September 18, 2013

『共同通信ホームラン写真捏造事件』はともかく、アメリカの全国紙USA Todayでつい最近起きた『Debby Wong事件』のことは知らない人がほとんどだろうと思うけれど、そういう人にこそ、あの事件を知って、覚えておいてほしいと思うので、まず『Debby Wong事件』のあらましを説明する。


このブログが『Debby Wong事件』と呼ぶ「事件」は、USA Todayのカメラマン、Debby Wongが、自らの怠慢とミスでイチローの日米通算4000安打達成時の決定的瞬間の写真を撮りそこなったにもかかわらず、自分の撮影失敗を周囲に隠しとおしたまま、まったく別の日に撮影した「似た感じの、イチローがヒットを打った瞬間の写真」を、「イチロー日米通算4000安打達成時の写真」と偽ってメディアに配信した事件である。
「Debby Wongが用意したニセのイチロー4000安打達成写真」は、USA Todayが作成した「イチロー日米通算4000安打達成を報じる電子版記事」のビジュアルとして採用されて公開されたほか、USA Today傘下にあるUSA Today Sports Imageのウェブサイトにおいても公開された。

事件発覚直後、USA Todayは、Debby WongとUSA Today Sports Imageとの間で結んでいた写真提供契約を即座に打ち切った


『Debby Wong事件』を最初に報道したのは、当事者であるUSA Todayではなく、全米報道写真家協会(NPPA)のDonald Winslow氏で、2013年8月30日にNPPAのウェブサイトにアップされた。
この秋以降から、大手通信社のひとつ、ロイター通信が、ロイターと契約したカメラマンが撮影した写真を買い上げて契約各社へ配信するという従来のスタイルに見切りをつけ、かわりにUSA Today傘下にあるUSA Today Sports Image社の写真をロイターを通じて配信する手法に切り替えるという発表を行ったばかりだったことから、NPPAはDebby Wong事件を、単なる「個人的なミスを隠蔽するための写真すりかえ」としてではなく、スポーツジャーナリズムの今後に大きく関わる事件として扱った。
元記事A Swing And A Hit (And A Miss) | NPPA
資料記事Damejima's HARDBALL:2013年8月31日、『Debby Wong事件』 〜スポーツ・カメラマンDebby Wongが、「まったく別の場面のイチローの写真」を「イチロー4000安打の写真」としてUSA Todayに供給し、USA Todayが記事として公開していた事件。


上記の事件をひきおこしたDebby Wongは契約を打ち切られたわけだが、同時期に日本で似た事件が発覚した。それが、以下の「共同通信ホームラン写真捏造事件」だ。
ほぼ同時期に日米で似たような事件が発覚したことには、正直、驚いた。


共同通信社は17日、昨年5月〜今年7月のプロ野球3試合で、本塁打の写真と偽って同じ選手の別打席の写真3枚を配信していたと明らかにした。大阪支社編集局写真映像部の男性写真記者(28)が、本塁打の場面を撮影できず、別の写真を偽って出稿していた。他にも偽装して配信した可能性があるといい、同社は他の競技も含めて調査し、関係者を処分する方針。

3試合は、7月14日の阪神−DeNA戦、昨年9月4日のオリックス−ロッテ戦、昨年5月19日の阪神−楽天戦。ブランコ選手(DeNA)と根元俊一選手(ロッテ)、テレーロ選手(楽天)が本塁打を放った写真として加盟社に配信した。

同社によると、今月8日、この記者が出稿に手間取っていたため、写真映像部のデスクがパソコンを確認したところ、記者が同日撮影したプロ野球の試合の写真を、順番を入れ替えて保存していたことに気付いた。不審に思い、記者が撮影した昨春以降の写真を確認すると、3枚の写真説明が実際とは異なっていたことが判明したという。(太字はブログ側による)
<共同通信>プロ野球本塁打の写真偽装し配信 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース


いうまでもないことだが、新聞やテレビといった「マスメディア」は、予算や人員などの制約から、「自前で、ありとあらゆる事件、イベント、ニュースのオリジナルな情報ソースを用意できる」わけではない。

むしろメディアは、ありとあらゆる事件・イベントを、「自前の」記者・カメラマンを駆使して、「自前で」取材し、「自前で」記事と写真や動画を調達するかわりに、マスメディアのための情報提供サービスである「通信社」を情報源として、通信社の提供する大量のメニューの中から、その日に視聴者や読者に配信したい情報を「買い上げる」ことで、ようやくその日に必要とされるニュースの「品揃えのすべて」を調達できる。
そうした状況は、たとえナショナルメディアの大きな新聞社であっても、変わらない。メディアとして彼らが重きを置きたがる政治・経済は自前で取材したがるが、スポーツや文化は通信社から買いあげる情報に頼りっきりというケースは、当然ながら多々ある。
マスメディアは昔から大量のソースを、自前で取材することなく、「通信社」から仕入れたネタを情報として配信することで成り立ってきた「情報ブローカー」のような面が少なからずあったが、今ではさらに、新鮮味のあるネタ作りの下手な彼らは、インターネットからもたくさんのネタをこっそりピックアップするようになっている。

だが、マスメディアが通信社から有料で買い上げ続ける「ネタ」の中に、「ニセモノ」が混じっている可能性について、マスメディアが十分神経と予算を使って検査してきたとはいえない
それを「マスメディアと通信社の間の信頼関係」といえば聞こえはいいが、要は、『Debby Wong事件』にしても、『共同通信ホームラン写真捏造事件』にしても、マスメディアがこれまで通信社に「情報の製造」そのものを「丸投げ」しておいて、しかも入ってくるネタをほとんどチェックせずに配信していたことが、こうした情報捏造事件の発生を招いた背景のひとつでもある、ということだ。


だが、これらの事件は「マスメディアって、ほんとダメね」という嘆息で終われない。
なぜなら、それは、マスメディアにとっての外部情報源である「通信社」のひとつ、ロイターが、「従来のようにフリーのカメラマンから写真を買い上げる手法を打ち切って、写真の収集事業そのものを外部委託する」というニュースでわかるように、マスメディアが情報源として頼り切っている「通信社」それ自体さえも、「自前で」情報収集するのを止めてしまい、通信社のさらに外部にある情報源から通信社が「情報を買い上げ」、それを「マスメディアに向けて丸投げする」、そんな困った時代になってきている、ということがあるからだ。

当然のことながら、情報提供会社から通信社、通信社からマスメディア、マスメディアから視聴者・読者へと、「情報が丸投げされるステップ」が多くなればなるほど、情報の真偽のチェックは難しくなり、また、ニセ情報が捏造される危険性は増大していく


今回の日本の『共同通信ホームラン写真捏造事件』では、3件もの写真において「すりかえ」が行われている。この件数の「多さ」からみて、過去においてもこうした捏造行為が多々行われてきただろうと考えるのは、ごく自然な発想だ。
USA TodayはDebby Wong事件でカメラマンと即座に関係を断ったわけだが、もし共同通信がみずからをジャーナリズムの一角であると今後も自負し続けたいのであれば、共同通信も、USA Today同様、たとえそのカメラマンが正社員であろうとなんだろうと、懲戒解雇クラスの厳罰を科すくらいでないと、共同通信がこれからジャーナリズムがどうのこうのと言えなくなるような危機だと、ブログ主は考える。


それにしても、アメリカの『Debby Wong事件』では、事件のかなり詳しい経緯や撮影現場での生々しいエピソード、捏造を犯したカメラマンの「実名」もきちんと報道されているというのに、日本の『共同通信ホームラン写真捏造事件』では、詳しい経緯も、カメラマンの名前も、まるで報道されておらず、「ぬるい」こと、このうえない。
これこそ、なんとも嘆かわしいジャーナリズムの「日米の差」のひとつである。

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