February 13, 2015

緊張か、弛緩か。

木のポーズあるサイトにヨガの「木のポーズ」をしている人の写真が掲載してあり、こんなキャプションが添えられている。
「この立ち方は安定していますか。筋肉で保っている状態なので、あたかも安定しているかのように感じます。これは簡単に言うと『(一部略)頑張って立っている』のです」
サイトの方は要するに、こんなふうに筋肉で頑張ってたんじゃ、片足立ちなんて、安定しませんぜ、と、おっしゃりたい、らしい。
中殿筋を鍛え過ぎると立位が不安定になる | JARTA

また、佐賀大学医学部整形外科の先生の人のサイトには、「体重50キロの人が片足で立つと、股関節には200キロものチカラがかかる」と説明され、「片足で立つときの身体の負担の大きさ」が強調されている。こちらの方の場合は、リハビリの立場として中臀筋を鍛えましょう、という話に繋がっていく仕組みになっている。
頭の体操?(股関節のバイオメカニクス) - 刊行紙のご案内


野球選手もアナボリック・ステロイド常用で大腿骨頭壊死などになったら行き着く先は人工股関節だからまんざら関係ない話ではない。股関節にかかる負担の意外な大きさという話は、ドーピングを容認する風潮への警告としても素晴らしいわけだが、ただ、「片足立ちのメカニズムの説明」としては、ちょっと疑問が残る。
資料:2014年3月25日、ドーピング目的のアナボリック・ステロイド常用が引き起こす大腿骨頭壊死などの「股関節の故障」について。 | Damejima's HARDBALL

たとえインストラクターでなかろうと、ヨガをやっている人ならみんな知っていることだが、「木のポーズ」は「筋肉で必死にもたせるポーズ」ではなく、むしろ逆で、「カラダをできるだけ弛緩させてはじめて、安定して立てる姿勢」だ。
だから、「片足立ちのメカニズム」の説明にあたって、「筋肉の緊張で必死にもちこたえている例」としてヨガの「木のポーズ」を挙げることは、そもそも出発点からして間違っている。

また同じような意味で、「片足立ち」を、「200キロもの股関節荷重に必死に筋力で耐える、ものすごくヘビーな行為」として「だけ」説明するのは、どこか片手落ちな感じがする。

木のポーズ(中心線入り)ちょっと「木のポーズ」をとっている人の「身体の位置関係」をよく観察してもらうために、体の中心線を通る赤い縦線を書き加えてみた。

地面についている足の位置」に注目してもらいたい。

普段歩いたり走ったりするときの「肩幅くらいに開いた足の位置」より、ずっと体の中心側(重心側)に寄っていて、「頭部の真下」に位置させていることがわかる。これが、ひとつの「コツ」というやつだ。
ネットで「木のポーズ」の写真をたくさんみてもらうとわかるが、ほとんどの「木のポーズ」で、「地面についた足の位置が、体の中心側に寄っている」ことがみてとれる。

「両足を肩幅程度に開いて、歩いたり、座ったり、立ったりする」という「普段どおりの身体操作」に慣れきってしまっている人が、「片足だけで立とう」とすると、最初は「両足で立っているときの、足の位置」をそのまま適用しようとする。
「両足立ちのための足の位置のままで、片足で立とう」とすると、バランスが崩れ、グラグラするから、人はそれを筋肉で抑え込もうとする。そうすると、なおさら過度の緊張状態になり、やがて倒れてしまうことになる。

「片足だけで安定して立つ」ための最初の出発点は「身体というものが、とても不自由な存在なのだ」と気づくことにある。身体の不自由さは、筋力のあるなしと、必ずしも関係ない。


MLBでは今も、「ドーピングで発達させた人工的な筋肉でホームランを量産しまくって、他人から褒められたい」という卑しい発想があいかわらずなくならないわけだが、その原点にあるのは、いわば「筋肉によるパワーだけで必死になって片足立ちして、ドヤ顔しているオトナ」の「チカラまかせの発想」なわけだ。
まったくもって、Ninjaの伝統で世界に知られる日本人の発想ではない(笑)


そうした「チカラまかせで打つ」という発想の対極に、
弛緩しつつ打つ」という発想がある。

スポーツを語ることは死ぬほど好きだが、スポーツをやることには興味がない「チカラまかせの筋肉フルスイング愛好家」のみなさんの基本発想の奥には、「弛緩してボールが遠くに飛ぶはずがない」という、実際にバットを振ったことの無い人特有の勝手な思い込みがある(笑)(実際に打ってみれば、チカラでボールが飛ぶわけではないことくらい、誰でもすぐにわかるわけだが)
こういう人たちは普段、やれセイバーメトリクスだ、データだ、科学だ、などと「数字」で間違った主張を強弁し続けながら、その実、行き着く先は「ステロイドと筋肉とパワー」だったりするのだから、いったい何が言いたいのやら、さっぱりわけがわからない(笑)「最終的に筋肉が見たいのなら、おまえら、別にリクツもデータも必要ないだろうが?」と言いたい。


日本の歴史の中には、古武道の達人が、自己の腕力でなく相手の体重を利して相手を動かしてみせるような、「腕力に頼らずに、身体を扱うための方法論」の伝統が確固としてある。
それは、例えば、「たとえ片足だけで立っていても、本来なら股関節に数百キロかかってもおかしくない荷重を、それほど感じず、安定して立ち続ける」ための方法論でもある。


イチローがMLBに行って達成しつつあることの意味は、ヒットを3000打ったとか、盗塁を500したとか、そういう「成績」や「数字」だけだろうか。

違うと思う。

「筋肉テーマパーク」(笑)MLBに行って、弛緩した柔軟な身体からチカラを導き出す東洋的な方法によって積み上げた業績の数々、体幹トレーニングブームをはるかに先行した独自のトレーニング手法、イマヌエル・カントの「散歩」に比肩する正確無比な運動準備のルーティーン、外面的な筋肉に依存しない方法論で最高の見地に到達してみせたことに、100年に1度クラスの非常に大きな意味があると思う。

それは、ドーピングの是非、日本人のメジャー挑戦の成否といった、せせこましい問題ではない。もっと深いところで、「自分の周囲に対し、違う世界観を提出してみせる作業」だ。この容易ならざる作業を達成できた、ただそれだけで、イチローは「野球殿堂」に入る資格がある。

サードベース上でストレッチするイチロー


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