March 18, 2014

とあるカナダの野球コーチの方がツイッターに挙げていた写真が、イチローのMLBでのバッティング面の秀逸さを物語っていて、なかなか興味深かった。ツイッター上のやりとりで許可をもらったので、転載して、そこから記事をひとつ書くことにした。(なお、オリジナルの写真にはアルファベットのAとかBという文字はない。この写真の意味について説明を加える上で必要だったため、当ブログ側で後から付け加えた)

イチローのスイング
ライアン・ブラウンのスイング


note:
今回の記事は、カナダのオンタリオ州Mississauga (=愛知県刈谷市と姉妹都市提携を結んでいるカナダの都市。ミシサガ、ミササガなど、日本語での読み方は数種類ある)で、子供向けの野球コーチをしていらっしゃるらしいDean Mariani氏(@MNBATigers2002)のツイートから許可を得て拝借させていただいた。二つ返事で快く転載を許可いただいたMariani氏のご厚意に、この場を借りてあらためて御礼申し上げたい。(下記がオリジナル画像)



さて、2つの写真を見比べてみる。
イチローライアン・ブラウンである。

子供たちに野球を教える仕事をなさっているらしいMariani氏が、2人の野手のスイングを並べることで指摘しようとしたことは、(質問して回答をもらったわけではないので、あくまで推測になるが) おそらく2人の野手のスイングの「共通点」だろうと思う。

もう少し具体的に書くと、氏が2人の野手のスイングの共通点として最も強調したかったのは、「バットの位置が、スイングのかなり早い段階で、加工後の写真で示したA点に準備されていること」だろうと思う。
バットはその後、A点とボールとを結んだ直線上にあるコンタクトポイントB点(=加工後の写真で示したB点)に向かって、A点からB点への最短距離をトレースする軌道上を動く。その結果、コンタクト率が高まるというわけだ。
「誰よりもボールコンタクト率の高いスイングをしたければ、こう打て」と、カナダの野球指導者がイチローを模範として現地の子供たちにスイングの基本を説明してくださっているのを見ると、イチローファンとしてやはり鼻が高い。


氏の指摘は既に他人が余分なコメントを加える必要のないストーリーなわけだが、このブログではあえて、この2人のスイングの「相違点」に着目してみることで、イチローのMLB加入後のスイングの意味をあらためて味わってみることにした。


「相違点」を以下に挙げてみる。
Aの位置
イチローは左足よりかなり内側
ブラウンはちょうど右足の上あたり

AとBとの距離
イチローは短く、ブラウンは長い

Bの位置
イチローは右足のかなり内側
ブラウンはちょうど左足の上あたり

ボールとBの距離
イチローは非常に短く、ブラウンはずっと長い

ボールの位置
イチローでは、既に右足あたりまで来ている
ブラウンではもっと離れた遠い位置にある


Mariani氏がバッティングフォームの模範例として取り上げていらっしゃるこれらの写真は、イチローとライアン・ブラウンがクリーンヒットやホームランを打ったときの写真だろうとは思ったが、残念ながら確かめていないので、もしかするとイチローは詰まった内野ゴロか意図的なファウル、ブラウンはサード側に切れるファウルや空振りをした打席なのかもしれない(笑)
なので、本当なら、投手の投げた球種、スピード、コース、そして、2人がどういう打球を打ったか、ヒットになったのか、そうでないのかを詳しく知ってからコメントすべきところなのだが、まぁ、しかたがない。


細かいこと抜きに大雑把な話として、という前提で語るとして、イチローとブラウンのスイングの「相違点」は歴然としている。

イチローのほうが、ブラウンより、はるかにバットの出を遅らせて、ボールを懐に呼び込んで打っている

イチローの場合、バットがまだA点にあるとき、ボールは既に「コンタクトポイントB点に到達する寸前」まで来ている。おそらく「ボールとB点の距離」は20センチ足らずしかない。
仮にボールとB点の距離を20センチ、球速を130km/hとして計算すると、「ボールがB点に到達するまでの時間」は、わずか約0.00554秒しかない。

これがブラウンの場合になると、「ボールとB点の距離」はイチローよりずっと広く、およそ2倍ちょっとくらいはある感じに見える。仮にボールとB点の距離が40センチ、球速が同じ130/hだとすると、「ボールがB点に到達するまでの時間」は、イチローの2倍、約0.01108秒となる。


もし仮に「2人が同じ時間で、バットの芯をA点からB点に移動させた」のだとしたら、「短距離の移動で済んでしまうイチロー」より、「より長い距離、バットを移動させなければならないライアン・ブラウンのほうが、スイングスピードが速い」ことになる。

だが、もちろん、実際には話はまるで逆だ。
(もちろん、この2枚の写真の投球の速度が同じという前提が必要だが)
イチローのように体に近い位置に引き付けて打つ場合、ボールは、コンタクトポイントであるB点まで、それこそ「アッという間」に到達してしまう。
だから、球速が同じなら、まだボールが遠くにある段階でスイングを開始するライアン・ブラウンよりも、呼び込んで打つイチローのほうが、はるかに速いスピードでバットをスイングしているのである。

この事実は、たとえ「A点とB点の距離」、つまり「バットをライン上に準備した位置Aから、コンタクトポイントBまでの距離」が、ブラウンのほうが多少長かろうと、変わることはない。
なぜなら、「A点からB点までの距離の個人差」は、人によって2倍もの差がつくことなどありえないが、「ボールがB点に到達する距離の個人差」は、イチローとブラウンの違いのように、2倍以上もの個人差になることが普通にありうるからだ。

にもかかわらず、
「ブラウンのようなタイミングで打つスラッガータイプのほうが、体に近いタイミングで打つイチローより、要求されるスイングスピードは、ずっと速い」とか、物理をまるで無視して思い込んでしまっている人は、思いのほか多い
この際だから、心当たりのある方はこれまでの自分の間違いを修正しておくべきだろう(笑)


また、「ボールがB点に到達するまでの距離が長いこと」は、極端にいえば「ゆっくり振っても間に合う」ことを意味する。
だから、「長打を打つためにはよほど早くスイングしなければ、間にあわない」というのは誤解なのであって、体にチカラを入れまくって、重いバットをあわてて振り回す必要は、実はどこにもないのだ。



つまるところ、
打者に要求されるスイングスピードを決めるファクターは、「バットをA点からB点まで移動させる距離の長さ」ではなく、ちょっとややこしい言い方にはなるが、「ボールからB点までの距離」、すなわち、「その打者がバットの芯をA点に準備し終えたときに、ボールが存在する位置」と、「その打者が、自分の身体のどのへんでボールをさばきたいかというB点」との距離で決まる


当然ながら、タイミングの異なるイチローとブラウンでは、必要なバットの重さや硬さ、材質や形状、全てが変わってくる。
また、左足が外旋しやすい右バッターと、右足が外旋しにくい左バッターでは、コンタクト時に許される体の開きがまったく違ってくる。



余談だが、この2枚の写真からいえることが、もうひとつある。
バッターが、早いタイミングでA点にバットを準備し、必要十分なスイングスピードでA点からB点にバットを移動させることができるなら、実は、スイングを始動してからバットをA点まで移動させる間の、バットの「移動ルート」や「スイング速度」には、「スイングはこういう形で始動しなければならない」とか、「こういう軌道でスイングし始めなければならない」とか、野球指導者が決めつけるほどの「厳しい制約条件」は、実は「ほとんどないということだ。
目指すのが、サダハル・オー直伝のダウンスイングだろうが、プリンス・フィルダーばりのアッパースイングだろうが、落合博満スタイルだろうが、クラウチングスタイルだろうが、スイング初期段階でのバットの移動ルートや速度には、ほとんど制約がないのだ。バットがボールに当たる瞬間の形さえビシっと決められるならば、あとは好きにバットを構えて、好きなように振りはじめればいい(笑)


日本の某有名フォーム分析サイトの主(あるじ)がNPB時代のイチローについて「イチローよりボールを見れる打者を見たことがない」と書いているのを見たことがある。それはMLBにおけるIchiroでも、同じように成り立っている。

だが、ただボールを長く見ることができるだけのバッターだったなら、イチローがIchiroになることはなかっただろう。
鈴木一朗が、イチローに、さらにIchiroになれたのは、彼に「たぐいまれなスイングスピード」があったからこそであることを、この1枚の写真が物語ってくれている。いうまでもなく、それはバットの重量の軽重以前の問題だ。


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