December 23, 2017



Sports Illustratedは雑誌が母体の老舗スポーツメディアだ。長い歴史のある一流メディアなだけに、ファンが好き勝手に書き連ねた文章を電子化して作られているSB Nationや、メディアとは名ばかりでセンセーショナルに煽ることしか能のないイエロージャーナリズムのニューヨーク・ポストあたりと違って、良くも悪くも、「節度」というものがある。

その「温厚な」はずのスポーツ・イラストレイテッドが、MLB30球団ランキングでマイアミ・マーリンズを「言うまでもない最下位」に位置づけた。その上、It's an insult to the fans who are surviving their third teardown since 2003. 「2003年以来、3度の崩壊を耐え忍んできたファンたちへの侮辱だ」とまでハッキリ書いたのだから、やはりマイアミ・マーリンズの「ファイヤーセール」はタダゴトではない


そりゃそうだ。

過去のジェフリー・ローリアの悪行を知っていれば、今回のデレク・ジーターがやっているファイヤーセールが「ローリアそっくりなタイミングのとりかた」であることくらい、誰だってわかる。



このファイヤーセールについては、MLBコミッショナー、ロブ・マンフレッドもインタビューされている。インタビュアーはESPN RadioDan Le Batardだ。

このインタビューは、スポーツのインタビューとして近来まれにみるほどの「激烈なトーンのインタビュー」だったようで、両者の激突ぶりはタダゴトではない。
VIDEO: ESPN radio host Dan Le Batard rips Rob Manfred - NY Daily News
例えば、Le Batardが挑発的に「マイアミのファイアーセールについて事前にご存知でしたか?」と単刀直入に質問すると、マンフレッドは「興味深い話題ではあるね」などとノラクラした答えで質問をかわそうとした。だがLe Batardは、すぐにマンフレッドをさえぎって、「イエスかノーかでお答えいただけるよう、申し上げましたが?」と、わざと見下したトーンでたたみかけたものだから、マンフレッドがキレてしまい、「嘘つき呼ばわりは許さん!」などと語気を強めるなどという、激しいやりとりで始まっている。(だが、結局マンフレッドは当たりさわりない返答に終始し、この話題への介入を徹底して避けた)


過去に、大多数のMLBファン、特にモントリオールとサウス・フロリダの野球ファンが「思い出したくもない、ジェフリー・ローリアがらみの災難」は数えきれないほどたくさんあるわけだが、最大のものといえば、「2004年のエクスポズ身売り」と、「2012年のファイヤーセール」だろう。

エクスポズオーナー時代の2001年、ローリアは放映権を突然値上げして地元メディアともめた。地元メディアが高額な放映権料を拒否したため、モントリオールでは「地元のエクスポズ戦の英語放送」がなくなってしまい、野球人気を一気に冷やすことになった。
その後ローリアとMLB機構は、こんどは地元自治体に「新球場建設の資金援助」を求めた。これも財政難の自治体側が拒否すると、ローリアは、なんとエクスポズをMLB機構に売り渡すという暴挙に出た。
これによりエクスポズは「オーナーのいない、宙ぶらりん球団」になってしまい、一時的にMLB自体が直接運営することになった。
宙ぶらりんのエクスポズは2004年にワシントンDCに移転。2005年5月にやっとオーナーが決まってできたのが、ワシントン・ナショナルズだ。ナショナルズは的確な再建方針の実行により、いまでは押しも押されぬナ・リーグ東地区のトップ球団になった。


「エクスポズ身売り騒動」において、当時のMLBコミッショナー、バド・セリグは、ローリアに「無利子の融資」という特権待遇を与えた。これがそもそも間違いのもとであり、ローリアは結果的にまったく損することもなく、次の買収ターゲットとしてマイアミ・マーリンズに資金投入できた。


2003年マーリンズオーナーとなったローリアは、初年度のワイルドカードからワールドシリーズ制覇しているのだが、勘違いしてもらっては困るが、これはローリアの前オーナーであるジョン・W・ヘンリー(=かつてマーリンズGMだったデーブ・ドンブロウスキーをクビにした人物)の時代の選手たちの活躍が原動力なのであって、ローリアの功績でもなんでもない。
それが証拠に、ローリアはシーズン終了後、ワールドシリーズで活躍した選手たちをさっさと手放した。もし自分が苦労して集めてきた選手がワールドシリーズを優勝してくれたのなら、そのほとんどをを即座に売り払うような真似はしない。

そして2012年、地元自治体が建設資金の約4分の3を負担した新球場マーリンズ・パークが開場したわけだが、ローリアは、たった1年だけチームに多額の資金を投入し、マーク・バーリーなど有力選手をかき集めてみせた。
だがローリアは、その選手たちもすぐにファイヤーセールで売り払った。新球場に資金援助してくれた地元ファンを、たった1年だけ夢を見させておいて、すぐに裏切ったのである。この「裏切り行為」は、いうまでもなく地元のファンとメディアの大顰蹙をかった。それが「2012年のファイヤーセール」だ。


こうした2球団での事件の数々に加え、ジェフリー・ローリアのすべての「悪事の前提」として知っておくべきことは、彼がずっと「MLB機構が、収入の少ないチームに資金を再分配する『分配金制度』を悪用してきた」ことだ。
ローリアはMLB機構から「多額の分配金」を受け取る一方で、選手の年俸全体を「低く抑え」、さらにはサラリーが高騰しそうな有力選手が出現するたびに他球団に売り払うという手法で、結果的に「多額の差額収入を得てきた」のである。



ちなみに「2012年のファイヤーセール」ではマーリンズの有力選手のほとんどがトレードされていなくなったが、ほんの少数「チームに残されたスタメン野手」がいる。そのひとりが、当時22歳で、サラリーがたったの48万ドルだったジャンカルロ・スタントンだ。
そして、ファイヤーセールの翌年、2013年に、突如として出現した若手投手のホープが、当時20歳で、サラリー40万ドル台だったホセ・フェルナンデスだ。

フェルナンデスのコカイン使用中のボート事故死という不祥事と、今回のスタントンのトレードが、マーリンズの歴史においてどういう意味をもっているかわかるはずだ。この2人はいわば、ローリアが崩壊させ続けてきた2000年代以降のマーリンズの「最後に残された希望」だったのである。


ところが、だ。
その「最後のピース」をニューヨークに売り払う人物が現れた。
デレク・ジーターである。

「少ない予算の中で勝てるチームをつくるために有力選手をファイヤーセールするのは、よくあることだ」とジーターは言い訳している。だが、それはローリアがこれまでやってきたことと、まったく何も変わっていない。


おかしな点は多い。

ジーターは「予算が少ない」というが、カネがないなら、MLBチームなど買うべきではない。当たり前の話だ。言い訳にすぎない。

また、ニューヨークなどのビッグ・マーケットのGMの年俸を調べれば誰でもわかることだが、まだ新人で何の実績もないGMにしては、ジーターの年俸「600万ドル」はけして少ない金額ではない。もし「カネがないチームだ」というのなら、なぜなんの実績もないGMが多額の年俸を約束されているのか。

さらに、イチローのオプションの件もおかしい。若手中心のチームに作り変えるためにスタントン、オズーナと、「スタメン外野手」を次々に手放す予定だったのなら、「年俸が安くて、外野のどこでも守れる、打撃のいい控え外野手」を「真っ先に手放す理由」がない

また、スタントンは当初からトレードを望んでいたわけではない。むしろ彼は数少ない「はえぬき」のスタメン選手のひとりとして「投手補強によるマーリンズ強化」を望んでいた。(ちなみにスタントンは2012年ファイヤーセールのときもツイッターでローリア批判を公言している)
実際、2017マーリンズの打撃面は、十分にポストシーズン進出を狙えるだけの内容だったが、2017年マーリンズはホセ・フェルナンデスを事故で失って投手補強が急務だったにもかかわらず、ポストシーズンを前提とした投手補強を行わなかった。このことはマーリンズが2017シーズン終盤に大きく失速する最大の原因になった。
いってみれば、2017マーリンズは、ポストシーズンに行けるチャンスもあったのに、「故意にチャンスを投げ捨てた」のである。


細かい点をだいぶ端折って書いたために事実関係が曖昧だったり、記憶違いだったりする点があるかもしれないが、ご容赦願いたい。
いずれにしても言いたいことは簡単で、デレク・ジーターがいまやっていることは、かつてジェフリー・ローリアがやってきたことと、そっくりだ、ということだ。
ドラフトで有力選手がボコボコ獲れた時代はもはや終わった。ストラスバーグとハーパーをドラフトで獲ったナショナルズと同じ再建手法がもはや成り立たないのは、シアトル・マリナーズの再建の失敗ぶりをみればわかる。
(ちなみにジェフリー・ローリアはニューヨークのマンハッタン生まれで、子供の頃からヤンキースの試合を見て育った人間であり、今でも1年の半分はニューヨークに住んでいる。そしてマーリンズ監督ドン・マッティングリーも、GMデレク・ジーターも、元ヤンキースである)


こうしてこの10数年の流れを大局的に眺めてみると、以下の言葉をつらねるのが嫌になるが、書いておくしかないだろう。
かつてイチローを嫌っていたはずのマーリンズがイチロー獲得に動いたことの「真意」は、結局のところ、「イチローのクリーンなイメージを利用して、ファンを呼び戻し、売り払う前の球団価値を多少なりともアップすることにあった」としか言いようがない。
いいかえるなら、球団を高く売り払うためにローリアは、イチローを利用し、マイアミの野球ファンを利用し、そして2012年ファイヤーセールの「最後に残ったピース」であるジャンカルロ・スタントンをも含めて「すべてを売り払った」のだ。

それが悪行でなくて、なんだというのだろう。


そして、ジェフリー・ローリアがようやくいなくなって、誰もが「やれやれ、やっとこれでサウス・フロリダもマトモになる」と思っていたところで、新しいGMであるデレク・ジーターが「ローリアそっくりのファイヤーセール」をやったわけだ。

怒りを通りこして、呆れるしかない。








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