April 07, 2015
草野球にスカウティングはある意味必要ない。なぜなら、カーブの打ち方ができていない人に「次はカーブだ」と教えたとしても、技術そのものがないなら意味がないからだ。
だが世界最高の才能集団であるMLBのバッターは違う。
どんなに速かろうが、どんなに凄い変化球だろうが、ワンバウンドだろうが、「次の球の球種とコースさえわかれば、たいていどんな球でもヒットにできてしまう」のである。(さらに天才イチローは誰も予想しないワンバウンドですらヒットにした)
いいかえると、
「誰にも絶対ヒットにできない球」「誰にも打てない投手」なんてものは、MLBには存在しない。
だからこそMLBにおいては、スカウティングに重要な意味がある。決定的な弱点は必ず発見され、きちんと改善しない限り、その選手のキャリアは短命に終わる。
この数年でみると田中将大のピッチングには「3パターン」ある。
楽天対巨人で行われた2013年の日本シリーズ、2勝3敗でエース田中将大先発の第6戦を迎え、土俵際まで追い込まれた巨人は、それでも「ストレートとスプリットだけの田中将大(=パターン1)」を打ち崩すことに成功した。
巨人が当時無敗のエースだった田中を打ち崩すことに成功したことは、日本でこれまであまりにも発達しなさすぎていた「他チームをスカウティングする能力」にまがりなりにも進歩のきざしがあることを意味していた。
またこれは、日本シリーズ後のオフに巨額契約でのMLB移籍が確実視されていた田中投手の「MLB移籍後に解決すべき課題の大きさ」を感じさせる事件だった。
あのときブログではこんなことを書いた。
その後田中投手は2014年にMLBデビューを飾る。
この年の配球パターンの推移は、簡単に要約すれば「パターン1」で開幕し、「パターン2」で夏を乗り切ろうとした、という感じだった。
このときは以下のような記事を書いた。簡単にいえば、スカウティングの発達しているMLBでは、田中の配球スタイルが読み切られるのに半年かからない、ということだ。
2014シーズンの田中投手の、MLBにおけるスタンスを最も典型的に示した事件は、7月のクリーブランド戦でニック・スウィッシャーに「追い込んだ後にいつも投げている決め球のスプリット」を読み切られ、決勝打を浴びたことだ。
スウィッシャーは試合後のインタビューで「あのカウントで変化球がくることは、わかっていた」と、やけに誇らしげに答えていたものだ。
そして、2015シーズンのスプリングトレーニング。
田中投手がパターン1、パターン2を捨てて、2シーム主体のピッチング、つまり パターン3 に切り替えようとしていることは明白だった。
パンク寸前の肘をかかえているために、ストレートを全力投球する能力が失なわれ、さらに肘に負担のかかるスプリットも多投できなくなって、こんどは2シームに頼ろうというわけだが、2シームを投げるピッチャーが山ほどいるMLBでは、バッターたちは2シームの球筋には慣れきっている。付け焼刃程度の2シームでは、実際のゲームには通用しない。
それに、どうにも気にいらないのが、
彼の投球フォームだ。
かつて松坂投手のフォームについて書いたことの半分くらいと内容が重複するのだが、今の田中投手は横を向いたままステップしている。これでは、落ちた球速をコントロールの良さで補おうとしても、そのコントロール自体がおぼつかない。始末が悪い。
トミー・ジョン手術を受ける前の、ノーコン時代のボストン松坂大輔と、「左足の向き」を比べてみるといい。2人の投手の左足つま先は、ホームプレートではなく、「サード方向」を向いている。
ボストン時代の松坂大輔
田中投手との比較のために、名クローザー、トレバー・ホフマンのフォームをあげてみた。
「左足つま先」が完全にホームプレート方向を向き、顔もホームプレートに対してまっすぐ向いているため、ストライクゾーンをまっすぐ見て投げることができる。コントロールがつきやすいのは当然だろう。
また上半身は骨盤に対してまっすぐ直立した状態をキープしているため、ぐらつきが少ない。
遠からず田中投手はトミー・ジョン手術を受け、長期休養することになるだろう。
もう彼のスピードボールはもう90マイル後半を記録することはないかもしれない。同じスピードで来るボールが、ストレートだったり、スプリットだったりして、打者を幻惑することこそが彼の配球の持ち味だったわけだが、ストレートが死ねば、スプリットの威力も落ちる。
こういうパンク寸前の投手を開幕投手として投げさせるニューヨーク・ヤンキースは、本当に合理的な判断のかけらもないチームだ。まぁ、こんなチームは地区下位にあえぎながらアレックス・ロドリゲスのような薄汚いステロイダーの嘘臭い記録とじゃれあっているのがお似合いというものだ。
だが世界最高の才能集団であるMLBのバッターは違う。
どんなに速かろうが、どんなに凄い変化球だろうが、ワンバウンドだろうが、「次の球の球種とコースさえわかれば、たいていどんな球でもヒットにできてしまう」のである。(さらに天才イチローは誰も予想しないワンバウンドですらヒットにした)
いいかえると、
「誰にも絶対ヒットにできない球」「誰にも打てない投手」なんてものは、MLBには存在しない。
だからこそMLBにおいては、スカウティングに重要な意味がある。決定的な弱点は必ず発見され、きちんと改善しない限り、その選手のキャリアは短命に終わる。
この数年でみると田中将大のピッチングには「3パターン」ある。
パターン1)ストレートとスプリットだけで押し切ろうとするピッチング
パターン2)カットボールやシンカーを混ぜ、相手の狙いをかわそうとするピッチング
パターン3)2シーム中心にシフトし、相手の狙いをかわそうとするピッチング
ブログ注:
注意してもらいたいのは、どんなピッチングパターンに変わろうと、どんなに肘に負担がかかろうと、田中投手はスプリットをまったく投げないわけにはいかない、ということだ。なぜなら、彼の生命線が「スプリット」にあるからだ。
楽天対巨人で行われた2013年の日本シリーズ、2勝3敗でエース田中将大先発の第6戦を迎え、土俵際まで追い込まれた巨人は、それでも「ストレートとスプリットだけの田中将大(=パターン1)」を打ち崩すことに成功した。
巨人が当時無敗のエースだった田中を打ち崩すことに成功したことは、日本でこれまであまりにも発達しなさすぎていた「他チームをスカウティングする能力」にまがりなりにも進歩のきざしがあることを意味していた。
またこれは、日本シリーズ後のオフに巨額契約でのMLB移籍が確実視されていた田中投手の「MLB移籍後に解決すべき課題の大きさ」を感じさせる事件だった。
あのときブログではこんなことを書いた。
田中投手が今後、緩急もつけられるピッチャーに変身できるのか、カーブを有効活用するために必要な投球術を自分のものにできるか、というと、彼の「腕の振りのワンパターンさ」を見るかぎり、カーブを投げようとしたときのフォームの変化があまりにも大きくなりすぎてしまって、打者に球種を見切られそうな感じがする。それに、ある年齢に達した人間というものは、そうそう簡単に「新しい自分」に変われないものだ。
むしろ、田中投手には、今までと同じように腕を振る速度を変えないまま、違う球種を投げわけるピッチングスタイルを今後も続けられる、という意味で、2シーム、カットボール、チェンジアップなどを増やすことのほうが向いている気がする。
ただ、どうしても元アトランタのカットボール投手・川上憲伸の例を思い出してしまう。緩急の少ないタイプのアジアの投手のカットボールは、MLBで思ったほど成功を収めていないことが、どうしても気になる。また、2シームと4シームを使い分ける芸当は、どうも日本人投手に向いてない気がするし、そもそも田中投手がいま投げている2シームは、「変化の大きさ」、「キレ」、どちらをとっても「MLBでいう2シーム」ではない。
だから、彼がこれからモノにするなら「チェンジアップ」がいいような気がする。
出典:2013年11月3日、楽天の日本一における嶋捕手の配球の切れ味。田中投手の「球速の緩急をあえてつけないスプリット」の意味と、MLB移籍の課題。 | Damejima's HARDBALL
その後田中投手は2014年にMLBデビューを飾る。
この年の配球パターンの推移は、簡単に要約すれば「パターン1」で開幕し、「パターン2」で夏を乗り切ろうとした、という感じだった。
このときは以下のような記事を書いた。簡単にいえば、スカウティングの発達しているMLBでは、田中の配球スタイルが読み切られるのに半年かからない、ということだ。
春先に田中投手の使った球種は、ストレートとスプリッター中心の構成だった。(中略)
「7月のクリーブランド戦で田中投手の投げる球種が大きく変わっている」ことは、一目瞭然だ。
1)ストレートが大きく減少
2)カットボール、シンカーが一気に増加
「4番目に高い球種であるスライダー」について、わずか26.7%しかスイングしてくれなくなっている。つまり、「田中投手に対する狙いが、ある程度しぼられてきている」のである。
ストレートを痛打された痛い経験のせいなのかどうなのか、詳しいことまではわからないが、田中投手(あるいはヤンキースのバッテリーコーチ、あるいは、正捕手ブライアン・マッキャン)の側が、田中投手の球種からストレートを引っ込めた理由は何なのだろう。
何度か書いてきたように、例えば田中投手にはチェンジアップがない。いうまでもなく、チェンジアップやカーブ、あるいは、キレのある2シームといった、4シーム以外の「何か」を持たない投手が、「ストレートを引っ込める」ということは、MLBの場合、打者に狙いをさらに絞られることを意味するほかない。
「打たれたから、引っ込めました」、
それだけが理由では困るのである。
出典:2014年7月10日、田中将投手の使う球種の大きな変化。「ストレートとスプリッター中心だった4月・5月」と、「変化球中心に変わった7月」で、実際のデータを検証してみる。 | Damejima's HARDBALL
2014シーズンの田中投手の、MLBにおけるスタンスを最も典型的に示した事件は、7月のクリーブランド戦でニック・スウィッシャーに「追い込んだ後にいつも投げている決め球のスプリット」を読み切られ、決勝打を浴びたことだ。
スウィッシャーは試合後のインタビューで「あのカウントで変化球がくることは、わかっていた」と、やけに誇らしげに答えていたものだ。
そして、2015シーズンのスプリングトレーニング。
田中投手がパターン1、パターン2を捨てて、2シーム主体のピッチング、つまり パターン3 に切り替えようとしていることは明白だった。
パンク寸前の肘をかかえているために、ストレートを全力投球する能力が失なわれ、さらに肘に負担のかかるスプリットも多投できなくなって、こんどは2シームに頼ろうというわけだが、2シームを投げるピッチャーが山ほどいるMLBでは、バッターたちは2シームの球筋には慣れきっている。付け焼刃程度の2シームでは、実際のゲームには通用しない。
それに、どうにも気にいらないのが、
彼の投球フォームだ。
かつて松坂投手のフォームについて書いたことの半分くらいと内容が重複するのだが、今の田中投手は横を向いたままステップしている。これでは、落ちた球速をコントロールの良さで補おうとしても、そのコントロール自体がおぼつかない。始末が悪い。
トミー・ジョン手術を受ける前の、ノーコン時代のボストン松坂大輔と、「左足の向き」を比べてみるといい。2人の投手の左足つま先は、ホームプレートではなく、「サード方向」を向いている。
ボストン時代の松坂大輔
田中投手との比較のために、名クローザー、トレバー・ホフマンのフォームをあげてみた。
「左足つま先」が完全にホームプレート方向を向き、顔もホームプレートに対してまっすぐ向いているため、ストライクゾーンをまっすぐ見て投げることができる。コントロールがつきやすいのは当然だろう。
また上半身は骨盤に対してまっすぐ直立した状態をキープしているため、ぐらつきが少ない。
遠からず田中投手はトミー・ジョン手術を受け、長期休養することになるだろう。
もう彼のスピードボールはもう90マイル後半を記録することはないかもしれない。同じスピードで来るボールが、ストレートだったり、スプリットだったりして、打者を幻惑することこそが彼の配球の持ち味だったわけだが、ストレートが死ねば、スプリットの威力も落ちる。
こういうパンク寸前の投手を開幕投手として投げさせるニューヨーク・ヤンキースは、本当に合理的な判断のかけらもないチームだ。まぁ、こんなチームは地区下位にあえぎながらアレックス・ロドリゲスのような薄汚いステロイダーの嘘臭い記録とじゃれあっているのがお似合いというものだ。