってチームを作った結果の、ほとんど全てがここに凝縮して表現されているのが、おわかりだろう。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic
この満塁ホームランは、
偶然などではない。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic
そもそも今日のゲームが最初から0-4と劣勢にあったのは、初回に黒田が4点をとられたからだ。
言うまでもないが、「ポストシーズンを争うような、カネのかかったチームの、高額サラリーの主力投手」として、4失点は多すぎるし、そもそも大量失点イニングが早すぎる。この失点数と失点イニングは、「もし2回以降のイニングでちょっとでも失点を重ねれば、即座に交代させられても、投手側から何も文句は言えないほどのレベルの失態」を意味する。
だが、黒田が交代させられずに済んだのは、単に、野手ばかり補強している偏ったロスター構成のヤンキースでは、本来補強ポイントだったはずのブルペンの台所が常に苦しいために、たとえ「初回に4失点した先発投手」でさえ、1回裏ではやばやと交代させるわけにはいかない、それだけだ。
4失点を1点ずつ取り返していくのは、とても骨が折れる。タイムリーなんてものは、チャンスが数回あって、やっと1回出るのが普通だし、そもそもヤンキースはタイムリーが出やすいチーム構成にはなっていない。たとえソロ・ホームランが数発出て2点くらいはなんとかなるとしても、4点差を一気にひっくり返すようなビッグイニングを作るのは、先発投手がマウンドから降り、ゲームが切羽詰ったタイミングにしか起こらないことがほとんどだ。
だからこそ、先取点を4点とられて徐々に追い上げる、なんて作業が簡単には実現なんかしないし、むしろ、実現しないのが当たり前になるわけ。打線さえしっかりしてればどうのこうの、なんて話じゃない。考えれば誰でもわかる。1点ずつ5回チャンスをモノにして逆転、なんて、そうそう実現しない。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
よくメディア解説者でもファンでも、黒田について「粘りのピッチング」などと呼んで褒めちぎりたがる人がいるが、ブログ主は全くそう思わない。
理由は簡単。この投手が常に「先取点を許してしまう先発ピッチャー」だからだ。
資料:2013黒田 全登板 ©damejima
黒田が先取点をとられたゲームを青色のセルで示した。(4月8日クリーブランド戦含む。この試合では、1回表ヤンキースが3点先制したが、1回裏に3失点している) なお、赤色のセルは、ヤンキースが先制しながら、黒田が打たれて逆転負けした試合。
data generated by Hiroki Kuroda 2013 Pitching Gamelogs - Baseball-Reference.com
「投球数が無駄に多すぎる」こと、「テンポが悪く、野手の守備時間が長くなりすぎる」こと、「配球のワンパターンさ」など、この投手を好きになれない理由は他にも多々あるが、最も評価を下げているのは、他のなにより「先取点を簡単に与えすぎること」だ。
例えばブログ主は、2013年7月には、このピッチャーを一度もけなさなかった。それは、よくいわれるこのピッチャーの「防御率の良さ」が理由ではなく、「先取点をやらない登板が何試合も続いた」からで、単にそれだけに過ぎない。(もちろん、基本的に投手として高評価することにしたわけではない)
ダルビッシュファンには申し訳ないが、強豪相手だと、たとえ先発投手が「わずか1失点」であっても負けるなんてことは、よくある。むしろ、それが「ポストシーズン進出を狙うチームの主力ローテーション投手」に課せられた「宿命」というものだし、そういう強豪相手のクロスゲームで先取点をやらないことが、優勝チームの投手としての「ノルマ」でもある。
そういう立場にある投手が達成すべき「仕事」とは、数字の上でクオリティ・スタートとなる試合を積み重ねるなどという「うわっつらな仕事」ではなく、文字通り、勝つこと、そのものだ。
テキサスにとってのオークランド戦、デトロイトにとってのクリーブランド戦、ヤンキースでいえば同地区の上位チームとのゲームすべて。そういう、勝ちにくいゲームでも勝ててこそ、はじめて「仕事した」「エース」という言葉が似合う。(もっとも、「クオリティスタートできたから、仕事している」などという、低レベルな目標しか持たない投手だとしたら、話は別だが)
だから、今日のボストン戦のような大事なゲームでこそ、「先取点を簡単に与えてはいけない」のだ。ランサポートの数字なんて、どうでもいい。
先取点を与えて負けてばかりいては、防御率がいくらよくても、その投手の勝ち数は伸びないし、チームの勝率は上がらない。球数が多すぎれば、イニングイーターにすらなれない。当然のことだ。防御率がいいのに負けてばかりいる投手には、ちゃんと説明のつく「理由」がある。
単年だろうが、なんだろうが、これだけの額のサラリーをもらっている先発投手は「先取点をやらないピッチングができて当たり前」だと思っている。(同じように、20億近くもらっているステロイダーのAロッドがほんのたまにホームラン打ったからって、別に褒める気になどならない。「仕事」して当然のプレーヤーだ)
誰かのピッチングを「我慢のきくピッチング」と呼びたいなら、「先取点を与えるのが普通な投手」ではダメだ。先取点と追加点を、ダラダラ、ダラダラと相手チームに与え続けるような先発投手が、「我慢のきくピッチャー」であるはずがない。
さて、7回裏。
先頭シェーン・ビクトリーノがヒットで出塁すると
ジラルディは問答無用に黒田を降板させた。
ジラルディ、黒田と目をあわさなかったな。(苦笑)そりゃ、そうだろうな。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
ジラルディはマウンドに行く前に既に投手交代を手で示し、またマウンドの黒田と視線を合わせることも、言葉をかけることもしなかった。
なぜかといえば、理由は簡単、7回表にとうとう同点に追いついたというのに、その直後の先頭バッターをノーアウトで塁に出してしまうような、だらしないピッチングをしたからだ。
ブログ主はジラルディの選手起用のスタイルが大嫌いだが、この場面でジラルディが怒るのは当然だ。この交代については黒田が悪い。
だが、血が頭に上ったジラルディは、次の投手を誰にするか、という点で、ゲームを左右する大きなミスを犯した。
次の投手は、新人シーザー・カブラル。
デビット・オルティーズに死球をぶつけ、
わずか2球で降板。
やっぱり変えたな。そりゃそうだ。このピッチャー、使うほうが間違い。そもそも、投げ方ができてない。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
2013年6月に上げてきたヴィダル・ヌーニョというヤンキースのマイナー上がりのピッチャーがいたが、あの投手がそうだったように、このシーザー・カブラルというピッチャーも、フォームがおかしい。いずれ、股関節か肘か、体のどこかに重い故障を発症して長期休養する羽目になるだろう。こんなフォームのままマウンドに上げるなんて、ヤンキースのにはロクなピッチングコーチがいないとみえる。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年6月13日、ヴィダル・ヌーニョの股関節の故障と、ピッチングフォームの関係。(クレイトン・カーショーとの比較)
カウント苦しくなったら、ストレート投げちゃうつもりだろうな。アホかって。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
この新人ピッチャーのコントロールが根本的に悪いことについては、こんなフォームに作り上げたマイナーのピッチングコーチのせいだろうが、そんなことより問題なのは、こんな経験のない新人投手を、これほどヘビーな場面でマウンドに上げてしまうジラルディであって、言うまでもなく、監督ジラルディに責任の全てがある。ジラルディは、この大事なゲームの、それも、同点になった直後のノーアウト1塁という場面を、なぜまた、こんな経験不足の新人にまかせようという気になったのか。
死球でノーアウト1,2塁になって、ジラルディは、投手をプレストン・クレイボーンに交代させた。
だが、前の投手がたった2球でマウンドを降りてしまい、心も肩も準備ができていないクレイボーンは、代打ジョニー・ゴームズを四球で歩かせてしまい、さらに満塁のピンチを招くことになる。
スチュアートって、ほんと、ピンチになると、ボールになるスライダーばっかり投げさせる。アホかって。ノーアウト満塁だぜ。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
クリス・スチュアートというキャッチャーの配球発想は、どういうわけか、ダメ捕手城島や去年までヤンキースにいたラッセル・マーティンのような、「頭をまるで使わないタイプのキャッチャー」と酷似している。スチュアートはピンチになると、とたんに「アウトコース低めの変化球」ばかり投げさせたがるのである。
資料:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
このクリス・スチュアートがいまだにヤンキースの正捕手でいられるのは、彼が打てるからでも、リードがいいからでも、肩が強いからでも、相手チームの打者の特徴を研究しつくしているからでもない。そもそも「キャッチャー」というポジションが2013年開幕前の補強ポイントのひとつだったにもかかわらず、ヤンキースが補強しようとしなかった、だからスチュアートも使うしかない、ただそれだけだ。
誰も言わないが、今のヤンキースは、ア・リーグ有数の選手層の薄いチームだ。だから、クリス・スチュアートがマスクをかぶり続けて、クソつまらない配球をやり続けることについての責任は、スチュアート本人以外には、GMブライアン・キャッシュマンに責任がある。
ジョニー・ゴームズだけでなく、ボストンというチーム自体が、MLBで最も待球してくるチームであり、可能な限り「ボール球を振らない」ということが徹底教育されている。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年5月24日、「ボールを振らず、かつ、ストライクだけ振れるチーム」など、どこにも「存在しない」。ボールを振るチームはストライクも振り、ボールを振らないチームは、ストライクも振らない。ただそれだけの話。
だからこそ、ヤンキースの先発投手たちとクリス・スチュアートがよくやるような「ボールになるアウトコースの変化球を空振りさせる」などという紋切型のワンパターンな配球戦略は、ボストンのような待球型チームとの対戦においては、そもそも通用しないのが当然なわけだが、ヤンキースバッテリーが「ボストン相手にはストライクゾーンで勝負しなければ最初から勝負にならないこと」に気づいたためしがない。
2012年にあれだけラッセル・マーティンのアウトロー配球を批判したわけだが、その後もヤンキースはまるで変わっていない。
実際、この代打ゴームズにしても、投手クレイボーンが、捕手スチュアートのサインにまんま従って、何も考えず投げこんでくる「最初からボールになるとわかっている、流れ落ちる軌道をえがく変化球の釣り球」に、まったく釣られず、振ってこなかった。
加えて言うと、先発の黒田登板時からだが、ボストンは、ヤンキースのピッチャーが投げる球種のうち、「ストレート系」にずっとヤマを張り続けてきていて、それが、このゲームにおけるボストン打線の基本傾向だった。
もっというと、ボストンのバッターには、ホワイトソックスやブルージェイズ、エンゼルス、アストロズなどの「フリースインガーがズラリと揃った非分析型のチーム」(ここにヤンキースも含まれる)のように、「アウトコース低めのボールになる変化球」で簡単に空振り三振してくれるような簡単な打者は、ほとんどいない。(だからこそ、ボストンが勝負強い打線になっているわけだ)
だからこそ、もし「四球の許されない」満塁というシチュエーションになれば、突然登板させられてコントロールの定まらないクレイボーンと、アウトローの変化球で逃げる配球しか能がないスチュアートのヤンキースバッテリーがやろうとしている「ボールになる変化球を、なんとか振ってもらえないだろうか?」などという「曖昧で、かつ、弱気な作戦」が簡単に破綻するのは目にみえていた。
ヤンキースバッテリーが、このあとどこかで変化球でカウントを悪くしてしまって、ストライクをとるために「ストレート」を投げてくることは、この代打ゴームズを四球で歩かせた時点で、ほとんど確定していたといっていいのである。
ダニエル・ナバ、無死満塁の場面
アウトコースのチェンジアップで三振。
追い込んであったから効いた。三振。これで落ち着くかな。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
前の打者、ジョニー・ゴームズをアウトコースに外れる変化球の連投で歩かせてしまったクセに、次のダニエル・ナバの打席で「アウトコースの大きく外れたチェンジアップ」がたまたま効いて、三振がとれてしまった。
このことで、明らかにヤンキースのキャッチャー、クリス・スチュアートは、非常に大きな「勘違い」をした。
「ゴームズは歩かせてしまったが、それでも、アウトコースの変化球でかわしておけば、なんとかなるのではないか」と、「甘すぎる判断」をしたのである。次打者サルタラマキアに対する初球で、ナバの4球目、5球目に投げたのと、まったく同じコース、まったく同じ球種を、3連投してまで使ったのが、その動かぬ証拠だ。
そして、監督ジョー・ジラルディもまた、同じ「勘違い」をした。「クレイボーンの変化球でなんとかしのげるのではないか」と、甘い考えを抱いたのである。だからこそ、ジラルディはコントロールのあやしいクレイボーンを替えなかった。
次打者、ジャロッド・サルタラマキア。
ほぉ。外のチェンジアップをサルタラマキアが見逃したな。インコースのストレート待ちだな。
— damejima (@damejima) September 14, 2013
次打者サルタラマキアへの初球は、前の打者ダニエル・ナバが三振した球と、まったく同じコース、まったく同じ球種の「チェンジアップ」だ。この球で、クレイボーンは、3球続けて「外のチェンジアップ」を投げている。
だが、サルタラマキアはピクリとも動かなかった。
この「初球のチェンジアップ」でサルタラマキアが微動だにしなかったことで、「サルタラマキアの狙いが、『ストレート』、それもインコースのストレートであること」は確定していた。(もちろん、フォアボールの許されないこの場面では、打者が誰であろうと、ストレート系を待つ場面であることは言うまでもない)
だが、みずから満塁のピンチをまねいてしまい、「ボールになる変化球をアウトコース低めに投げ続ける」という「能無し配球」すらできなくなったクレイボーンとスチュアートのバッテリーは、サルタラマキアの対応ぶりをまったく観察せず、単なるストライク欲しさで、まさにその「投げてはいけないストレート」を、よせばいいのに「投げてはいけないインコース低め」に投げてしまう。
結果、満塁ホームラン。
付け加えておくと、サルタラマキアは典型的な「ローボールヒッター」なのである。
サルタラマキアの右投手に対するHot Zone
via Jarrod Saltalamacchia Hot Zones - ESPN
どうだろう。
2013年にヤンキースが野球というものを舐めてかかってチームを作った結果の、ほとんど全てがここに凝縮して表現されているのが、おわかりだろう。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic
この満塁ホームランは、
偶然などではない。