November 14, 2014

「年度」を覚えておいてほしいのだが、2010年7月日本経済新聞のスポーツ記事に、「2000年代MLBオールスターで、ア・リーグ名物として出場選手間だけで知られていた、イチローの試合前スピーチ」について、かつてダメ捕手城島の提灯持ちライターだった丹羽政善が書いた「イチローを巡る球宴のジンクスと後半戦の変化」という「妙な」記事がある。

丹羽はこの記事で「2010年オールスターでイチローは例のスピーチをやった」という証言コメントを、「たまたまスタジアム内の通路を通りかかったオルティーズ」を呼び止めて、あたかも「自分の耳で直接聞いた」かのような「芝居じみた書き方」をして紙面をかせいでいる。(具体的表現については以下の引用を参照)

だが、それはウソだ。

なぜなら、丹羽の2010年の記事は、表現と構成の酷似ぶりから判断して、この記事が書かれた2年以上も前、2008年7月に、アメリカの検索サイトYahoo.comのJeff Passanが、まったく同じネタである「オールスターでのイチローの試合前スピーチ」について書いた記事をパクって書いたのが明らかだからだ。

よく恥ずかしげもなく、こういう記事を掲載するものだ。

元記事のどこをどの程度パクったのかは細かい検証が必要なわけだが、少なくとも、2010年日経記事のいう「2010年オールスターで、丹羽という日本人ライターが、イチローが恒例の試合前スピーチをやったという話を、通りすがりに、デビッド・オルティーズから聞いた」という部分については、「まったく架空の話である可能性」すらあるといえる。

なぜなら、この「イチロー本人ではない他の選手から、『伝聞』で聞いた話」の「根幹部分」が、そもそも「過去の他人の書いた記事からパクっている」からだ。「伝聞記事が事実として成立するための根幹部分」が「パクリ」である以上、パクリ部分を事実のみに沿って謝罪した上で訂正し、パクリが行われた事実関係を正して襟を正すことをしない限り、記事は全体として信憑性を失う。当然のことだ。


では以下に具体的表現を採集しておこう。

まずは2010年丹羽の記事から。無駄な改行とタイトル類は省略してある。また、太字加工はブログ側添付によるもので、元記事にはない。
 13日行われたオールスターの試合後、なぜか薄暗い球場の裏通路をレッドソックスのデビッド・オルティスと並んで歩くことになった。下から見上げれば、193センチ104キロの彼の巨体は他の者を押しつぶしそうな威圧感がある。

その威圧感に圧倒されながらも、なんとか確認したかったのはオールスターのジンクスについて。イチローが出場した昨年までの過去9年、2002年の引き分けを除けばすべてア・リーグが勝利を収めてきた。それをア・リーグの選手に言わせれば、こういうことになる。

イチローが試合前にスピーチをしているからだ

始まりははっきりしないが、毎年のようにイチローを担いだのが、このオルティスだったのだという。

「イチローが、言いたいことがあるそうだ」と。

今年はどうだったのか? 足早に歩く彼に聞きたかったのはそれだけだったが、前日のホームランダービーを制した大男は白い歯を見せていった。

「今年もやったぜ。最高だったよ」

「なんと言ったのか?」との問いには、「“Bleep … bleep bleep … National League …bleeeeeeeeep … National - bleep」と、書き表すことのできないようなスラングを並べた。

ありきたりのフレーズではなく

「本当に?」と聞き返せば、「ガハハハハ」と笑っただけでイエスともノーとも言わなかったが、少なくとも、「ナ・リーグをやっつけようぜ」という、ありきたりのフレーズではなかったようだ。


では、次に、Yahoo.comのJeff Passanが、2008年に「イチローのオールスターのゲーム前に行うスピーチについて」書いた記事を引用する。

出典Ichiro's speech to All-Stars revealed - Yahoo Sports

A whisper here. A story there. Something about the greatest pregame speech since Rockne invoked the Gipper, one laced with profanity and delivered to the American League All-Stars every year.

"It's why we win," David Ortiz said.
(中略)

"That's kind of what gets you, too," Minnesota first baseman Justin Morneau said. "Hearing him say what he says. At first, I talked to him a little bit. But I didn't know he knew some of the words he knows."

The exact words are not available. Players are too busy laughing to remember them. Ichiro wouldn't dare repeat them in public. So here's the best facsimile possible.

"Bleep … bleep bleep bleep … National League … bleep … bleep … bleeeeeeeeep … National – bleep bleep bleepbleepbleep!"

"If you've never seen it, it's definitely something pretty funny," Morneau said. "It's hard to explain, the effect it has on everyone. It's such a tense environment. Everyone's a little nervous for the game, and then he comes out. He doesn't say a whole lot the whole time he's in there, and all of a sudden, the manager gets done with his speech, and he pops off."


以下に、「2010年丹羽の記事」が、構成と表現を含めて「2008年Jeff Passanの記事」からのパクリと断定する根拠をいくつか抜粋して示しておこう。
太字で示した「Bleep以下の部分」は、記事間でパクリが行われた決定的証拠である。
もっと詳しく言うなら、コミックでよくやるようにアルファベットの e を重ねて、bleeeeeeeeepと、音を伸ばすことを表現した部分の「eの数が、9つであること」まで同じだ(失笑)
また "National League" という表現の後に、"National" と省略表現をもってきた部分も、まったく同じ。開いた口がふさがらないほどのパクリぶりだ。だが、これだけでは終わらない。

くわしく読めばわかることだが、2008年Yahoo.com記事における「Bleep以下の太字部分」は、ジャスティン・モーノーのコメントについて書かれたパラグラフの中盤あたりに置かれた表現であり、筆者Jeff Passanは「Bleep以下の太字部分」を、モーノーの発言だとか、オルティーズの発言だとか、「誰が発言した言葉なのか」を明示していない
それはそうだろう。説明するまでもないことだが、この部分は「筆者Jeff Passanが選手たちから聞いたイチローのトラッシュ・トークを、もし放送コードに抵触しないように書いたとすると、これほど『ビープ音』だらけになるほど過激な内容だ」という意味で、Jeff Passanが、「誰がリークしたのか」については曖昧にボカしつつ、ジョークに逃げている部分なのだから、当然だ。
その「2008年製造のジョーク」が、どこを、どういう経緯を経ると、「2010年にデビッド・オルティーズ本人から聞いた発言を、曖昧にボカした表現」になるというのか。しかも「単語の選択までそっくり」に(笑) やることがあまりに安易すぎる。

丹羽は前振り部分で、「イチローの試合前スピーチとア・リーグのオールスター連勝をリンクさせる発言をした人物」について、「ア・リーグの選手に言わせれば」と、その発言をしたのが誰なのかについて「具体的に指摘するのをわざと避ける」奇妙な表現をとっている。
かたや、その2年前、2008年のJeff Passan記事では、「オルティーズの発言」であることが「明記」されている。

オルティーズが「オールスターでア・リーグは連勝できてるのは、イチローの試合前スピーチがあるからさ」と語ったコメントは、2008年には全米メディアで記事化されていることでわかるように、2000年代終盤には日米問わず多くの人が知っていた。
もう少し詳しく言うと、この発言の発信源が、ほかならぬ丹羽が取材した「はず」のオルティーズであることは、日米のイチローファン、日米のMLBファンの一部、アメリカのMLBメディアの一部においては、2010年どころか、その数年前から既に有名で、2010年時点でいえば、すっかり定着した感があった話なのだ。

それを2010年にもなってビートライターが曖昧に表現するのは、明らかにおかしい。まして「多忙なオルティーズと立ち話できるほど親しい、MLB通の人物」が、「オルティーズ本人から直接聞いたコメント」をもとに記事を書くというのに、わざわざ「ア・リーグの選手に言わせれば」などと「名前をボカして書く」こと、そのこと自体が、辻褄が合わなさ過ぎる。(もっといえば、イチロー本人に『今年はスピーチ、やりましたか?』と聞けばいいだけのことなのである)

どうみても、過去に何度か記事になっている話題を、新たに「オルティーズから直接聞いたという体裁」にして、2010オールスターのネタ記事として書こうとしていて、オルティーズ本人がとっくの昔にした発言をわざわざ冒頭に引用したのでは、「実はこの話題が、とっくの昔からあったネタで、しかも既にまったく同じ内容で記事化されているネタの、『使い回し』であること」が、MLBに詳しくない人の多い経済新聞の読者にさえバレてしまう。それを無理矢理避けようと記事構成をこねくりまわした結果、「ア・リーグの選手に言わせれば」などという、「おかしな表現」が生まれたに違いない。


ここまでハッキリした「パクリ」「使い回し」をやった理由について、考えられる言い訳としては「ビープ音として表現するジョークについてはパクったが、オルティーズから聞いたことは事実だ」という程度だろう。

だが、考えてみたらいい。丹羽の記事における「Bleep以下の表現」については、ライター本人がしつこいほど「書き表すことのできないようなスラングを並べた」だの、「『本当に?』と聞き返せば、「ガハハハハ」と笑っただけでイエスともノーとも言わなかった」だのと、「自分の耳で聞いた臨場感」を徹底して主張しているのだ。そんな「レベルの低い言い訳」が通用するわけがない。


かつて、2013年8月に、このブログが『Debby Wong事件』と呼ぶ捏造事件があった。
関連記事:2013年8月31日、『Debby Wong事件』 〜スポーツ・カメラマンDebby Wongが、「まったく別の場面のイチローの写真」を「イチロー4000安打の写真」としてUSA Todayに供給し、USA Todayが記事として公開していた事件。 | Damejima's HARDBALL

当時USA Todayの契約カメラマンのひとりだったDebby Wongが、イチローの日米通算4000安打達成時に、「まったく別のゲームのイチローの写真」を、「4000安打達成時の写真」としてUSA Todayに供給し、USA Todayが記事の一部として公開した、という事件だ。
この事件は当時全米報道写真家協会で大きな議論を呼んだ。USA Todayは「捏造の事実」が明らかになるやいなや、即刻Debby Wongとの契約を打ち切った。Debby Wong事件はジャーナリズムの問題として、けして小さな事件ではなかったのである。
(ちなみに同年2013年9月には日本の共同通信社でも、ホームランのシーンを撮りそこなったカメラマンがまったく別のゲームの写真を配信するという、同種の捏造事件があった)

丹羽が2010年日本経済新聞に書いた「2010年オールスターの試合前にイチローが例年どおりスピーチをした」という話が、もし捏造ならば、Debby Wong事件に比肩する「ジャーナリズムとしての問題」である。


最後に少し手の内を明かしておこう。

2年の隔たりをもって書かれた2つの記事の「相似性」がわかったのは、今年ツイッター上でたくさんリツイートされて話題になった「イチローのスペイン語によるトラッシュトーク」について書くために資料をあさったからだ。
2つの記事は、書かれた年にそれぞれ単独に読んだ記憶はある。だが、2つの記事を並べて読んだことはこれまで一度もない。だからかつては「2つの記事の相似性」に気づかなかった。


丹羽の記述を鵜呑みにすると、イチローがオールスターに出場するようになった2000年代のMLBオールスターでは、いつそれが開始されたのかは定かではないにしても、2010年まで連綿と、「一度も途切れることなく」イチローの英語による試合前スピーチが行われたことになる。

だが、それはブログ主の「記憶」とは違う

ブログ主の「うろおぼえの記憶」によれば、たしか「イチローのこれまでの10回のオールスター出場のうち、たった一度だけ、それまで恒例といわれ続けてきた試合前スピーチを『やらなかった』シーズンがあり」、そして、その「イチローがスピーチをしなかったオールスター」は、「出場選手だけが密かに楽しんでいたイチローの試合前スピーチが、記事化されて有名になって以降、2010年までのオールスターの、どれかだ」と、長い間思ってきたのである。

ネット検索の結果を見るかぎり、2008年Jeff Passan以外にもごく少数ながらこの件について書かれた記事はあるようだが、少なくとも2008年にJeff Passanの記事がある以上、「イチローが試合前スピーチをやらなかったオールスター」が存在する可能性があるのは、おそらく「2008年、2009年、2010年のどれか」だ。
当時「え? イチロー、今年は例のスピーチ、やらなかったのかよ・・・」と非常に残念に思ったのを、よく覚えているので、単なる「記憶違い」とはまったく思わない。

この「うろおぼえ」を「事実」にして記事にとりかかるべく資料をあさったわけだが、探し方がよくないのか、確証となる資料が(そして、反証となる資料も)いまだにみつかっていない。(もちろん、「うろおぼえの記憶」が間違いだとわかったとしても、丹羽の記事がパクリをやっていることは事実なのだから、批判を取り下げたりはしないし、この記事を削除するつもりもない)


スペイン語のトラッシュトークについて楽しく書いて、笑顔で今シーズンの出来事を振り返るつもりが、こういう硬いことを書かざるをえないハメになった。精神的に大変にくたびれる作業だが、まぁ、しかたない。
従軍慰安婦問題についての捏造記事を数十年にもわたって「事実」と主張し続けて国益を大きく損なってきたのは朝日新聞はじめとする新聞ジャーナリズムだが、丹羽の2010年記事の内容が本物であるかどうかは、スポーツ・ジャーナリズムがジャーナリズムとして成立するために、Debby Wong事件同様の、大事な問題だと思っている。

というのも、2010年の丹羽の記事が扱っているのは、他に類似資料、比較資料が少ない話題だからだ。もし放置すれば、後世のファンやスポーツ史研究にとっての「根底資料」のひとつになりかねない。ならば事実が曖昧なまま、ほっておくことはできない。




ハワイ移民150周年
No Ichiro, No watch.

Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です




Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
Google

livedoorブログ内検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month