January 27, 2018

2018年冬のFA市場が「凍りついて」いる。

スプリングトレーニングを目前に控えているというのに、有力FA選手の契約先が決まっていない。そのためFA選手の間には、「契約が決まるのを待っていてはカラダを作れないから、FA選手だけで集まって自主的なスプリングキャンプをやる」なんて案すら検討されているという話さえある。


FA市場が凍りついた理由については、これまでいくつかの意見があったが、そのほとんどは的を得たものではなかった。

例えば2017年暮れに、主にマスメディアのライターによって「作られていた意見」は、こんな感じの主旨だ。
少しでも好条件を引き出そうと
代理人が球団となかなか契約しないことでFA市場が停滞した

これについては、「説明」が必要だ。

「代理人」といっても、「今年の有力FA選手の多くを抱える代理人」は、クソ高い契約をしたがることで有名な、あのスコット・ボラスであり、なにも代理人業界全体がFA市場を停滞させているわけではない。

にもかかわらず、MLB関連メディアのライター、例えば、ESPNのバスター・オルニーのような半端なライターが、「代理人」などと、曖昧な書き方で書いたから、読んだ人には、まるで「代理人全体が共同してFA市場を停滞させる、または、停滞を批判している」かのような誤解が生じた。

そのボラス、年が明けたあたりから「FA市場停滞は、オレのせいじゃないぜ」とばかりに「反撃」に出た。ボラスとの契約に応じようとしない球団側をこんなふうに攻撃しはじめたのである。

「チームを強くしよう」という意思がまるでない球団がある。
それはベースボールそのものへの冒涜だ。

この話も、「説明」が必要だ。説明するのも馬鹿馬鹿しい話だが、いちおう説明だけはしておこう。

最初に結論を言えば、スコット・ボラスごときが球団全体をボロカスに言い、自分がベースボールの守護神ででもあるかのようにふるまうのは、まったくもってお門違いだ。

MLBに30もの球団があるとはいっても、すべてのチームがワールドシリーズ優勝を真剣に狙っているわけではない。例えば、「再建中のチーム」はワールドシリーズ出場なんて狙っていないのが当然だし、また、「常に限られた低い予算の中でしか戦えないチーム」もけして少なくはない。

だから、「スコット・ボラスが抱え込んでいる『高額契約が確実視される有名FA選手』と、契約交渉できるチーム」なんてものは、「最初から『予算を潤沢に持っているチーム』に限定されている」のである。説明するまでもない。

もっとハッキリ言うと、「ボラスの有力FA選手と交渉を持つチーム」は、最初から、NYYやLADのような金満チームに限られているのである。
そうした「予算を潤沢に持っているチーム」は、当然ながら「毎年のように地区優勝にからむ」し、「毎年のようにワールドシリーズ優勝をもくろんで」もいる。だからこそ、予算を潤沢に持っているチームは、「チーム強化」を毎年のように懲りもせずやっている。


だから、スコット・ボラスが「チームを強くしようという意思がない球団がある」などと奥歯にモノがはさまった発言をしたからといって、MLBの球団全体の姿勢をボロカスに言っていると考えること自体、間違っている。
ボラスは、実際には、NYYやLADを代表とする「カネを持っている球団」に遠回しにケチをつけているだけなのだ。
もしボラスが「カネがある球団は、もっとカネを使って、金持ちらしくふるまえ」とでも言いたいのなら、誤解をまねくような曖昧な言い方などせずに、NYYとLADを「名指しで批判」すればいいのだ。馬鹿馬鹿しい。


むしろ、ブログ主が、クチの減らないスコット・ボラスと、ボラスと交渉したがる金満球団の、両者に聞きたいのは、
「予算を潤沢に持っていて、チーム強化を毎年のようにやっているチーム」が、近年ワールドシリーズを勝てているのか。

という点だ。この肝心な点を抜きにいくら議論しても、何の意味もない。

たしかに、カネを持っている球団は、地区優勝には毎年からむ。10年か15年に1回くらいなら、ワールドシリーズにも手がかかることだろう。

しかし、だ。

「毎年200M(=2億ドル)以上ものカネをかけて球団を強化し続けている金満球団だけ」がワールドシリーズに出ているか、勝てているか、というと、そうではない。

むしろ、事実は逆だ。

カネを使う前にアタマを使って、10数年に一度のチャンスをモノにした球団だけがワールドシリーズを勝ってきた、それが「この10数年のMLB」だったのではないのか。

(ちなみに、アタマを使うというのは、なんでもかんでもOPSを指標にするかわりに、なんでもかんでもWARでモノを考える、というアホな意味ではない。それが証拠に、「近年にワールドシリーズを勝ったチームのWARの合計」は、けして高くない。つまり、
今のWARなんてものに、それほど正確さなんてものはない
ということだ。このことは稿をあらためて書く)



上の2つの意見パターンは、マス・メディアとボラスがお互いに攻撃しあっているように見えても、実のところは、「お互いが、攻撃対象を巧妙にボカしたり、ズラしたりして、遠まわしの、あたりさわりのない攻撃をしあっているかのように『みせかけている』だけの、毎年のようにやってきたワンパターンなやりとり」にすぎない。
 
マスメディアが、こういう「ワンパターンな、みせかけだけの、やりとり」をしてお茶を濁している間に、「実際の」FA市場は本格的に凍りついた。

そんなとき、Yahoo.comのJeff Passanがこんなソースを提示してくれた。


以下のような意見には、スポーツ専門メディアやスコット・ボラスのウソっぽい世論操作にはない説得力がある。
PITやMIAがチーム再建のために有力選手を大量に放出しているが、そのことがFA市場を冷やしている。


例えば、マイアミ・マーリンズのデレク・ジーターは、チーム予算削減を理由に、ジャンカルロ・スタントンはじめとする外野手3人と、1番打者でセカンドのディー・ゴードンを放出した。
有力外野手が3人も同時に放出された、ということは、当然ながら「デレク・ジーターがFA市場の「外野手の就職先」を、一挙に3人も減らしたという意味になる。
おまけに、PITが放出したアンドリュー・マッカチェン外野手だ。


ならば、だ。
例えばスコット・ボラスが抱えるJ・D・マルティネスのような「高額条件のFA外野手の就職先がなくなってしまう」のは、当然の話だ。

加えて、J・D・マルティネスを「超高額な長期契約がとれる一流外野手」として扱うこと自体、そもそも間違いだ。
マルティネスの打撃成績が一流クラスといえる数字だったのは、「まだ、ほんの短期間」にすぎない。加えて、マルティネスは守備がうまくない。なにより、盗塁が数多くできるような俊足ではないので、センターが守れない。これが痛い。
マルティネスが決まらないうちに、より安いオースティン・ジャクソンがSFGに決まったのも、無理はない。ジャクソンの打撃成績にしても、過去の成績すべてを眺めれば、マルティネスと同じく、去年たまたま数字が良かっただけの眉唾ものともいえる数字なわけだが、なにせ、センターがアホほど広いコメリカ・パークで長年センターを守った経験があるのが大きい。第4の外野手は守備が上手くないと獲得する意味がない。


ストーブリーグが開幕して早々にトレードされたジャンカルロ・スタントンを獲ったヤンキースにしても、話は同じだ。
ただでさえ贅沢税が気になるチームで、ペイロールは常に天井付近にある。なのに、ハンパなマルティネスと違って「本物のスター外野手」であるスタントンを獲ったから、高額の費用を長年にわたって捻出し続けなければならない。(スタントンがアーロン・ジャッジと並んで、どのくらい三振しそうかについては、稿をあらためて書く)

スコット・ボラスにとってヤンキースは「カネをたくさん持っている上得意の交渉相手」なわけだが、スタントンを獲った時点で、高額な外野手など、もう獲れない。
そのうえスコット・ボラスが抱える先発投手ジェイク・アリエッタや、(彼のエージェントはボラスではないが)ダルビッシュなど、高額なFA先発投手にかけるカネなど、どこにもない。せいぜい「低い額でいいなら、おいで」と、粉かけるくらいが関の山だ。(だからこそヤンキースはダルビッシュに「期限つきの低額オファー」なんてものをこっそり出して、あわててひっこめるような「無様なマネ」をした)

つまり、
デレク・ジーターがスタントンを放り出したことによってヤンキースの「自由に使えるカネのレンジ」が大幅に狭まり、そのことによってFA市場の「高額先発投手の売れ行き」にも影響が出た、ということだ。(もちろん、ゲリット・コール放出の影響もあるが、市場全体を凍りつかせるほどゲリット・コールは一流じゃない)



スコット・ボラスはマス・メディアと「馴れ合いの批判合戦」などやっている暇があるなら、デレク・ジーターに苦情電話をかけるべきだ。


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
記事検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month