June 15, 2016

ニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマンピート・ローズをたしなめた記事は、かのケン・ローゼンタールもほめちぎっている。
Don’t let Pete Rose’s hater dig ruin Ichiro’s milestone moment | New York Post


もちろんこの記事は速攻で日本語記事にもなっているのだが、細かい点で気にいらない。しょうがないから自分で訳した。


ジョエル・シャーマンはテレビ、映画、音楽、バレエなど、アートっぽいことが大好きとみえて、文章のあちらこちらに作品やアーティストに関連した言葉が散りばめられている。

例えば、日本語記事には訳出されていないのだが、文中に "I Dream of Jeanie" という言葉がある。これは1965年〜1970年に放送された古いコメディのタイトルで(邦題:『かわいい魔女ジニー』)、イチローのニックネームがWizard(=魔法使い)であることにちなんで筆者ジョエル・シャーマンはわざと使っている。
I Dream of Jeanie


2つ目は、これはあくまでブログ主の想像でしかないのだが、a native sonという表現はたぶん、アフリカ系アメリカ人作家リチャード・ライト(Richard Wright, 1908-1960)の1940年作品 "Native Son" を連想させるようにわざと書いているではないかと思う。
この作品はアフリカ系アメリカ人がこうむった不幸を題材にしているのだが、ジョエル・シャーマンは遠まわしにピート・ローズの発言の根底に流れる「無用な優越感と日本野球への差別意識」があからさまになることをたしなめたのではないか。(この話を理解するには、ジェームズ・ボールドウィンとか、そういうたぐいの本を読む必要があるかもしれない)



シャーマンはイチローを、ニューヨーク・シティ・バレエ団に所属したこともあるロシア出身のバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフにたとえている。
これはもちろん、イチローの動作の「優雅さ」をバリシニコフにたとえて表現しているわけだが、それだけでなく、おそらくロシア出身のバリシニコフが1974年に亡命し、さらに1986年にはアメリカに帰化していることをふまえていて、アメリカのネイティブではないイチローが、アメリカの地元ファンの喝采を浴びてプレーし、今では将来の殿堂入りを約束されるほどアメリカに馴染んでいることを、バリシニコフと重ねあわせた表現だろうと思う。

Mikhail Baryshnikovミハイル・バリシニコフ

バリシニコフ風イチローのカーテンコールバリシニコフ風イチローの
カーテンコール

4257安打を祝福するペトコ・パークの観客にヘルメットを脱いで礼をするイチロー。立ち方がバレエダンサー風に見えるのは、「姿勢の良さ」のためだ。「姿勢」はアスリートの選手生命を左右する。


他に、モーツァルトをひきあいに出した箇所がある。これはシャーマンに限らず、アメリカのメディアでは最上級の褒め言葉のひとつといえるだろう。
というのは、その昔シリコンバレーのIT関係者の間でモーツァルトを聴くことが大ブームだった時代があったように(その後、モーツァルトを聞き飽きてしまい、ブームはベートーベンに移ったらしい)、モーツァルトはアメリカのインテリ層にとても人気が高く、モーツァルトにたとえられるということ自体が「褒め言葉」を意味するという側面が彼らにはあると思うからだ。まぁ、そのへんは日本の小林秀雄と、たいした差はない(笑)


また文末あたりで、ピート・ローズに関して "Frenzy" という単語が使われているわけだが、これはもしかするとロンドンのシリアル・キラーを扱った1972年のアルフレッド・ヒッチコック映画 "Frenzy" からのもじりで、ピート・ローズの下品さを皮肉った表現かとも思ったが、さすがにそこはハッキリしない(笑)




When a spring training game is played on the road, those who stay behind - mainly veterans - go through a workout. But there is a substitute teacher feel to it.
スプリング・トレーニングで、ロードゲームが行われる場合、遠征先に帯同しない選手(主にヴェテラン選手)はトレーニングにいそしむ。だが、それは臨時教員のような、腰の座らない感覚のものだ。

The manager and the main coaches are usually on the trip. The stands are empty. Reporters generally follow the team. The on-field work, therefore, is completed in quicker fashion with one eye on the first tee or jumping into the pool with the kids or some other free-time activity. It is a perk of being a veteran.
監督と主要なコーチは普通ロードに帯同し、スタンドは空っぽ。記者たちもたいていはチームに帯同する。フィールドワーク組は(=遠征に帯同しなかったヴェテラン選手たち)ゴルフの1番ティーとか、子供たちと飛び込むプールとか、自由に過ごせるオフシーズンならではのアクティビティに気をとられながら、グラウンドでの練習をそそくさと切り上げる。これはヴェテランならではの特権だ。

On one of these days I was the lone reporter who stayed behind at Steinbrenner Field. I was writing about a player who did not go on the trek, but up in the press box after the workout, I was not writing. I was entranced watching the lone figure who did not rush out to one of those free-time activities.
その日、記者では私だけが遠征に帯同せず、スタインブレナー・フィールド(=タンパベイにあるヤンキースの春キャンプ地。ニューヨークではない) にいた。遠征に行かなかったあるプレーヤーについて記事を書いていたのだが、練習後に(フィールドを眺めわたせる高い場所にある)記者席に上がっていったときには、記事を書いていなかった。オフシーズンの自由な娯楽に飛びつかなかった唯一の人物を眺めることに夢中だったからだ。

For 45 minutes, Ichiro Suzuki stood at home plate, pantomimed his swing and then raced at pretty much full clip to each base. A single, back to home. A double, back to home. He finished the whole tour, and then did it again. And again.
45分間、イチローはホームプレートのところに立ち、スイングの真似をして、それからフルスピードでそれぞれの塁打を想定した走塁を練習していた。シングルヒット。ホームプレートに戻る。こんどは二塁打。ホームに戻る。というように。全パターンを練習し終えると、すべてをもう一度やる。それが終わると、また繰り返す。

This was 2014. Suzuki was 40, already a legend in Japan, already accomplished enough to be a Hall of Famer here. And he was sweating alone inside a rather empty stadium practicing, well, practicing what exactly? Hitting an inside-the-park homer?
これは2014年の出来事で、イチロー40歳。既に日本のレジェンドであり、MLBでも既に野球殿堂入りに十分な実績をうちたてている。それでも彼は、すっからかんのスタジアムで練習に汗を流していた。練習であるにしても、それは何のための練習? ランニングホームランを打つためか。

When I asked the next day, Suzuki mentioned the need to stay vigilant to game possibilities. He had quick-twitch athleticism and hand-eye coordination at the peak of humankind. But to those blessings he added precision and economy of movement through hundreds and thousands of hours of what I viewed that day from the Steinbrenner Field press box. He was a genius not squandering his skills - Mozart playing his piano alone.
翌日イチローに尋ねてみたら、「ゲームで起きるあらゆる可能性に備えておくため」だという。人類最高レベルの鋭敏な運動神経とハンド・アイ・コーディネーションを持つ彼だが、それでもなお、私がスタインブレナー・フィールドの記者席から見たように、何百、何千もの時間を費やして、天性の才能にさらに「正確な動作」や「無駄のない動作」を付け加えていくのである。彼は、技能を無駄に浪費しないという面においても、たぐいまれな才能を持っている。それは、モーツァルトがひとりでピアノ練習をするようなものだ。

Suzuki running the bases in his prime was breathtaking, more of an “I Dream of Jeanie” stunt - a magical blink transporting him from one base to wherever he would stop next - rather than something an actual person could do.
全盛期のイチローの走塁といえば、それはもう、驚異的なものだった。まるで、魔法使いが登場するテレビ番組『かわいい魔女ジニー』でも見ているかのように、まるで何か瞬時の魔法みたいなものが彼を次に止まりたいと思うベースまで運んでるんじゃないか、などと思わせるようなレベルで、現実の人間にできるレベルをはるかに凌駕していた。

Seeing him still honing finer points when he could have rested on greatness just elevated my appreciation for him. It was such an obvious love letter to the game and why I feel good for him now as he approaches milestones not as just as accumulator, but somehow as a top-flight hitter again.
既に偉大な足跡に安住することが可能な地位にある彼が、なおもプレーの細部に磨きをかけ続けているのを見ると、私のリスペクトはより高まる。それは彼の野球に対する変わらぬ愛情であり、また、私が彼の野球に好感をもつ理由でもある。彼は、単にエスタブリッシュメントとしてではなく、最高の打者たらんとする努力を続けながら、マイルストーン到達に向かって歩み続けているのである。

(2ブロック省略)

Which led Rose to tell USA Today Sports: “It sounds like in Japan, they’re trying to make me the Hit Queen. I’m not trying to take anything away from Ichiro, he’s had a Hall of Fame career, but the next thing you know, they’ll be counting his high-school hits.”
ピート・ローズがUSA Todayにこんなふうに語った。「日本では私を『ヒットの女王』(=2番手)にしようとしているらしいな。僕はなにもイチローの価値をおとしめようなんて思ってない。彼は殿堂入りするに足るキャリアの持ち主さ。でも、気づいたら彼らは、イチローの高校時代のヒットまで数えだす始末になりそうじゃないか。」

So, I want to state this: Rose was my favorite player growing up, making me the rare Reds fan in Brooklyn. Pretty much everything since has offered disappointment, including these words. Serious baseball people recognize the inferiority of the Japanese league, Rose didn’t need to put words to it. No one equates Suzuki’s hit totals with those of Rose, though as an aside I believe if Suzuki began his career here, he would have been a 4,000-hit man - the evidence being he hit as well in the US as in Japan, despite the rise of talent around him.
私はこのことを言っておきたいと思う。
ローズは、子供時代に私がブルックリンで数少ないレッズファンになったくらい、大好きな選手だった。だが、この発言も含め、とてもガッカリさせられてばかりだ。シリアスな野球関係者が日本のリーグが(MLBに比べて)劣っていることを認識しているにしても、ローズがそのことについて言及する必要などない。誰もイチローの日米通算ヒット数がローズと同等とまで考えないが、その一方で、もしイチローがアメリカでキャリアを始めていたなら、おそらくヒットを4000本以上打っただろうと確信してもいる。それが証拠に、イチローは(MLBに来て)彼をとりまく選手のレベルが上がったにもかかわらず、アメリカで日本と同じようにたくさんのヒットを打ったではないか。

Is Rose really upset that Japan is celebrating a native son? Through his suspension, Rose has cloaked himself in love of the game as a defense mechanism. So why soil a moment when a baseball-loving nation is fascinated by our national pastime?
ローズは本当に日本が日本出身の選手を祝福しようとしているのを、かき乱してやろうとしているのだろうか。永久追放になっている間、彼は保身のために野球を愛してやまない人間を装ってきたわけだが、ならばなぜ、野球を愛する国のひとつが我々の国民的娯楽に魅了されている瞬間にケチをつけようとするのだ。

Suzuki’s achievements do not diminish Rose; they remind us how great he was. I mean, 4,256 hits, freaking wow. They played the game differently - Rose with lunch-pail frenzy, Suzuki with Baryshnikov grace. But at their core their souls were filled with the game, with the willingness to invest thousands of lonely hours to seek perfection.
イチローの偉業でローズが矮小化されるようなことはなどない。むしろ、それはいかにローズが偉大だったのかを思い起こさせるものだろうに。4265本のヒット、「すげぇ」としか言いようがない。2人はプレースタイルが異なる。ローズを「熱血な肉体労働者」とするなら、イチローは「優雅なバリシニコフ」だ。だが両者の魂のコアは野球でいっぱいであり、完璧な自分を追い求める孤独な時間をすすんで積み重ねる情熱で満たされている。

Rose should be at the front of the line celebrating a kindred spirit who would practice hitting inside-the-park homers alone after a spring training workout.
ローズは、スプリングトレーニングの練習の後で、たったひとりランニング・ホームランを打つ練習をするような、自分と同じ場所に属す人物を祝う列の「先頭」にいるべきだ。


ハワイ移民150周年
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