March 24, 2014

キアヌ・リーヴスがノートンのバイクの横にひとりで座っている写真を見ていて、映画 『ドラゴンタトゥーの女』で、リスベット・サランデル (Lisbeth Salander)が乗り回しているバイクについて、2012年暮れに書いた記事に、いくつか書き漏らしたことがあることに気が付いた。
2012年12月21日、ニューヨークまみれのクリスマス・キャロル(2) NFLニューヨーク・ジャイアンツとティム・マーラとポロ・グラウンズ | Damejima's HARDBALL


キアヌはノートンを、手を加えないオリジナルのまま乗っているわけだが、よく知られているように、ノートンやトライアンフといった「英国メーカーの2ストロークの単気筒バイク」は、よくカフェレーサーのカスタマイズベースになる。
もともとカフェレーサー自体が、1960年代にロンドン北西部のAce Cafeという名前のロードサイドレストランで生まれたスタイルが元祖なわけだから、「英国製バイクであるノートンやトライアンフをベースにカフェレーサーを作る行為」は、カフェレーサー発祥の地イギリスの伝統的スタイルを忠実に再現しているという意味では、首尾一貫しているという意味に、とりあえずはなる。

Ace Cafe ロゴ
Ace Cafe
Ace Cafe in London

バイクをカフェレーサーに改造する場合、「ハンドル位置を低くできるハンドルバー」が採用されるわけだが、そうしたハンドルには、clip-onsと呼ばれる「セパレートタイプ」と、ace bars、あるいはclubmansと呼ばれる「ワンピースタイプ」がある。

clip-onsclip-ons
左右セパレートのハンドルがそれぞれ独立して前輪フォークに固定される。ハンドルが1本の棒として作られるone-pieceとは、構造自体がまったく異なっている。

ace barsace bars
clip-onsと違い、バーは1本。バーエンドをカットすることでclip-ons風になる。スイッチ類の移動の必要がなく、バーエンドミラーも取り付けられるのが利点。



さて、『ドラゴンタトゥーの女』でリサベット・サランデルが乗っているカフェレーサーだが、このバイクにつけられたハンドルを、「セパハン」(=セパレート・ハンドルの意味)、つまり、英語でいう "clip-ons" と決めつけて記事を書いているブログをやたら多くみかける。

だが、下の写真で明らかなように、このバイクのハンドルはセパレートのclip-onsではなく、ワンピースのace barsだ。

カフェレーサーのハンドルはどれもこれも clip-ons と思い込んでいる人が多いのかもしれないが、歴史的にAce Cafeというレストランの店名が「カフェレーサー」や「ace bars」のネーミングの由来なのだから、あらゆるカフェレーサーのハンドルがclip-onsであるわけがない。
映画『ドラゴンタトゥーの女』の中でも、バイクに乗ったリサベット・サランデルがバーエンドに取り付けたバックミラーを見るシーンが何度もあったと記憶しているが、それは、「このバイクのハンドルバーが、バーエンドミラーをつけることができるace barsが装着されている」からこそ、わざわざ意味ありげにミラーを見るシーンが何度も挿入されているのである。(そういう意味でいえば、デビッド・フィンチャーはかなりのバイク好き監督なのかもしれない)

Motorcycle in



次に、このバイクのタイヤを見てもらいたい。

映画を見ても気づかない人が大半かもしれないが、このバイクは、「オンロード」を走るカフェレーサーであるにもかかわらず、「オフロード」用のブロックタイヤを履いている。

今の価値基準(というか、カフェレーサーに改造するなら英国製バイクをベースにしていなければダメだという硬直した考え)からすれば、カフェレーサーはスリック系タイヤを履きそうなものだが、このカフェレーサーはなぜ「ブロックタイヤ」なのか。

Motorcycle in

その理由は、おそらくこのバイクのカスタマイズのベースになったバイクが、Hondaの有名なCBシリーズのscrambler(スクランブラー)タイプである「CLシリーズ」(日本未発売)だからだろう。
(「このバイクのベースはCB」と書いているブログをたまに見ることがあるが、以下に書いた理由から、ブログ主は、このバイクのベースはCBではなく、CLで間違いないと確信している)

 The Scramblerと呼ばれたHonda CL-350のカタログ


scramblerといえば、最も初期のオフロードレース用のバイクを指す。(scrambleという単語は、この場合「オフロードレースで横一線に並んでスタートする方式」のことをさす)

上の写真を見てもらってもわかる通り、CL 350というバイクの形状は、今の時代のバイクの価値基準から考えるなら、とてもとてもモトクロスに使われるバイクとは思えない。

だが、初期のオフロードレースでは、オンロード・オフロードの区別は現在のように明確だったわけではなかった。そのため、かつては、今の価値基準からするとオンロード用のレーサーにしかみえないスタイリングのバイクが、オフロード用に改造されることがあった。
だからメーカー側でも、「scrambler」というカテゴリーを設け、「オン・オフ兼用」というような摩訶不思議なカテゴリーのバイクを開発・発売していた時代があったのだ。

つまり「scrambler」は、「タイヤを、不整地を走るのに向いたブロックタイヤにはき替えるなど、オフロード用に改造されることも想定に入れて開発された、デュアルパーパスなオンロードバイク」なのである。


『ドラゴンタトゥーの女』の撮影用にバイクをカスタマイズしたのは、ロサンゼルスのファクトリー、Glory Motor Worksだが、彼らがやった仕事というのは、単に見た目のカッコよさを追及する行為ではない。
ベースにしたCLシリーズという独特なバイクだけがもつ「scramblerという歴史」に深い敬意を払っているからこそ、彼らは、カフェレーサーでありながらも、あえてスリックタイヤではなく、ブロックタイヤを選んだのだろう。


このバイクの乗り手「リスベット・サランデル」という女は、けして「ワイルド」なだけではなくて、映画のエンディングで男へのプレゼントを用意して待っていたように、「古風」な部分を心の奥底に大事に隠し持っている。
そのことを考えあわせると、彼女のような現代的なハッカー技術を持ちながら、同時に古風な趣味も理解する個性的な女なら、スマートなスリックタイヤを履いただけの「ある意味、個性に欠けた、どこにでもあるカフェレーサー」に乗るではなく、人が忘れかけたオールドバイクを自分なりのスタイルにカスタマイズし、ゴツゴツとワイルドなブロックタイヤを履いた「他にちょっと類をみない、個性的な美をもったカフェレーサー」を乗りこなすだろう。Glory Motor Worksのオヤジさんたちが考えたのは、そういうことだった。

Rooney Mara as Lisbeth Salander

蛇足としてもうひとつだけ、つけ加えると、カフェレーサーのベースとして、よくある英国製のノートンやトライアンフではなく、Hondaを選んだことや、カフェレーサーにありがちな「2ストロークの単気筒バイク」ではなく、「4ストロークのバイク」を選んだことも、ちゃんと映画製作上の理由があってのことだと思う。

というのは、この『ドラゴンタトゥーの女』という映画自体が、もともと2009年に公開されたスウェーデン版 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』をハリウッドでリメイクした作品だからだ。
もし、ハリウッド版 『ドラゴンタトゥーの女』が、このバイクのベースにノートンやトライアンフを採用したなら、映画の骨格が「ヨーロッパ的テイスト」に傾きすぎる。それでは、わざわざハリウッド版を作る意味がないし、オリジナリティが出せない。

だからこそ、Glory Motor WorksのJustin Kellは、カフェレーサーの定番であるノートンやトライアンフをあえて避け、ハリウッド映画としてのアメリカン・テイストを多少なりとも漂わせておくことができるHondaを、あえて選んだのではないか、と思うのだ。


あえて、ちょっとだけ、定型から外す」とか、「わざと、ちょっとだけズラしておく」といった行為は、日本の伝統文化が得意としてきた高度な「さじ加減」の手法のひとつだが、アメリカ映画におけるこういう「意図的なヨーロッパ文化の崩し的な手法」の見事さは敬服に値する。(ベースボールも、初期はクリケットの「くずし」ではあったのだろうし)

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