November 15, 2017
「四球と出塁率が打撃力の要(かなめ)」とかいうアホ理論は、2017年をもって死んだ、という話のあらましを以下に書く。(実際にはこのアホ理論、とっくの昔に死んでいるのだが、ビリー・ビーンのオークランドが典型例だったように、アホなチームと無能なGMが採用し続けていたために「ウォーキング・デッド」と化している)
2017年シーズンが始まる前、2017年2月に書いたように、「三振数が1300を超えるチーム」が大量生産されだしたのは、2010年代に入ってからのことであり、2010年代のMLBの打撃面の最も特徴的なファクターのひとつが「三振の激増」である。
平たく言えば、2010年代は「クリス・カーター大量生産時代」なのだ。(ちなみにヤンキースは、クリス・カーターをクビにしたにもかかわらず、まったく同タイプであるトッド・フレイジャーを獲得し、スタメンに並べた。それがどのくらい無意味な行為か、ホームラン馬鹿には理解できないらしいから呆れた話だ)
以下にあらためて2000年以降に「大量に三振するチーム」を列挙してみた。「三振の多いチーム」が特定のチームに偏っていることがわかる。
では「2017年」はどうだったのだろう。
「1300三振以上したチーム」は
増えたのか、減ったのか。
2000年代に「年間に1300三振以上するチーム数」は、年に1チーム、多くて2チームしかなかった。だが、2016年には11チームと2ケタになり、さらに2017年には19チームにもなって、なんとMLB30球団の3分の2が1300三振する「大型扇風機チーム」になったのである。
ホームランが大量生産された2017年が、どれだけ「バッターがバットをむやみに振り回してフライを打とうとし、ホームランを狙ったシーズンだったか」がわかる。
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ところが、だ。
「2012年〜2016年まで、常にチーム三振数がMLBトップクラスで、毎年のように三振ばかりしてきた、とあるチーム」の名前が、どういうわけか、2017年の三振チームリストに見当たらない。
ヒューストン・アストロズである。
ヒューストンの今シーズンの三振数は1087。
なんとこれ、2017MLB最少の三振数なのだ。
つまり、MLBで「最も三振ばかりしていたチーム」が突然、「最も三振しないチーム」になり、ワールドシリーズを勝ったのである。
話は、まだまだある。
以下のメモを見てもらいたい。
注目に値するのは、これだけあらゆる打撃が抜きん出ていた2017ヒューストンにあって、こと「四球数」だけは「全体平均の528四球」を下回っていることだ。
言い換えると、2017ヒューストンの「出塁率 MLB1位」の中身は、「四球」とまったく関係がないのである。
もっと正確に書けば、ヒューストンの出塁率の高さは、「チーム打率が高かった」ことによって派生したオマケにすぎないのであり、出塁率が「原因」となって、チームの好調さという「好結果」を生み出したわけでもなんでもない、ということだ。
2017ヒューストンはバッターに「待球」を強制し、チーム四球数をむやみと増やすことで出塁率を高めれば、得点増加に直結して自然と勝てるようになる、というような、「アタマの悪い人間が考えだした、デタラメなヘリクツ」で野球をやっていたわけではないのである。(注:そもそもチームが選手に待球を強く指示したとしても、チーム四球数はそれほど増えたりなどしない)
2014年、2015年と2年連続でワールドシリーズに進出したカンザスシティの勝利の原動力が「ヒット中心主義による打率の高さ」だったことは、2015年4月の記事に書いている。
参考記事:2015年4月14日、昨年のワールドシリーズ進出がフロックでなかったことを証明し、ア・リーグ中地区首位を快走するカンザスシティ・ロイヤルズの「ヒット中心主義」。 | Damejima's HARDBALL
2017年ヒューストンは、当時のカンザスシティほどではないにしても、打率で他チームを圧倒したのである。
かねてからこのブログで指摘してきた「出塁率を決定しているのはあくまで打率であって、四球はほとんど関係ない」という事実を、2017年ヒューストン・アストロズは現実化してみせた。
アタマの悪い人間が、ホームランの多さこそ2017ヒューストン打線の特徴だ、などと言い張るかもしれないので(笑)ちょっとだけ、ヤンキースなど「打率軽視の、中身のないホームラン馬鹿打線」と比較しておこう。
ヒューストン(238本)と同じくらいのホームラン数のチームは、ヤンキース(241本)、テキサス(237本)、オークランド(234本)など、いくつかあるが、ヒューストンとそれらのチームの「打線の差」は、ホームラン数ではない。
両者の差は、二塁打の数、チーム打率を比べたとき、はじめて歴然とする。つまり、ホームラン数の多さはけしてヒューストン打線の「最も際立った特徴」ではない、ということだ。「打率軽視のホームラン馬鹿打線」のオークランドやテキサスを相手にしているかぎり、ア・リーグ西地区におけるヒューストンの優位性はゆるがない。
では、なぜ突然ヒューストンは「最も三振するチーム」から「最も三振しないチーム」に変身できたのか。
それについては、残念ながらハッキリしたことはまだ何もいえない。
あくまで「直感」レベルとしてだが、2013年から2016年の「三振ばかりするヒューストン」は、わざと選手に「フルスイングさせて、若い選手の成長を促進してきた」のではないか、などとは思っている。
もちろんこれも今のところ根拠のない空想にすぎない話だが、ブログ主には、「2010年代のMLBが『三振か、フライか』という時代になることを予見できていたチームが、2010年代の覇権を握った」と思えてならない。
「早くからボールの変化に気づいていたチーム」であるヒューストンは2010年代の早くから「フルスイングによるフライ打ち」を奨励し、数年かかって若い打者のバッティングがまとまってきたところでワールドシリーズを勝ったのではないか、などと夢想するわけだ。
最近ボールが飛ぶボールに変わったと、よくいうけれども、それをヒットやホームランに変えるためには「準備」というものが必要であり、例えば「フライを打ちまくれる打撃フォームの確立」にはそれ相当の時間がかかる。2015年にワールドシリーズを勝ったカブスも、思い起こせば、当時「三振だらけのチーム」だったことを思い出してもらいたい。
ボストンが、地区優勝し、なおかつ2018年まで契約が残っていた監督ジョン・ファレルをあえてクビにし、ワールドシリーズを勝ったヒューストンのベンチコーチ、アレックス・コーラを監督に迎えた。
もちろん、チーム独自の個性にこだわりたがる目立ちたがりのボストンがヒューストンとまったく同じ戦術をとるとは思えないが、少なくとも、これまでボストンが長年やり続けてきた「過度なまでの待球」をバッターに強いる「出塁率重視の戦術」がピリオドを迎えたことだけは間違いないだろう。でなければ、ここまで書いてきたことでわかるように、四球を重視しない2017ヒューストンのベンチコーチを、地区優勝監督をクビにしてまでして、わざわざ監督に迎える必要がない。
2018年にボストンの打撃スタイルがどう変わるかを見ることで、2017年のヒューストン・レボリューションがどういうものだったか、逆算的に眺めることになるかもしれない。
2017年シーズンが始まる前、2017年2月に書いたように、「三振数が1300を超えるチーム」が大量生産されだしたのは、2010年代に入ってからのことであり、2010年代のMLBの打撃面の最も特徴的なファクターのひとつが「三振の激増」である。
平たく言えば、2010年代は「クリス・カーター大量生産時代」なのだ。(ちなみにヤンキースは、クリス・カーターをクビにしたにもかかわらず、まったく同タイプであるトッド・フレイジャーを獲得し、スタメンに並べた。それがどのくらい無意味な行為か、ホームラン馬鹿には理解できないらしいから呆れた話だ)
「MLBで『三振ばかりするホームランバッター』が大量生産されだしたのは、『2000年代以降』のことであって、とりわけ『2010年代』に大量に生産されだした。彼らは、本物のスラッガーではなく、いわゆる『大型扇風機』にすぎない。」
出典:2017年2月1日、41本ホームラン打ったクリス・カーターに再契約オファーがなかったことからわかる、「ホームランバッターは三振が多くて当たり前」という話の真っ赤な嘘。 | Damejima's HARDBALL
以下にあらためて2000年以降に「大量に三振するチーム」を列挙してみた。「三振の多いチーム」が特定のチームに偏っていることがわかる。
シーズン1300三振以上のチーム(計56チーム)
2016年 MIL SDP TBR HOU ARI MIN PHI COL BAL LAD ATL
2015年 CHC HOU WSN SEA BAL SDP PIT ARI TBR
2014年 CHC HOU MIA ATL CHW BOS MIN PHI WSH
2013年 HOU MIN ATL NYM SEA PIT SDP BOS
2012年 OAK HOU PIT WSH TBR BAL
2011年 WSN SDP PIT
2010年 ARI FLA
2008年 FLA
2007年 FLA TBR
2005年 CIN
2004年 CIN MIL
2003年 CIN
2001年 MIL
元記事:2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL
では「2017年」はどうだったのだろう。
「1300三振以上したチーム」は
増えたのか、減ったのか。
答え:
大量に増えた
年間1300三振したチーム
2016年
MIL SDP TBR HOU ARI MIN PHI COL BAL LAD ATL
2017年
MIL TBR SDP TEX OAK ARI PHI BAL COL CHC CHW NYY LAD STL MIN CIN TOR WSN DET
2000年代に「年間に1300三振以上するチーム数」は、年に1チーム、多くて2チームしかなかった。だが、2016年には11チームと2ケタになり、さらに2017年には19チームにもなって、なんとMLB30球団の3分の2が1300三振する「大型扇風機チーム」になったのである。
ホームランが大量生産された2017年が、どれだけ「バッターがバットをむやみに振り回してフライを打とうとし、ホームランを狙ったシーズンだったか」がわかる。
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ところが、だ。
「2012年〜2016年まで、常にチーム三振数がMLBトップクラスで、毎年のように三振ばかりしてきた、とあるチーム」の名前が、どういうわけか、2017年の三振チームリストに見当たらない。
ヒューストン・アストロズである。
ヒューストンの今シーズンの三振数は1087。
なんとこれ、2017MLB最少の三振数なのだ。
つまり、MLBで「最も三振ばかりしていたチーム」が突然、「最も三振しないチーム」になり、ワールドシリーズを勝ったのである。
話は、まだまだある。
以下のメモを見てもらいたい。
2017年 MLB30球団における
ヒューストンのチーム打撃成績ランキング
打率 1位 .282
ヒット数 1位 1581本
二塁打数 1位 346本
ホームラン数 2位 238本
出塁率 1位 .346
三振数 30位 1087
四球数 20位 509
注目に値するのは、これだけあらゆる打撃が抜きん出ていた2017ヒューストンにあって、こと「四球数」だけは「全体平均の528四球」を下回っていることだ。
言い換えると、2017ヒューストンの「出塁率 MLB1位」の中身は、「四球」とまったく関係がないのである。
もっと正確に書けば、ヒューストンの出塁率の高さは、「チーム打率が高かった」ことによって派生したオマケにすぎないのであり、出塁率が「原因」となって、チームの好調さという「好結果」を生み出したわけでもなんでもない、ということだ。
2017ヒューストンはバッターに「待球」を強制し、チーム四球数をむやみと増やすことで出塁率を高めれば、得点増加に直結して自然と勝てるようになる、というような、「アタマの悪い人間が考えだした、デタラメなヘリクツ」で野球をやっていたわけではないのである。(注:そもそもチームが選手に待球を強く指示したとしても、チーム四球数はそれほど増えたりなどしない)
2014年、2015年と2年連続でワールドシリーズに進出したカンザスシティの勝利の原動力が「ヒット中心主義による打率の高さ」だったことは、2015年4月の記事に書いている。
参考記事:2015年4月14日、昨年のワールドシリーズ進出がフロックでなかったことを証明し、ア・リーグ中地区首位を快走するカンザスシティ・ロイヤルズの「ヒット中心主義」。 | Damejima's HARDBALL
2017年ヒューストンは、当時のカンザスシティほどではないにしても、打率で他チームを圧倒したのである。
かねてからこのブログで指摘してきた「出塁率を決定しているのはあくまで打率であって、四球はほとんど関係ない」という事実を、2017年ヒューストン・アストロズは現実化してみせた。
参考記事:
2011年9月3日、チームというマクロ的視点から見たとき、「出塁率」を決定している唯一のファクターは「打率」であり、四球率は無関係、という仮説。 | Damejima's HARDBALL
2015年2月8日、「MLBの得点力低下をもたらした四球・長打の過大評価」原論にむけて(3)100年もの長期でみても「四球数」は、「得点」や「出塁率」はもちろん、他のゲームファクターの増減と無縁の存在である可能性は高い。 | Damejima's HARDBALL
アタマの悪い人間が、ホームランの多さこそ2017ヒューストン打線の特徴だ、などと言い張るかもしれないので(笑)ちょっとだけ、ヤンキースなど「打率軽視の、中身のないホームラン馬鹿打線」と比較しておこう。
ヒューストン(238本)と同じくらいのホームラン数のチームは、ヤンキース(241本)、テキサス(237本)、オークランド(234本)など、いくつかあるが、ヒューストンとそれらのチームの「打線の差」は、ホームラン数ではない。
両者の差は、二塁打の数、チーム打率を比べたとき、はじめて歴然とする。つまり、ホームラン数の多さはけしてヒューストン打線の「最も際立った特徴」ではない、ということだ。「打率軽視のホームラン馬鹿打線」のオークランドやテキサスを相手にしているかぎり、ア・リーグ西地区におけるヒューストンの優位性はゆるがない。
2017 チーム二塁打数 チーム打率
HOU 346本 1位 .282 1位 (四球数 509 20位)
OAK 301本 6位 .246 24位 (四球数 565 10位)
NYY 266本 22位 .262 6位 (四球数 616 3位)
TEX 255本 25位 .244 25位 (四球数 544 13位)
では、なぜ突然ヒューストンは「最も三振するチーム」から「最も三振しないチーム」に変身できたのか。
それについては、残念ながらハッキリしたことはまだ何もいえない。
あくまで「直感」レベルとしてだが、2013年から2016年の「三振ばかりするヒューストン」は、わざと選手に「フルスイングさせて、若い選手の成長を促進してきた」のではないか、などとは思っている。
もちろんこれも今のところ根拠のない空想にすぎない話だが、ブログ主には、「2010年代のMLBが『三振か、フライか』という時代になることを予見できていたチームが、2010年代の覇権を握った」と思えてならない。
「早くからボールの変化に気づいていたチーム」であるヒューストンは2010年代の早くから「フルスイングによるフライ打ち」を奨励し、数年かかって若い打者のバッティングがまとまってきたところでワールドシリーズを勝ったのではないか、などと夢想するわけだ。
最近ボールが飛ぶボールに変わったと、よくいうけれども、それをヒットやホームランに変えるためには「準備」というものが必要であり、例えば「フライを打ちまくれる打撃フォームの確立」にはそれ相当の時間がかかる。2015年にワールドシリーズを勝ったカブスも、思い起こせば、当時「三振だらけのチーム」だったことを思い出してもらいたい。
ボストンが、地区優勝し、なおかつ2018年まで契約が残っていた監督ジョン・ファレルをあえてクビにし、ワールドシリーズを勝ったヒューストンのベンチコーチ、アレックス・コーラを監督に迎えた。
もちろん、チーム独自の個性にこだわりたがる目立ちたがりのボストンがヒューストンとまったく同じ戦術をとるとは思えないが、少なくとも、これまでボストンが長年やり続けてきた「過度なまでの待球」をバッターに強いる「出塁率重視の戦術」がピリオドを迎えたことだけは間違いないだろう。でなければ、ここまで書いてきたことでわかるように、四球を重視しない2017ヒューストンのベンチコーチを、地区優勝監督をクビにしてまでして、わざわざ監督に迎える必要がない。
2018年にボストンの打撃スタイルがどう変わるかを見ることで、2017年のヒューストン・レボリューションがどういうものだったか、逆算的に眺めることになるかもしれない。