November 12, 2016

トランプが大統領選に勝って慌てふためいている人がたくさんいるわけだが(笑)、ちょっと暇つぶしに「トランプ以前の世界」の「眺め方」について書いてみる。

まず最初に、たくさんの紋切り型の断定を含んだ一般常識的な前置きとして、「安い商品の追求と、雇用や国際競争力の関係」について書こう。
この話を「グローバリズム」という単語だけを使って説明したがる人が数多くいるが、「安い商品の追求」という視点を入れないとメカニズムがハッキリせず、話がわかりにくい。(ゆえに、以下の話は単なる反グローバリズムではない)

ちなみに、2016年6月に書いた以下の参考記事を読んでもらえばわかることだが、以下の話はなにもトランプが大統領になったから思いついたわけでは、まったくない。世界の動きはイギリスがEU離脱を決定するだいぶ前から既に「それまでとは大きく違っていた」のだ。

「グローバル企業というものは『雇用を外部化』する傾向にあるのが普通なのであって、彼らは世間の批判をかわすために正社員を増やす例外的なとき以外には、常に『正社員という、ある種のローカリズムにできるだけ依存しないですむ内部構造をとろう』とする。」

(イギリスの若者は)「よく考えもせずグローバリズムを安易に支持したりする前に、『グローバリズムと国内雇用が果たして両立するものなのかどうか』、じっくり考えておくべきだ。」

2016年6月25日、EU離脱を後から愚痴るイギリスの若者を見て世界中の若者が思い知っておくべき、グローバリズムと雇用の関係。 | Damejima's HARDBALL

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安い商品とは何か。
原価の安い商品だ。

原価を下げる最大の原動力は何か。
安い労働力だ。
(「安価な原材料」という答えもある、と思う人が数多くいるだろうが、原料の安さというのは元をただせば安い労働力が源泉だ。また、労働力の安さには、外食産業でみられる異様なほど長時間のサービス残業なども、もちろん含まれる)

では、安い労働力はどこにあるか。
先進国以外の国にある。

安い商品の調達のために海外生産率と輸入依存を高めることは、安い労働力の調達のために生産拠点を海外に移すということだから、結果的に先進国の雇用を発展途上国に移転することを意味している。
(これが一種の「国際的なワークシェアリング」であるのは確かだが、実際には、雇用だけでなく、生産技術や設備投資も先進国から発展途上国に移転されるのであって、そんな悠長な話をしている場合ではない)


「安い商品」の追求は、
国内経済に2つの結果をもたらす。
国内雇用の減少国内生産商品の国際競争力低下だ。

雇用不安に常に怯える低所得層(あるいは若年層)は生活防衛のために「安い商品」を追い求めることがよくあるわけだが、その安さ追求の姿勢が結果的に国内生産と国内雇用の海外流出をまねき、国内の低所得層の雇用を減少させ、不安定化させるわけだが、そのことはなかなか低所得層自身に理解されない。(ただし、よく誤解している人がいるが、この話とデフレの善悪とは、基本的に関係ない)

また、低価格競争を強いられ続けている企業が、安い商品の調達を海外生産や輸入に依存するようになること、さらには自社技術の海外流出を放置することは、結果的にその企業の国際競争力の大幅な低下をまねくことになるが、シャープがそうであったように、そのことはなかなか企業自身に理解されない。

つまり、自分の身に起きていることの原因が、「自分自身のパフォーマンス」である場合、それはなかなか理解されない、ということだ。


そうした事態をみて政府は、得票維持のために、低所得層の保護とか競争力の低下した産業の保護とかと称して、一時金や補助金の支給、一時的な減税などを行う。いわゆる「再分配」というやつだ。

当然ながらこうした政府の臨時支出は本質的な解決にはならない。
政府収支は悪化するし、国内雇用の質や量、企業の国際競争力がこうした再分配によって向上することは、ほとんどない。

そうこうするうち、やがて、先進国の雇用移転先である海外の発展途上国自身は、先進国の製品と生産手法を「コピー」して自国製品を製造・輸出するようになり、海外に生産拠点を移した先進国企業の国際競争力は完全に失われる。

また、海外の途上国から先進国にたくさんの出稼ぎ観光客犯罪者が来るようになる。雇用は海外に移転できても、モラルは簡単には移転されないのである。
(出稼ぎ者と観光客では国内経済にとっての意味は異なるが、ここではふれない。もちろん出稼ぎ者は「代替品」として国内の雇用をさらに奪うことになるし、また、社会保険料や税金をマトモに納めることもないから、自治体や国の財政悪化の原因にもなる)

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ここまで書いたことは、「本来なら」あくまで概論にすぎない。「本来なら」世界のすべてがこれで説明できてしまうわけではない。というのは、上に書いた論理には、さまざまな論理の破綻や弱さ強引な決めつけ誤り数多くの例外があるからだ。

ところが、たいへん問題なことに、こんな「風ふけば桶屋が儲かる式の、シンプルなだけの出来のよくないロジック」によって「この20年ほどの間に世界経済で起きていたことの、かなりの部分」が説明できてしまう。「間違いだらけで単細胞な時代」が、この10年から20年もの間、続いてきたからだ。

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ここまで説明しても、まだ理解できない人がいるかもしれない。さらにわかりやすくするために、「上に書いた論理にそわない例」でも挙げてみる。

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上に書いた国際的な雇用移転サイクルは、必ずしもすべての産業分野、商品分野で起こるわけではない。

例えば、食肉の生産においては、アメリカやオーストラリア、カナダといった先進国で国内生産の優位性が保たれ続けている。
海外の安い労働力に依存する労働集約的生産を行うことによって低価格を実現するのではなく、大規模化や機械化で「ヒトへの依存度を減らす」ことによって国内生産の優位性を維持しているからだ。
(欧米の大規模農業はエコでないと批判する人がよくいるわけだが、では、コメをはじめとして農薬をまきまくって連作しまくっている日本の零細な農業がどれだけエコロジー的かと問いたい。もちろん「エコロジー」という思想自体が胡散臭いことは、いうまでもない)

また、日本においても、裾野が非常に広い産業分野である自動車は、歴史的に非常に多くの国内雇用を維持してきた。
これは、日本の自動車産業において、コスト監視やムダの排除が非常に強い企業文化の伝統になっているためだ。日本の自動車産業では、被雇用者自身が生産現場で行う非常にきめ細かい自助努力によって、作業のムダが徹底的に省かれ、ヒトに依存した低品質の生産ではなく、ヒトにしかできない高品質な生産が実現され続けている。いわば日本の自動車産業における国内雇用は、働く人たち自身の自助努力によって守られてきたのである。(もちろん企業側の管理能力も高い)


こうした事例がある一方、近年倒産を連発してきたアメリカの小売チェーンはどうか。

家電、スポーツ、衣料、書籍など、アメリカの一般庶民の身近にあった専門小売チェーン店が近年バタバタ倒産している。シアーズ、ペニー、タワー・レコード、サーキット・シティ、ボーダーズ、ゴルフスミス、スポーツオーソリティ、レディオシャック、アメリカンアパレル、ダフィーズ。
こうしたチェーンは製品の多くを中国の安い労働力に依存することで、アメリカの国内雇用を中国に「輸出」してきた。反面、こうしたチェーン店の多くは、欧米の食肉生産や日本の自動車にみられるような「安い労働力のみに依存しない強い経営体質」を実現することはなかった。

また、よくアメリカの小売チェーン店の不調ぶりはアマゾンやウォルマートに売り上げを食われたのが原因などと書く人がいるわけだが、では、アマゾンやウォルマートが好調なのか。
そうでもない。

実情は、お互いのパイを奪いあった結果、寡占化が進行しただけの話なのであり、規模拡大競争に勝ちつつあるアマゾンやウォルマートすら、いまだに低価格競争から逃れられてはいない。


視点をちょっと変えてみる。
「海外への雇用移転」「国内競争力の低下」をまねく「安い商品」は、同時に、「遠くの国から先進国に輸送が必要な商品」でもある。
いいかえると、いくら人件費の安い国で生産したからといっても、先進国への輸送コストはゼロにはできない、海外生産商品を国内に輸送するコストは商品代金に上乗せされる、ということだ。
そこに目をつけたのが、先日破綻した韓進海運のような中国韓国の新興の海運業者だ。韓進海運が破綻してコンテナが港で立ち往生したとき、コンテナの荷主がアマゾンやウォルマートであることがわかったのは、当然の成り行きだ。
また、ウォルマートとの蜜月を続けてきたオバマ政権が中国を甘やかし続けてきたのも当然の成り行きだ。
参考記事:2015年2月7日、「陰謀論愛好家」を公言してしまい、ちょっと火傷してしまったチッパー・ジョーンズ。 | Damejima's HARDBALL

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ここに書いたことは、ニュースを読んでいれば誰でも頭に入る、そして頭に入っているべき、初歩的なことばかりのはずだ。

だが上でも書いたように、「自分が日常やってきたことと、自分の身にふりかかっている事態との間に、少なからぬ因果関係が存在すること」が、働く人であれ、企業であれ、当事者たちに「あなたがた自分自身が当事者である」と把握され、意識されだすのに、10数年から20年もかかっているのが実情なのである。

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今回の大統領選は、この数十年に醸成され続けてきた、さまざまな「既得権」の問題を世間にさらすことになる。

国内雇用の減少は主に「若年層」にふりかかる。一方で、雇用が海外に移転されるグローバリズム時代が来る前に、キャリアを終身雇用のもとで終えた老人たちが国内にわんさかいる。老人たちは分不相応な額の年金をもらいながら、あいかわらず自動車で若者を轢き続けているわけだが、その「老人に轢かれる側の若者」が「福祉国家」などというコンセプトにいつまでも期待してくれる、などという発想は、それ自体が、メディアの世論誘導や、既存政治家の幻想にすぎない。

予想屋ネイト・シルバーニューヨーク・タイムズはじめ、既存メディアがトランプ勝利を予測できない原因のひとつは、出口調査自体の信頼性が失われていることよりも、むしろ、「彼らの分析や記事が、データや取材より記者個人、あるいは、メディア側の期待値が大きく反映したものになっていた」ことにある。これは今に始まったことではない。
彼らが「自分の期待値を、そのまま記事にしてしまう」原因は、彼ら自身がトランプ勝利を期待しないクラスターや人種層出身であるケースや、アメリカの既存メディアにおける中国資本支配が進んだこともあるし、また、慰安婦問題において無根拠なデマ記事で長年日本の世論を誤誘導して国益を損なってきた朝日新聞、東京都知事当選後に汚職に手を染めた猪瀬直樹がそうだったように、ジャーナリズムなんてものはとっくに死んでいるということもある。

逆にいえば、ジャーナリズムの死を「読者に気づかせない」ほど、マスメディアは既得権として非常に長い間維持されてきたし、彼らの能力は過大評価されてきたのである。


いずれにしても、「人がうすうす感じてきたこと」は今後、トランプ登場を契機により鮮明なカタチをとって表現されることになる。今後が楽しみだ。


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