November 04, 2013

素晴らしいゲームばかりだった2013日本シリーズについては、たくさんのプロ野球ファンが書くだろうし、門外漢があれこれいう必要もないとは思うが、「配球」を考えながら野球を観るのが好きな人が時間が過ぎた後で、このシリーズをあらためて考察するときに必要な記録を残しておきたいと思うし、MLB移籍後に予見される「田中将投手の課題」という問題にも関係するので、メモを残すことにした。わかりきった内容が多いことについてはご容赦願いたい。

第5戦までの嶋捕手の「インコース突き配球」
第5戦までに2013日本シリーズにおける楽天優勢が明らかになった理由は、楽天・捕手のインコースを突きまくる配球と、それを可能にする楽天先発投手陣の力のある速球、コントロールの良さにある。
インコース主体のスピードとパワーのある速球をヒットにするだけのスイングスピードをもたない打者(例・松本)ばかり並べた巨人打線では、大半の打者が打率2割以下に抑えこまれた。
特に、このインコースを突きまくる配球の成果は、本来ならインコースに強いはずの巨人・阿部捕手の打撃不振を決定づけたことにある。阿部はインコースの速い球に対応しようとする意識が強くなりすぎた結果、右腰の開きが早すぎるカラダの初動の悪さを、自力では制御も修正もできなくなり、そのまま凡退し続ける結果になった。

第6戦、第7戦の巨人の「ストレート狙い」
大雑把にいえば、戦力の均衡したシリーズの行方を決めた第6戦・第7戦で、レギュラーシーズン無敗だった田中投手が負けた理由も、美馬投手以下の楽天の投手が打たれずに済んだ理由も、まったく「同じ理由」だ。
それは「巨人打線が、この大事な2試合でずっと「チーム方針として、ストレートばかり狙い続けた」からだ。

第6戦では、田中・嶋バッテリーは、巨人打線に狙い球を絞り込まれたことで、無敗のエースがピンチを招き続けるという「予想外の事態が起きたこと」にすっかり我を忘れてしまい、使う球種が「ストレート」と「スプリット」の2つに完全に偏ってしまい、バッターにことごとく球種を読まれた。
特に、インコースのストレート待ちで二塁打を打つのが特徴の高橋由に、嶋捕手が「第5戦までに多用していたインコースを突く配球を続けたこと」は、明らかにキャッチャーが配球を主導する日本野球のキャッチャーとしては大失敗であり、高橋由に投げミスしたインコースのストレートを打たれ、さらに投げる球が無くなって変化球を置きにいっては打たれて、楽天バッテリーに逃げ場はなかった。スプリットの投げ過ぎの結果、スプリットが抜けるようになったゲーム中盤には、スプリットが抜けた高めの棒球を、好調時の田中なら打てるわけのないホセ・ロペスにさえホームランを許した。

その一方で、カーブやスライダーを主体に投げられる美馬は第7戦で、主にスライダーを多投することで打者をかわし続けた。巨人打線がストレート狙いなのだから、美馬がMVPに選ばれるのも、楽天の日本一も、当然の結果だ。

第6戦、巨人の打線組み替えの成功
第6戦だけみれば、巨人・原監督の「打線組み換え」という戦術は非常によく機能し、無敗のエース・田中将大を打ち崩すことに成功した。特に、インコースのストレートに異常に強い高橋由を3番起用したことに意味がある。
他方、楽天・嶋捕手は、巨人打線の組み替えの意図を理解せず、インコースをストレート系で突き続ける第5戦までの配球を修正しないままゲームに臨んで巨人打線の痛打の連続にあい、優勝を決めるべく田中先発で臨んだ第6戦を落とす原因を作った

ただ、原監督の打順変更が「遅きに失した」ことは、残念ながら後世の人に特筆して書き残しておくべき点であり、もし原監督が、楽天バッテリーにおける嶋捕手の配球傾向、巨人打線が抑え込まれている理由について、もっと早く把握し、なおかつ、もっと柔軟かつ俊敏に対応策を講じていたら、シリーズの結果は違うものになっていた可能性がある。(ちなみに、負けた巨人の戦略コーチは、敗退した第3回WBCでデータ分析を担当し、ヤディア・モリーナ相手に行った無謀なダブルスチールについて「絶対にできた」と負けた後でタラレバ発言した橋上秀樹)


第7戦、「変化球多用」による楽天の逆襲
田中先発で必勝を期した第6戦を失った後、第7戦を戦うにあたって楽天・嶋捕手は、「なぜ第6戦で楽天は負けたのか」について的確な判断を下して、第7戦では「徹底して変化球を増やす」という対策を立ててゲームに臨んだために、勝利した第6戦に続く第7戦でも同じオーダー、同じ戦術をとった巨人側の「意図」は完全に「裏目」に出た。
第7戦での試合結果について、楽天の先発投手が「カーブやスライダーを多用する美馬投手」だったことで、「偶然に、美馬投手と、ストレート狙いに徹する巨人打線とのミスマッチが起きた」ように思う人がいるかもしれないが、それは違う。

理由は2つある。

ひとつは、嶋捕手が、田中以上にストレートを多投したがる則本に対しても、「変化球、特に『打者の初球にスライダーを投げ、しかも、ストライクをとっておくこと』を徹底させ、巨人打線にいやおうなく変化球を意識させた」こと。
則本という投手は、いい投手ではあるが、ストレートを多投すると、10球に1球くらいの高確率で、高めに甘い球がいってしまう悪癖がある。第1戦8回表に村田にホームランを浴びたのも、ストレートの失投だ。(初球・アウトコース高め)
この「失投確率のかなり高い投手」を、わざわざ負けられない第7戦で、「ストレート狙いの巨人打線」相手にリリーフ登板させた楽天・星野監督の投手起用は、そもそも人選とタイミングを両方とも間違えている
たとえ信頼できるブルペン投手がいなくて則本をリリーフ起用せざるえないような状態だとしても、変化球にキレがあって巨人打線のストレート狙いをかわすことができる美馬をもう1イニング引っ張るほうが、よほど理にかなった戦術だったはずであり、巨人側も変化球のいい美馬が降板してくれて正直ホッとしたはずだ。

ふたつめに、嶋捕手が、則本と同じくストレートを投げたがる緩急のない田中投手にも、「スプリット連投を指示し、ほとんどストレートを投げさせなかった」ことだ。

こうして嶋捕手が、第7戦では「ストレートをむやみに多投しない」、「無理にインコースばかり突こうとしない」という風に、それまでの配球傾向を一新したことで、楽天は、「巨人打線のストレート狙い」と、そのキーパーソンである高橋由の3番起用をはじめとする「打線変更の効果」を、2つとも打ち消すことに成功した。
この「第7戦における配球傾向の一新」を主導したのは、明らかに監督の星野仙一ではない。なぜなら星野は、第7戦で楽天が巨人打線を抑えることに成功していたキーポイントが美馬の投げる「変化球」にあり、しかもまだ美馬が投げられるにもかかわらず、「ストレートを投げたがる則本」に、それも1イニング早くスイッチしている「わけのわかってない指導者」だからだ。


最後に、MLB移籍後の田中将大について、ちょっとしたメモを残そう。

かつて、2011年にフェリックス・ヘルナンデスについて書いたことがあるし、たしかダルビッシュについてもツイートしたことがある気がするが、MLBでは「4シーム(日本でいうストレート)がいいと言われる投手に対する、典型的な攻略パターン」がある。
それはとても単純な方法論で、「その投手の最もいい球種である4シームを、打線全体で徹底的に狙い打って投げられなくさせ、配球の構造そのものを壊す」というものだ。

「4シームだけを狙い打つ」なんていう単細胞な(笑)投手攻略戦術が、MLBで可能なのにはもちろん理由があって、MLBには「たとえ他の球種は不得意でも、こと速球だけなら確実に打てる」というハンパな打者が死ぬほどたくさんいるからだ。(特にアメリカ国内の大学出身者)
ただ、この「4シーム狙い打ち戦術」、もし日本でやったとしても、思ったほど効果はないと思う。なぜなら、例えば日本シリーズの巨人・松本のように、パワーのあるインコースの速球をヒットにできない打者がたくさんいる世界だからだ。(比較でいうなら、イチローはホセ・バルベルデのようなMLB有数の速球派投手のインコースの4シームを狙い打ちしてホームランにできるレベルのバッターであり、速球だけしか打てない二流打者とはまったく違う)
MLBなら、たとえ変化球はまるで打てない下位打線のバッターであっても、こと「速球」に関してだけは、いつでもホームランできる可能性がある。

Damejima's HARDBALL:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差 (2)「ストレートを投げる恐怖」と「外の変化球への逃げ」が修正できないヘルナンデスの弱さ。

Damejima's HARDBALL:2011年7月31日、もはやストレートで押せるピッチャーでも、グラウンドボール・ピッチャーでもない、フェリックス・ヘルナンデス。ちなみに、ダグ・フィスターのストレートは、MLB全体11位の価値。


MLBでは「速球だけは打てる打者」「速球だけ速いピッチャー」なんてものは、腐るほどいる。たとえバーランダーやチャップマンのように、4シームの球速が160キロ出ようと、「甘い4シームを打てるだけのバッター」でいいなら、それこそ、どこにでもころがっているし、「4シームの速いピッチャー」というだけでいいなら、どこのマイナーにもいる。

むしろ、バッターが一流になれるかどうかは、カーブ、チェンジアップ、シンカー、ナックルカーブなどの「ブレーキのある変化球」、スライダーや高速シンカーなどの「スピードも兼ね備えた変化球」や、2シームやカットボールのような球速のある「動くスピードボール」を加えた、「ストレート以外の球」がどれだけ打てるかにかかってくる。
それはピッチャーでも同じで、一流になるには、4シームのキレだけでは不足で、最低でも「もうひとつ何か別の得意球種」を持つ必要がある。
(チェンジアップが武器のジェイソン・バルガスのように、コントロールが並み外れてよければローテーション投手にもなれるが、球速そのものが衰えたヤンキースのサバシアがもはやどうにもならない地点にさしかかっているように、球速の無い投手がエースの座を維持できるわけではない。たったひとつの球種では、世界から才能が集まるMLBで成功することは絶対にできない。だから、かつてイチロー在籍時代のシアトルのマイナーが、4シームしか持ち球のないワンパターンな速球派の若手投手ばかり生産し続けたことは、本当に無意味な行為だった)


田中将大投手が「いざとなると頼る球種」が、「4シーム」と「スプリット」なのは、この日本シリーズでよくわかったわけだが、では、その「2つの球種だけ」でMLBでやっていけるものかどうかは、よく考えないといけない。
MLBの場合、「4シームとスプリットだけでやっていく投手」というのは、ジョナサン・パペルボンのような「クローザー」だけであり、田中投手がローテーション投手として長く活躍したければ、球種を増やす必要がでてくるのは間違いないし、その球種は「空振りをとれるような、レベルの高い球」である必要もある。

現状の田中投手の配球上の特徴は、いい意味でも悪い意味でも、「緩急をあえてつけないこと」にあると思う。

彼のスプリットには「かなりの球速」があるため、彼の「ストレート」と「スプリット」は簡単には見分けづらい。だから、日本のプロ野球の打者は、田中投手のスプリットをストレート系のタイミングで振りにいく打者が非常に多い。
そして、ランナーを出した後でもストレートに準じた球速で落ちるボールを投げられるからこそ、スプリットで簡単に空振りがとれ、簡単に三振がとれて、ピンチでも動じないでいられる。(逆にいうと、第6戦で寺内に打たれたヒットのように、ピンチの場面でスプリットを狙い打ちされると、途端に苦しくなる)

だが、中には、日本シリーズのロペスの2ランホームランのように、スプリットをストレートのタイミングで振りにいったが、スプリットがほとんど落ちなかったのがかえって幸いし、長打することに成功する打者も、少なからずいる。
田中投手のピッチングスタイルにとって、「スプリットの球速が、ストレートに比べて遅すぎないために、ストレートとスプリットを見分けづらいことに意味があり、無理に緩急をつける必要はない」のは確かであるにしても、この「緩急なし戦略」は「両刃(もろは)の剣」でもある。

ブログ主は、昔からクリフ・リーやダグ・フィスターのような「カーブを投げる投手」が大好きだが、では、緩急をつけすぎないことを逆利用してきた田中投手が今後、緩急もつけられるピッチャーに変身できるのか、カーブを有効活用するために必要な投球術を自分のものにできるか、というと、彼の「腕の振りのワンパターンさ」を見るかぎり、カーブを投げようとしたときのフォームの変化があまりにも大きくなりすぎてしまって、打者に球種を見切られそうな感じがする。それに、ある年齢に達した人間というものは、そうそう簡単に「新しい自分」に変われないものだ。

むしろ、田中投手には、今までと同じように腕を振る速度を変えないまま、違う球種を投げわけるピッチングスタイルを今後も続けられる、という意味で、2シーム、カットボール、チェンジアップなどを増やすことのほうが向いている気がする。
ただ、どうしても元アトランタのカットボール投手・川上憲伸の例を思い出してしまう。緩急の少ないタイプのアジアの投手のカットボールは、MLBで思ったほど成功を収めていないことが、どうしても気になる。また、2シームと4シームを使い分ける芸当は、どうも日本人投手に向いてない気がするし、そもそも田中投手がいま投げている2シームは、「変化の大きさ」、「キレ」、どちらをとっても「MLBでいう2シーム」ではない。
だから、彼がこれからモノにするなら「チェンジアップ」がいいような気がする。


まぁ、何にしても、田中投手が今後どういう球種を自分の持ち球に加えるかが、彼のMLBでの成功のカギを握っていると思う。


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